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2009年1月 8日 (木)

「ティンカー・ベル」

Tinkerbell (2008年・ディズニー/監督:ブラッドリー・レイモンド)

ディズニー・アニメの古典である「ピーター・パン」の副主人公、ティンカー・ベルを主人公にして、その誕生、ピーターと出会う以前のエピソードを描く、スピン・オフ・ムービー。全4部作になる予定で、これはその第1作。

ティンカー・ベルはどこから生まれたのか、その名前の由来は何か、とか、これまで知られていなかった部分を題材にした辺りは、特にピーター・パンが大好きな子供たちや、昔感動した大人の観客を見込める点で、企画そのものは悪くはない。映像も、CGによるクリアで滑らかな動き、ネバーランドの美しい風景や、妖精たちのキャラクターも魅力的で、まずまずの出来ではある。

だが、個人的には、これはなんとも困った、異議申立てをしたい作品である。楽しめた人には申し訳ないが、以下その理由を述べたい。

 
ディズニー・アニメのポイントとは何か。それは、“愛と夢と冒険の物語”である…という点にまとめられる。現実から離れて、ひと時夢の世界に浸り、主人公と一緒に冒険をし、ハンサムな王子様や美女とめぐり会い、空を飛んだり、ドラゴンと戦ったり、海賊と一戦交えたり…そうして最後は王子様と結ばれてハッピーエンド。

どれも、現実には起り得ない夢の世界である。現実がハードな仕事や生活のやりくりや人間関係のしがらみに追われ、息苦しいからこそ我々観客は、映画館の中で現実を忘れて夢の世界に浸り、ストレスを発散したいのである。

ところがである。本作の主人公、ティンカー・ベルは、“もの作りの妖精”なのだそうである。ティンカー(Tinker)とは、辞書を引くと、“鋳掛け屋、よろず修繕屋”という意味があるので、そこからこの物語を発想したようなのである。

お話としてはティンカーが、もの作りなんてつまらない、とばかりに夢のような職業にあこがれたものの、最後は結局、背伸びせずに、汗水流す地道な労働が大切なんですよ、という教訓話で終わるのである。

私は観終わって、口あんぐりとなった。現実を忘れて夢の世界に浸りに来たのに、よりによってディズニー・アニメで現実の世界に引き戻されるとは思いもよらなかった。「ピーター・パン」というファンタジー冒険物語の副主人公ティンカー・ベルが、実は“なべカマ修理の名人”だった…なんて、悪い冗談である(笑)。「ピーター・パン」の原作者ジェームズ・M・バリーが天国でこれを聞いたらどう思うだろうか。多分ひっくり返るに違いない。

そもそも、“ティンカー”を、“鋳掛け屋、よろず修繕屋”と解釈する事自体、トンチンカンな勘違いである。ティンカーには別に、イギリスの古語で、“いたずらっ子, きかん坊”という意味がある(こちらの英辞書を参照)。
原作者の意図が、こっちの方にあるのは明白だろう。絶対に、“なべカマ修理の名人”という意味で名付けたのではない(笑)。

これが、ジョークやパロディならまだいい。しかし、映画はいたって真面目に、地道な労働の大切さを称えたままて終わるのである。
物語のどこにも、愛も、夢も、冒険もない。逆に、“夢なんかあきらめて、地道な生活を送りましょう”という現実的で味も素っ気もないメッセージに終始するのである。

別に、ファンタジーに社会的メッセージを入れるな、とは言わない。「WALL・E/ウォーリー」にだって環境汚染問題が登場している。

しかしそれはあくまで背景であって、メインは基本的に“愛と夢と冒険の物語”である。ウォーリーは常に、誰かと手を繋ぐ夢を見続け、冒険の旅を経て、その夢を実現するのである。

 
もう一つ、問題点がある。それは本作が、ディズニー・アニメの伝統であるセル・アニメではなく、3DCGアニメの方式で作られている点である。

CGアニメは、それはそれで長所がある。私も、ピクサー・CGアニメは大好きである。
しかし、少なくとも、ディズニー本家が作る「ピーター・パン」のスピン・オフ作品は、昔ながらの2D・セル・アニメで作って欲しかった。現に、つい数年前に作られた「ピーター・パン2/ネバーランドの秘密」はセル・アニメ方式だった(一部作業はデジタル化されてはいる)。

セル・アニメは確かに手間ヒマがかかる。動きもCGほど滑らかではなくギクシャクする。…それでも、デジタルに対するアナログとでも言うべき、手づくりの良さ、温かみがあって、CGアニメ全盛の今、昔のディズニー・アニメを観ると何だかホッとしていい気分になれるのである。今でも、例えばニック・パーク監督による「ウオレスとグルミット」シリーズは、粘土を1コマづつ動かしてはコマ撮りするという、気が遠くなる作業を繰り返して作られている。1本作るのに2~3年かかるのだそうだ。頭が下がる思いである。

おそらく、創業者のウォルト・ディズニーが生きていたなら、この作品は間違いなく、手描きセル・アニメで作られたに違いない。そして、“愛と夢と冒険”という基本ラインは決して外さなかっただろう。
そういう意味では、本作は厳しく言うなら、ウォルト・ディズニーの基本精神を踏み外した、“似非ディズニー作品”と言わざるを得ないのである。

そう言えば、本作には、春の準備に間に合わせる為、ティンカーが“自動彩色マシン”を作り、てんとう虫の背中の絵柄をオートメーションで仕上げるくだりがある。おかげで準備に間に合い、女王から感謝される。

でも、これってなんだか、手間ヒマかける作業を省力化し、手っ取り早くCGで仕上げる、今のアニメ作りを象徴しているようでもある。
“もの作りの大切さ”を訴えるテーマであるなら、そんな手抜きを奨励してはいけない気がするのだが…。

 
翻って、わが宮崎駿監督の「崖の上のポニョ」は、全編手描きによるセル・アニメで作られた。完全アナログ方式である。おまけに、物語はこれぞまさしく、“愛と夢と冒険のファンタジー”である。

言うなれば、本家のディズニーが放棄したかのような、正しいアニメ作りの精神を、ディズニー・アニメから多大な影響を受けたであろう宮崎駿が、確実に継承しているのである。皮肉な事である。

無論、ディズニー以外で作ったのなら、あるいは、「ピーター・パン」スピン・オフでないオリジナル・ストーリーであるなら、はたまたアニメでなく実写であったなら、これはそれなりに評価してもいい。そうでないから問題なのである。絵にしても、ある部分はリアルな3DCG,背景や一部シーンは旧来アニメ風メルヘン・タッチの絵…といった不統一感も気になる。

いろんな意味で、一本筋の通っていない、困った作品と言わざるを得ないのである。   (採点=★★

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コメント

はじめまして^^こんにちは♪
TBありがとうございました!

私はピーターパン好きでディズニーも
好きですので、結構楽しんだ作品なのですが
レビュー読ませて頂いて、なるほどと目からウロコでしたσ(^◇^;)

特に、>ティンカーには別に、イギリスの古語で、“いたずらっ子,
きかん坊”という意味がある・・・に納得!
確かにそのほうが私が今まで抱いていたティンクのイメージです^^

4部作と言うことなのですが、管理人さんは
続編はもうご覧にならないのでしょうか?

投稿: ひろちゃん | 2009年1月 8日 (木) 13:23

ひろちゃんさん、書き込みありがとうございます。
私も、ディズニー・アニメ、特に「ピーター・パン」は子供の頃見て以来、大ファンです。ビデオも持ってます。
それだけに、今回のような作り方にはガッカリです。「ピーター・パン」でのティンカーはやんちゃですね屋で、嫉妬深いところがまた愛嬌で、とっても愛すべきキャラクターだったのですがね。

最近のディズニー・アニメって、オリジナルが少なくて続編ものとか2番煎じばっかりですね。昔のディズニー・アニメに戻って欲しいものです。
「ティンカー・ベル」2作目以降はDVDスルーになるようです。気合が入ってませんね(笑)。2作目もとりあえず観たい気はありますが、それでつまらなかったら続きは観ないでしょうね。

投稿: Kei(管理人) | 2009年1月 9日 (金) 01:33

はじめまして、こんにちは
春ともうします


DVDで観たのですが、管理人さんの感想に少しひっかかりました。

まず、原作のティンカーベルも金物修理屋であること。
ティンとはスズの事で、イギリス人にはなじみの深い
金属です。いたずらっ子のイメージもあるとは思いますが
金物屋のイメージもまちがってはいません


そして3DCGへの過小評価
CGはけして手抜きではありません、とても手間のかかる手法です。実写のようにライティング専門のスタッフが必要ですし、それ相応の技術をもったアニメーターが
必要です。素人さんでも多少作れるのはセルでも同じ事、映画ともなれば3DCGを作る作業は本当に職人技です。手書きのほうが簡単とゆうものではないです


個人的な意見ですが
ティズニーの精神はけして「愛と夢と冒険」だけでは
ないと思います。アニメーションで一番大切な事
それは「子供達にどれだけ楽しんでもらえるか」です。
私自身、子供向けの作品を作っている者として
ティンカーベルをフォローさせてください


子供達が面白ければ手書きであろうがCGであろうが
かまわない、今の子供達にしてみれば手書きアニメは
楽しめないわけではないが「古い」のです。
ディズニーのモットーは「止まらず、進み続ける」
それはこの映画にも、映画を製作した側からも読み取る事ができます。古い技術ではなく新しい技術をもって
次の世代が喜ぶ物を作る、昔からのファンだけに作られた作品ではけしてありません。鑑賞者のメインの層に向けて一番受け取りやすい形で作るのです。

長文失礼しました

投稿: 春 | 2009年4月25日 (土) 00:26

>春さん、こんにちは。
書き込み、並びにご指摘ありがとうございます。

原作でも“金物修理屋”でしたか。
>原作者ジェームズ・M・バリーが天国でこれを聞いたらどう思うだろうか。多分ひっくり返るに違いない。
… という部分については適切ではありませんね。修正させていただきます。

ただ、本文にも書きましたが、ティンカーベルが“金物修理屋”だという事は、「ピーターパン」の物語とはまったく関係がありませんし、ティンカーベルのキャラクターともイメージが合いません。
だから本作での、実際にティンカーベルに金物修理の仕事をさせ、それを天職にする…という展開は、原作者バリーの本意ではないであろうし、却って名作「ピーターパン」の感動をぶち壊しているのではないか…という私の考えは今でも変わりません。


次に3DCGについて。
CGの作成に大変手間がかかる事は私も承知しております。ピクサーのCGアニメも、製作に大変な手間がかかっているであろう事はよく分かります。
しかし、例えばセルアニメで100匹の犬を動かそうとすれば、セル1枚ごとに細かく1匹ごとの動きをつけねばならず、気が遠くなるような作業を必要とします。
その点CGだと、1匹の動きをコピーすればいいので時間も労力もセルアニメより少なくて済みます。
人物の複雑な動きだって、モーション・キャプチャーを使えばセルアニメよりずっと楽でしょう。
1時間半のセルアニメを作るのに、セルの数は10万枚以上、200~300人ものスタッフが総がかりで2年くらいの時間がかかります。それでも動きはギクシャク、CGほどスムースではありません。
CGの方はその点、人手も時間も少なくて済み、かつ動きは滑らか、実写にひけを取らないくらいのリアルな質感を再現出来ます。

>手っ取り早くCGで仕上げる… という言い方は確かに適切ではなかったかも知れません。お詫びします。
ただ言いかかった事は、手書きセルアニメには、大変な手間と時間がかかるけれども、その分、手作りの温かみが感じられる…という点なのです。

確かに「古い」と言えばそれまでです。でも、セルアニメだろうとCGアニメだろうと、大事な事は、作り手の思いが確実に伝わる、丁寧で心を込めた作品作りがなされているか…という事ではないかと思うのです。それがあれば、技術が新しかろうと、古かろうと、必ず観客から熱い支持を得られる事でしょう。

現に、手作りセルアニメにこだわった宮崎駿作品は、熱狂的に支持されています。反面、CGアニメでありながら、「サーフズアップ」や「森のリトル・ギャング」などは見事にコケてしまいました。

最近のディズニー・アニメを見ていると、「アトランティス」とか「トレジャー・プラネット」とか、変に観客に媚びてどっかで見たようなものばかりで、心を打つ作品がありません。今回の「ティンカーベル」でも、安易に「ピーターパン」のスピンオフ企画で、アメリカではハナからDVDスルー。二番煎じで、DVDがそこそこ売れればいい…といった魂胆が見え見えで、まるで熱意が感じられません。
こんな事でいいのだろうか…という思いが、少し厳しい文章になったかも知れませんが、私の思いを理解していただければ幸いです。

ディズニーの看板を掲げるなら、オリジナリティ溢れる企画で、大人から子供まで楽しめる、後世に残る素晴らしい名作を生み出して欲しい… 私は切にそう望んでいます。

子供向けの作品をお作りになっているそうですね。是非、子供さんたちを楽しませる、素敵な作品が完成いたしますよう、お祈り申し上げます。早々。

投稿: Kei(管理人) | 2009年4月28日 (火) 02:03

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