追悼その1 マイケル・ジャクソン
彼の全盛期だった'80年代には、私も彼の音楽を聴き、ビデオ・クリップをビデオに収録したり、結構ハマッていたのは事実。
だが、訃報を聞いて、びっくりはしたが、特にショックというほどのものはなかった。
と言うのは、'87年の「バッド」以降は、発表する曲にさほど魅力も感じず、そのうち次第に興味を失い、最近ではCDを聴く事もなく、私にとってはもう過去の人…になっていたからである。
しかし、間違いなく一時代を築いた、プレスリー、ビートルズと並ぶ20世紀最大のスーパースターであった事は疑いがない。
彼の素晴らしかった事は、曲の良さもさることながら、歌いながら踊る、華麗なダンス・パフォーマンスのスタイルを確立し、多くの歌手に影響を与えた事だろう。ムーンウォークはマイケルの独壇場だった。
そしてやはり、ビデオ・クリップのレベルを飛躍的に高めた事でもその功績は大である。
単に、歌手が歌ってる所をベタに撮る程度だったそれまでのビデオ・クリップに、ストーリー性を導入し、斬新なモンタージュ、特殊効果(SFX)の採用…など、その革新性はプロモーション・ビデオの歴史を変えたと言っていいかも知れない。
特筆すべきは、ハリウッドの映画監督を大胆に起用した点で、「スリラー」では、ジョン・ランディス、「バッド」ではなんとマーティン・スコセッシという大御所を監督として招いた。どちらも15分にも及ぶ長時間バージョンで、PVと言うよりは、どちらかと言えば短編映画に近い。「バッド」は冒頭からずっとモノクロ映像で、ハーレムの青年(マイケル)が都会に旅立つが、否応なく社会の悪意に晒される…という展開で、スコセッシらしい秀作に仕上がっていた。無論ダンス・シーンも見応えあり。
「スリラー」には、特殊メイクアップに、これまた大御所リック・ベイカーを起用し、本編映画並みの予算とクオリティを保った(ちなみに、ランディス+リック・ベイカーはホラー映画「狼男アメリカン」でもコンビを組んでおり、その線での起用だろう)。
これが大成功し、アルバム「スリラー」は全世界で1億枚を売り上げる大ヒット、ビデオ・クリップとメイキングをセットしたビデオも売れに売れた。
ついでだが、やはりジョン・ランディスと組んだクリップ「ブラック・オア・ホワイト」では、当時実用化されたばかりのCG技術・モーフィングを大胆に採用。エンディングで、歌っている男女の顔が次々変化して驚かせてくれた。SFX技術の積極的採用という面でも、彼はPV界のパイオニアであったと言えるだろう。
それから、忘れてならないのは、ディズニー・ランドでの3Dアトラクション、「キャプテンEO」である。製作総指揮がジョージ・ルーカス、監督がフランシス・コッポラという超豪華版で、私も東京ディズニー・ランドで見せてもらった。
こうして見ると、結構、ハリウッド第9世代の連中とのコラボレーションも多い。もっと映画にも出て欲しかったが、本格的出演作はミュージカル「ウィズ」(78)と「ムーン・ウォーカー」(88)程度で、後者はとりとめのない駄作だった。
さて、その死去のニュースを聞いて、私が興味を引いたのが、長いブランクを経て、ようやく十数年ぶりにロンドンでコンサートを再開する、その矢先の急逝で、死因はどうやら強度の鎮痛剤「デメロール」の注射の打ち過ぎらしいという点である。
聞く所によると、マイケルは腰痛に悩まされていたらしく、その痛みを抑える為にデメロールを多量に摂取していた可能性があるという事だ。
確かに、あの激しいダンスは腰を痛めるだろう。彼ももう50歳。決して若くはない。
だが、ファンはマイケルが何歳になろうと、コンサートではあのムーンウォークを始め、華麗なダンスを期待するだろう。
そのファンの期待に応えようとして、激しいダンスのリハーサルを重ね、腰には激痛が走り、やむなく鎮痛剤を濫用したのだろう。…その結果が、早すぎる死であるとしたら、何とも痛ましい。
この話で連想するのは、先頃公開された、ミッキー・ローク主演の「レスラー」である。
主人公の男は、若い頃は人気絶頂であったが、次第に人気が凋落し、50歳を超えた今は顔も崩れ、薬物を濫用し、それが元で心臓発作で倒れ、もう観衆の前に立つ事も出来なくなっていた。
それでも、自分の生きる場所はリングの上しかないと決心し、心臓の痛みに耐えながら練習を重ね、そして無理がたたって、遂に命を縮めた事が暗示されて物語りは終わる。
…マイケルの人生と、なんと似ていることか。
ひょっとしたら、50歳という年齢でステージに立とうとしたマイケルは、ステージの上で死んでもいいと思っていたのかも知れない。
伝説のスーパースターに祭り上げられ、常に最高のパフォーマンスを自らに課し、スーパーヒーローで居続ける事の孤独とプレッシャーに、終生悩み続けていたのかも知れない。
マイケルの死に、「レスラー」の主人公、ランディの孤独な戦いぶりを重ね合わせて見ると、思わず涙が出て来てしまう。
その死は残念だが、もう腰痛にも、プレッシャーにも悩まされる事はないだろう。安らかに眠らん事を…。 ―合掌―
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