「イーグル・アイ」
スティーヴン・スピルバーグが10年間温めて来たと言われる構想に基づき、「ディスタービア」のD・J・カルーソー監督、シャイア・ラブーフ主演…のコンビが再結集して作られた、ハイパー・テクノロジー・サスペンスの佳作。
コピーショップで働く青年ジェリー(シャイア・ラブーフ)はある日突然、口座に大金が振り込まれ、そして自宅にはテロ用の武器や物資が山と送られて来る。直後に、携帯電話に謎の女の声で「30秒後にFBIが来るから今すぐ逃げろ」との指示が届き、以後、なにが起こったのか訳がわからないまま、ジェリーはこちらも子供を人質に取られた、法律事務所に勤めるシングルマザーのレイチェル(ミシェル・モナハン)と共に、FBIに追われつつ、アリアと呼ばれる謎の女の命ずるままに逃げ回る事となる。
出だしから派手に建物はぶっ壊す、カーチェイスあり、走る、逃げる、飛び降りる…、列車、船、自動車と乗り物もフルに使った目まぐるしい追っかけの連続で息つく間もなくノンストップ・アクションが展開する。
次第に明らかになる真相は、ネタバレになるので後述するが、この映画を観て気づくのは、前作「ディスタービア」にも巧みに盛り込まれていた、ヒッチコック映画へのオマージュである。
なにしろ前作は、まるごとヒッチの「裏窓」の焼き直しであったが(盗作だと訴えられているらしい)、それ以外にも「サイコ」ネタも散りばめられ(詳しくは作品評参照)、ヒッチ大好きな私はニンマリしっ放しであったが、本作はさらにいろんな作品が取り入れられている。
普通の暮らしをしていた人物が、事件に巻き込まれ、犯人と間違われて捜査当局に追われ、逃げながら真相を探る為に行動する…という、いわゆる“巻き込まれ型サスペンス”はヒッチコック映画の典型パターンである。古くはサイレント時代の「下宿人」から「第3逃亡者」、「逃走迷路」など多数あり、そして極め付けが「北北西に進路を取れ」である。
本作では、正体が分からない美女と連れ添っての逃避行、だだっ広い平原での待ち合わせ、飛行機にしつこく追いかけられる…等、「北北西に進路を取れ」との共通項もいくつかある。
もう一つ、子供を人質に取られ、仕方なくテロの片棒を担がざるを得なくなるレイチェルの行動や、クライマックスの、演奏会における、特定の音符が暗殺の引き金になる…という設定は、明らかに「知りすぎていた男」からのいただき。
これらの、ヒッチコック・オマージュは、監督のD・J・カルーソーよりも、おそらくは原案・製作総指揮のS・スピルバーグの意向ではないかと思う。なにしろスピルバーグは大のヒッチコキアン。出世作「ジョーズ JAWS」では、「鳥」のショック演出(目をくり貫かれた死体がいきなり現れる)やら、「めまい」のトラックバック・ズームイン・カメラワークやらのヒッチ・テクニックを巧妙に取り入れていたぐらいなのだから(「ディスタービア」もドリームワークス提供)。
そんなわけで、前半はあれよあれよのジェットコースター的展開で楽しめたが、後半になり、アリアの正体が判明すると、途端にSF的展開となり、しかも、「そんなに遠回りする必要ないんじゃないの?」と思えるくらい、もって回った思わせぶりで少々ガッカリする(時限タイマー付のアタッシェケースに何が入っているのかハラハラさせて、結局肩透かしてのはどんなものか)。
(以下、ネタバレにつき隠します。読みたい方はドラッグ反転してください)
結局、彼らを操っていたのは、あらゆる監視システムの統括をまかされた人工知能コンピューターの、人類に対する反逆…という、今や古典の部類に属する「2001年宇宙の旅」のHALコンピュータの2番煎じだったとはね。あまりに瞬時に電光掲示メッセージが届くので人間技ではないと思ってはいたが…。ラストで、ベレズ捜査官がアリア中枢部に侵入し、アリアの解体を図るくだりも「2001年-」と同工異曲。もう少し斬新なアイデアが欲しいところである。
↑ネタバレここまで
…とは言え、アフガン情勢、アメリカ国家のテロ殲滅対策、ハイテク化が進む監視社会の恐ろしさ、…等のタイムリーな時事テーマを巧妙に盛り込みつつ、スピーディかつサスペンスフルな一級の娯楽アクション映画に仕上げた点は評価していい。多少のアラはこの際目をつぶり、楽しめばいいのではないかと思う。
特に、ヒッチコック作品やいろんなSF映画へのオマージュ部分は、古くからの映画ファンであるほど、なお楽しめるだろう。
欲を言えば、「北北西に-」におけるケーリー・グラントとエバ・マリー・セイントのような、エレガントで小粋な大人のラブ・ロマンスも盛り込んでくれればなお良かったのだが、それは映画(特にヒッチ作品)ファンの無いものねだりという事で…。 (採点=★★★★)
(さて、お楽しみはココからだ)
後半のSF展開のシークェンスを観ていて、思い出した作品がある。
1970年製作のアメリカ映画「地球爆破作戦」(監督:ジョセフ・サージェント)である。
B級っぽいタイトルだが、なかなか骨のあるSF映画の傑作で、確か石上三登志氏と森卓也氏が絶賛していたはず。
お話は、米政府が開発した、あらゆるシステムを統括管理する巨大コンピュータ・コロッサスが、ソ連の同型コンピュータと仲良くなる事を望み、やがて両者は猛烈な勢いで情報交換を行った結果、自我を持ち始め、人類に反逆し、最後に全地球を支配下に治めてしまう…というコワい話。
「2001年-」のわずか2年後に、こういう作品が作られた事も凄いが、コンピュータにあらゆるシステムを任せてしまう事(なにせミサイル発射権限すらコロッサスに任せてしまってるのである)の怖さを既に指摘している点で、21世紀に対する警鐘にもなっており、今の時代こそ、この作品を再評価すべきだと思う。
で、コンピュータの扱いが本作と似ている点だけでなく、この作品の面白い点は、コロッサスが人間にメッセージを伝える道具として、“電光掲示板”のようなボードを使用している所である。
本作で、アリアがジェリーたちに指令を伝えるのに、街なかの電光掲示板を利用しているのを見て、ひょっとしたら本作の作者たちは、この「地球爆破作戦」を観ていて、密かにオマージュを捧げているのではないだろうか…とふと思った次第。
「地球爆破作戦」は一部で評価されながらも、永年ビデオ・DVDが出ていなかったのだが、ようやく本年、DVD(↓)が発売されたようである。SF映画ファンには必見の、隠れた秀作としてお奨めしておきたい。
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コメント
こんにちは。
ジョセフ・サージェントがそんなオモシロそうな作品を作っていたとは!?
製作が1970年ということで、
アメリカ映画としてはニューシネマの陰に隠れてしまったのかな。
さっそく探してみます。ほんとうに観てみたいです。
投稿: えい | 2008年10月22日 (水) 09:06
>えいさん
コメントありがとうございます。
>ニューシネマの陰に隠れてしまったのかな。
それもありますが、主演がエリック・ブレードン、スーザン・クラークと地味だったのも原因のようで、ほとんど話題にならず、多分2本立てでひっそり公開されてたように思います。
当時の映画雑誌をひっくり返してみたのですが、キネ旬では見事に誰もベストテンに投票してません(つまり0点!)
それに対し、「映画評論」誌では石上、森両氏がベストワン(!)に挙げてたおかげで見事6位に入選してます。
こういう事があるから、キネ旬ベストテンなんて信用出来ないんですね(笑)。
個人的見解ですが、石上氏、森氏お二人がそろって褒める映画にハズレはない…と私は確信してます(笑)。
投稿: Kei(管理人) | 2008年10月23日 (木) 01:24