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2010年7月 8日 (木)

「ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い」

Hangover 2009年・米/ワーナー・ブラザース
原題:The Hangover
監督:トッド・フィリップス
原案:ジョン・ルーカス、スコット・ムーア
脚本:ジョン・ルーカス、スコット・ムーア、トッド・フィリップス、ジェレミー・ガレリック

アメリカ本国では大ヒットし、第67回ゴールデングローブ賞のコメディ・ミュージカル部門作品賞を受賞した話題作でありながら、コメディがヒットしにくい我が国興行事情、加えて配役が地味である為、一時はDVDスルーになりかけた。
だが、一部の熱狂的なファンが署名活動を展開し、雑誌「映画秘宝」の2009年度ベストテンでも、未公開でありながらベスト17位にランクインするなど、徐々に人気が高まり、めでたく劇場公開にこぎ付けた。

…と聞くと、以前紹介した「ホットファズ 俺たちスーパーポリスメン!」とまったく同じケース。こういうのは好きだから、喜んで観に行った。

いやー、楽しい、面白い!大笑いしつつも、どこかシニカルで、身につまされ、考えさせられ、かついろんなジャンルともクロスオーバーする、一筋縄では行かない奥の深さも持った、アメリカン・コメディの快作だ。

お話は、サブタイトルそのまんま。結婚式を2日後に控えた花ムコの悪友たちが計画した、バチェラー・パーティー(独身サヨナラパーティー)でハメをはずし過ぎ、翌朝目覚めてみれば、酷い二日酔いで全員前夜の記憶はなく、花ムコは消え、部屋には何故か赤ん坊と、トラ!がいる、という、まるでフランツ・カフカの「変身」か、島田荘司のミステリー「眩暈」を思わせる不条理ドラマが展開する。
さらには乗って来たベンツはパトカーと入れ替わり、いきなり現れたマイク・タイソン(本人)にはぶん殴られ、おかしな中国人からは脅迫される…とお話はどんどん混乱して行く。

―といった具合に、これはただのおバカなコメディではない。島田荘司を例に挙げたが、本作は、まず、不可思議で先の予測がつかない謎がいくつも提起され、残った3人の男たちがわずかの手掛かりを元に、消えた花ムコの行方を追いつつ、謎を解明して行くサスペンス・ミステリーの要素を持っている。

さらに、翌日の結婚式までに、花ムコを探し出し、式場に駆けつけなければならない、というタイムリミット・サスペンスの要素もある。

脚本が実によく出来ている。いくつのも謎にはすべて理由があり、それらがラストに近付くにつれ、見事に解明されて行く。

これ以上はネタバレになるので書けない。とにかく観て欲しい。1つだけ注意。エンドロールもお見逃しなく。ここに、すべての解答が明示され、かつ大笑いさせられる。見事なオチである。

 
私にも、酒を飲み過ぎて、前夜の記憶がまったくないという経験がある。友人の中にも、宴会でとんでもない醜態を晒して、でも翌朝になると、まったく覚えていない、という者が実際にいる。

本作の場合は更に[ドラッグ]がからんでいるから余計さもありなん、と思わされる。

つまり、現実に我々自身の身にも起こりうるかも知れない、というリアリティがあるから、観ている間は大笑いしつつも、観終わった後も、単に「あー面白かった」だけでは終わらない、ちょっぴり考えさせられる作品でもある。そこがこの作品の奥の深さなのである。

ハチャメチャな抱腹絶倒コメディ、不条理サスペンス、謎解きミステリー、酒のコワさ、…そうした、複合的な要素を縦横に交差させ、違和感なくまとめた脚本の見事さには唸りたくなる。見事!

役者は、久方ぶりのヘザー・グラハム以外はまったく無名だが、それぞれに個性的で将来が楽しみ。特にデブっちょのザック・ガリフィアナキス(覚えにくい名前だ)はチェックしておく必要があるだろう。

よくぞ公開してくれた、と褒めたい所だが、配給会社(ワーナー・ブラザース)も、署名運動なんかなくても、面白さをいち早く見極めて、絶対当ててみせる、くらいの意気込みで売るべきではないか。熱烈ファンに尻押しされてるようでは情けない。苦言を呈したい。    (採点=★★★★☆

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コメント

Keiさん、こんにちは。
>配給会社も、署名運動なんかなくても、面白さをいち早く見極めて、絶対当ててみせる、くらいの意気込みで売るべきではないか。
あはは!おっしゃる通りです。
よくぞ言ってくれました。

>謎を解明して行くサスペンス・ミステリーの要素
最初はおバカコメデイ?と思っていたら、あらら、こりゃちょっと違うぞ、と。よく出来た作品でした。

投稿: ナンシー☆チロ | 2010年8月11日 (水) 22:50

◆ナンシー☆チロさん
>あはは!おっしゃる通りです。
て言うか、こんな面白い映画、売らなくて配給会社が勤まるか、と言いたいですね。

それにしても、署名運動を開始した方、多分輸入DVDかなんかで見つけたのか、あちらの友人から情報を得たのか、そのアンテナ嗅覚の鋭さには敬服しますね。

投稿: Kei(管理人) | 2010年8月23日 (月) 02:23

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