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2009年5月17日 (日)

「THE CODE/暗号」

Thecode (2008年・日活/監督:林 海象)

2005年に公開された映画、「探偵事務所5~5ナンバーで呼ばれる探偵達の物語」の続編。

なおこの「探偵事務所5」シリーズは、05年からインターネットシネマとしても配信されており、現在までに50話ほどが作られ、100万人を超える視聴者数を記録しているという。

残念ながら前作は観ていないが、林海象監督と言えば、永瀬正敏主演による、「我が人生最悪の時」に始まる映画版3作が作られた「私立探偵 濱マイク」シリーズ(後にテレビでも放映)など、私立探偵ものを多く手掛けており、そもそも自分のプロダクション名を“映像探偵社”とする等、探偵にこだわり続ける作家なのである(濱マイクという名前も、ミッキー・スピレイン原作による、探偵マイク・ハマーのもじりである)。

「濱マイク」シリーズもわりと楽しんだ方なので、本作もちょっと期待したのだが…。

 
冒頭いきなり、川崎市内で時限爆弾を使った同時多発爆破テロが起こり、装置の解除キーが暗号となっていて、それを探偵事務所5に所属する天才的暗号解読のプロ、コードナンバー507号(尾上菊之助)が次々と解読し、爆破を未然に防いで事件を解決に導く…というアヴァンタイトル部分のツカミはスピーディでまずまず。シリーズのレギュラー陣もほんの数カットながら大勢登場するので、シリーズ・ファンには楽しいだろう(なお、映画館で上映していたのが、林監督の長編デビュー作「夢みるように眠りたい」(探偵事務所の501役・佐野史郎が主演)というお楽しみもある)。

だが、本編に入り、507が上海に飛んで、複雑な暗号に秘められた、旧日本軍が隠した財宝の争奪戦に巻き込まれる…という展開になると、俄然テンポがゆるくなる。

敵の上海地下マフィアの連中が、揃ってマヌケだし、銃は近距離でもまったく命中しないし、背中に暗号の刺青を持った謎の美女・美蘭(メイラン・稲森いずみ)の中国語はタドタドしいし、財宝に近づく人間を、ゴルゴ13も真っ青の命中率で次々射殺する謎の男(松方弘樹)の年齢がどう考えても辻褄が合わないし(終戦時30歳前とすると、現在は90歳手前だろう。あんなに機敏に動けるわけない(笑))…といったツッ込みどころは、まあB級アクションと割り切れば見過ごしてもいい。

だが、肝心の暗号が、何やら数字をやたら羅列してるだけでどんな暗号なのかがさっぱり判らないし、それを507が解読するプロセスも観客にはまったく示されず、何か分からないうちに解読が済んでる…というのでは欲求不満になる。「とにかく507は天才だから」というだけでは説得力がない。

暗号もの、と言えば、古くはエドガー・アラン・ポオの「黄金虫」があり、我が国では伊沢元彦の「猿丸幻視行」が有名。最近ではダン・ブラウンの「ダ・ヴィンチ・コード」がある。
いずれも、暗号がどうやって解読されたか、そのプロセスがちゃんと読者にも示され、読者も参加してパズルを解いて行くかのような快感があった(「映画の方の「ダ・ヴィンチ・コード」は、長い原作を端折り過ぎて、原作未読の人にはちょっと辛かったが)。

わざわざ、タイトルが「THE CODE/暗号」と大きく出たのだから、ここは有名な暗号小説を真似てでも、観客参加型の暗号解読ミステリーにして欲しかった。

で、結局は暗号解読はざっと流して、宍戸錠対松方弘樹の、老人同士のガンアクション、に落ち着くという展開は、オールド・ファンには懐かしいが、そういう昔の俳優を知らない観客や、「探偵事務所5」シリーズのファンには物足りない、アクションもユルユル、謎解きも中途半端、というしまらない出来になっていたのは残念である。

そういう意味では、これは昔の、宍戸錠が活躍していた頃の、日活や大映や東映のB級活劇を楽しんだ世代には、それらへのオマージュや細かい裏ネタを探して懐かしみ、楽しむ作品と言えるだろう(それらについては後述の恒例お楽しみコーナーを参照)。

林海象監督も、おそらくそれらや、内外の探偵活劇に思い入れがあるのだろう。それはいいのだが、映画としては、昔を知らない人でもそれなりに楽しめ知ってる人は余計楽しい…という作品に仕上げるのが、プロの仕事ではないだろうか。採点は、作品そのものは★★程度だが、個人的にはいろいろ楽しめた分をおマケして…   (採点=★★★

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(では、お楽しみはココからである)
コードナンバー・500の、会長役を演じているのが、宍戸錠(役名も宍戸会長)であるのは、ちゃんと意味がある。

Tantei_23 宍戸錠の日活時代の代表作で、私立探偵役を演じたのが、大藪春彦原作「探偵事務所23」シリーズ。鈴木清順監督の「くたばれ悪党ども」(63)をはじめ2作が作られた。

で、2+3=5である。…つまり本作の主人公が属する“探偵事務所”とはすなわち、宍戸錠主演“探偵事務所23”(にじゅうさんではなく、ツースリーと読む)へのオマージュなのである(これも暗号か?(笑))。事務所名が、単に“5”であり、宍戸錠が事務所の最高幹部であるのは、そういうわけなのである。

細かい所では、宍戸会長が上海警察の幹部に会いに行った時、名刺代りに渡すのが、スペードのエースの中央に“JOE”と印刷したトランプだったりするし(宍戸錠の日活時代のニックネームは“エースのジョー”)、錠さんが西部のガンマンもどきに、ガンベルトを腰に巻き、拳銃をクルクルと回してストンと収める仕草は昔と変わらず、錠さん主演の和製西部劇(早撃ちは「シェーン」のアラン・ラッド並みだと宣伝された)を楽しんだ私などはウルウルしてしまった。

本作を配給したのが、“日活”であるのも嬉しい。

 
で、彼の恩師であり、陸軍中野学校の元スパイ、椎名次郎役を松方弘樹が演じているのも、同様に意味がある。

Nakanogakkou 中野学校の元スパイ、椎名次郎とは、'60年代、大映で作られたスパイ活劇「陸軍中野学校」シリーズの主人公である。演じたのは故・市川雷蔵。66年の「陸軍中野学校」(増村保造監督)を第1作として、5本が作られた人気シリーズである(1作目のみ主人公の役名は三好次郎。椎名次郎は2作目から定着する)。

で、何故松方なのかと言うと、ちょっと込み入った事情がある(笑)。

実は、雷蔵は大映のドル箱スターでありながら、病魔に冒され、'69年に37歳の若さで急逝してしまう。

慌てたのは大映である。稼ぎ頭のスターを失い、おまけにその前年には、ポスター序列で揉めた事が原因で、やはりドル箱の田宮二郎を当時のワンマン社長・永田雅一がクビにしてしまい、稼げるスターは勝新太郎しかいなくなっていたのである。

困った大映は、スターを多く抱える東映に頼み、当時やや精彩を欠いていた松方弘樹を借りて来て、市川雷蔵の後釜に据えようとしたのである。

なにせ、移籍第1作が、雷蔵の代表作「薄桜記」(59)のリメイク「秘剣破り」である。

そして以後は、雷蔵のヒット・シリーズを片っ端から松方主演で量産する。ざっと挙げると…
“眠狂四郎”シリーズ 「眠狂四郎円月殺法」「眠狂四郎卍斬り」(いずれも69年)
“若親分”シリーズ  「二代目若親分」(69)…そのまんまだ(笑)
“忍びの者”シリーズ 「忍びの衆」(70)

しかしそれでも大映の凋落を食い止める事は叶わず、松方の助っ人も焼け石に水で、大映は'71年に倒産してしまい、松方はたった2年足らずで東映に戻る事となる。

で、雷蔵2世(を会社がもくろんだ)松方弘樹が、雷蔵のヒット・シリーズ(2作止まりは除く)中、唯一主演映画化出来なかったのが、くだんの椎名次郎が活躍する「陸軍中野学校」シリーズなのである。

本作の松方が演じた椎名次郎役は、つまりは40年ごしにようやく実現した、幻の雷蔵の当たり役の再演だったのである。本人は感慨深いものがあるのではないだろうか。

 
最後にトリビアなネタを一つ。日活時代に宍戸錠が主演した冒険活劇に、「三つの竜の刺青」(61・野口博志監督)というのがあり、3人の男女の肌に彫られた刺青を寄せると、莫大な金塊の在り処が分かるというストーリーで、宍戸錠+莫大な金の財宝+在り処を示した刺青…と、本作との共通項がいくつかあり、最後も金塊が眠る洞窟での銃撃戦…という所まで似ている。本作のヒントになった可能性は大いにあり…と思う。残念ながらビデオもDVDも出ていないようだ。興味ある方は、CSかなんかで放映された時はお見逃しなきよう。

 

DVD 劇場版第1作 「5ナンバーで呼ばれる探偵達の物語」

DVD 宍戸錠主演 「探偵事務所23・くたばれ悪党ども」

DVD 市川雷蔵主演「陸軍中野学校」シリーズ(1、2作目)
  

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