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2009年5月21日 (木)

「60歳のラブレター」

Loveletterfrom60 (2009年・松竹/監督:深川 栄洋)

某銀行が毎年行っている、1枚のはがきに綴る応募企画「60歳のラブレター」に着想を得て、「ALWAYS 三丁目の夕日」「キサラギ」の古沢良太がオリジナル脚本を書き、「真木栗ノ穴」等の深川栄洋が監督した、3組の熟年男女が織り成すさまざまな人生模様を描くオムニバス風ドラマ。

60歳前後という人生の節目を迎えた人たちが、ふと立ち止まって、人生を見つめなおしたり、第2の人生を始めようとしたりする、言わば大人のラブストーリー。団塊の世代が次々と定年を迎えている今の時代に、タイムリーな企画と言えよう。

中心的に描かれているのが、大手建設会社の専務取締役を、60歳を期に退職し、離婚することになった橘孝平(中村正俊)とちひろ(原田美枝子)。これに、夫が糖尿を患い、口喧嘩しながら励ましあう魚屋夫婦(イッセー尾形と綾戸智恵)、愛妻に先立たれ娘と暮らす医師・静夫(井上順)と、翻訳家として活躍する麗子(戸田恵子)との遅咲きの恋…の3組のカップルのドラマが微妙にすれ違いながら進行する。

脚本が、「キサラギ」など、絶妙に交錯する人間ドラマを得意とする古沢良太だけあって、いろんな波風を立てながらも、紆余曲折を経た後、それぞれタイプの異なるラブレターを契機として、収まる所に収まるドラマ展開は手馴れたもの。深川栄洋の演出も丁寧で、ベタつかず、爽やかで後味のいい作品に仕上がっている。

一番ジンと来たのが、魚屋夫婦。ビートルズのコピー・バンドとその追っかけ…という馴れ初めがいかにも団塊世代らしくて面白いし、喧嘩しながら、文句を言いながらも実は仲がいい夫婦というのが、3組の中で一番リアリティがあって観客目線に近く親近感を感じさせる。夫がジョギングの帰り、いつもウインドーで指をくわえて眺めていた、27万円もするマーチンD28のアコースティック・ギター(ビートルズのポールが愛用していた)が絶妙の小道具として使われ、“やはり夫婦は以心伝心だな”と改めてしみじみと思わせる。一番庶民的だけど、実は一番理想としたい夫婦像であるのかも知れない。私もビートルズ世代であるだけに、“ミッシェル”には泣かされてしまった。映画初出演のジャズシンガー・綾戸智恵が意外にも魚屋のカミさんがよく似合っていたのには新鮮な驚き。

 
これに比べると、他の2組は少々ドラマが作り過ぎの感無きにしもあらずで、特に中村扮する
橘孝平に関するエピソードの、リアリティのなさは問題。大手ゼネコンの専務が、あと数年はガッポリ役員報酬をもらえるはずなのに、あえて退職して不倫相手と、不安定なベンチャーを起業したりするだろうか(下記、付記参照)。おまけに、退職してもまだ自分の力が通用すると過信している辺り、かなり甘チャンである。さらに、離婚してるのに、未練たらしくノコノコ元妻の家の前をうろついたりするなんて不自然すぎる。

こういう、身勝手で自信過剰の甘ったれは、とことんドン底に叩き落してやるべきである。堕ちる所まで落として、そこでやっと目が覚めて、本当に必要としていたのは元の妻だった…と気付いてこそ感動のドラマになっただろう。

さらに、後半で発生するベンチャー会社の危機も、リスク管理が出来てなさ過ぎだし、それを回避するために孝平が取った奥の手も、あまりにリアリティに欠ける(あんな事したらもっときついしっぺ返しを食らうだろう。ゼネコンを舐めてはいかんぜよ)。

そんなわけだから、本来「幸福の黄色いハンカチ」並みの感動を呼ぶはずだったラストの孝平の行動が、ドラマの中で浮いてしまっていて、感動にほど遠い事となる。これは計算違いであろう。30年かかって手元に届いたラブレターのエピソードが感動的なだけに、この誤算は惜しい。

それにしても、「地下鉄に乗って」(浅田次郎原作)、「象の背中」、それに本作と、涙と感動のドラマになるべき作品に、なんでいつも“主人公の不倫”を持ち込むのだろう。結局どれも主人公の人物像を薄っぺらにし、ドラマをぶち壊す結果にしかなっていないのに…。

脚本も、監督も共に30歳代。この題材なら、主人公たちと同世代の(いわゆるアラ還の)脚本家、監督にまかせた作品を観たかった気がする。

…とまあ不満はあるが、綾戸智恵と井上順が予想外の好演だったし、アラに目をつぶれば、ジンワリ感動できる大人のドラマになっていた事は評価したい。団塊の世代以上の方にはお奨めの佳作…という事にしておこう。    (採点=★★★☆

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(付記)
少し気になったのが、作品紹介記事でも公式HPでも、専務取締役である孝平の退職を、“定年退職”としている点。

普通、役員には定年はない。最近ボチボチ導入する所が出て来ているが、それでも最短で65歳である。私のいた会社は専務が70歳くらいまで就任していた。そこまで行かなくても、大抵は一般社員より長く在籍する。専務取締役が60歳で退任するケースは稀である。60歳なら、早期退職の部類である。

ここでは、重役にしたりせず、ヒラ部長で十分だったのではないか。それだと60歳での定年退職でスジが通るのだが。…うーむ、性格だろうか、こんな事が気になって仕方がない(苦笑)。

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