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2010年8月11日 (水)

「ザ・コーヴ」

Thecove_22009年・米/ライオンズゲイト他 配給:アンプラグド
原題: THE COVE
監督:ルイ・シホヨス
脚本:マーク・モンロー

和歌山県・太地町の入り江(コーヴ)で行われているイルカ漁の隠し撮りが物議をかもし、上映中止運動にまで発展した、イルカ保護を訴えるドキュメンタリー。アカデミー長編ドキュメンタリー賞を始め、23の映画賞を獲得した話題作。

「靖国(YASUKUNI)」に続いて、上映反対運動が起きて公開が危ぶまれたが、この点について一言。

確かに作品の内容に問題があるのは事実だが、どんな(例え出来の悪い)作品であろうと、作家が発表した作品を、気に入らないからと言って、圧力をかけて上映中止に追い込もうとする事は間違っている。作家が作品を作り、多くの人に見せたい、という意志を示している以上は、その表現の自由は最大限守られるべきである。
その上で、作品を観た人が反論したり、批判するのも、これまた自由である。大いに批判を展開すればいい。
それが民主主義社会、自由主義社会のいい所である。今回、なんとか上映が行われた事は、まずは喜ばしい。

1960年代の人気ドラマ「わんぱくフリッパー」の調教師だったリック・オバリーは、その後イルカの保護運動の先頭に立ち、活動して来た人物である。本作は、その彼が日本で行われているイルカ漁の情報を聞きつけ、これを阻止する為に、海洋保全協会(Oceanic Preservation Society, OPS)創設者の一人であるルイ・シホヨスに声をかけ、シホヨス自身が監督を引き受けて現地撮影を敢行し、完成させたものである。

映画を観て思ったのは、“これは巧妙なエンタティンメントとしてはよく出来ている”という点である。

和歌山県太地町にやって来た、オバリー一行は、マスクで顔を隠し、隠密行動で現地に車で向かう。と、尾行する車がある。現地にはあちこちに立入禁止の看板が。調査を始めると、ビデオカメラを持った住民がしつこくカメラを向けて来る。この町には何か知られたくない秘密があるのでは。
…とまあ、いきなりスリリングな展開で、まるで
太地町が、陰謀渦巻くスペクターの秘密要塞であるかのようである(笑)。

クルーは、隠し撮りを行う為、元ILMのスタッフに依頼して、ニセの岩を作り、中にカメラを仕込む。夜中でも撮影可能なサーモカメラを使って、夜の住民たちの行動を撮影する。…と、ますます007風スパイ映画もどきである。

そうしたサスペンスを盛り上げて、クライマックスの、入り江でのイルカ漁撮影に成功するのだが、ここはまるで、秘密の悪魔の儀式であるかのように描かれている。

つまり、“正義の一行が決死の潜入を行い、さまざまな妨害を乗り越え、遂に奥地で密かに行われて来た、恐るべき野蛮な行為が白日の下に暴かれた”といった感じの、ドラマチックな展開で首尾一貫しているのである。
実に巧妙なエンタティンメント的手法である。

そういう意味では旨い作りである。世界中でいろんな賞を獲得したのも納得出来る。

 
ドキュメンタリーを標榜してはいるが、実は結構ヤラセ的カットが混じっている。クルーの車と、それを尾行する車を道路沿いの位置から捕らえたカットがあるが、なんでそんな所に都合よくカメラが据えられていたのだ?(笑)。

ニセの岩に仕込んだ無人カメラのはずなのに、被写体を追ってカメラがパンするショットもある。

つまりは、いい絵を見せる為に、いろいろと演出しているのである。…しかし、優れたドキュメンタリーには大抵ヤラセ・演出があるのも事実である。レニ・リーフェンシュタール監督の「民族の祭典」は、オリンピックの記録映画の名作として評価が高いが、実は競技が終わった後で、選手にカメラの前でもう一度演技してもらったシーンがあるそうだ。

昔、テレビで、「水曜スペシャル/川口探検隊が行く」という番組があった。一見、各地の秘境を探検した、ドキュメンタリーに見えるが、ほとんどはヤラセであった。東京スポーツの記事みたいなもんである(笑)。

なにしろ洞窟探検等で「これからカメラが、誰も入った事のない神秘の世界に初めて入る!」とか大げさなナレーションが入るのだが、実はカメラやスタッフはとっくに中に入っていて、その内側から、足を踏み入れる川口隊長の姿を撮影しているのである(笑)。

“ドキュメンタリー”と銘打たれているからといって、真実が公平に描かれているわけではない。ヤラセや捏造や、都合の悪い部分はカットし、都合のいい映像だけを抽出して編集すれば、いくらでも不公平で偏った意図を持った作品は出来上がってしまう。…さらに、耳で聞くよりも、文字を読むよりも、映像のインパクトは何倍も強烈である。その気になれば、観客をマインドコントロールする事くらいは訳ないのである。怖いことである。

 
太地町のイルカ漁は、昔からの伝統のある漁で、秘密でも、違法でも何でもない。銛で突く漁もクジラやマグロと同じで、格段残酷な方法でもない。非難されるいわれはない。
そんな地元の人たちにとっては、この映画は、悪意に満ちた、とんでもない愚作だろう。隠し撮りされて、世界中の、とりわけ動物愛好家からは極悪非道の残虐な野蛮人…のように思い込まれてはたまったものではない。そういう意味では、上映反対と叫びたくなる気持もよく分かる。

だが、イルカ漁の残酷さを訴えたい製作者にとっては、
野蛮に見える絵は実にインパクトがあって好都合である。イルカ漁をしている地域は他にもあるのだが、そういう絵が撮れる場所だから、太地町が選ばれたのだろう。

「フリッパー」の可愛らしいイルカの映像、そして入り江内に広がる、真っ赤な血の映像…これらを巧妙にモンタージュする事によって、“なんて酷いことを…止めさせなくては”と観客に意識付ける事に映画は成功している。

まさに、この映画は、映画手法の基本である、モンタージュの威力(あるいは怖さ)をまざまざと見せ付け、そしてリック・オバリーの意図は見事に成功しているのである。

 

ただし、その事と、映画に共感出来るか、という事とは別問題である。

動物愛護、環境保護運動そのものは、とてもいい事である。リック・オバリーは、とても純粋な人なのだろう。
…だが、行き過ぎると、シー・シェパードのように、“目的の為には過激な行為、違法行為もやむなし”という狂信的な方向に走ってしまう。

そういう独りよがりの、動物愛護精神に酔って、自分たちだけが正義だ、という独善性には共感出来ない。…しかし映画としては面白い

まことに、評価に困る作品である。まあ、ドキュメンタリーのあり方について、いろいろ考えさせてくれた点では、観るだけの値打ちはあったと言えよう。採点は、あくまでエンタティンメント性のみの評価である。   (採点=★★★

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