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2010年5月26日 (水)

「書道ガールズ!! わたしたちの甲子園」

Shodougirls 2010年・日本:日本テレビ=ワーナー
監督:猪股 隆一
脚本:永田 優子

四国・愛媛県で、高校書道部の生徒たちが、地元の町興しのために「書道パフォーマンス甲子園」を発案し、評判を呼んだ実話を元に、「マリと子犬の物語」の新進猪股隆一監督が映画化。

監督は無名だし、あまり期待はしていなかったのだが、意外と言っては失礼だが、感動した。エンタティンメントのツボをきちんと押えた、思わぬ拾い物の佳作である。

 
舞台は愛媛県東部の、四国有数の製紙工場がある町、四国中央市(旧伊予三島市)。本土連絡架橋が出来ても、却って四国から岡山方面に通学生や買い物客が流出し、四国の町にはこの映画にあるように、シャッター通りと化した商店街が目立つ。

そんな、寂れ行く町に元気を取り戻すべく、町興しに一役買う為の一大イベント実現に向けて、若い女の子たちが力を合わせて奮闘し、見事成功に導く…という展開は、あの大ヒット作「フラガール」のパターンだ。
しかも「青春デンデケデケデケ」から「がんばっていきまっしょい」「スウィングガールズ」へと続く、高校生たちがクラブ活動に青春の発露を見いだす、これまたヒット作パターンまで盛り込んでいる。面白くなるのは当然である。ちなみに「青春デンデケデケデケ」も「がんばっていきまっしょい」も本作も、いずれも舞台は四国である。

主人公は、四国中央高校書道部の部長・里子(成海璃子)。父親は厳格な書道家で、里子自身も常に自己にも周囲にも厳しさを求め、その為部員は次々と退部して行き、残ったメンバーは頼りない男子3名を含め8名。しかも実力のある美央(山下リオ)は母親の病気の為休部状態。そんな時、臨時教師として赴任し、書道部顧問となった池澤(金子ノブアキ)が、部員募集と称して書道パフォーマンスを実行した事から、部員の一人、清美(高畑充希)はたちまちその魅力に取り付かれてしまう…。

普通の、オーソドックスな書道は、退屈で若い女子高生にはつまらないだろう。ましてや、チームワークとはまったく無縁で、孤高の道を追い求めねばならず、かと言って剣道のように対面勝負するわけでもない。里子自身も、己の道を見失いかけている。

だから、音楽に合わせて、全身を使って派手に自己表現が出来る書道パフォーマンスに、清美がスポーツのような爽快感を感じてのめり込むのも当然だろう。
せいぜいA3サイズか、それを継ぎ足す程度の狭い紙の中に閉じ込められている書道に比べて、畳数畳分もあるデカい紙の上で、しかも複数のメンバーが力を合わせ、思いっきり跳ね回れる書道パフォーマンスは、まさに若さの躍動に他ならないのである。

最初は、自分の求めていた書道とあまりに違うこのパフォーマンスにとまどい、反撥していた里子も、清美の、水を得た魚のような躍動ぶりに次第に感化され、頑なな心がやがて解きほぐされて行く。

清美の父の家業である文具店も閉店し、この町を去らざるを得なくなり、また老職人が作る手漉き紙も需要がなくなり、やはり工房を閉めざるを得なくなる。町はどんどん寂れるばかりである。こうした、地方都市の厳しい現状を、抑制の効いた視線で捕らえている所もいい。

彼女たちが遂に一念発起し、「書道パフォーマンス」開催に向けて走り出すのは、町興しという目的もあるが、同時に、本当に大切な事は、“人間は一人では何も出来ないが、みんなが力を合わせれば、どんな困難をも乗り越える事が出来る”、という事を理解したからに他ならない。
だから、母の為に書道をあきらめかけていた美央にも、「全員が揃わなければ意味がない」と、仲間に戻る事を呼びかけるのである。

ベタな展開ではあるが、ここは泣かされる。

里子たちが、紙の中央に大きく書くのは、“再生”の2文字である。そう、この物語は、町の再生への願望であり、壊れかけていた仲間の友情の再生でもあり、道を失いかけていた、里子や、教師・池澤の心の再生の物語でもあるのである。

ラストの、全国から集まった高校生たちの「書道パフォーマンス甲子園」シーンは圧巻である。実際の書道パフォーマンス参加チームが実演しているのだから迫力がある。

町のどこからでも見える、巨大な製紙工場の煙突がアクセントとなっているのもいい。五所平之助監督の「煙突の見える場所」(53)を思い出した。

仲間の一人、清美が遠くの町へ去って行ったり、書道パフォーマンスなどもっての外と池澤に抗議に来た里子の父が、目を輝かせて練習に取り組む里子たちの姿を見て、応援へと心変りしたりと、「フラガール」と似た箇所もいくつかあるが、これはまあご愛嬌。

惜しむらくは、シナリオ(TVドラマで活躍の永田優子)が練れていない。副部長の篠森香奈(桜庭みなみ)や、苛めの過去を持つ小春(小島藤子)や、里子がほのかに心を寄せる高田(市川知宏)などの人物像が浅いし、最後に池澤が町を去るシーンも捻りがない。書道パフォーマンス実現に対する高校側のリアクションがほとんどないのも不自然。この高校には、池澤以外に先生がいないのだろうかと思ってしまう。
こういう所を、出来れば、映画のベテラン脚本家に細部を肉付けしてもらえれば、もっと傑作になったに違いない。それなら満点にしてもいいくらいだ。もったいない。

それでも、感動しウルウルしたのは事実である。このくらいのレベルの作品がどんどん登場してくれれば、日本映画はもっと面白くなるだろう。ウエルメイドな佳作として、お奨めしたい。     (採点=★★★★☆

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(付記)
この作品の舞台となった四国中央市は、「青春デンデケデケデケ」の舞台となった香川県観音寺市とは、電車で15分くらいの距離で、とても近い。ちなみに、2箇所ほど登場する電車の行き先は、どちらも「観音寺行き」であった。

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コメント


ご無沙汰しています。
トラックバック、ありがとうございました。

 地方都市の全国系日本映画は・・・あまり観たいものがなく、また観てもソコソコのものが行列で、大阪にいる頃は、こういう時は単館に走ったのですが、この地ではとても寂しいかぎり。

 本作のような映画を観ると、ほっとします。小さなエピソード飛ばしてあっという間に大会まで行ってしまって、端折りすぎが気になりましたが、人、人とのかかわりっていいなと・・・まあ、映画を観てきて何百回も・・・またジンッとしてしまった逸本でした。

 

投稿: 冨田弘嗣 | 2010年5月27日 (木) 04:17

時々お世話になってます。実は私、静岡県は富士の人間でして、紙の街の町興しというテーマに若干興味がありまして、映画自体は全く期待していなかったのですが観てしまいました。まあ、言いたいことはいろいろありますが、それは置いといて、まさに「煙突がアクセントになってて良い」のでコメントさせていただきます。実は、他のあるプロの批評で「公害の元凶である製紙会社の煙突を街のシンボル的扱いをしているのに激しい違和感」と書いてあって、それは地元を知らない人の言うことだ、と思ったのです。紙の街の人間は、もちろんそれが公害の象徴であることは認識しています。私も、小さい頃、喘息持ちの同級生がいたり、社会科の教科書の最初のカラーページに地元田子の浦港のヘドロ(煙突ではないですが・・・)の写真がドーンと載っていて、公害の街なんだなー、ということは当然わかっていました。しかし、そういうこととは別の部分で、地元の人しか持ち得ない心情とか感情を無意識のうちに持っているものです。私自身は、10年ほど前の浜松への単身赴任時に、煙突の無い街の景色に(おまけに富士山も無く)、方向感とか非常に不安になった事があります。遠出した後に、煙突や匂いで「帰ってきたんだなー。」と真剣に思います。少し長くなりましたが、この映画の中で文具屋の娘が駅で「ここからもあの煙突見えるんだ。」と言ったところで、実は一番グッと来ました。そして、おそらくCGでしょうが、学校の窓だったり、病院の窓だったりありとあらゆるところに煙突が背景として出ていて、そんなところに感動してました。単に町興しのパフォーマンスを描いただけでなく、そういうところを落とさず、逆に丁寧に描いているからこそ、少々難はあってもいい映画になったんだと思います。

投稿: オサムシ | 2010年5月27日 (木) 23:40

TBありがとうございました。
ほころびの目立つ脚本には閉口せざるを得ないのですが(特に里子の父親、ボーイフレンド)、細かいことは目をつぶって、良かった!と言いたくなる映画でした。
こういうパワーで押し切れちゃうところが青春映画の良さですね。
アイドル目当てでいいから、若い人に観てもらいたいです。

投稿: かみぃ@未完の映画評 | 2010年5月28日 (金) 00:50

◆冨田さん
地方都市では、なかなか地味な秀作が観られず、お気持はよく分かります。
本作はなんとか全国公開にはなったのですが、興行的には苦戦を強いられてますね。大阪ですら2週目には夕方の回がなくなりました。
本来なら「フラガール」並みにスマッシュ・ヒットを狙えるはずなのに、そうならなかったのは、配給会社の努力不足もありますが、も一つの出来の脚本にも問題ありでしょうね。
テレビ局主導(本作は日テレ)の現状も、再考の余地があるのではないでしょうか。


◆オサムシさん
煙突が、公害の元凶だから違和感とはちょっとどうかと、私も思いますね。
じゃ、銭湯の煙突もダメですかね。何かを燃やす以上、煙が出るのは仕方ない事で、煙突がなけりゃ経済の発展も、銭湯で垢を流す事も、不可能になってしまいますよね。
「どこからでも見える、街のシンボル」は、街で暮らす人たちの、心の支え、と言ってもいいでしょう。
分かり易く言えば、「ALWAYS 三丁目の夕日」の、“建設途上の東京タワー”がまさにそうでした。
この映画ではさらに、あの煙突は町の経済を支える製紙工場のものであり、また同時に、巨大な“紙”の上にパフォーマンスが躍動する作品のモチーフとも重なる、まさに映画のシンボルでもあると言えるでしょう。そこに着眼した点は素晴らしく、多少の破綻を十分カバーしたと言えるでしょうね。いいご意見、ありがとうございました。

◆かみぃさん
本当に、若い人に是非観てもらいたいですね。
ただ、アイドルとは言え成海璃子、これまでの作品と言えば「山形スクリーム」「罪とか罰とか」「武士道シックスティーン」等、ミニシアター系作品が大半なのですね。そこがも一つ興行的にパッとしない原因かも知れません。
ともあれ、口コミで、もう少し広まってくれればと思いますね。

投稿: Kei(管理人) | 2010年5月30日 (日) 15:54

青春ガールズわたしたちの甲子園と同じ成海璃子さんの主演作品だったドラマ「瑠璃の島」は、次からはTBSで「日曜劇場瑠璃の島」として放送するそうで、小島藤子さんもTBSリメイク版の瑠璃の島に出るそうですが、成海璃子さんと小島藤子さんはそちらでも共演するそうです。

投稿: 三崎東岡 | 2014年3月 9日 (日) 19:17

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