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2009年2月 8日 (日)

「マンマ・ミーア!」

Mammamia (2008年・ユニヴァーサル/監督:フィリダ・ロイド)

1999年にロンドンで初演されて以来世界170都市で上演され、3,000万人以上を動員した大ヒット・ミュージカルの映画化作品。イギリスでは「タイタニック」の興行記録を追い抜いて歴代興収トップに躍り出たという。監督は舞台演出も手掛けたフィリダ・ロイド。

「ダンシング・クィーン」等で知られる、ABBAのヒット曲をミュージカル・ナンバーとして用いており、構成としては昨年の、やはりビートルズのヒット・ナンバーを散りばめた「アクロス・ザ・ユニバース」に近い。
但し、あの作品が60年代末期の混沌とした世相を背景に、やや暗いムードの作品であったのに対し、こちらは徹底してノー天気で明るくて他愛ない、ハッピーな作品に仕上がっている。

エーゲ海に浮かぶギリシャの小島で、20歳のソフィ(アマンダ・セイフライド)は結婚式を間近に控えていた。父のいない家庭で育ったソフィの願いは父親とバージンロードを歩くこと。母親ドナ(メリル・ストリープ)の日記を内緒で読んだソフィは、父親の可能性があるドナの昔の恋人3人に、ドナに内緒で招待状を送るが…

…というストーリーはあるけれど、要するに基本はミュージカル・コメディ。軽快なABBAのヒット・ナンバーに乗せてメリル・ストリープ始め、出演者が歌い、踊る楽しいミュージカル・シーンに心浮き浮き、のめり込んでしまえばこっちのもの、あっという間に1時間48分が過ぎてしまう。

ポップで明るい曲調に加え、美しいギリシャ・エーゲ海を背景にしている事もあって、ダンス・ナンバーが始まると、一緒に踊り出したくなるほどの高揚感に包まれる。
特にストリープ、もう60歳になろうとしているのに、歌い、踊り、飛び跳ね、歳を感じさせないパワフルなパフォーマンスぶりには恐れ入る。役の上でも、若い頃に産んだ20歳の娘がいる(つまり40歳頃)という役柄で、その事を突っ込む人もいるようだが、役になり切って楽しそうに演じ、歌い踊る姿を見ているうち、そんな事は気にならなくなる。さすがは名女優である。

お話は前述の如く、単純で他愛なく、最後はハッピー・エンドで終わるから安心して観ていられる。ABBAのファンは無論のこと、ミュージカル映画ファンなら十分堪能出来る、まさに王道を行くミュージカル映画の快作である。

 
―ただ、この映画を楽しめなかった人が意外に多いようで、それはお気の毒というか、残念である。
そこで以下は、この映画をどう楽しむか、という点について語りたいと思う。

まず、この映画はミュージカルである。出演者が突然陽気に歌い、踊り出し、回りの人たちも一緒になって踊る…という展開に違和感を感じてしまう人は、ハナから蚊帳の外である。「ラリってんじゃないか」とのたまう方に至っては論外で、そういう人はもう二度とミュージカルについて語らない方がいいと思う。

ミュージカルは、元々は舞台におけるレビュー(タップなどを踊りながら歌う)・ショーから始まって、単純な男女の恋愛等のお話が適当に繋ぎ合わされ、やがてストーリー性のあるものに発展して行ったもので、お話よりは歌と踊りがメインなのである。つまりはショー・ビジネスの世界である。観客はお気に入りのスターの歌と華麗なダンスだけを堪能して、ストーリーなんかは見終わればきれいに忘れているのである。日本で言えば宝塚歌劇を思い浮かべれば分かり易いだろう。

そういう、舞台ミュージカルに慣れ親しんでいれば、まず抵抗はないだろうが、舞台に馴染みがない映画ファンであれば、1940~50年代に一世を風靡したMGMミュージカルを是非観ていただきたい。

私も、ミュージカル大好きになったのは、MGMミュージカルのおかげである。入門としては、MGMミュージカルのアンソロジー集「ザッツ・エンタティンメント」シリーズが最適である。未見の方は、騙されたと思ってPart1から順に観てください。豪華なレビュー、フレッド・アステアやジーン・ケリーの優雅なダンス、シド・チャリシーの妖艶な踊り、エスター・ウイリアムスの呆れるほど豪華で贅を尽くした水中レビューの数々…ハマること請け合いである。これで「つまんない」と思う人は「マンマ・ミーア!」は観ない方がいいでしょう。

これにハマった人は、次に「ザッツ・-」にも一部が出て来るジーン・ケリー監督(S・ドーネンと共同)・主演の「雨に唄えば」、アステア主演の「イースター・パレード」「バンド・ワゴン」を観る事をお奨めする。もう完全にMGMミュージカルにノックアウトされるはずである。

これらの作品も、いずれも単純で他愛ない、陽気で楽しいお話ばかりである。観終わっても、覚えているのはアステアやケリーのウットリするダンス・ナンバーばかり。「雨に唄えば」ではラスト間際、本筋とはまったく関係ないレビューだけを繋げた“ブロードウエイ・バレー”が延々1713分も続く。極端に言えば、物語部分を全部カットして、ミュージカル・シーンだけの映画に編集し直しても十分楽しい(それじゃまんま「ザッツ・エンタティンメント」ですが(笑))。

ただ、立川志らく師匠のようにMGMミュージカル大大ファンになると、逆にストリープがいくら熱演しても、アステアやジャンジャー・ロジャースやシド・チャリシーなどの優雅で華麗なダンスと歌に比べれば見劣りしてしまい、辛い点数になってしまうようである。なかなか難しいものである(笑)。今の時代、アステアもJ・ケリーも存在しないのだから無いものねだりなのだが…。そう言えばシド・チャリシーの訃報を聞いたのは昨年だった。

ついでに言うなら、ミュージカルはその後、「ウエスト・サイド物語」が登場し、ストーリーを重視した、社会派的なものが時代を席巻するようになり、陽気でノー天気なMGMミュージカルは衰退してしまう。それはあたかも、リアルな黒澤時代劇の大ヒットによって、陽気で明るい東映時代劇が息の根を止められたのと呼応しているかのようでもある(時代も、共に1961年頃とまさに一致している)。

現在のミュージカルも、「オペラ座の怪人」とか「シカゴ」「レント/RENT」のように、やや暗めのものや社会派的なものが幅を利かせており、かろうじて「ヘアスプレー」が、かつての陽気でノー天気なミュージカルを思い起こさせる作りになっているだけである。

「マンマ・ミーア!」は、そんな、古き良き時代のミュージカルの伝統を引き継ぐ作品であり、特に9.11以降、なんとなく殺伐とした時代の空気の中で落ち込んでいた人たちを元気付けるパワーに満ち溢れている。元々舞台ミュージカルに慣れ親しんでいるイギリス、アメリカの人たちが熱狂するのも当然で、何度でも観たくなるリピーターも沢山いるのだろう。そうでなければ「タイタニック」を上回る観客が詰め掛けるはずもないのである。ロンドンでの上演では、劇場内がディスコ状態になってしまったというから驚きである。

私が観た劇場内では、歌に合わせて拍子を取って体を揺らせたり、小声で口ずさんでいる人が結構いた。ABBAのファンなのかも知れない。観客がみんなそんな調子で踊りだしたら、相乗効果でもっと楽しくなるかも知れない。

ともかく、映画は、自分から映画の世界に入り込んで楽しまなければ損である。ABBAのポップで快活なリズムに乗って、風光明媚なエーゲ海の島にいる気分に浸れば、ストリープの歳も、ピアース・ブロスナンの歌のヘタさも全然気にならなくなる。

物語が終わった後のエンド・ロールでも、カーテンコールよろしく、ストリープ中心のオバさんトリオが歌い、踊るシーンもまた楽しい。歳を取ろうが、若々しい気持ちさえ失わなければ、心はいつまでも歳を取らないのである。―そう、お楽しみはまだまだココからなのである。   (採点=★★★★

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コメント

こんばんは。

>古き良き時代のミュージカルの伝統を引き継ぐ作品

なるほど。
そう考えると、楽しみ方も全く違ってきますね。
ぼくはMGMミュージカル、
決して嫌いではないです。

ジーン・ケリーもフレッド・アステアも
好きなんだけどなあ。

投稿: えい | 2009年2月 9日 (月) 22:24

>私も、ミュージカル大好きになったのは、MGMミュージカルのおかげである。

私がミュージカルというジャンルに対して強い愛着を抱くのは、
子供の頃、親が見せてくれたディズニーアニメのおかげである。

>出演者が突然陽気に歌い、踊り出し、回りの人たちも一緒になって踊る
>…という展開に違和感を感じてしまう人は、ハナから蚊帳の外である。
>「ラリってんじゃないか」とのたまう方に至っては論外で、
>そういう人はもう二度とミュージカルについて語らない方がいいと思う。

こういう事を書くとミュージカル嫌いが増えるから止めた方がいい。
実際、
私が本格的に実写のミュージカルを見始めた時、
作品や場面によっては展開に強い違和感を感じてしまったので、
原因を探って、ミュージカル映画に関する多くの文章を読んで、
こういうパフォーマンス派の独り善がりな批難に対して、
数年間ミュージカル嫌いになるほどの強い怒りを感じた。
だからと言って、
貴方の「ミュージカル映画の楽しみ方」に対して、
あんな感情的に知識を利用したコメントは間違いだった。
ただ私としては、
違和感を感じるからと言ってミュージカル嫌いだと
決めつけられるのだけは決して受け入れられない。

(もし貴方の気分を害さなければ、「」における
名前をダブルイレブンに直してもらえますか?)

投稿: ダブルイレブン | 2010年8月 6日 (金) 17:26

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