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2010年3月14日 (日)

テレビ「相棒 -シーズン8-」最終回

Aibou8_2 「相棒」シーズン8が、3月10日放映の第19話で終了した。

テレビドラマをほとんど見ない私だが、この番組だけは欠かさず見た。今再放送中の旧シリーズもすべて録画している。

いやー、テレビドラマでこんなにハマったのは「古畑任三郎」以来だ(笑)。ここ数年のテレビドラマの中では(と言ってもほとんど見ないので比較出来ないのだが)、完成度、質の高さでは随一ではないだろうか(以前に書いた感想はこちら)。

 
このシリーズの素晴らしさは、要約すると、次の3点にまとめられるだろう。

①毎回、杉下右京(水谷豊)が、ささいな手掛かりから見事難事件を解決する、推理ミステリー・ドラマとしての面白さ。
 この点では「刑事コロンボ」、「古畑任三郎」に並ぶ、犯人との知能合戦が展開する名探偵刑事ものの流れを汲んでいると言える。

②ベテランで人情味の熱い杉下と、(シーズン7までは)元気はいいが少し未熟な若手刑事の亀山(寺脇康文)との2人組のコンビネーションが絶妙で、さまざまな事件を解決するプロセスを経て、亀山が次第に杉下に心酔し、一人前の刑事に成長して行く、人間ドラマとしての奥行きの深さがある。脇のキャラクターもそれぞれ魅力的である。
…従って、亀山がある程度成長した事により、シーズン7で彼が卒業したのも当然の流れと言える。

③難事件を解決する優れた人材でありながら、杉下が窓際的な特命係に追いやられ、上層部からは煙たがられ、冷遇されているという複雑なシチュエーションを設定し、そこから、官僚的で事なかれ主義がはびこる、警察組織や行政機構の矛盾を突く社会派ドラマとしての側面も併せ持つ。

これだけを見ても、このシリーズが凡百の刑事ドラマに比べて、ずっと中味の濃い、良質な作品である事が分かるだろう。「古畑任三郎」やコロンボが、実は上記のうち、①の要素だけしか持っていない事から比較しても、この作品の奥行きの深さは際立っている。

 
さて、最終回だが、さすがに2時間スペシャル版だけあって気合が入っている。以下ネタバレ

大手物産会社の電子通信部設計係長が転落死する事件が起こり、事件に関係があると見られた警備保障会社が、警察OBが多く再就職(つまり天下り)している先であり、案の定天下り警察官僚である顧問が捜査に圧力をかけて来る。その背後には、警察庁が極秘に開発していたFRS(顔認証)システム導入をめぐる政治的駆け引きがあった…というお話。

上記③の要素がかなり前面に出て来ている。天下り官僚批判や、警察組織が国民監視システムを極秘に、見えない所で進めているという、国家権力機構の不気味さが描かれているのだが、本当にやっているかも知れないリアリティが感じられてゾッとする。脚本(櫻井武晴)が見事。
いつもは憎まれ役の伊丹刑事(川原和久)が、横ヤリを入れて来る警察OB顧問を、杉下が聴取している取調室から強引にほっぽり出すシーンでは快哉を叫びたくなった。いいとこあるねぇ(笑)。

しかも今回で、新相棒の神戸尊(及川光博)が特命係に配属された真の理由や、杉下の秘密裡の配置転換計画まで飛び出して来る仰天の展開。

見応えがあった。シーズン8中でもベストに入る出来である。こういうのこそ劇場版として公開して欲しい。見逃したら再放送か、DVD発売まで待たなければならないテレビの枠に留めておくのはもったいない。

 
だが、一番感銘を受けたのは、神戸が警察庁に戻れる事になったのに、それを拒否して特命係に残る茨の道を選んだ事。

最初の頃は杉下に反感を持っていた様子もあった神戸が、次第に杉下に尊敬の念を抱くようになり、とうとう最終回では自分の意思で栄転をあえて撥ね退け、杉下の本当の相棒になる事を決意するのである。…無論、警察庁の組織の横暴さや汚さに愛想をつかした…という面もあるのだろうが、この決断には泣けた。昨年の「3時10分、決断のとき」に匹敵する男の決断である。

セリフも泣かせる。
杉下:「強制はしないと言いましたよ」
神戸:「はい、だれかから強制されて動くのは、もうやめました」
   「僕もね、したくなったんですよ、警察官らしいことを」

杉下:「ようこそ、特命係へ。ところで神戸君、今夜も飲めそうですか」

―― 本当の、相棒の始まりである。「カサブランカ」のラストのセリフを思い出した…というのは褒め過ぎか(笑)。

 
ところで、このラストを見て思い起こしたのが、黒澤明監督の名作「赤ひげ」(65)である。

ちょっとした不始末で、御殿医を目指していた保本登(加山雄三)が、掃き溜めのような小石川養生所に送り込まれ、最初は反撥しふてくされるものの、次第に赤ひげ(三船敏郎)の人間性に尊敬の念を抱き始め、最後は御殿医になれる道を捨てて養生所に留まる決意をする。

保本の最後の決意は、神戸の行動に良く似ている。神戸も、栄転が待っているのに、あえてその道を捨て、陸の孤島と呼ばれる特命係で、尊敬する人物の部下になる道を選ぶ。養生所も言ってみれば陸の孤島である。

そう考えれば、優れた医者としての能力がありながら養生所に留まり、貧しい病人の為に尽力し、権力者に怒りを燃やす赤ひげは、杉下にも似ている。

前に私は、「相棒」の人物や物語設定は、黒澤作品の「野良犬」に似ている…と書いたが、今回の作品を見て、企画者(プロデューサー)はやはり黒澤映画にオマージュを捧げているのに違いないと確信した。

そもそも、“未熟な若者が、師に教えられて成長して行く”という、上記②の要素自体が、「姿三四郎」以来の、黒澤作品の基本パターンでもある。

おそらく半年後にスタートするであろう、シーズン9も楽しみである。こうした骨太の反権力姿勢は、今後も貫いて欲しい。期待したい。

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