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2009年2月 1日 (日)

「感染列島」

Kansenrettou (2009年・東宝/監督:瀬々 敬久)

新型ウイルスが日本中に蔓延し、数百万人もの人が死滅する未曾有の事態の中で、人々を救う為に奮闘を続ける医師たちの姿を描いたパニック・サスペンス・ドラマ。

未知のウイルスが蔓延する恐怖を描いた映画は、これまでにも数多く作られてきた。小松左京原作のSF大作「復活の日」もあれば、サスペンスフルな正統もの「アウトブレイク」、はたまたゾンビもののバリエーション「28日後」「28週後」から、ほとんどの人類が死滅した後の世界を描く「アイ・アム・レジェンド」に至るまで、枚挙にいとまがない。映画化し易い題材であるとは言える。

本作は、かなり正攻法で、ウイルスに立ち向かう医師、公的機関の人たちの仕事ぶりや奮闘ぶりを描いている。
インフルエンザが数年ぶりに猛威を振るいそうなのに、ワクチンの絶対量が足りない、という我が国医療体制の現実に対する問題提起にもなっており、その意味でも作られた意義は大きい。

そんなわけで、物語が始まった時には、私は、これは最近では珍しい、社会派的テーマをもった骨太の力作ではないか…とかなり期待したのである。

 
だが、話が進むに連れて、映画はおかしな方向に迷走を始める。こういうテーマの作品であるならば、医学的にみて矛盾や無理な点がないよう、徹底したリサーチを行い、丁寧に物語を構成し、脚本を作るべきであろう。

だが、どう見ても、我々素人が見てもおかしな、突っ込みどころが一杯出てくるのには困った。

例えば、明らかにこのウイルスは空気感染で、当然感染患者が出た病院は隔離され、感染者と疑われる人間は一切外部には出してはいけないはずである。…当然ながら患者に接触した医師もである。現に、WHOから派遣されて来たメディカルオフィサー・小林栄子(壇れい)は、早速病院の隔離を実行している。

そのわりに、主人公の医師、松岡剛(妻夫木聡)は簡単に病院を抜け出し、森に入ったり、中盤ではなんと海外にまで出かけてしまう。

一番最初に、ウイルス感染者と接触したのが松岡なのだから、こいつが一番危険人物ではないか。現に同僚医師(佐藤浩市)は感染し、あっさり死亡してしまうし。

いくら主人公だからといって、こんないいかげんな事では困る。南方の島では、防護服もつけずに患者たちの集団に囲まれてるし…。

感染しにくい体質…ということもあるかも知れないが、そういう説明もない。仮にそうだとしても、無防備な場面が多いのは考えもの。伏線なり、脚本に周到な配慮が足りない。

一番問題なのは、感染源の人物である。(以下ネタバレにつき隠します)
そもそもは、南方の島で医療に従事していた医師(嶋田久作)が、ウイルスに感染したかも知れないのに、日本に帰って、家族に接触したのが発端なのだという。

おまえのせいで300万人も死んだんだよ!と思いっきり突っ込んでしまった。

しかも、帰る途中、駅で咳き込み、血を吐いてる。その時、医療機関に連絡してればもっと早く原因が分かっただろうに。医者としてあまりに軽率―を通り越してほとんどアホである。
(ネタバレここまで)

真面目な意図を持った作品なのだから、出来るだけ多少の突っ込みどころも目をつぶってあげよう…と思って我慢していたが、さすがにこれには呆れた。

他にもおかしいのが、国家の専門医療機関でも見つけられなかったウイルス病原体を、モグリ?のウィルス研究者(カンニング竹山)が見つけるのも不思議。そもそもこの人物には、もっと誠実そうな役者をキャスティングすべきなのに、なんでコメディアンなのか。

個々の人物に関するエピソードくらいまでは良いとしても、“最初の感染者の登場”、“ウイルスの発見”、“感染源の特定”といった日本全体の命運を左右する重大事が、すべてが松岡の周囲のみで起きる…という展開は、いくら彼が主人公でもやり過ぎ。ご都合主義も極まれり、である。

他にもヘンなのは、市立病院に勤め、感染した女性看護師に娘を連れて会いに来た夫(田中裕二=爆笑問題)が、病院の手前で鉄柵と守衛に阻まれ、会うことが出来ないのに、同じ病院に入院している、養鶏業者の娘に会いに来た同級生の男の子は、簡単に病院通用口手前まで来れてる
同じ病院のはずなのに、この違いはどういうわけか。こんな矛盾に何で誰も気が付かないのか。

絵的にも、街にゴミが散乱し、車がひっくり返っている、「28日後」にそっくりなシーンがあるが、感染すると凶暴になり、暴徒化するあの映画と同じ事が起きるわけがないだろうに。いろんなウイルス・パニック映画の映像を適当に継ぎはぎしたかのようである。これでは却って映画が安っぽくなってしまう。

これ以後も、プロのメディカル・オフィサーであるはずの栄子が、地方に出張して感染に気付く…というマヌケな事をやらかしたり、松岡と栄子が、テレビ電話で別れの愁嘆場を延々とやったり(「ミッドナイト・イーグル」に続き、またもや日本映画の悪いクセ)、手が離せないほど忙しい患者診療をほったらかして栄子に会いに行ったりと、もう支離滅裂。

ベタな泣かせどころをあちこちに無理やり突っ込むのは、もういい加減にして欲しい。真面目な社会派ドラマどころか、安っぽいお昼のメロドラマ以下である。

とにかく、毎度のことだが、脚本が粗雑過ぎる(監督の瀬々敬久が兼任)。
瀬々はこれまで、「雷魚」「HYSTERIC」「ユダ」など、低予算のインディペンデント映画で注目されている、気鋭の作家の一人だが、いきなりこんなビッグバジェット作品を手掛けるには経験不足である。もっとベテランの職人脚本家にまかせるべきだった。瀬々が悪いと言うより、起用したプロデューサーの責任である。

過去のディザスター・ムービーを振り返ると、あの1作目の「日本沈没」(森谷司郎監督)の脚本は、大御所・橋本忍が書いてるし、題名も似てる「地震列島」(大森健次郎監督)の脚本はなんと新藤兼人である。「復活の日」(深作欣二監督)もベテラン高田宏治が執筆している。

日本映画が斜陽だと言われていたあの時代ですら、スケールのある大作には、ベテランの職人脚本家を起用していたのである。プロデューサーが田中友幸とか角川春樹といったツワモノであったせいもあるが…。

 
そんなわけで、企画・題材の選び方は悪くないし、同じパニックものでも、「252」のように酷い作品ではない。大作をまかされた瀬々監督もよく頑張っている。

それだけに、脚本家の選定ミスが痛い。いい脚本さえあれば、もっと感動出来る力作に仕上がったに違いない。そこが惜しい。

今の日本にこの手の大作を書ける脚本化が少ないのも事実だが、1昨年「茶々 天涯の貴妃」を手掛けた高田宏治もいるし、原田眞人や加藤正人など、もっと適任者はいると思う。…それよりも、作品全体を統括し、脚本もチェック出来る、田中友幸や天尾完次(「十三人の刺客」、「二百三高地」等)クラスの実力プロデューサーが不在である事の方が問題だと思う。人材育成の必要を痛感せざるを得ない。     (採点=★★

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(2013.2.24 付記)

この映画が公開されてからもう4年も経ち、今ごろ書くのは、気の抜けたビールみたいで気が引けるのですが、
以前にこの映画に関して、下のコメント欄に何人かの方から、「栄子(壇れい)が亡くなって松岡が農道を泣きながら走るシーンで、空にUFOが飛んでいる」とのご指摘がありました。

ちょっと気にはなりましたが、映画の出来がヒドかったので二度と観る気が起きず、そのうち忙しさに紛れて忘れてしまってました。
出来が良ければ、DVDでも借りて確認したかも知れませんが。

ところが先月、下のコメント欄に当記事に関するご指摘があって、お返事した際に、そのUFOに関するコメントを見てその事を思い出しました。

細かいことが気になる私ですので(笑)、一応“感染列島 UFO”で検索してみた所、当時他にもこの件に関して結構話題になっていた事が分かりました。
ところが、その正体については、今もって不明のままのようです。どれも“あれはUFOでしょうか?”、“何か知ってる方がいらっしゃったらコメントください”とかまでは書かれているのですが、結局分からずじまいになってるようですね。

Yahoo知恵袋にも、2件ほどこの件に関する質問が寄せられてましたが、いずれも「分からない」で終わってます。

それで、これについて遅まきながら調べてみようと思い、幸い図書館にDVDがあったので、借りて観てみました。

結論から言いますと、画像を静止し、コマ送りで観て確認したら、ものの数秒ですぐに判明しました(笑)。

Kansenufo

上の画像を見ていただければ分かりますが、あれは、2本の電線の間にブリッジ固定されている金属板が、太陽光で反射したものでした。
おそらく、電線が強風に揺れると2本が接触してショートする危険性があるので、接触しないように設置されたものでしょう。
途中から見えなくなったのは、移動した為反射光が届かなくなったからでしょう。

撮影時に、レールを敷いて移動撮影していれば、ずっと電線の間にあるのが分かったでしょうが、この映画では手持ちカメラで撮影してますので映像がブレて、あたかも飛行しているかのように見えてしまったのでしょうね。

UFOを信じている方には申し訳ないですが、UFOの正体って案外こんなものが多いのでしょうね。

しかし、DVDの静止画像を注意して見ればすぐ分かるはずなのに、なんで今まで誰も気付かなかったんでしょうか。

そんなわけで、これまで気になって夜も眠れなかった方、安心しておやすみください(笑)。

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コメント

Kei様
トラックバック、コメント、ありがとうございます。本当に日本映画には、プロデューサーが不在のような感じになりましたね。誰でも知っているプロデューサーというのが、一人もいない気がします。
大学の教授で、関西在住の映画評論家、滝沢一先生が言っていたことを思い出します。「21世紀に無くなるもの。それは映画や。」まさかと、当時は笑ったのですが、現在の映画界をみていると、この言葉が思い出されるのです。

投稿: 冨田弘嗣 | 2009年2月 4日 (水) 21:47

書き込み及びトラックバック有難う御座いました。

こちらでKei様が指摘されている様に、突っ込み所の多い作品でした。自分も“ゾンビ”が登場した際には、「何だこれは?」と思いましたし、「最終的な感染者数が、日本の人口の8割にも上るだろう。」との予測が出ている中、その日本から海外に飛ぶ事なんか現実的に不可能でしょうし。娯楽映画として割り切って、細かい点を無視出来れば、それはそれで楽しめるのかもしれませんが、昨今やたらと取り上げられている「パンデミック」をテーマにしているだけに、余りにも雑な作りが気になりました。

P.S. 中川氏に関する御指摘、自分も全く同じ思いを持っておりましたので、拝読していて思わず頬が緩んでしまいました(^^)。

投稿: giants-55 | 2009年2月16日 (月) 20:36

>giants-55さん、書き込みありがとうございます。
おっしゃるとおり、同意見です。
「-列島」というタイトルで、未曾有の国家レベルの災害を描くなら、「日本沈没」(無論、オリジナルの方)並みに、国家、政府の対策を中心に据えるべきで、事件の解決がほとんどアマチュアか、一民間医師による…という根本発想のズレがどうにも困ってしまいますね。
お涙頂戴の娯楽映画にするなら、もっとコンパクトな題材に絞るべきでしょう。
本当に、雑な作りの日本映画が多過ぎますね。

P.S,中川大臣、こちらもお粗末の一語に尽きます。政治家まで雑になってる(笑)。
パンデミックが起きても、安心して政治家にまかせられませんねぇ(笑)。

投稿: Kei(管理人) | 2009年2月18日 (水) 00:43

内容とはまったく関係ないけど、えいこが亡くなって松岡が田んぼの中を走るシーンで空にufoが見えたのは私だけ?

投稿: イチゴっぴ | 2009年8月 3日 (月) 18:02

イチゴっぴ さんへ
おしゃってるシーンで私も見ました。
スロー再生で何度か確認したのですが、やっぱりあれは「UFO」ですよね?!

投稿: ヒロリン | 2009年8月 9日 (日) 00:51

イチゴっぴさん、ヒロリンさん、私もこの映画を見たときに気付きました。
私自身UFOを見たことがあるのですが、あれは確実にUFOです。
なぜネット上にその事実が上がっていないのか不思議です^^;

投稿: 暇人 | 2010年8月 3日 (火) 19:35

揚げ足とるようでアレなのですが・・・ウィルスと細菌は別物(というより、ウィルスは生物ですらない)なので、「ウィルスの病原菌」という表現は矛盾します。
まあ、この映画の中でも「ウィルスも人間と同じで宿主を殺したら自分も死ぬ」と言う表現をしているあたり、ウィルスと細菌の区別が出来ていなくて、その辺に詳しくない人間に誤った情報を与えている気はしますが・・・なんか、ガン細胞についてもウィルスとかと同じものの様に考えている気もしますし・・・

投稿: | 2013年1月30日 (水) 22:19

◆--さん(名前ありません)
ご指摘ありがとうございます。
何の気なしに書いてしまいましたが、そうですね。ウィルスは菌じゃないですね“病原体”とすべきでしたね。訂正しておきます。
ただ、ウィルス予防関連の資料見てると、「ウィルス殺菌」という言葉がよく出て来るので、辞書で調べたら、「殺菌」=細菌、ウイルスなどの微生物を死滅させる操作のこと…とありました。この辺、大雑把なんですね(笑)。

投稿: Kei(管理人) | 2013年1月31日 (木) 01:34

ものすごい超遅レスで申し訳ないのですが、
映画の中でUFOが写っているとコメントされた、イチゴっぴさん、ヒロリンさん、暇人さん、

正体が分かりましたので、上の記事本文に、付記として書かせていただきました。ご一読ください。
あ、でも、もうこちらに覗きに来る事もないかなあ(笑)。
とりあえずは、一件落着ということで。

投稿: Kei(管理人) | 2013年2月24日 (日) 14:11

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