「ワイルド・バレット」
ほとんど話題になっておらず、出演者も地味な為か、ロードショー館でなく、2番館かマイナー・チェーンにてひっそりと公開された(大阪では天六ユウラク座のみ)。
だが、期待せずに観に行ったら、これが意外な拾い物。アクションは満載、お話は二転三転、まったく先が読めない展開に、映画の小ネタも散りばめられ、あっという間の2時間2分であった。
今では数少ない、B級プログラム・ピクチャーの匂い紛々。ある意味では、ユウラク座のような場末の汚れた2番館(ごめん!)でバッタリ出会うにふさわしい映画なのかも知れない(笑)。
Q・タランティーノも絶賛したそうだが、そう言えば“グラインドハウス”ものに近い、いかがわしいテイストも感じられる。
主人公はマフィアに所属し、殺しに使用された銃の後始末を仕事にするジョーイ(ポール・ウォーカー)。アジトを襲って来た警官を殺害した銀のリボルバーを自宅に持ち帰り、地下室に隠したが、それを見た息子の友人のオレグ(キャメロン・ブライト)がこっそり銃を持ち出したのが騒動の始まり。オレグは虐待を受け続けていたロシアン・マフィアの養父アンゾ・ユゴルスキー(カレル・ローデン)をはずみで撃ち、逃走した為、銃から足が付くのを恐れたジョーイはオレグを探して夜の街を探索する…。
くだんの銃が、次々と人手に渡り、汚職警官や娼婦とそのヒモ、凶暴なホームレスなども絡んで事態は混沌を極め、オレグは小児愛好癖のおかしな夫婦に捕われ、ジョーイの妻が救出に向かったりと話はめまぐるしく展開する。
だが、オレグと二人で銃の行方を追ううちに、ジョーイはオレグに次第に我が子のような情愛を抱いて行く。この辺り、殺伐とした物語の中でちょっとした息抜きになっていて心が和む。単なるドンパチ・アクションではないのである。オレグに扮したキャメロン・ブライトが好演(撮影当時13歳)。
オレグの養父のアンゾが、ジョン・ウェインの大ファンで、ウェインの「11人のカウボーイ」を飽きずに何度もビデオで見ていたり、背中にもウェインの刺青があったりする。このアンゾが最初はイヤな奴だったのが、ラストではオレグの為に壮絶な死に様を見せる。ちなみに「11人のカウボーイ」は、ジョン・ウェインが西部劇のヒーローとしては初めて殺されてしまう作品である。死に際に、アンゾがウェインの決めゼリフをつぶやくが、「11人-」という映画を知っておれば、ここはなお楽しめる。
遥か向こうの塀(タイトルがペイントされている)からカメラが引いて室内に移動する冒頭シーンや、ジョーイの家の2階の窓から隣のオレグの家に移動し、そのまま室内を舐めるまでをワンカット移動するシーンなど、凝ったカメラワークも楽しい。
ラストの、アイスホッケー場でのバトルにも工夫が凝らされており、最後まで飽きさせない。多彩な登場人物を配置し、それぞれが微妙に絡み合って行く脚本が良く出来ている(脚本は監督自身)。
その他、冒頭の、ジョーイが慌ててオレグを車に乗せるシーンや、ラストの葬式シーンなど、観客をミスディレクションに導く仕掛けがいくつも施され、いったいどう話が転がって行くのか、目が離せない面白さに満ちている。
脚本と演出を手掛けたのは、まだこれがメジャー3本目の新進ウェイン・クラマー。本作で一躍注目され、次回作ではハリソン・フォード主演の大作を任されるという事だ。
エンド・クレジットに、サム・ペキンパー、ブライアン・デ・パルマ、ウォルター・ヒルへの謝辞が出てくる。なるほど、そう言えば、バイオレンス描写はペキンパー、スタイリッシュなアクション演出はW・ヒル、凝ったカメラの移動はデ・パルマをそれぞれ彷彿とさせる。
ジョーイを演じるのは、「ワイルド・スピード」のポール・ウォーカー。本作の邦題はその作品にあやかっていると思われる(原題は"RUNNING SCARED")。
悪徳刑事役を、渋いチャズ・パルミンテリが演じているのも見どころである。
決して、傑作というわけではない。突っ込みどころもいくつかあるし、荒っぽい所もある。
だが、派手なアクション・シーンがあるにも拘らず、あちこちに張られた巧妙な伏線、さりげなく配置された、親子、家族愛などがラストに向かって収斂して行き、観終わっても爽やかな後味を残す辺りに、並みのアクション映画では終わらせない、クラマー監督の才気を感じる事が出来る。
ウェイン・クラマー監督、今後の、なお一層の活躍が期待できる人である。名前を覚えておいて損はない。 (採点=★★★★)
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