「ドロップ」
お笑いコンビ、品川庄司の品川ヒロシが、本人原作の自伝的小説を自ら脚色、初監督した青春映画の快作。
実は私はテレビのバラエティやお笑い番組はほとんど見た事がない。なので、品川ヒロシなんて今回映画を観るまで全く聞いた事がなかった(“品川庄司”と最初聞いた時、1人の名前かと思ってた(笑))。
私は、お笑い芸人が映画を撮ったって構わないと思っている。北野武や、竹中直人のように、堂々映画賞を取り、世界的にも認められている監督がいるくらいだから、才能さえあればどんどん監督して、映画界を活性化してもらえればいいと思っている。島田紳助もかつて、「風、スローダウン」という、真面目な青春映画の佳作を撮っている。ただ、松本人志の「大日本人」は面白くもなんともない駄作。
北野武や竹中直人は、映画を撮る以前から個性的な役者として注目していたから、監督業でも成功すると思っていたし、デビュー作も、予想を上回って素晴らしい秀作だった。…ただ品川ヒロシについては本人をまったく知らなかったので、出来の方はやや不安だった。
で、映画を観てビックリ! 堂々たる出来の見事な佳作だった。いやー、お見逸れしました。
不良にあこがれる中学生・ヒロシ(成宮寛貴)は、退屈な日常に飽き足らず、不良のいる公立狛江北中学校に転校。登校早々、ヒロシはイケメン不良の達也(水嶋ヒロ)に目をつけられ、喧嘩上手な達也にコテンパンにされるが、それが元で達也に気に入られ、彼が率いる不良グループの仲間に入り、喧嘩に明け暮れる日々を過ごす事となるが…
見事だと思ったのは、それぞれの人物キャラクターが、脇に至るまでちゃんと個性的に描き分けられている点。自身が不良だった経験を元にしているとは言え、プロのシナリオライターでもヘタな人がいるから、これは立派なものである。キャラがしっかりしているから、物語がはずむ事ともなる。
主人公(ヒロシという名前からして監督自身だろう)のキャラクターが秀逸。不良にあこがれるクセに、実は喧嘩が得意ではなく、相手が強そうだと、ごまかしてなんとか逃げようとする。少々カッコ悪いのである。成宮寛貴がコミカルにヒロシ役を好演(とても中学生には見えない(笑)。まあ「岸和田少年愚連隊」シリーズの竹内力も高校生には見えないのだが(笑))。
冒頭での人物紹介も、アップになった顔にマンガの人物がオーバーラップするのが楽しいし、マンガのページをめくると場面転換となるカッティングが鮮やか。ここだけでもおおっと唸りたくなる。
喧嘩のシーンも、カット割でごまかしたりしてなく、ロングの長回しできちんとアクションを撮っている。その為、殴られても殴られても立ち上がるヒロシに、達也が好感を抱くプロセスに説得力が生まれるのである。いくつかの喧嘩シーンもなかなか迫力があり、アクション映画としても十分見られる出来になっている。
さすがお笑い芸人らしく、笑えるシーンを適度に挿入して、陰惨になりがちな物語を、ユーモラスに明るくしている点もいい。達也の父でヤクザ・タクシーの遠藤憲一と刑事の哀川翔とのトボけた掛け合いは爆笑もの。何度も出て来るセリフ「人間は、簡単には死なねえんだよ」もうまく決まっている。
後半、大人数の軍団に捕まった仲間を救出する為、数の不利を承知で仲間と共に殴り込みに向かうシークェンスが、「ワイルドバンチ」を彷彿とさせるのも楽しい。
そして、単なる喧嘩アクションだけでなく、仲間との友情、捻じ曲がった親子の愛、家族の絆、労働の大切さ…等もバランスよく配置され、そしてラストに至り、自己の青春時代を卒業するかのように、仲間と別れ、一人旅立つヒロシの姿でシンミリさせ、ほろ苦く物語を締めているのも見事である。
何よりもこの映画は、“後から考えればバカバカしく思える事でも、その時には無我夢中で邁進する青春群像”を描いている点で、喧嘩映画の原典であると同時に最高傑作である、鈴木清順監督の「けんかえれじい」の系譜(*後述)に繋がる作品であると言える。あの映画も、バイオレンスと、笑いと、青春のリリシズムが混然一体となった楽しい作品であった。…そこまでの傑作とは言わないが、メリハリの効いた、きちんとした娯楽映画になっているだけでもお見事である。
品川ヒロシ、本年度の新人監督賞に推薦しておきたい。そして第2回監督作品も是非発表して欲しい。そう思わせる、キラリと光るものが、本作には確かに感じられた。
そんなわけで、点数は期待度も込めて大甘に…。 (採点=★★★★☆)
(お楽しみはココからだ―喧嘩映画の系譜)
喧嘩映画の原典が、前述の「けんかえれじい」であるのは異論のない所。映画ファンなら絶対観ておくべき青春映画の傑作である。
以後の作品も、多かれ少なかれ、「けんかえれじい」の影響を強く受けている。梶原一騎の原作を映画化した「愛と誠」(74)は、映像センスで清順監督の影響をモロに受けている山根成之監督だけあって、喧嘩シーンにも影響が感じられた。
これも漫画原作の「嗚呼、花の応援団」(76)は、やはり監督が、こちらは鈴木清順の助監督や脚本協力などで清順監督の直弟子とも言える曾根中生。曾根監督は78年にも、「博多っ子純情」の中で、原作とはかけ離れた派手な喧嘩シーンを登場させている。
81年には、井筒和幸監督が「ガキ帝国」を発表。井筒監督はその後も、本物の喧嘩少年、中場利一原作の「岸和田少年愚連隊」(96)を発表し、「パッチギ!」(2005)で喧嘩青春映画の頂点を極めた。…ただ「パッチギ!」はどちらかと言うと人種、国籍が隔てる「ロミオとジュリエット」日本版的要素のウエイトが高いが。
(「岸和田少年愚連隊」は、むしろ原作の方が「けんかえれじい」の影響を受けているように思える)
そして、2007年、三池崇史監督の「クローズZERO」が登場。やや異端の「パッチギ!」に対して、これぞ喧嘩映画の正統後継者とも言える。なお三池監督は、「岸和田少年愚連隊」の続編、「岸和田少年愚連隊・血煙り純情編」、「岸和田少年愚連隊・望郷」を監督しているという点も興味深い。
そして品川ヒロシ監督の「ドロップ」に至るわけである。「ドロップ」には三池作品の常連、遠藤憲一や哀川翔が出演している事もあり、「クローズZERO」の影響も少し感じられる。
こうして見ると、一連の喧嘩映画に与えた、「けんかえれじい」の影響は計り知れないと言える。―ただ残念なのは、次第に殺伐とした暴力シーンが多くなり、「けんかえれじい」にあった大らかなバーバリズムや青春のリリシズムが影を潜めてしまっているのは、時代の流れとして仕方のない所なのだろうか。
ちなみに、「けんかえれじい」でも、「ドロップ」と同様、高橋英樹や野呂圭介などの、どう見ても中学生に見えない役者が中学生を演じていた(笑)。
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