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2010年3月 3日 (水)

「ボーイズ・オン・ザ・ラン」

Boysontherun 2010年:日本/ファントム・フィルム配給
 監督:三浦 大輔
 原作:花沢 健吾
 脚本:三浦 大輔

雑誌「ビッグコミック・スピリッツ」に連載の花沢健吾原作のコミックを、これが初メガホンとなる、劇団「ポツドール」主宰の三浦大輔が映画化。主演は銀杏BOYSのボーカル、峯田和伸。

弱小ガチャポン・メーカーに勤める29歳の田西敏行(峯田和伸)は未だ独身、冴えない日々を送っている。そんなある日、商品企画部の同僚・ちはる(黒川芽以)と仲良くなり、ようやく恋が実ると思われたが、ちょっとした焦りと誤解からちはるに嫌われてしまい…

眼鏡をかけ、容貌も冴えず、恋のかけひきも苦手でドジばかり、日々悶々と過ごす情けない若者像を、本業は歌手の峯田和伸が好演。

ちはるの隣部屋のソープ嬢、しほ(YOU)だとか、田西の同僚で仕事中にも酒びたりだが、実はボクシングに精通している鈴木(小林薫)だとか、最初は気さくで田西と仲良くなるが、後に決闘を申し込む相手となるライバル企業勤務の青山(松田龍平)、その他田西が勤める会社の社長(リリー・フランキー)等々、登場人物がそれぞれにユニークなキャラクターで、また役者も役柄にピッタリはまって好演している。

この手の青春ドラマは、松本零士のマンガ「男おいどん」を嚆矢として、これまでいくつも作られて来た(眼鏡にボサボサ頭の田西の風貌からして、「男おいどん」の主人公大山昇太とそっくりだ)。

女に恋しながら、失敗を繰り返し、フラれてばかりのドジな主人公像は、「男はつらいよ」の車寅次郎とも重なる。

(以下、ややネタバレあり)

また後半、[ちはるを弄び、妊娠させ捨てた卑劣な]青山に対し、田西が決闘を申し込み、鈴木の指導の下、ボクシングの練習に励むくだりは、岡田准一・堤真一主演で映画化された「フライ,ダディ,フライ」(原作・金城一紀)を思わせる。

奇しくも、堤真一が演じた主人公の名前も“鈴木”である。ありふれた名前ではあるが。

 
ただ、「フライ,ダディ,フライ」の方はラスト、主人公が見事勝利する、爽やかな幕切れであったのに対し、こちらの主人公はあっさり惨敗する。しかも、その敗因の一端はちはるのせいだった事も判る。ラストも、二人は何ともギクシャクした、煮え切らない別れ方をする。

このエンディングは正直不満である。ちはるは、映画全体の中でもヒロイン的役割であるのに、およそヒロインらしからぬ態度で田西を悩ませ、彼を裏切り続ける。観客は最後まで感情移入出来ないままである。

無論、現実は、なかなかうまく行かないものであり、悩み、夢破れ、壁にぶち当たって惨めな体験をする人だっているには違いない。

だが、観客は、現実に夢を持てないからこそ、せめて映画の中では夢を見たいのである。頼りないけれど、一生懸命頑張る主人公が、最後には夢を実現し勝利する、爽やかで気持のいい感動を味わいたいのである。

無論、寅さんだって毎回フラれてはいるが、ヒロイン以下、悪い人間は登場しないし、幕切れは爽やかでかつ感動的である。

本作は少々後味が悪過ぎる。観客にとってはフラストレーションが残る幕切れであった。

 
いろいろ調べると、原作ではこの後も物語は続いているし、田西の前に、真のヒロインも登場するようだ。ちはるや、青山の運命も大きく変転する。

それであるなら、本作はパート1で、この後続編も作られ、そちらで物語は真の完結を迎える…という事なのだろうか。

だが、今のところ続編が作られるとは聞かない。映画のエンディングで、“To Be Continued(続く)”と表示されているわけでもない。

本作で、映画は完結だとするなら残念だ。是非パート2で、爽やかな幕切れを迎えるよう切望する。

 
とは言え、三浦監督の演出は、(舞台演出のキャリアがあるにしても)なかなか手際よく好感が持てるし、笑いの間もタイミングよく配置されていて新人監督としてはまず及第。出演者も前述の通りそれぞれに好演している。
これでラストを(原作を変えてでも)ハッピーにまとめてくれたなら、もっとを増やしてあげてもいいのだが…。ともあれ、三浦監督には、次回作も大いに期待したい。繰り返すが、続編希望。     (採点=★★★☆

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コメント

わかるなあ。
ぼくも、映画の終わりはこう出会ってほしくないです。
演出力がある監督だっただけに、
違う映画を観てみたい気にはなりました。
そうか、『男おいどん』か…。
懐かしい。

投稿: えい | 2010年3月 3日 (水) 22:36

ぼくは原作より、大分マイルドになっていて、爽やかな気分になれましたよ。
これハッピーエンドにしたらそれこそ台無しじゃないですか!
三浦大輔の舞台は、もっと後味悪いですし。

投稿: かぼ | 2010年3月 4日 (木) 09:29

剱岳、点の記レビューでコメントさせていただいている者です。
ご無沙汰しております。
本当に日本映画は、良いですよね。
明日、日本アカデミー賞授賞式ですね。
剱岳とあおいちゃんが最優秀賞だと嬉しいんですけど。

http://www.japan-academy-prize.jp/

投稿: ふっくん | 2010年3月 4日 (木) 09:34

◆えいさん
「男おいどん」に反応していただき、ありがとうございます(笑)。
私の青春時代に読んだものですから、今でも懐かしく思い出されます。名作ですね。

◆かぼさん
確かに、三浦監督の演出はそこらの新人監督よりもしっかりしており、いいシーンも沢山あって、決して嫌いな作品ではありません。
でも、やはり私は見終わって、いい気分になれる作品の方が好きですね。

これとよく似た展開となる、「フライ,ダディ,フライ」は、猛特訓の末、最後の決闘で見事相手を倒し、主人公が勝利します。
どっちが好きか、と聞かれれば、私はこちらの方を支持したいですね。まあ人それぞれですが。

◆ふっくんさん、その節はどうも。
「劔岳 点の記」受賞して欲しいですね。
ただ、「沈まぬ太陽」という強力なライバルがいますから、予断は許しません。
結果が楽しみですね。

投稿: Kei(管理人) | 2010年3月 5日 (金) 00:35

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