(2008年・ROBOT=日テレ=東宝/監督:佐藤 嗣麻子)
おなじみ、江戸川乱歩原作の、怪人二十面相VS名探偵・明智小五郎の物語を下敷に、北村想がまったく新しい発想で書いた「怪人二十面相・伝」を原作とし、さらに映画として別のお話に仕立て上げた、奇想天外冒険ファンタジーの快作(うーん、ややこしい(笑))。
時は1949年、舞台は第二次世界大戦が起きなかったもう一つの世界における架空都市「帝都」。19世紀から続く華族制度により、極端な格差社会となっていたこの都市で、富裕層の美術品や骨董品を巧妙に盗む怪盗・二十面相が世間を騒がせていた。そんな時、サーカスの曲芸師・遠藤平吉(金城武)は二十面相の罠に落ち、投獄されてしまうが…
まず冒頭から描かれる、帝都のビジュアルが素晴らしい。巨大飛行船の腹から小型ヘリコプターが飛び出し(「スター・ウォーズ」の冒頭を思い起こさせる)、街の上空を飛行しながら、レトロさと、富裕さと貧困スラムが歪に共存した帝都の様子をワンショットで紹介するのだが、「ALWAYS 三丁目の夕日」(本作と同じROBOT製作)の白組が担当したVFX(山崎貴も脚本とVFXに協力)がやはり見事。
この掴みは、「ALWAYS-」の冒頭で、模型プロペラ飛行機の移動と共に、半完成の東京タワーがそびえ立つ東京の町並みをワンショットで紹介したサプライズ・ショットのおさらいである(従って、東京タワーに少し似た巨大テレビ塔がそびえ立ち、ラストにはオート三輪もさりげなく登場するのである)。
この、独特の世界観をドン!と描いた事によって、観客は一気に架空のパラレル・ワールドに引き込まれるのである。従って、後はどんな奇想天外、ありえない物語が展開しようとノープロブレム、気楽に華麗なアクション、ミステリアスで幻想的な異世界の冒険大活劇を堪能すれば良いのである。
洋画の世界ではこれまでにもあったスケール感溢れる展開だが、日本映画では珍しい。いや、少なくとも実写映画では初めてではないか(これについては後述)。
実は、観る前には、製作が「少林少女」でミソをつけたROBOT(悪い事にあれの仲村トオルも出ている(笑))、監督が女性の佐藤嗣麻子という事で、不安感が一杯だった。佐藤監督は「エコエコアザラク」(95)がちょっと面白かった程度で、脚本を担当した「アンフェア The Movie」もつまらなかった上に、娯楽活劇は未知数だったし…。
ところが、映画は観てみないと分からない。これは予想外の拾い物である。「少林少女」の汚名を少しは挽回したか。佐藤監督、お見逸れしました。
物語は、前半はやや物足りないが、後半、平吉が脱走し、本職は泥棒でからくり師の源治(國村隼)と組んで逆襲を開始する辺りから映画は俄然面白くなる。源治の存在は、007における新兵器調達係のQみたいなもので、そう考えれば空中を自在に飛び回れるワイヤ・マシンはP・ブロズナン主演の“007シリーズ”のどれかに登場してた気もする。
羽柴財閥の令嬢・葉子(松たか子)が二十面相に追われている所を平吉が助け、そこから、世間知らずだった葉子が、貧困が蔓延する社会の底辺の状況を知り、ラストにおいてこの世界を変えて行く意思を示す、彼女の成長物語にもなっている展開も悪くない。
この羽柴財閥が作り上げた、世界を支配する事も出来る、リモート電磁波発信装置(で合ってるかな?)を二十面相が狙い、ラストは超高層ビル屋上での大決闘、ビル崩壊、平吉の転落と間一髪の空中救出劇…と、お約束ながら手に汗握る矢継ぎ早のアクションと、平吉と葉子のストイックなラブ・シーンまで、上質のハリウッド製アメコミ・アクション映画(バットマン、スパイダーマン等)を観たような満足感を覚えた。
ネタバレになるので書かないが、ラストのサプライズもアッと驚いた。これから観る方は、なるべく情報を仕入れず、白紙の状態で観る事をお奨めする。
一部の乱歩ファンから、二十面相や明智小五郎のキャラクターが、乱歩の原作と異なる点について批判が出ているようだが、これはお門違いである。
キャラクターこそ借りてはいるが、舞台はパラレル・ワールドの異世界である。北村想の原作を元にした、乱歩が書いたのとは違う世界の物語である。日本という国が、まったく違う様相を呈している以上、二十面相も明智も、元の世界と同一キャラではあり得ないのである。むしろ、乱歩の原作で観客が二十面相や明智のキャラを熟知しているからこそ、ラストの種明かしがサプライズとなって楽しめるのである。
(以下、ネタバレにつき隠します。未見の方は要注意)
平吉が、貧しい人を救う為に、(警察から見れば悪人である)二十面相を襲名しようと決意するくだりは、「ダークナイト」におけるブルース・ウェインの決意を彷彿とさせるし、明智が本当は悪人だった事を知らない小林少年が、明智の敵討ちの為、二十面相に復讐心を燃やす辺りは「スパイダーマン」シリーズとよく似ている。
ちなみに、北村想の原作はパート2もあり、こちらでは二十面相を明智の仇とする小林少年が2代目明智小五郎を襲名し、二十面相を襲名した平吉と対決する。本作もヒットしたなら、是非このパート2に基づき、続編を作って欲しい。
↑ ネタバレここまで
この映画と似た作品を探すなら、それはジャパニメーション(日本製アニメ)の世界である。例を挙げれば、宮崎駿の「天空の城ラピュタ」と、大友克洋の「スチーム・ボーイ」だろう。レトロさと近代が融合した独特の世界観、世界を滅ぼす驚異の科学兵器の争奪戦…など、本作との共通点が幾つか見つけられる。
…そう考えれば、本作には他にもいくつか、宮崎アニメとの共通点を発見する事が出来る(またか、と言わないでください(笑)。詳細は例によって末尾の“お楽しみ”コーナーを参照)。
宮崎駿や大友克洋の傑作アニメ群が登場した20数年前、私は、“こうしたファンタスティックな冒険活劇が、実写映画として日本に登場するのはいつの日だろうか”とずっと思っていた。だが、“金がかかり過ぎる”,“貧乏くさい陰々滅々とした映画しか作れない日本では到底無理”などと言われ続け、私も半ばあきらめていた。
それだけに、本作の登場は事のほか嬉しい。ようやく、日本的な、ジメジメ、ベタベタした世界から脱却した、カラッと明るい、壮大なスケールと世界観を持った陽性の純エンタティメントが生まれるようになったわけである。脚本も担当した、佐藤監督の大健闘も大いに称えたい。アッパレである。
この正月は、奇しくも数字対決となった、旧来のウェットでかったるいベタベタ人情劇「252-生存者あり-」よりは、是非明るいエンタティンメントの快作「K-20」を観る事を強くお奨めする。…これがヒットしなかったら、大げさかも知れないが、また日本の冒険ファンタジーの発展が遅れる事にもなりかねないからである。ヒットを祈りたい。 (採点=★★★★☆)
(付記)
世界観や、帝都のビジュアルがなんとなく、「帝都物語」(監督:実相寺昭雄)と似てるなあ、と思ったら、その「帝都物語」で、怪人・加藤保憲を怪演した嶋田久作がワンカット、ゲスト出演していたのにはニンマリした。こういうお遊びも洋画ではよくあるが、日本映画では珍しい。やってくれますねぇ。
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(さて、お楽しみはココからだ)
多少ネタバレになるかも知れないので、未見の方は読まないでください。
この映画、多分宮崎駿の傑作大活劇「ルパン三世/カリオストロの城」からかなり頂いているのは間違いない。
まず、白無垢衣装のお嬢様が二十面相に追われ、逃げている所を平吉に助けられるくだり。「ルパン-」の冒頭、クラリスが花嫁衣裳で逃げている所をルパンに助けられるシーンからのいただきである。
ご丁寧にも、その後追っ手から逃れる為、ワイヤーで葉子を抱いてぶら下がったが、ワイヤーがはずれ、二人とも「ありゃー」と転落するシーン、「ルパン-」でも崖にぶら下がった後でそっくり同じシーンが登場する。
葉子が持つ、秘密のキーボックスをはめ込むと、からくり仕掛けの塔が動いて秘密のメカニズムが顔を覗かせるくだりも、「ルパン-」のクライマックス、クラリスの持つ指輪をはめ込むと時計塔のからくり仕掛けが動くシークェンスに呼応しているし、その後塔が崩壊するのも同じ。
「ルパン-」のラスト、ルパンがクラリスを抱こうと、手を背中に回そうとしてグッと思い止まる有名なシーン、本作のラストでは、それを裏返したパターンが登場しているのも楽しい。
そもそも、“お宝を盗む大泥棒で変装の名人”という二十面相のキャラクター自体が、「ルパン三世」のキャラとそっくりかぶっているのである。
また、塔屋に現れる巨大なエネルギー発射装置は、宮崎の「未来少年コナン」の、インダストリアの太陽塔塔屋に現れる、太陽エネルギー発射装置にヒントを得ているのかも知れないし、葉子が小型ヘリコプターで間一髪平吉を救助するクライマックスは、「天空の城ラピュタ」における、パズーがフラップターでシータを救出するシークェンスへのオマージュのようでもある。
…といった具合に、宮崎アニメとの類似点がいくつか散見されるのは、究極のところ、宮崎駿が、我が国における、壮大なイマジネーションに満ち、独自の世界観が構築された冒険大活劇の元祖である、という点にまとめられるからに他ならない。だからこそ、海外でも多くの冒険活劇に、宮崎作品へのオマージュが見られるわけなのである。
しかし、そろそろ、宮崎駿を乗り越えて、実写作品に、オリジナリティ溢れる冒険活劇を作れる作家が登場しないものだろうか。いつまで経っても宮崎オマージュでは、活劇ファンとしては困るのである。
佐藤監督には、本作をステップとして、さらなる飛躍を、オリジナリティに満ちた冒険活劇の秀作を期待したい。
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