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2008年12月 7日 (日)

「WALL・E / ウォーリー」

Walle(2008年・ピクサー=ディズニー/監督:アンドリュー・スタントン)

3DCGアニメの草分けである、ピクサー社製作アニメの最新作は、初めてのSF。監督は「ファインディング・ニモ」のアンドリュー・スタントン。

22世紀に、地球はゴミに溢れて住めなくなり、人類は地球を捨てて遥か宇宙に逃れた。
それから700年。ゴミ処理ロボットのWALL.E(ウォーリー)は、たった一人、ゴミの山を整理し続けていた。そんなある日、宇宙船がやって来て、真っ白い、イヴと呼ばれるロボットを残して去った。ウォーリーはイヴと仲良くなろうとするが、再びやって来た宇宙船にイヴは連れ去られる。ウォーリーはイブを取り戻そうと、宇宙船に摑まって…。

前半は、一人黙々とゴミ処理を行うウォーリーの日常を描く。この辺りの描写は、ますます精緻になったCGのおかげで、まるで実写のように見える(昨年の「アイ・アム・レジェンド」の冒頭を思わせる)。
ゴミの中からいろんなお気に入りの小物を見つけてコレクションしたり、「ハロー・ドーリー」のビデオを見たり、たった一匹の生き物であるゴキブリ君を友達にしたり…といった日常を送るうちに、ウォーリーには人間のような感情が生まれて来る。特に「ハロー・ドーリー」の中で、男女が手をつなぎ合って歌うシーンを見て、ウォーリーがいつの日か、手をつなぎ合う相手と出会える事を待ち望んでいる気持ちが観客にも伝わって来る。

後半は、宇宙船に連れ去られたイヴを追っての、ウォーリーの大冒険物語となるのだが、考えればピクサー作品は、「トイ・ストーリー」から「ファインディング・ニモ」に至るまで、“連れ去られた仲間(家族)を捜し求める大冒険の旅”というパターンが多い事に気が付く。

この後半は、いつもながらの追って、逃げて、捕まって、また逃げて…というアクションのつるべ打ちで楽しませてくれるが、今回はいつもの、“友情(または家族愛)と勇気と冒険”だけでなく、“環境汚染が進む地球への警鐘”という、珍しいエコロジー・テーマも含まれており、そういう意味では、大人の観客にも是非観て欲しい作品になっている。700年後の人類が、体がすっかり退化して全員メタボになっているのは痛烈な風刺である。

最初はとっつきにくかったイヴが、次第にウォーリーに好意を寄せて行くプロセスも違和感がない。特に、旧式の消火器を使った、二人の空中ランデブー・シーンは、ディズニー・アニメ「ピーター・パン」のピーターとウェンディの空中遊泳を思い起こさせ、ウットリさせられる。―そう考えれば、消火器の白い飛沫は、ティンカーベルの金粉を連想させてもくれるし…。
アニメ映画史に残る名シーンと言えるのではないか。

全体としては、ウォーリーとイヴとの、男女の純愛物語にもなっている。ピクサー作品としては初のパターンである。今後のピクサー作品の展開が楽しみでもある。

 
で、コアな映画ファンにとっては、いろんなSF映画に対するオマージュを見つける楽しみもある。ウォーリーの造形は「ショート・サーキット」のジョニー・5を思わせるし、ロボットとエコロジーでは、ダグラス・トランブル監督の秀作「サイレント・ランニング」との共通項も見出せる。イヴとウォーリーを乗せた宇宙船が巨大宇宙船の中に吸い込まれるように着陸するくだりは、「スター・ウォーズ」を思わせる。

そして何といっても、赤い目玉のスーパー・コンピュータが人間を制御しようとする展開は「2001年宇宙の旅」。ご丁寧に艦長がコンピュータに立ち向かうシーンではR・シュトラウスの「ツァラトゥストラはかく語りき」が盛大に流れる。

もう一つ、気付いたのは、ニック・パークのアニメ「ウォレスとグルミット」の1編「チーズ・ホリデー」。手製のロケットで月に行ったウォレスたちが月面で出会うのが、たった一人で暮らすロボット。本作で、地球を飛び立った宇宙船が月面すれすれに飛び、アメリカ国旗とアポロ宇宙船の残骸をチラリと見せるのは、あの作品に対するオマージュの意味があるのかも知れない。

 
そんなわけで、これはアニメ・ファンのみならず、映画ファンなら余計楽しい快作である。無論、可愛らしいウォーリーの活躍が楽しいので、子供が観ても十分楽しめるし、家族でゴミ問題や環境汚染についていろいろ話し合ってもいい。万人にお奨め出来る、愛と、勇気と、冒険の、これは素敵な秀作である。必見。     (採点=★★★★☆

(付記) 
ただ、あんまり突っ込んではいけないのだが、科学考証的に見ればおかしな所がいくつかある。(先に知ると面白くないので、未見の方は、以下は読まないように

まず、VHSビデオテープは数十年で劣化するので、800年後に再生出来るはずはない。て言うか、あの環境じゃ酸化してコナゴナになってるはず。

宇宙空間にいる宇宙船内は、「2001年-」のように回転して遠心力をつけない限り無重力のはずで、普通に重力があるのもおかしい。
それを言うと、「スター・ウォーズ」「エイリアン」も、テレビの「スター・トレック」も、無重力空間の宇宙で普通に歩いているのはすべておかしいのだが(笑)…。

まあそのくらいなら許せる範囲だが、クライマックスでのコンピュータとの戦いで宇宙船が傾くと…
なんと人間たちが、「タイタニック」よろしく斜面をゴロゴロとすべり落ちだす…。
まるで地球上まんまである(笑)。いったいこの引力は、どこから発生してるんでしょうか(笑)。

骨が退化して、まともに歩けないはずのメタボ人類が、地球に到着すると、普通に歩いてるし…。

…と、突っ込んじゃ、やっぱりいけないんでしょうね(笑)。SFではなく、冒険ファンタジーと割り切って観るべきでしょう。

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(さて、久しぶりに、お楽しみはココからだ)
SF映画へのオマージュ以外に、この作品にはもう一つ、ある作家へのオマージュが見受けられる。

その作家とは、宮崎駿である。

ウォーリーを男の子、イヴを女の子…とみなせば、“はるか未来、人類がいなくなった地上で、たった一人で暮らす男(の子)の元に、ある日女の子が現れる。やがて女の子は宇宙船で連れ去られ、彼女を助けるべく、男は宇宙船に飛び移り…”と言う展開、宇宙船を飛行艇に置き換えれば、宮崎の出世作「未来少年コナン」の出だしとそっくりである(コナンはおじいと暮らしている違いはあるが)。

そもそも、“さらわれた女の子を助ける為の、男の子の大冒険”というシチュエーションは、「ルパン三世/カリオストロの城」、「コナン」、「天空の城ラピュタ」など、宮崎アニメの定番とも言えるのである。

本作では、役に立たず閉じ込められていたロボットたちが脱走し、反乱を起こすくだりがあるが、これも「-コナン」の、地下に閉じ込められていた囚人たちの反乱と呼応している。

もう1作、「風の谷のナウシカ」との類似性がある。ご承知の通り、この作品は未来世界における環境汚染とエコロジーが重要なテーマになっている。

ナウシカは、一人森に入っては、植物や胞子を採取し、自分の部屋に蒐集しているが、ウォーリーも拾った小物をコレクションしており、そのうちの採取した植物が重要なキーとなる。

ディズニーのスタッフには熱狂的な宮崎駿ファンがいるというのは有名な話だが、ピクサーのスタッフにも宮崎ファンがいるのは間違いないだろう。
そう考えるなら、宇宙船外でのウォーリーとイヴとの空中飛行も、宮崎作品「千と千尋の神隠し」におけるラスト間際の、千尋とハクとの幸福そうな空中飛行シーンを想起させる。“少年と少女の空中飛行”もまた、宮崎アニメの定番である(「ラピュタ」など)。

 
ついでに日本アニメ作家つながりで、もう一人の天才、手塚治虫の秀作「火の鳥」に対するオマージュも見受けられる。

「未来編」の話は、遥かな未来、人類が住めなくなった地球で、たった一人生き残った男(山之辺マサト)が、何百年もの間孤独に耐え、黙々と同じ作業を続ける…というもので、本作の展開とそっくりだし、「復活編」の主人公レオナは、ロボットの少女に恋心を抱くという話。なおレオナの記憶はロボット、ロビタに受け継がれる。ロビタもまたたった一人、生き残ってしまうのである。

手塚もまた、地球の未来と環境汚染問題に熱心な作家である。宮崎駿と手塚治虫、両作家の作品が、本作に影響を与えている…と見るのは自然ではないかと思われるが、いかがだろうか。 

 

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コメント

こんばんは。
いやあ、完璧な分析ですね。
この映画の長所、短所をずばり突いているだけでなく、その引用元を、
宮崎駿、果ては手塚治虫「火の鳥」まで探り当てる。
感服しました。

投稿: えい | 2008年12月 8日 (月) 22:37

いつも楽しく拝読しております。

ネタバレですが

最後も「キスで魔法が解ける」崖の上のポニョなんかを彷彿とさせましたね。

ただファシズムに対する批判なんかまで入れて来たのには驚かされました。

別件ですが色々生活が慌しくなってきたので、観た作品はあるものの本年は打ち止めになりそうです。早くも洋画邦画ともにベストも作ってしまいました。

なので、例のお勧めいただいた往年の名画を観ていこうと思います。ありがとうございました!

投稿: タニプロ | 2008年12月20日 (土) 07:58

追記

>観た作品はあるものの

観たい作品はあるものの

の間違いでした。

投稿: タニプロ | 2008年12月20日 (土) 08:01

はじめまして。検索で回っていて拝見致しました。
ご感想、同感です。

イヴの造形はiMacですね。
ウォーリーの起動音もMacでした。

宮﨑アニメへのオマージュはストーリやテーマだけではなく、キャラクターの動き方にも込められています。
地上でのイヴの飛行シーンなど、一度タメを作ってから一気に飛び、二条の縮流を引きながら飛び回る。
ナウシカのメーヴェです。

投稿: 27 | 2008年12月28日 (日) 10:13

>えいさん、コメントありがとうございます。

手塚治虫「火の鳥」云々は、えいさんもブログで書かれてましたね。実はそちらを読ませていただいて気が付きました(汗)。
いろいろと参考にさせていただいてます。ありがとうございました。


>タニプロさん
空前の不況時代にお仕事探されるのは大変でしょうね。頑張ってください。
「ポニョ」にも似てますね(こちらも少年と少女の冒険譚)。ただ「ウォーリー」は「ポニョ」発表よりずっと以前から製作されてますから、似てるのは偶然でしょう。


>27さん
そうか!、メーヴェの飛翔シーンも取り入れられてますね。
ありがとうございました。
この調子だと、まだまだ宮崎オマージュ、隠されてるかも知れませんね(笑)。

投稿: Kei(管理人) | 2008年12月30日 (火) 19:18

スターウォーズにしろ、スタートレックにしろ、宇宙船の中で普通に歩けるのは、人工重力のテクノロジーがあるという設定でしょう。

投稿: 通りすがり | 2009年1月 1日 (木) 17:10

無重力の描写は手間がかかるのでストーリーに絡まない限り使われないのかもしれません。

投稿: | 2013年3月19日 (火) 00:40

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