「ヒックとドラゴン」
2010年・米・ドリームワークス/配給:パラマウント
原題:How to Train Your Dragon
監督:ディーン・デュボア、クリス・サンダース
原作:クレシッダ・コーウェル
脚本:ディーン・デュボア、クリス・サンダース、ウィリアム・デイヴィス
クレシッダ・コーウェルによる同名児童小説を、3Dアニメとして映画化したアドベンチャー・ファンタジー。監督は「リロ&スティッチ」のコンビ、ディーン・デュボア&クリス・サンダース。
印象としては、子供向けの気がしたので、あまり観る気が起きなかったのだが、別の観る予定だった作品(題名を言うと「告白」)が満員で入れなかったので(今だに凄い人気だ)、仕方なく他の作品の上映時間を見たら、丁度時間が空いてたのがこの作品。
「リロ&スティッチ」が平凡な出来だったので、全然期待していなかったのだが、観てびっくり、面白い!本年度公開のアニメとしては「トイ・ストーリー3」に次ぐ傑作であった。これは予想外の掘り出し物。…にしても、客が入ってない。
お話としては、目新しいものではない。宿敵・ドラゴンと永年戦ってきたバイキングの村。ある日気の弱い少年が、傷を負ったドラゴンと出会い、親に隠れてコッソリそれをかくまい、仲良くなるが、やがてその事が知られてしまい…
…と、古くは「仔鹿物語」(1947)、わが「ドラえもん のび太の恐竜」(1980)、「E.T.」(1982)、最近では「ウォーター・ホース」(2007)と続く、“少年と、森で見つけた動物(-もしくは怪物)との交流と友情”ものの流れを汲む作品であり、特に“大人たちが捕獲しようとする怪物と、少年との友情”というパターンは、「E.T.」とよく似た構成である。
製作したのも、スピルバーグが設立したドリームワークスである点が興味深い。
しかし、本作で特筆すべきは、アクションのスケールの大きさである。
冒頭の、バイキング対ドラゴンの戦闘シーンからしてダイナミックで壮絶だし、特に炎の描写は実写並みの迫力。
(以下、ややネタバレあり)
少年ヒックが、やがて仲良くなったドラゴン、トゥースの背中に跨り、空中を飛翔するシーンのスピード感とダイナミズムは、J・キャメロン監督の「アバター」の飛翔シーンと比べても遜色ない。アニメである事を忘れるくらいである。
そして後半のクライマックス、巨大ドラゴンとの戦闘シーンは、小ドラゴンに跨った少年たちが空中を自在に飛び回り、遂に敵を倒すまでのアクション・シークェンスは、まさに「アバター」並みのスケール、スピード、アクション満載でワクワクさせてくれる。
それだけではない。物語としても奥行きは深い。
芯となるのは、気弱で、父親バイキングの期待を裏切り続けてきた少年が、トゥースとの交流を通じて、次第に勇気と行動力を持った逞しい若者へと成長して行く物語である。
その物語を縦軸として、横軸にあるのは、“敵対し、憎しみ合う、果てし無き不毛の戦いは止めて、理解と寛容の道を歩むべきではないか”という重要なテーマである。
ある意味では、世界各地で絶え間なく続く、民族間紛争、テロ・戦争への異議申立てと深読み出来なくもない。
アメリカ映画で、こうしたテーマを打ち出した作品が作られるのは珍しい。そもそも、イラク、アフガンと、世界の紛争に武力介入して来たのが他ならぬアメリカなのだから。
―だが昨年、同様のテーマを有したクリント・イーストウッド監督作品「グラン・トリノ」が作られたように、少しづつアメリカは変わっている気配を感じる。
あるいは、核廃絶方針を打ち出したオバマ大統領の登場と、どこかでリンクしているのかも知れない。
本作が、ディズニーやピクサー・アニメと一線を画しているのは、ラストのヒックの身体に起きる悲劇である。
子供向きアニメとしては、やや刺激が強過ぎる描写である。ここは多分製作会社内でも異論が起きた部分に違いない。
だが、あえて異論を撥ね退け、取り入れたであろうこの描写は、やはり正解だったと思う。
ヒックは、小ドラゴンたちとは融和出来たが、そのドラゴンたちもひれ伏す、強大な悪玉とは結局熾烈な戦闘を行い、遂に倒す事となる。
いくら、融和と寛容の精神を持とうとも、それが理想である事は分かっていても、それでも争いはなくならない。…これはシニカルであり、人間が永遠に抱えざるを得ない矛盾なのである。
敵を倒して万歳、で終わってしまっては、せっかく打ち出したテーマがぼやけてしまう事となる。
勇ましい戦いを肯定するのではなく、戦いの空しさを訴える、しかしそれでもヒックは戦わざるを得ない…、その相反する矛盾に向き合う為には、ヒックにも辛い代償を払って貰わなくてはならないのである。
考えれば、凄くテーマは奥が深いのである。
なぜ戦いはなくならないのか、なぜ人は憎み合うのか、寛容と調和は成立し得るのか、人間とは何と矛盾に満ちた生き物なのか…
そうした重いテーマを周到に配しつつも、映画としてはダイナミックなアクションを縦横に網羅し、かつ勇気、友情、男としての成長を存分に描いた、爽快なエンタティンメント作品に仕上がっている。
そういう点では、「アバター」や「トイ・ストーリー3」にも匹敵する力作と言っていいだろう。見事である。
テーマの奥深さを考えれば、むしろ大人にこそ観てもらいたい秀作であった。
私は3Dで観たのだが、3D効果も見事である。「アバター」といい、空中飛翔アクションは3D向きなのかも知れない。
残念なことに、興行的には大苦戦を強いられている。初登場8位とは寂しい。…もっとも、この夏は「トイ・ストーリー3」にジブリ・アニメと、2強がダントツの争いを展開しているので分が悪過ぎる。別の時期に公開すべきだったと思う。多くの人たちに観てもらいたいだけに、残念である(と言う私も危うく見逃す所だったが(苦笑))。
折しも今日は8月15日―終戦記念日である。あの戦争を思いながら、本作について考えるのも悪くはない。お奨め。 (採点=★★★★☆)
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コメント
ヴェネチア映画祭で3D関連の賞をとったそうで、凱旋上映ってことでまた上映延長するみたいです。
ブログやTwitterで話題が広がったのが良かったんだとか。
投稿: タニプロ | 2010年9月18日 (土) 02:15
面白かった。
リロステコンビだから、ドラゴンも愛嬌がある。本当に映画館で見たかった!
投稿: ゆうき | 2014年1月15日 (水) 14:10