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2009年12月12日 (土)

「ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない」

Blackcompany (2009年:アスミック・エース/監督:佐藤 祐市)

インターネットの掲示板・2ちゃんねるの書き込みから生まれた、黒井勇人の実体験スレッド文学を基に映画化。

2ちゃんねる…と聞いて、ちょっと引いた。原作本も掲示板のスタイルそのままの横書きスレッドタイプ。小説を読み慣れた人にはちょっと読みにくい。

というわけで、あまり気乗りはしなかったのだが、
監督が、私のお気に入り「シムソンズ」、そして話題になった秀作「キサラギ」の監督、佐藤祐市だったので、この監督名につられて観る気になった。

で、結果、予想外に面白かった。傑作とまでは言えないが、気楽に楽しめる、良質のプログラム・ピクチャーといった所である。
ブラック会社、とまでは言わなくても、厳しい環境下で日夜仕事をされているサラリーマンの方には、疲れた時にご覧になる事をお奨めする。笑えて、少し元気になれる、爽やかなハートフル・コメディの佳作である。

 
学生時代に苛めに会った事が原因で高校を中退し、仕事もせずにニート生活を送ってきた26歳の真男(小池徹平)。が、母親を事故で亡くし、それを契機に一念発起してITエンジニアの資格を取得する。必死で就職活動をするものの、この歳で職歴なしの為、不採用の連続。やっと採用してくれたシステム開発会社は、実はとんでもないブラック会社だった…。

ブラック会社とは、サービス残業、徹夜は当たり前、経費は自腹、上司からはバカ呼ばわり…と、社員に劣悪な労働環境や条件を強いる、「ヤバい」会社のことだそうだ。

私もこの業界で働いていた経験があるので、こうした劣悪な労働環境が実在する事も知っている。映画では多少誇張されてはいるが、ある程度までは実態に近いと言えるかも知れない。まあ中小・零細企業というのは大なり小なりそういう要素は抱えているだろう。私などは身につまされ、ホロリとなってしまった(笑)。

お話の方は、真男(打ち込みミスがきっかけで、ずっとマ男と呼ばれる)が、最初は過酷な作業ノルマとリーダーの罵倒にくじけそうになりながらも、必死で頑張ってなんとか仕事をこなし、少しづつ成長して行く姿を描く。

会社の同僚たちのキャラクターがうまく配置されている。威張り、「バーカ」が口癖の嫌味なリーダー(品川祐)、仕事もせずにリーダーにゴマを擦る井出(池田鉄洋)、経費は一切払わないるお局様の経理係・瀬古(千葉雅子)、ノイローゼ気味の上原(中村靖日)、女性派遣社員の中西(マイコ)、そしてただ一人マトモで、真男を励ましてくれる藤田(田辺誠一)。

「キサラギ」でも、登場人物の個性を際立たせ、絶妙にストーリーを引っ張って行った佐藤監督、その手法が本作でも生きている。

 
(以下ネタバレあり。注意)

うまいのは、最初はトンデモない憎まれ役だと思っていたリーダーや井出が、ひたむきに頑張る真男の仕事ぶりに、少しづつ態度が変わって行く様子を、目立たない程度にさりげなく描いている点。
憎まれ口が、ひょっとしたら真男を鍛え、一人前に育てる為の愛の鞭ではないかと思えて来る。

それが本当かどうかは映画を観てのお楽しみだが、言える事は、“この程度のシゴキに耐えられないようなら、どこへ行っても一人前になれない”という事なのである。
特に、仕事が辛くて、辞めたい、とか思っている若い人は、この映画を観て、真男の頑張りを見習って欲しいと思う。厳しい環境は、自己を鍛える修練の場と考え、前向きの思考を持つ事である。

 
納期が迫るギリギリのスケジュールの中、さまざまなトラブルから、真男は遂に「こんな会社辞めてやる!」と会社を飛び出してしまう。

そこから以降は、明日朝までの納期に、果たして間に合うか、そして真男は会社を本当に辞めてしまうのか、それとも翻意するのか…というサスペンスを孕み、感動のフィナーレへとなだれ込む。

この終盤は、ややうまく行き過ぎ(と言うかリーダーの人格変わり過ぎ(笑))という気もするが、そこは娯楽映画と割り切るべきだろう。物語の展開としては、落ちこぼれ揃いでどうしようもなかったダメチームが、最初の頃は失敗を繰り返したり、さまざまなトラブルを重ねながらも、次第に結束を強め、やがて一つの目標に向かってチーム全員が一丸となって邁進し、最後に見事プロジェクトを成し遂げる…というエンタティンメントの王道をきっちり守っていて、感動的である。
例を挙げれば、アメリカ映画「メジャー・リーグ」とか、周防正行監督「シコふんじゃった。」などがそうしたパターンの作品である。…そう言えば、佐藤監督の出世作「シムソンズ」もまさにそのパターンを踏襲していた事を思い出す。

それはまた、仕事とは何か、チームとは何か、組織とはどうあるべきか、というテーマの追求にも他ならないのである。

映像的にも、CGを使った真男の脳内イメージが面白い。でかい文字がドドーンと飛び出して来たり、デスマと呼ばれる“死の行進”の表現として、戦場を行進する兵士が登場したり、「三国志」の名場面が登場したり等のお遊び映像も笑える。「キサラギ」でも卓抜なイメージ映像をモンタージュしていた佐藤監督らしいテクニックである。

 
やや残念なのは、入社したばかりで、まだ実戦経験皆無の真男が、あまり苦労もせずに2週間の納期内に受注システムを完成させてしまう点である。

現実はそんなに甘くない。ましてや仕様書も整備されておらず、先輩はロクに面倒見てくれないような状況ではまず無理。多分最後の3日間は完全徹夜、ヒゲはボウボウ、目は血走り、意識朦朧状態となる(私は実際に体験した(笑))。

例え首尾良く完成させ、誉められたとしても、入社たった2週間でプロジェクト・リーダーに任命されるなんて事はありえない。いくらバリバリ仕事が出来ても、統率力、マネジメント能力が兼ね備わらないとリーダーにはなれない。まあ最低2年はかかる。

それと、途中入社の早大出身、出世欲満々の木村(田中圭)の役柄というか存在感がもう一つ希薄。野心家で乗っ取りを企んでるようなのだが、あんな態度ではその前にはじき出されてしまうよ(それにしても田中圭、「TAJOMARU」とほとんど同じキャラだ(笑))。

…といった難点はあるものの、派遣切り、解雇等の不安定雇用状況が続く今の時代の1断面を切り取りながらも、緩急自在のテンポでこれをウエルメイドで、かつハートフルな人情コメディに仕上げた佐藤監督の手腕は見事である。

ラストがいい。映画の長いタイトルが表示され、“俺はもう限界かもしれない”の文字が別の言葉に置き換わる。

同じように過酷な環境で働き、実際に限界を感じ、くじけそうになっている方がこのラストシーンを見て、“俺ももう少し頑張ってみよう”と、ちょっぴり元気を取り戻したなら、それは素敵な事である。

そんな事も、ふと感じさせてくれる、これは素敵な作品である。観る前は期待していなかった分だけ、採点は少々甘めに。     (採点=★★★★

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原作本
こちらはコミック版

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コメント

TB有難うございました。
デスマーチなんて分かる人は共感できます。
IT業界で毎日泣きながら働いていますが
こんなの常識です・・・痛いほど分かります。
藤田さんのような先輩がいると状況も
変わりますけどね

今度訪れた際には、ブログ記事の冒頭に、
【評価ポイント】☆をクリックしてこの
映画の評価をお願いします(5段階評価)とあって、
☆が5つ並んでいますが、その☆の1つ目~5つ目の
どこかをぽちっとお願いします!!

投稿: シムウナ | 2010年12月13日 (月) 21:08

◆シムウナさん
シムウナさんもIT業界で働いておられますか。私も数年経験がありますが、ホント、身につまされますね。身体を壊さないよう気をつけて、頑張ってください。

ポチッと行って来ましたよ。 (^_^)

投稿: Kei(管理人) | 2010年12月17日 (金) 01:08

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