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2010年6月29日 (火)

「ダブル・ミッション」

Spynextdoor 2009年・米/ライオンズゲイト=リラティヴィティ・メディア
原題:THE SPY NEXT DOOR
監督:ブライアン・レヴァント
脚本:ジョナサン・バーンスタイン、ジェームズ・グリア、グレゴリー・ボイリアー

ジャッキー・チェンのハリウッド進出30周年記念作品。…と謳ってはいるが、別に特別に金をかけてるわけでも、あるいはお祝いに誰かがゲスト出演してるわけでもない。気軽に楽しめる、コメディ・アクション映画である。

ただし、冒頭にセピア調モノクロで、過去のジャッキー主演(「プロジェクト・イーグル」「ラッシュアワー1,2」「タキシード」)のワンシーンが引用されており、ファンとしては懐かしさがこみ上げ、感慨深いものがある。
でも、引用するなら、もう少しジャッキーの代表作にして欲しかった気もするが…。まあこれは、ジャッキーの役柄が“永年CIAで活躍してきた敏腕エージェント”である故、そうした経歴を紹介する為にスパイ・アクション的シーンを探して来た結果なのかも知れないが。

それよりも個人的には、そのシーンにカブる音楽が、ジョニー・リヴァース歌う同名のテレビドラマ主題歌「秘密諜報員」(原題Secret Agent Man。ベンチャーズの演奏でも有名)であったのが懐かしい。

表向きはペンのセールスマン、実はCIAエージェントのボブ・ホー(ジャッキー・チェン)は、これまでいくつもの危険な任務をこなして来た。ボブはある日、隣家に住むシングルマザー、ジリアン(アンバー・ヴァレッタ)に一目惚れし、スパイ稼業から引退を決意するが、ジリアンの3人の子供たちが、ダサい外見のボブとの結婚に猛反対。そんな時、ジリアンの父が入院し、ジリアンは付き添う為、実家に帰る事となる。ボブは子供たちと仲良くなるチャンスとばかり、3人の子供たちの面倒をみる事を引き受けるが、好奇心旺盛な長男のイアンが、ボブのパソコンからロシア当局の秘密データをダウンロードしてしまった事から、彼らは国際スパイ組織に狙われるハメになる…。

スパイである事を隠す為、ボブが普段はメガネをかけてダサいオヤジに見せている…というあたり、「スーパーマン」を初めとしてこの手のヒーローものではよくある設定。確か「蘇える金狼」の松田優作もそんな感じだった。

この外見の為に、子供たちがなかなかボブになついてくれない、という物語の伏線になっているのがうまい。

お話は他愛ないのだが、3人の子供たちのキャラクター設定がそれぞれによく出来ている。年頃の長女ファロン(マデリン・キャロル)は、実は先妻の子で、ジリアンは継母である為、どうしても彼女を“ママ”と呼べずにいる。長男のイアン(ウィル・シャドレイ)はいたずら好きでよく問題を起こす。次女のノーラ(アリーナ・フォーレイ)は天真爛漫でこれまたボブを手こずらせる。

この子供たちが、ボブとの触れ合いの中で、徐々に心が解きほぐれて行き、またボブに何度も危機を助けてもらううちに、次第に強い絆で結ばれて行くのだが、このプロセスが丁寧でホロリとさせる。ボブがスパイである事を知って、ジリアンは怒り、絶縁を宣言するのだが、今度は逆に子供たちが懸命に努力して、ジリアンとボブの仲を繋ぎ止めようとする。
ファロンが最後に初めてジリアンを「ママ」と呼ぶシーンは泣かせる。

只のドタバタ・コメディには終わっていない。親と子の絆の大切さ、そして子供の為に、愛の為に戦うジャッキーの奮闘ぶりにちょっとハートがウルウルしてしまう、素敵なコメディの快作であった。
さすがは、「ベートーベン」、や「ジングル・オール・ザ・ウェイ」等の、ハートフルな動物ものや子供ドラマが得意なブライアン・レヴァント監督だけの事はある。

無論、多少衰えたとは言え、まだまだ健在なジャッキーのアクロバティックなアクションも見応えはあるし、今となってはレトロなスパイの小道具も楽しい。好奇心旺盛な長男のイアンに秘密兵器を隠されてしまい、仕方なく家の中の冷蔵庫やフライパンを使って敵と戦うアクションも笑える。
長男の名前、イアンは、007の原作者、イアン・フレミングから拝借したのかも知れない。

古くからのジャッキー・チェン・ファンにとっては、過去のジャッキー映画に登場したアクション・スタントがさりげなく引用されているシーンを探すのもお楽しみである(少しだけ紹介すると、自転車のアクションは「プロジェクトA」、脚立を使ったアクションは「ファイナル・プロジェクト」、デパート内の垂れ幕飛び移りは「ポリス・ストーリー/香港国際警察」だろう。冷蔵庫アクションもどこかで見た記憶が…)。

エンド・ロールでのNG集も、ジャッキー映画ではお馴染み。やっぱりこれがなくちゃね。

…といったわけで、本作はまさにジャッキー・チェン映画の集大成といった趣で、初期の頃からのジャッキー・チェン・ファンは必見の楽しい作品である。

昨年のシリアスな「新宿インシデント」は、陰惨なシーンが多くてやり切れなかった。元々、バスター・キートンやハロルド・ロイド等のサイレント・スラップスティック・コメディへのオマージュをふんだんに盛り込んで成功して来ただけに、やはり彼には陽気なコメディ・アクションが肌に合っている。“引退”がキーワードになっている本作だが、いつまでも体の続く限り、アクション・コメディを作り続けて欲しい。

 
なお、日本ではハリウッド進出30周年、と騒いでいるが、本作の製作年度は2009年。厳密には30周年ではない。

で、2009年を基準にするなら、実は2009年は、1979年に我が国で初めてジャッキー・チェン主演作が公開されてから30周年に当るのである。

その記念すべきジャッキー・チェン本邦初登場作品は「ドランク・モンキー 酔拳」(78)。なんと、東映の邦画番線で、菅原文太主演の「トラック野郎/熱風5000キロ」(79)の2本立の添え物(悪く言えば付録)であった。

当時は誰もジャッキー・チェンなんか知らなくて、輸入した配給会社(東映洋画部)も興行的に自信がなかったのだろう。ジャッキーのルックスも、整形前で鼻がデカかった(失礼)せいか、ポスターも、「ルパン三世」で若者に人気があったモンキー・パンチの描いたイラストが主体であまり素顔は表に出さず、とにかく当るとは誰も思っていなかったフシがある。

ところが公開されるや、その軽快でアクロバティックなカンフー技が俄然評判となって、メインの「トラック野郎」を上回る人気を博し、以後、「××モンキー ○○拳」という題名のジャッキー・チェン主演カンフー映画が続々公開される事となったのである。…早や、あれから30年も経ってしまったのかと、感慨ひとしおである。

そんなわけで、個人的には本作は、ジャッキー本邦デビュー30周年作品、と呼ぶ方がふさわしいのではないかと思っているのである。    (採点=★★★★

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