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2009年12月19日 (土)

キネ旬発表「オールタイム・ベスト200」について思うこと

Best200_2  キネマ旬報が、創刊90周年を記念して、「日本映画・外国映画オールタイム・ベスト200」を発表しました。

 

 

 

ベストテンは以下の通り。

<日本映画>

(1)東京物語
(2)七人の侍
(3)浮雲
(4)幕末太陽傳
(5)仁義なき戦い
(6)二十四の瞳
(7)羅生門、丹下左膳餘話・百萬兩の壺、太陽を盗んだ男、家族ゲーム
(10)野良犬、台風クラブ
 
 
<外国映画>

(1)ゴッドファーザー
(2)タクシー・ドライバー、ウエスト・サイド物語
(4)第三の男
(5)勝手にしやがれ、ワイルドバンチ
(7)2001年宇宙の旅
(8)ローマの休日、ブレードランナー
(10)駅馬車、天井棧敷の人々、道、めまい、アラビアのロレンス、暗殺の森、地獄の黙示録、エル・スール、グラン・トリノ

 

まあ、日本映画はこんなものでしょう。「雨月物語」「人情紙風船」「生きる」がテンから洩れているのがやや残念ではありますが。

ちなみに「生きる」は13位、「雨月物語」、「人情紙風船」は23位となっております。

 
外国映画はというと、これがちょっと気に入らない。なんで「ゴッドファーザー」が1位、「タクシー・ドライバー」が2位なんでしょうか。

「市民ケーン」は?、「禁じられた遊び」は?、「風と共に去りぬ」は?、「カサブランカ」は? 「ブレード・ランナー」や「エル・スール」がテンに入って、これらが落選するなんて…納得が行きません。ちなみに「市民ケーン」は19位、「禁じられた遊び」「風と共に去りぬ」は59位、「カサブランカ」はなんと99位です。

日本映画は、過去の直近2回のオールタイム・ベストテン('95年、'99年)と今回も含めて、計3回のベスト3はいずれも「七人の侍」「東京物語」「浮雲」と固定されてますが、外国映画のベスト3は、'95年が「市民ケーン」「2001年宇宙の旅」「天井桟敷の人々」(この年は邦洋混成でしたので、邦画を除いて)、'99年は「第三の男」「2001年宇宙の旅」「ローマの休日」といった具合に、毎回大きく異なります。今回のベスト3はすべて、前2回のベスト3には全く入っていなかった作品ばかりです。違和感があるのも当然です。

選考委員は、映画評論家に、漫画家等の文化人、現役の映画監督、脚本家なども含めた、バラエティ豊かな方々で、これは問題ありませんが、選考方法が、各人が選んだ10本それぞれに、各1点を与えて集計している点が問題ありかと思います。

選考委員の数は114人で、それぞれが個人的に思い入れのある作品まで含めているものですから、広範囲に分散してしまっているのです。
例えば、200本の中には、日本映画では「ゆけゆけ二度目の処女」「現代性犯罪絶叫篇 理由なき暴行」「襲られた女」等のピンク映画とか、外国映画では「ゲアトルーズ」(64)、「そして光ありき」(89)、「血」(89)など、まったく聞いた事のない作品(いずれも日本未公開)があったりします。こういった、映画ファンですら知らないような作品群まで、「映画遺産200」などとして格付けするのはどうかと思いますね。

も一つ不満なのは、ベスト200の集計表が誌面のどこにも掲載されていない点です。いつもこうしたベストテン発表では、必ず集計結果一覧表が発表されていたはずなのに、何で掲載されていないのでしょうか(なお読者選出分はきちんと採点結果が掲載されております)。HPの方には、順位だけが掲載されていますが。

で、気になったので、実際に各委員のベストテンを集計してみました(日本映画のみ)。ちょっと時間がかかりましたが。

まずベスト3
(1)東京物語=28点 (2)七人の侍=25点 (3)浮雲=16点

意外と少ないですね。つまり、「東京物語」、「七人の侍」といったマスターピースですら、114人中、4分の1程度の人しかテンに入れていないのです。

7位以降は、7位で10点、10位で9点、…と、以下順位が下がる毎に1点づつ減って行き、108位(全部で90作品)はなんと2点

で、ベスト200と謳いながら、実際は日本映画は計197本。200本に満たないのです。198位以下はすべて1点ですから、入れようがないわけですね。…洋画は計算しておりませんが、99位の127本も多分獲得点数は2点どまりじゃないでしょうか。

つまりは、たった2人が選んだ作品でも、“映画遺産200”として記録に残ってしまうわけです。どうりで聞いた事のない作品や、ピンク映画までランクインしてしまったわけです。

以前は、1位10点、2位9点…とキネ旬年間ベストテンと同じ方式で採点していた時もありましたが、少なくともその方式なら、選者の思い入れの深い作品ほど上位になるので、幾分かは妥当な結果になったでしょう。
例えば選者によっては、1位の作品は、10位作品より何十倍も愛着があり、上位にしたい作品かも知れないのに、どの作品も一人1点ではその辺の思いがまったく考慮されないことになります。

まあ、どの方式も一長一短で、前記の方法がベストとも言い切れませんが、結果としてなんともしっくり来ないベスト200になった事は否定できないでしょう。

細かい事を言えば、神代辰巳監督作品では、「少女娼婦 けものみち」が入って、「一条さゆり/濡れた欲情」「四畳半襖の裏張り」がなんで入っていない?、とか、山田洋次作品では、「学校Ⅲ」が入ってる一方で、「家族」「幸福の黄色いハンカチ」が何故入っていない?(この人たちのベストと言えば、まずこれらが挙げられると思う)…と疑問が湧いて来てしまいます。

 
それともう一つ問題が。
実は、集計内容にかなりのミスがあるのです。

例えば、上記に紹介した、日本映画ベストテンは、刊行されたキネ旬ムック「映画遺産200・日本映画編」(以下ムック)に掲載されたものを転載したものですが、よく見ていただきたい。7位が4本。―だったらこれで10本のはずですが、10位としてさらに2本挙げてあります。この2本は、正確には11位のはずです。

そこで、上にリンクを貼った、キネ旬のHPを参照すると、7位が「羅生門」、「丹下左膳餘話・百萬兩の壺」、「太陽を盗んだ男」の3本、10位が「家族ゲーム」、「野良犬」、「台風クラブ」の3本となっており、上掲のムックに掲載したものと異なっております。

私の計算では、ムックに掲載の通り、7位は4本が正しい。これはおそらく、最初の集計で間違えて、「家族ゲーム」を10位にしてしまったのでしょう。これをHPに掲載した後でミスに気付いたので、HPはそのままにしたが、ムックを編集する段で「家族ゲーム」を7位に差し替えたものと思われます。よって、何ともヘンテコなベスト12が出来上がってしまったわけです。

これだけではありません。実は11位はもう1本「洲崎パラダイス 赤信号」があります。これも集計ミスで1点少なく集計してしまったのでしょう。

その他、私が集計した限りにおいて、以下の間違いがありました。

①「男はつらいよ」シリーズ 正:37位  誤:59位
②「姿三四郎」        正:60位  誤:106位
③「男はつらいよ・寅次郎忘れな草」  正:圏外(1点) 誤:106位

「男はつらいよ」の1作目を除く単独作品は、「純情編」、「寅次郎忘れな草」、「寅次郎紅の花」が各1点でした。③はどうやら「紅の花」を間違えて「忘れな草」と合算してしまったミスと思われます。

細かい事ですが、「男はつらいよ」1作目が単独で2点獲得し、106位に入っておりますが、「男はつらいよ」シリーズ、としても4点獲得し、37位に挙がっているのもヘンな感じです。こんな場合は合算しても良かったのでは(合算すれば23位)と個人的には思ってしまいます。

重箱の隅をつつくようで申し訳ないのですが、こうしたランキングが、何十年も後まで記録として残る以上は(実際、過去のオールタイム・ベストをHP上に掲載しているサイトがいくつか存在します)、慎重の上にも慎重を期していただきたいものです。

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コメント

突然で申しわけありません。
現在2009年の映画ベストテンを選ぶ企画「日本インターネット映画大賞」を開催中です。
投票は1/14(木)締切です。ふるってご参加いただくようよろしくお願いいたします。
日本インターネット映画大賞のURLはhttp://www.movieawards.jp/です。
なお、twitterも開設しましたので、フォローいただければ最新情報等配信する予定です(http://twitter.com/movieawards_jp)。

投稿: 日本インターネット映画大賞 | 2009年12月21日 (月) 09:56

こんにちは。

おつかれさまです。
ビックリしました。
これは「キネ旬」の編集部に、
ぜひ読んでいただきたい記事です。

投稿: えい | 2009年12月22日 (火) 09:22

外国映画のほうはまだ買ってないんですが、日本映画は買いました。読者の結果が読みたいですし買うんですが、外国映画はそういう結果なんですか。

本誌最新号の編集後記になんか書いてありましたね。

先日近くの映画館で、日本映画ベストの中にも選出されている「太陽を盗んだ男」及び「青春の殺人者」の上映があったんで行きました。監督もトークしにいらしたんですが、凄かったですよ!こんなに大盛況の混んでる映画館いつ以来だろう?と思うほどの大盛況でした。

投稿: タニプロ | 2009年12月22日 (火) 22:22

 こんにちは、僕もキネ旬オールタイムベスト買いました。今回のようなランキングも意外性があっていいかな、なんて思いました。ブレードランナーの高評価はDVDの再版が原因でしょうね。集計方法も意外性を出すためだったかもしれません。

 オールタイムベストを選ぶ正しい方法は約2名の評論家で話し合って作品を選出することだという話も聞いたことあります。いずれにせよこういうランキングをながめてあーだこーだいうのは楽しいですね^^

投稿: | 2009年12月23日 (水) 21:17

◆えいさん
>これは「キネ旬」の編集部に、ぜひ読んでいただきたい記事です。

ベストテンなんてお祭りみたいなものですから、あまり目くじら立てるのもどうかとは思いましたが、なにせ気になる事を見つけたら調べないと気が済まない、杉下右京みたいな困った性格でして(笑)。

それにしても、7位が4本で10位が2本だなんて、誰が見てもヘンなランキングが何故通ってしまったのか、理由を知りたいものです。

◆タニプロさん
>「太陽を盗んだ男」及び「青春の殺人者」の上映があったんで行きました。
>こんなに大盛況の混んでる映画館いつ以来だろう?と思うほどの大盛況でした。

長谷川和彦監督は、私らの世代では伝説的な存在ですからね。
こんな天才監督が、30年も映画を撮れないのが不思議です。…てか、この人が映画を撮らなくなってから日本映画はどん底の坂を転がり落ち出した、と言えるかも知れません。
私ゃ待ちくたびれましたよ。早く映画撮ってくださいよ。ゴジさん(監督のニックネームです)。

◆--さん(名前入れてくださいね)
先にも書きましたが、ベストテンなんてお祭りですからね。意外性があるのも構わないんですが、日本未公開作が入ったり、集計が間違うってのは困りますからね。

>オールタイムベストを選ぶ正しい方法は約2名の評論家で話し合って作品を選出することだという話も聞いたことあります。
まさしくそうだと思います。ある雑誌か本で、川本三郎さんと逢坂剛さんが西部劇のベストを選んでるのですが、実に納得のベストでした。選考プロセスも掲載されてるのですが、ああだこうだとのやりとりも楽しくてニンマリさせられました。
映画遺産200を選ぶのなら、私の希望では、小林信彦さんと双葉十三郎さん(それぞれ、オールタイムベスト100を雑誌に発表した実績あり)のお二人で話し合って選んでいただけたらと思います。絶対誰もが納得のベストランキングが出来上がると思いますよ。

投稿: Kei(管理人) | 2009年12月31日 (木) 22:44

この順位は正しいよ

投稿: 山下典明 | 2015年6月14日 (日) 21:21

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