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2010年1月15日 (金)

「誰がため」

Flammen_og_citronen (2008年:デンマーク=チェコ=ドイツ/監督:オーレ・クリスチャン・マセン)

正月第1弾観賞。東京では昨年の公開のようだが、大阪では1月9日封切。

第二次大戦中のデンマークにおける、対ナチス・レジスタンス活動を描いた実話の映画化。2008年度デンマーク・アカデミー賞で5部門を受賞し、デンマークにおいて国民の8分の1を動員する大ヒットなった。

1944年、打倒ナチスを掲げる地下抵抗組織“ホルガ・ダンスケ”の一員である、23歳のベント=暗号名フラメン(トゥーレ・リントハート)と、33歳のヨーン=暗号名シトロン(マッツ・ミケルセン)は、上司ヴィンター(ピーター・ミュウギン)の命令で、ゲシュタポとナチスに寝返った売国奴たちを暗殺する任務を遂行していた。しかし、あることをきっかけに任務への疑問を抱き始めた彼らの心の中に、組織に対する疑念が膨らんで行った…

連合国側の対ナチス・レジスタンスについては、これまでもフランスを中心にいくつか映画化されている。あの名作「カサブランカ」も、れっきとしたレジスタンスものである。

が、デンマークにおいても、そんなレジスタンスの歴史があったとは寡聞にして知らなかった。まあこれまで映画でもほとんど描かれて来なかったが、デンマーク本国内でも、この史実についてはつい最近までタブーとされていたらしい。何故タブーだったのかは、映画を観ればなんとなく分かる。

(以下、ややネタバレあり)
のっけから、フラメンたちはいきなり標的に近づき、問答無用で拳銃をぶっ放し、顔色も変えずに立ち去る。これまでのレジスタンスものとはかなり異なる。戦争物と言うよりは、まるでフランスのフィルム・ノワールか、イタリアのマフィア映画を観ているようである。

いくらレジスタンス活動とは言え、無抵抗で拳銃を構えてもいない人間を射殺するのは気持のいいものではない。そういうシーンが続くと、我々観客は、“このフラメンとシトロンというこの二人が行っているのは、本当に正義の為の戦いなのだろうか”という疑問をふと抱いてしまう。

実はそれが、この映画の狙いなのだろう。
現に途中でフラメンは、暗殺の対象となった人物と、禁止されている会話をしてしまい、相手がそれなりに見識を持った人間である事を知って暗殺を躊躇してしまう。

はたまた、フラメンがゲシュタポのホフマン大佐と対峙した時は、壁越しに二人は会話を交わし、ホフマンの理路整然、かつ毅然とした態度にフラメンは戦意を喪失してしまうのだ。

これまでの連合国側が作って来た対ドイツ戦争映画の多くが、ドイツ軍側を単純に、残虐で狡猾で、滅ぼされるべき悪玉として描いて来たのに対して、ここでは、ドイツ軍人も、レジスタンス側も、どちらも国家の為に戦っている人間として描いている。

むしろ組織のリーダーであるヴィンターが、裏では打算をはじき、狡猾に立ち回っている。組織も正義ではないのである。

そして、フラメンの前に現れる、裏で運び屋をやっていると称する女、ケティ(スティーネ・スティーンゲーゼ)とフラメンは恋に落ちるが、実は彼女は[二重スパイ]であり、その為にフラメンとシトロンは罠に陥ちて命を落とす結果となる。

純粋に国家を信じ、テロに命を賭けて戦って来た二人は、打算と裏切りの狭間で、無残に死んで行く。

「誰がため」という邦題を最初聞いた時は、も一つピンと来なかったが、観終わった後、実に的確な題名だと感心した。

まさしく、彼らは、何のために、誰のために戦ったのか、何が正義で、何が真実なのか、彼らは本当に英雄だったのか…その答は誰にも分からない。

 
振り返って、現代においても、イラク、アフガニスタンで内戦が続き、そしてテロが頻発しているが、テロを行う彼らも、国家の正義を信じ、侵略する敵を倒す為に戦っている点では、フラメンたちと、行動の原点は同じなのである。

この映画が、今の時代に作られた意義はそこにある。

チャップリンが監督・主演した「殺人狂時代」の中で、チャップリンは、「一人殺せば殺人者だが、百万人殺せば英雄だ」という名文句(アイデアはオーソン・ウェルズ)を吐くが、まさしく、一人一人を暗殺して行くフラメンたちは殺人者そのものだが、レジスタンスの美名の下に多数を殺したが故に、彼らは英雄となった。

人間とは、戦争とは、かくも愚かでアイロニーに満ちた存在なのである。

 
フラメンとシトロンの人物造形もうまい。フラメンは若く美男子で、自ら信じる正義の為に冷酷に殺人を実行する。10才年上のシトロンは、眼鏡をかけた風貌からして気が弱そうに見えるし、妻子を持っているせいもあってか、冷酷になり切れない。暗殺を命じられても、殺す事が出来ずにかすり傷を負わせるだけで戻って来てしまう。フラメンが暗殺の際にも、クールで汗一つかかないのに対し、シトロンは顔中脂汗でびっしょり、という対比も面白い。
そのシトロンが最後、ドイツ軍に包囲された時は、マシンガンと手榴弾を駆使して相手を殺しまくるのが、何とも皮肉である。

戦争とは何なのか、人は誰のために戦うのか、守るべき正義は存在するのか…さまざまな問題を現代に生きる我々に問いかける、重いテーマを持った秀作である。    (採点=★★★★☆

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(付記)
まるでフランス・フィルム・ノワールみたいだと先述したが、そのフィルム・ノワールの代表作、「ギャング」「サムライ」「仁義」等を撮ったのが、ジャン・ピエール・メルヴィル監督である。
フィルム・ノワールと聞けば、まずこの監督の名前が思い浮かぶのだが、実はメルヴィル監督は、「影の軍隊」(69)という対ナチ・レジスタンス映画も撮っている。出演者も「ギャング」に出ていたリノ・バンチュラとかポール・ムーリッスなどが参加しており、いかにもメルヴィル・タッチのレジスタンス映画の快作であった。
フィルム・ノワールとレジスタンス映画は、案外相性がいいのかも知れない。興味があれば是非。

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コメント

関係なくてすみませんが、なんか、これ凄そうです・・・

http://www.wakamatsukoji.org/top.html

投稿: タニプロ | 2010年1月23日 (土) 01:36

あ、本文と関係ないんで、上のコメントは読んでもらったらこのコメント同様削除してもらって構わないデス。

投稿: タニプロ | 2010年1月23日 (土) 01:46

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