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2009年11月 4日 (水)

「さまよう刃」

Samayouyaiba (2009年・東映/監督:益子 昌一)

人気作家、東野圭吾のベストセラー小説の映画化。

最愛の一人娘を無残に殺された父親が、少年法によって現在の日本の法律では犯人を極刑に出来ない故に、復讐を誓い、自ら犯人たちを追詰めて行く。

題材としては面白い。現実に少年法の壁で、犯人を死刑に出来ないばかりか、数年経てばまた社会に舞い戻ってくる(未成年者には更正の機会を与えるという大義名分も理解出来ないではないが)現行の司法制度の問題点に怒りを覚える被害者家族は少なくないだろう。そういう点では、こうした社会派テーマに切り込もうとする意欲は買える。

だが、映画として観てみると、せっかくの題材を生かし切れていない。一番の問題は、私が常々指摘している、脚本の弱さである。

(以下、ネタバレになります。未見の方は注意ください)
まず、主人公・長峰(寺尾聰)のキャラクターが全然描けていない。彼はどんな職業に就いて、どのような役職で、どんな性格なのか、娘に対してどのくらい愛情を注いでいるのか…まずは冒頭で、最低このくらいの事は短いエピソードを繋いで描いておくべきである。そうでないと、観客はこの主人公に感情移入出来ない。

そもそもこの主人公は、ほとんど喋らない。人との付き合いもない。感情を露わにする事もない。普通の人間だったら(家族が他にいなかったとしても)友人とか親類とか、誰かとのコミュニケーションがあるだろうに。まるで引き篭もりみたいで、不気味ですらある。
それでいて、最初の、犯人の少年を刺すシーンでは、全然物怖じせずに、まるでスパイ映画の主人公並みの俊敏さである。いったいどんな仕事をやってるのだろう(まさか「96時間」の主人公のような仕事??)。

密告する少年は、どうやって長峰の自宅の電話番号を知ったのだろうか。なんで警察でなく、都合よく復讐を心に秘めている長峰に電話したのか、その辺のプロセスが描かれていないので疑問符だらけとなる(原作ではちゃんと描いているのだが)。

警察の対応も間が抜けている。長峰が信州方面に向かった事が分かっているのなら、ホテル、ペンションに手配写真を配布するなり、検問を強化するなりの事は当然しなければいけないだろうに。
長峰がほとんど素顔でペンションに泊まるのも疑問。通報してくれと言わんばかりである。最低、あの目立つヒゲはきれいに剃り落すべきでは(しかし寺尾聰、どの映画に出ても、いつも同じ不精ヒゲなのはいかがなものか…)。

ペンションの管理人である山谷初男が、いつ長峰の正体を知ったのか、なんで彼に、人を殺す道具である猟銃を渡して手助けするのか、その心理の変化のプロセスも全く描かれていないから、すべてが唐突で、ご都合主義に見えてしまう。

密告少年も、この管理人も、犯人が川崎駅に現れる事を教える刑事の織部(竹野内豊)にしても、こうした協力者が1人でもいなかったら長峰の復讐も成立しなかったはず…というのがいかにも弱い。
―て言うより、この人たち、無理矢理長峰に人殺しをさせる方向に持って行く為だけに登場したような気が…。

 
小説は、登場人物のキャラクターや、その内面や、心の声や、置かれている状況もすべて文章で説明出来る。だから主人公の行動にも読んでいて説得力が生まれる。

だが、映画となると、すべてを映像で説明しなければならない。それに加え、時間も足りないから、原作を端折る事にもなる。
そこを工夫して、物語に説得力を持たせるのが脚本の腕の見せどころとなるのだが、最近のダメな日本映画の脚本は、そこの所がほとんど手抜きである。

冒頭にも書いたが、何気ない日常描写を積み重ねながら、登場人物のキャラクターを丁寧に描写し、細かい伏線を網羅し、それらがラストに向かって一つ一つ、解きほぐすように全貌を現して行く、丁寧な脚本作りが望まれる(その点、韓国映画「母なる証明」は、そうした要素が網羅された、脚本作りのお手本のような、寸分の隙もない見事な出来である)。

ビデオに映る娘の姿を見た時の、寺尾聰の迫真の演技はなかなかのもので、一番の見せ場ではあるが、そこだけしか見どころがないというのも困ったものである。

脚本・監督は新人の益子昌一。まだほとんど実績のないこの人に脚本までまかせたプロデューサーの見識を疑う。監督が新人なら、脚本は錬達のベテランに書かせる等のバランスをとるべきであった。益子監督が悪い訳ではない。適正な人材配置をコントロール出来ない、プロデューサー不在の現行システムに、一番の問題があると私は思う。

…と思ってスタッフを調べてみたら、なんとまあ、「製作」が14人!、「企画」3人、「プロデューサー」3人、「プロデュース」1人…プロデューサーらしき人間が21人!もいる。製作委員会が出来る前の昔は、社長が名前を出してるケースでも、製作・企画としてクレジットされてる人は多くても3人どまりだったし、筆頭プロデューサーは、脚本から現場まで、隅々まで目を光らせていた。人数が増えた分だけ、プロデューサーたる責任の所在がボヤけてしまってるのではないか。

そこそこ観客が集まるからといって、こんな事をしていては、作品の質は低下する一方となるだろう。猛反省を促したい。    (採点=★★

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