快挙!「おくりびと」アカデミー賞受賞
第81回アメリカ・アカデミー賞の外国映画賞に、日本から参加した「おくりびと」が決まりました。
素晴らしい事です。かつて、名誉賞として外国語映画に賞が与えられていた時代には、黒澤明監督「羅生門」、衣笠貞之助監督「地獄門」、稲垣浩監督「宮本武蔵」が受賞した事はありましたが、1956年に正式に“外国語映画賞”が創設されてからは、日本から出品された作品が外国語映画賞を受賞したのは、これが初めてです。まさに快挙と言えましょう。
(なおニュースによっては、日本人の受賞は初めてとしているものがありますが、1975年にソ連映画として出品された、黒澤明監督の「デルス・ウザーラ」が受賞しています)
いずれにせよ、この作品を昨年度のベストワンに推した他、いろいろと推薦活動もやって来た(ヨコハマ映画祭にも寄稿しました)私にとっても、とても嬉しい事です(作品評はこちらを参照)。
この作品には、とりわけ思い入れがあります。一昨年、父を亡くしたばかりで、ラストシーンで、大悟(本木雅弘)が、亡くなった父(昨年亡くなられた峰岸徹さんが演じていたのも奇縁です)を丁寧におくるシーンではボロボロ泣いてしまいました。
無論、それもありますが、作品の完成度の高さにも感銘を受けました。
特に、さりげなく描かれる、“命への讃歌”が見事でした。空を飛ぶ鳥、川を遡る鮭の群れ、等の躍動する生命感、人間に食される生き物たち(川に帰されるタコ、フグの白子)、そして、妻・美香(広末涼子)の胎内に宿る新しい命…。
命とは、かけがえのない尊いもの。だから、大切な人の命が失われた時は、丁寧に、心を込めておくってあげることが大切な事…という主題が、とても心に響きました。
このテーマが、外国の人にも素直に伝わった、その事が、とても素晴らしいと思いました。そう言えばこの作品は、モントリオール世界映画祭でもグランプリを受賞しています。
かつての、1950年代に名誉賞を受賞した3本は、いずれも時代劇です。また5年前にノミネートされ、惜しくも受賞を逃した「たそがれ清兵衛」も時代劇でした。
以前は、そうした、エキゾチックな時代劇を出した方が受賞し易い…という風潮がありましたが(カンヌでも「楢山節考」、「影武者」等が受賞)、本作のような、現代日本を舞台に、人間の生と死というテーマに正面から取り組んだ秀作が世界の人々に評価された事も、また素晴らしい事だと思います。
もう一つ、短編アニメーション部門で、加藤久仁生監督の「つみきのいえ」が受賞した事も素晴らしい出来事です。
長編アニメは、宮崎駿や押井守等が活躍している事もあって、レベルの高さは世界的に知られていますが、短編については、実はアカデミー賞においては日本はまったく未開の分野でした。
これまでは、やっと2002年に、山村浩二監督の「頭山」がノミネートされたきりでした(受賞は逃す)。
作品も、断片をテレビで見ただけですが、手づくり感があって柔らかな色彩で、ちょっとフレデリック・バックのタッチを思わせます。テーマも、地球温暖化がちょっぴり入ってタイムリーでした。
両作に共通する事は、人間が抱える、普遍的な、かつ時代の流れを的確に捕らえたテーマを、温かい感触で丁寧に描いている点だと思います。
ハリウッド的な、膨大な制作費をかけ、CGバリバリ、メカニカルで冷たささえ感じる作品が幅を利かせてきた映画作りに、ようやく見直しの機運が高まって来た事(作品賞、監督賞を制したのが、超低予算でCG臭も感じさせない「スラムドッグ$ミリオネア」である事が象徴的です)が、タイムリーに幸いしたのかも知れません。
日本映画は、むしろこうした方向(低予算でも、心のこもった丁寧な作品作り)をこそ目指すべきでしょう。皮肉な事に、大手製作会社が巨額の宣伝費をかけて鳴り物入りで公開している大作が、「少林少女」、「隠し砦の三悪人」、「252 -生存者あり‐」、「感染列島」と、CGだけ派手で中味はワーストテン上位独占のトホホな作品ばかり…というのが何とも笑えますし、困った事です。今頃ハリウッド(の悪い傾向)を追っかけてこんなくだらないものを作っていては、せっかく「おくりびと」で高まった評価を落とすばかりか、世界の笑いものになります。世界の恥さらしは中川前財務大臣一人で十分だと思いますが(笑)。
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コメント
いやいや、本当に良かったです。僕は他の作品を上位にしちゃってましたけど(苦笑)でも凄く好きな作品です。
観賞後に優しい余韻が残る味わい深い作品でしたもん。
去年は日本映画の傑作が多かった中で評価が高かっただけでも凄いのに、コレは本当に。
久しぶりに良い報道を耳にしましたね。あまり難しいことは言えないのですが、これで日本映画全体のレベルアップに繋がって、更に映画への関心が高まり、少し興行低迷気味な海外映画とともに、金融危機に負けじと産業全体が活性化すると良いですね。
暗いご時世だからこそ、こういった文化は力強さを増すと思っています。
ともあれバンザイ!
投稿: タニプロ | 2009年2月24日 (火) 12:50
いつもロムばかりでしたが初めて書きます。
映画ロケが行われた庄内地方、鶴岡市在住です。
主に撮影された酒田市含め山形県は大騒ぎです。
「おくりびと」日本アカデミー賞10冠!
それ以外(キネ旬や中国映画祭など)受賞数は何と60冠!
極め付けは「おくりびと」アカデミー外国語映画賞受賞!
ロケに使われた銭湯やバス運行の商店街へは
自転車で行ける距離なので嬉しい不思議な感覚です。
因みに「たそがれ清兵衛」も同じく庄内を舞台にしてます。
まずは祝杯!祝杯です〜!!
投稿: ぱたた | 2009年2月24日 (火) 15:06
>タニプロさん
アカデミー賞効果で、封切から半年経過してるのに、まだアンコール上映され、連日満員というのが凄い。どこまで興行記録を伸ばすのか楽しみです。
>これで日本映画全体のレベルアップに繋がって…
予算をかけなくても、SFXに頼らなくても、地味な題材でも、企画者(モックン)の熱意といい脚本があれば、多くの人の支持を集め、世界にも通用する、…その方向をこそ日本映画は目指すべきでしょう。
それにしても、この作品をワーストワンにした映画芸術誌(特に荒井編集長)には反省をしていただきたいものです(笑)。
>ぱたたさん、地元ロケの作品が世界で有名になるなんて、素敵ですね。
私の場合も、生れ故郷が舞台で、全面ロケもされた「青春デンデケデケデケ」が公開された時はやはり町中大騒ぎで、映画見ても妙にこそばゆい気持ちでしたよ。そのお気持ち、よく分かります。
こんな時代ですから、町おこしになって、景気回復につながればいいですね。ともあれ、おめでとうございます。
投稿: Kei(管理人) | 2009年3月 1日 (日) 22:26