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2010年1月17日 (日)

双葉十三郎さん、逝去

Futabajuuzaburou 現役最長老の映画評論家だった、双葉十三郎さんが、昨年12月12日に亡くなられました。享年99歳でした。

若い方にはピンと来ないかも知れませんが、私も含めた中高年の映画ファンにとっては、淀川長治さんと並んで、最も敬愛すべき偉大な映画評論家でした。神様とも言えるべき存在です。

雑誌「スクリーン」誌に、40年にわたって連載された「ぼくの採点表」は、映画ガイドとしてバイブルとまで言われました。

なにしろ、10才の頃から映画を観始め(双葉さんは1910年生まれですから、という事は1920年頃から)、高校時代から書き始めた映画批評は、外国映画だけでもその数1万数千本!! 「ぼくの採点表」は現在、トパーズプレス社とキネマ旬報社から「西洋シネマ体系・ぼくの採点表」として全6冊が刊行されていますが、そこに収録された作品数は8,867本だそうです。ギネス級ですね。

単に数だけでなく、実に的確、簡潔で要を得た名文はユーモアとウィット、茶目っ気も交え、読んでて思わずニンマリとしてしまうくらいでした。

また取り上げる作品も、古典的名作は無論ですが、それ以外にも西部劇、ミステリー、コメディ、アクション、ホラー、SF、と、A級B級とりまぜ、ジャンルも多岐に亙っておりました。その幅の広さ、公平さには敬服いたします。

採点に当たっては、☆が20点、★が5点で表示され、最高は☆☆☆☆★★(つまり90点)でした。ちなみに90点をつけた作品は8,867本中たった15本しかないそうです。
参考までに、その15本は以下の通り。
「黄金狂時代」、「西部戦線異状なし」、「大いなる幻影」、「駅馬車」、「疑惑の影」、「天井桟敷の人々」、「サンセット大通り」、「河」、「恐怖の報酬」、「禁じられた遊び」、「水鳥の生態」、「野いちご」、「突然炎のごとく」、「スティング」、「ザッツ・エンタティンメント」…

どれも文句なしの名作です。1本だけ異色なのが、ディズニーの短編ドキュメンタリー「水鳥の生態」。ミュージカルあり、サスペンスあり、戦争映画あり、コン・ゲーム作品ありと、幅の広さが窺えます。

ちなみに、80点以上を与えた作品の中には、次のようなものがあります(一部のみ抜粋)。

「赤い風船」、「踊る大紐育」、「アニーよ銃をとれ」、「シェーン」、「タワーリング・インフェルノ」、「冒険者たち」(以上85点)
「白雪姫」、「ピノキオ」、「フランケンシュタイン」('31)、「キング・コング」('33)、「007/危機一発」、「イエロー・サブマリン」、「ブリット」、「ダーティ ハリー」、「ポセイドン・アドベンチャー」、「ヤング・フランケンシュタイン」、「インディー・ジョーンズ/魔宮の伝説」、「ストリート・オブ・ファイヤー」(以上80点)

「タワーリング・インフェルノ」や「ポセイドン・アドベンチャー」といったパニックものや、MGMミュージカル、ディズニー・アニメ、「ダーティ ハリー」などの刑事アクションから、「007」、「インディー・ジョーンズ」、メル・ブルックス作品まで高得点を与えているのには感服します。「フランケンシュタイン」や「キング・コング」は、世界文化遺産とまでおっしゃっているのです。個人的には「イエロー・サブマリン」、「冒険者たち」、「ストリート・オブ・ファイヤー」の高評価が嬉しい(なお、上には挙げませんでしたが、ヒッチコック作品はほとんど80点以上です)。

一部(「赤い風船」等)を除いて、これらのほとんどは、キネ旬ベストテンからも外れた、通俗的な娯楽映画ばかりですが、それでも映画ファンの記憶には今も残っている隠れた名作が数多く含まれています。ある意味、素晴らしい眼力だとも言えます。

(上記については、双葉さんの「外国映画ぼくの500本」(2003年・文春新書)を参考にさせていただきました)

 
昔の高名な評論家の中には、こうした娯楽作品を無視したり軽蔑する方が少なからずおりましたが、双葉さんは著名であったにも係らず、そうした作品を、大衆の目線できちんと評価していた、数少ない評論家であったと言えるでしょう。映画ファンにとっては、まことに有難い存在でありました。

これほどの幅の広さと見識を持った映画評論家は、現在ではもうほとんどいないでしょう。本当に惜しい方をなくしました。

個人的には、私のHPに掲載の「20世紀ベスト100」の参考記録として、双葉さんが選んだ邦洋のベスト100を並べて掲載させていただいており、いつかお会いできたら無断掲載をお詫びしようと思っていたのですが、叶わぬ事となりました。

 
双葉先生、本当にありがとうございました。謹んで、ご冥福をお祈り申し上げます。
 

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(1/31付記)
現在発売中の、キネマ旬報社・刊「オールタイム・ベスト 映画遺産200」(2009年12月8日発行)を読んでいますと、ベストテン選者の中に、双葉さんのお名前がありました。

おそらく、これが双葉さんの、最後の執筆(遺稿)になるのではないでしょうか(発行日付から4日後に亡くなられてます)。
そう思うと、感慨深いものがあります。

日本映画編の巻末には、2002年12月上旬号、2003年11月下旬号に掲載された、「双葉十三郎が選ぶ、日本の映画女優、男優・各100人」が再録されています。

期せずして、双葉さん追悼号になったような気がします。いずれキネ旬でも追悼記事が掲載されるでしょうが。

ここに、双葉さん選定のベストテンを転載させていただきます。(製作年度順。カッコ内は製作年度と監督)

[日本映画]
紙人形春の囁き (26.溝口健二)
抱寝の長脇差 (32.山中貞雄)
国士無双  (32.伊丹万作)
海を渡る祭礼 (41.稲垣浩)
姿三四郎  (43.黒澤明)
古都     (63.中村登)
おはん    (84.市川崑)
青春デンデケデケデケ (92.大林宣彦)
写楽     (95.篠田正浩)
時雨の記  (98.澤井信一郎)

[外国映画]
キッド    (21.チャールズ・チャップリン)
ピーター・パン (24.ハーバート・ブレノン)
巴里の屋根の下 (30.ルネ・クレール)
モロッコ  (30.ジョセフ・フォン・スタンバーグ)
三十九夜 (35.アルフレッド・ヒッチコック)
望郷    (37.ジュリアン・デュヴィヴィエ)
駅馬車   (39.ジョン・フォード)
マルタの鷹 (41.ジョン・ヒューストン)
逢びき   (45.デヴィッド・リーン)
禁じられた遊び (52.ルネ・クレマン)

さすがは長老です。サイレント映画が5本入ってます。洋画はなんと8本までが戦前の作品。

洋画は、24年の「ピーター・パン」を除いて、ビデオ・DVD入手可能ですが、日本映画は山中貞雄作品を含め、現存していない作品が多くあります。余計観たくなりました。無念。

改めて双葉さんの、守備範囲の広さ、観賞作品歴の豊富さを実感いたしますね。キネ旬の回し者ではありませんが(笑)、この本は買いですね。

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コメント

おはようございます。

双葉さんが選ばれた高得点の作品一覧、
ありがとうございます。
こうして見ると、
双葉さんが選ばれた作品は、
やはり文句なし。
映画が映画として楽しめた時代の傑作ばかり。
娯楽の範疇として見られながらも、
映画独自の表現を持ち、
芸術の域に達している。

改めて、ご冥福をお祈りしたく思います。

投稿: えい | 2010年1月18日 (月) 06:18

僕はその採点方法に前から興味があって、途中から変えるのは変かな、と思いつつも、新しい年になったのを機に使わせていただいてます。その直後の悲しい知らせでした。


投稿: タニプロ | 2010年1月18日 (月) 23:24

初めまして、うえだと申します。

 一覧とても有難いです。

去年に「外国映画ぼくの500本」を立ち読みして、いつか読もうと思ったいた方が、読売新聞の編集手記で亡くなられたこと知りとてもショックでした。

双葉が「ソーヨー」
十三が「トム」
で、トム・ソーヤに憧れて付けたと書いてあり、生涯現役だった双葉さんの本を今からでも読もうと思いました。

投稿: うえだ | 2010年1月20日 (水) 04:55

「お楽しみは・・・」の和田誠さんが、日経新聞の最終ページの「私の友人碌」(だったかな?)の欄に、双葉さんのことを書いていました。
B級映画もC級映画も、分け隔てなく、時にウィットに富んだ批評を、簡潔明快にまとめられていたとかって書いていました。

私にとっても双葉さんとの好みはとても近いものがあり、淀川さんと共に、映画青年時代には映画の師でありました。

99歳大往生。合掌です。

昨年札幌で映画大好きな元配給会社支社長が亡くなられましたが、法名を「映楽・・・」って、つけてもらったことを思い出しました。

投稿: omiko | 2010年1月21日 (木) 14:51

◆えいさん、タニプロさん、うえださん、omikoさん

書き込みありがとうございます。
こうやってみなさんの書き込みを読むと、本当にいろんな方々に双葉さんが愛されていた事が分かります。

えいさんの
>双葉さんが選ばれた作品は、
>やはり文句なし。
>映画が映画として楽しめた時代の傑作ばかり。
>娯楽の範疇として見られながらも、
>映画独自の表現を持ち、
>芸術の域に達している。

私もまったくその通りだと思います。当初はB、C級の娯楽映画として作られたのでしょうけど、長い年月を経て、醸成されて、芸術の域にまで達した…双葉さんの選ばれた作品は、そんな作品が多いような気がします。

うえださん、
双葉さんの「外国映画ぼくの500本」は、私はバイブルのように何度も読み返して、映画を観る時の参考にしています。絶対にお買いになる事をお奨めします。

投稿: Kei(管理人) | 2010年2月 1日 (月) 01:13

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