「アバター」
(2009年・20世紀FOX/監督:ジェームズ・キャメロン)
「タイタニック」以来、12年ぶりのジェームズ・キャメロン監督によるSF超大作。
いやー、待たせてくれましたね。キャメロン監督。しかし待っただけの甲斐はある。
時は22世紀。舞台は地球から5光年の彼方にある緑の衛星パンドラ。この星の地下に眠る、莫大な価値のある鉱石“アンオブタニウム”を手に入れるため、地球人たちは鉱山の上に集落を作っている青い肌をした原住民“ナヴィ”の一族を立ち退かせようしていた。
そんな時、戦闘で下半身不随となった元海兵隊員ジェイク(サム・ワーシントン)は、死んだ双子の兄に代わり、人間とナヴィのDNAを掛け合わせて作られた“アバター”の体を遠隔操作し、ナヴィの部族に溶け込み、アンオブタニウムに関する情報を入手する使命を与えられる…
(以下ややネタバレあり)
お話の概略は、「ダンス・ウイズ・ウルブス」とよく似ている。ナヴィ一族は外見も部族習慣もネイティブ・アメリカン(インディアン)を思わせるし、白人のジェイクが、最初は地球人の使命を帯びて部族に潜入するが、次第にナヴィの暮らしに溶け込んで行き、族長の娘ネイティリ(ゾーイ・サルダナ)とも親しくなって行くプロセスは型通りであって特に新味はない。
やがて地球人部隊の侵攻、圧倒的な武力に敗退、そしてジェイクの協力と援軍を得て反撃に転じ、最後は大逆転勝利…と、ストーリーはこの手の娯楽アクションの王道であり、ハラハラしながらも安心して観ていられる。
ただ、アバターが、ジェイクも、以前からすんなり溶け込んでいるような科学者のグレース・オーガスティン博士(シガニー・ウィーバー)も、それぞれナヴィの半裸に近い外装と違って、ジャケットを着ているのがやや不自然。アバターのグレースは地球人と知られてて同化してるのだろうか。その辺がちょっと曖昧。
まあ、難点はそれくらい。それよりもこの映画の見どころは、何と言っても膨大な製作費をかけたビジュアルの素晴らしさである。
パンドラの地上に群生する植物、サイや始祖鳥のような不思議な生き物、それぞれがどれも地球上に存在しない独自の造形で、しかもちゃんとクライマックスで大活躍するよう、周到な布石が打たれている。
クラゲのような生き物が空中に浮遊している幻想的なシーンは特に美しい。それらがジェイクの体にまとわりつき、交信する様子は宗教的な神々しさに満ちていて感動的である。
そして圧倒的なのが、アンオブタニウムの力であろうか、巨大な岩の塊が空中に浮かんでいる、ルネ・マルグリッドの絵を思わせる、シュールで幻想的なビジュアルである。DVDを入手したら、ここの画は静止画像でじっくり眺めていたいほどである。
私は3Dで観賞したが、これらが奥行きのある立体映像で遠近感豊かに目前に展開するのだからもう興奮。この圧倒的な映像が観られるだけでも料金以上の価値はある。
「アビス」以来、「ターミネーター2」、「タイタニック」と、ジェームズ・キャメロン作品は常にCG映像テクニックの先端を走っている感があるが、本作もまた時代の先端を行く見事なCG効果を発揮している。構想に14年もかけただけの成果は十二分に出ている。
(ちなみに、VFXはいつものILM、デジタル・ドメインに、さらに「ロード・オブ・ザ・リング」、「キング・コング」のニュージーランドのWETAワークショップが参加している)
お話はパターン通りだと先述したが、その中にも、巧みにアメリカ式大国主義への痛烈な批判が組み込まれている点も見逃せない。
圧倒的な軍事力で、パンドラの地表を焼き払い、先住民族を蹴散らすシークェンスは、明らかにベトナム戦争のメタファーだろう。
あまりに酷い破壊ぶりに、部隊の中の何人かが反旗を翻す辺りも、ベトナム戦線での離脱兵の発生を思い起こさせる。
資源争奪の為の侵攻は、イラク戦争への批判も込められていると思われる。
また、開発という名の自然破壊に対する痛烈な風刺も垣間見えるし、自然と共生し、太古の楠のような巨木を崇拝するナヴィの思想には、宮崎駿作品によく見られるアニミズムからの影響も感じられる(宮崎作品の影響については後述)。
とにかく本作は、その圧倒的なCGビジュアルの美しさを何より堪能すべきである。出来れば、3D立体映像で、さらに可能ならIMAXの巨大映像で観賞するのが望ましい。立体効果により、まるでその場に居合わせているかのような錯覚さえ感じられる。まさに、観るより、体感する映画である。
本作は3D上映でも、吹替版と字幕版の2通りがあるが、私の体験からは吹替版を推奨したい。字幕は見易い事は見易いが、文字を追う為、映像を隅々まで観切れないのが困るし、また字幕の位置よりも手前に立体像が来る場合、字幕がその中にめり込んでいるように見えて違和感ありまくりである。素晴らしいビジュアルを目に焼き付ける為にも、字幕のない映像を観賞する事をお奨めする。
映像技術の発展は、例えば70mm大画面は「アラビアのロレンス」(デヴィッド・リーン監督)が、シネラマは「2001年宇宙の旅」(スタンリー・キューブリック監督)が、それぞれ、見世物から真の映画芸術への発展への第1歩となったとされているが、本作はその意味でも、3D映画における真の映画の第1歩と言えるのではないか。映画ファンなら、何を置いても体感せよ。 (採点=★★★★★)
(で、お楽しみはココからだ)
キャメロン監督は自ら、宮崎駿の信奉者と公言しているようだが、なるほど、本作にも宮崎アニメからの影響がいくつか見受けられる。
空中に浮かぶ巨大岩石の映像は「天空の城ラピュタ」を思わせるし、宙空に浮かぶ動力となるアンオブタニウムは、「ラピュタ」の飛行石だろう。
原住民ナヴィが太古の森の中の植物と交流し、崇拝する辺りは「風の谷のナウシカ」または「もののけ姫」だろう。巨大なホームツリーは、「となりのトトロ」に登場するトトロの住み家、楠の巨木を思わせる。浮遊する白い胞子のような生き物は、「もののけ姫」のコダマとススワタリの合体のようである。
大きな、バンシーと呼ばれる鳥にまたがり、空中を飛翔するシーンは、メーヴェを操り空中を飛ぶナウシカを思わせる。異形の生き物と心を通わせる展開も「ナウシカ」である。
実はキャメロン監督作品には、これ以前の作品にも、宮崎アニメを参考にしたシーンがいくつか見られる。どうやらかなり昔からの宮崎ファンであると思しい。
例えば、「トゥルー・ライズ」における、シュワルツェネッガーがヘリコプターからぶら下がり、暴走する車から間一髪愛妻をキャッチして助けるというくだりが、「天空の城ラピュタ」の、パズーがフラップターにぶら下がり、シータをキャッチして助けるシーンによく似ている。
「タイタニック」では、手錠につながれてあわやおぼれそうになるジャックを、ローズが斧を振るって救出するシーンが、「未来少年コナン」における、手錠が引っかかっておぼれそうになったコナンをラナが必死で救出しようとするシーンをいやでも思い起こさせる。
その他、「アビス」に登場するラスト間際の大津波(当初劇場版にはないが、後の完全版に登場)は、「未来少年コナン」の大津波を思わせる。
「ターミネーター」の、“核戦争で荒廃した地球”という設定も、宮崎作品では「コナン」、「ナウシカ」とお馴染みのシチュエーションではなかったか。
…うーむ、ほとんどのキャメロン作品に、何がしかの影響は与えているのかも知れない。
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コメント
映画内容と関係ないんですが、僕は3Dメガネが顔に合わなくて集中して観れませんでした(苦笑)。ちょっと損した気分です。
2009年も終わりですね。管理人さんのベスト発表を楽しみにしてます。また僕のブログで紹介させてください。
投稿: タニプロ | 2009年12月31日 (木) 18:03
いやあー、これはすごい!と素直に思います。自然の万物がネットワークでつながっているという発想は、自然が共生しているという、知っているのにまるでわかっていなかった事を、見事にわかりやすく映像化してくれました。根っこで(髪の毛で)つながっているなんて・・・。もうキャメロンのこの映画に込めたこの気持ちだけで充分です。確かに映像も素晴らしければ3Dの効果もびっくり(クリスマスキャロルもカールじいさんも見たけれど、はるか先を行っている感じです。おまけにILMとWETAの両方参加しているなんて、ロードオブザリング命の私としては奇跡のような作品になりました。)なのだけれど、正直途中から3Dであることなんてどうでもよくなってました。これだけ泣かせて、キャメロン節満載なんだから本当にたまらないです。
投稿: オサムシ | 2010年1月 4日 (月) 21:59
◆タニプロさん
>3Dメガネが顔に合わなくて集中して観れませんでした…
3D上映方式によっては、メガネが重いものと軽いものがあるようですね。
「まどぎわ通信」さんとこでその違いを詳しく書いてます。
正月に、近くのIMAX 3D劇場で「アバター」再見したのですが、ここのメガネは軽くて視野も広くて、かなりラクに観れました。スクリーンもでかいし、感動が倍化しましたね。
私以外にも、通常3D観た後、IMAX 3Dでリピートする人結構多いようです。それが世界的な高稼働につながってるのかも知れませんね。いずれにせよ、正月映画の本命ですね。
◆オサムシさん
書き込みありがとうございます。
>正直途中から3Dであることなんてどうでもよくなってました。
そうなんですよね。3Dでなくても充分素晴らしくて感動出来る物語が、ビジュアル豊かにきちんと描かれている点が素晴らしいんですね。
これはやはり、「ROTR」や「キング・コング」と、森や岩山等の自然の風景描写が得意な、WETAの参加が大きいのではないかと私は思ってます。これだけのVFXが成熟するまで、製作開始を粘り強く待ったキャメロンの忍耐力にも敬意を表したいですね。
投稿: Kei(管理人) | 2010年1月 9日 (土) 23:35
再び書込みさせていただきます。感動がいつまでも引かず、また通常3D版だけでは飽き足らず、先日川崎でIMAX3D版を観ました。画面への引き込まれ感(過去のイベント時のIMAX上映を想像すると意外に拍子抜けするスクリーンの規模ですが、昨年箕面で経験済みでしたので、それは承知の上で、やはりすごい。ただ川崎の方がスクリーンは断然大きい。)と音響の揺れるような迫力で、また涙してきました。本作の3Dについて感想が両極端のようなので、知識を持ち合わせないあくまでも個人的な見たままの感想ですが書込みます。通常3D版は2度それぞれ違う劇場で観たのですが(両方ともXpanD方式)、劇場により見え方に差があるような気がします。1度目は色合いとか気にならず没頭できたのですが、スクリーン規模が小さく、もう一度大きいスクリーンでと思い行った2度目は暗っぽく青みがかっている感じで若干違和感がありました。結果的にそれがさらにもう一度どうしてもIMAX版を観たいというきっかけになったのです。ただ3度見て確実に言える事は、スクリーンの規模にかかわらず出来るだけ前列で画面しか視界に入らないようにして観る事が大事なようです。それと3Dの字幕版について他の作品は知りませんが、本作については御指摘の通り見にくい部分があるのと、冒頭近くの管制室でゴルフの練習をしてるあたりのシーンで、いくら画面下方に飛び出す部分があるとはいえ、それを避けて画面のど真ん中、それも顔のアップの上に出たのには唖然としました。やはり吹替版がお勧めかと思います。・・・と長々と書いてしまいましたが、この作品はとにかく3Dとか2Dとか関係なく楽しめる、それでいて考えさせる(私はこの部分にとにかく感動しています。)素晴らしい映画だと思います。
投稿: オサムシ | 2010年1月14日 (木) 20:46