「ゾンビランド」
2009年・米/コロムビア=日活配給
原題:Zombieland
監督:ルーベン・フライシャー
脚本:レット・リース、ポール・ワーニック
ウイルスが蔓延し、国民のほとんどがゾンビと化したアメリカで、引きこもっていたためにゾンビにならなくて済んだ青年を中心に、4人の男女がサバイバルを繰り広げるホラー・コメディ・ロードムービー。監督は本作が長編デビュー作となるルーベン・フライシャー。
ゾンビ・コメディと言えば、以前にも「ショーン・オブ・ザ・デッド」(DVDスルーのみ)という楽しい快作があったが、本作はそれに引けを取らない出来。
あっちの方は、パロディ満載のおフザケ・コメディだったが、本作は、知り合った僅かの生き残り人間たちが、ゾンビのいない土地を求めて旅するロード・ムービー、という具合に、ストーリー・ラインは割としっかりしている。
荒廃した世界に、西へ向かっての旅、と言えば、先頃公開された「ザ・ウォーカー」と設定が似ている。
つまりは、いくらでもシリアスな作品として作れる題材であるとも言える。
この作品が秀逸なのは、一応きちんとした、ゾンビ・ホラーものの定型を踏まえたストーリーの中に、ロードムービーという青春映画的パターンを取り入れ、かつ要所にブラックかつシニカルな笑いを絶妙に網羅している点である。
その為、ゾンビが襲って来るという、本来は怖いはずの状況なのに、何故か笑えてしまう。
(以下ネタバレあり、注意)
主人公・コロンバス(ジェシー・アイゼンバーグ)は、ゾンビ対策32か条のルールを作り、そのおかげで今までゾンビにならずに生き延びて来られた。…このルールがなかなか説得力があり、かつ脱力するユーモアがあって楽しい。―しかし生き延びて来られた、最大の理由が、引きこもりで他人と接触して来なかった事と、その間サバイバル・ゲームにハマっていて、そのゲームで敵をかわすテクニックを学んだ点…即ち、人間として、本来は失格である、こうした性格が幸いした、という所が実に皮肉である。
その彼が、必死でサバイバルを生き抜き、旅を続けるうちに、他人とも接触出来るように変わって行き、遂には愛する女性を見つける事にも成功する。
これはある面、引きこもりでひ弱かった青年の、人間的成長のドラマでもあるのである。
彼が旅で出会う人間も、みんなどこかヘンである。マッチョなタラハシー(ウディ・ハレルソン)は、ゾンビを徹底して殺しまくる、ほとんどその事に快感を感じているのでは、と思えるほどで、かつ甘ったるいトゥインキーというお菓子が大好物。
もう一組、あの手この手の策略でまんまとコロンバスたちをだまして車を乗り逃げする、ウィチタ(エマ・ストーン)とリトルロック(アビゲイル・ブレスリン)の姉妹もやはりヘンだ。本来は生き延びた正常な人間同士、助け合うべきなのに、ほとんど人を騙す事が生きがいであるかのようである。
こうした、ある意味では変人ばかりの4人組が、一緒に旅を続けるうちに、次第に心を通わせて行き、そして生きる為には、みんなで力を合わせて助け合う事がいかに大切か、という事を学んで行く。―そのプロセスが、意外と丁寧で、見せてくれる。
これが長編デビューだというフライシャー監督、なかなか確かな演出力である。
彼らが到着したハリウッドで、とある豪華な邸宅(正面に“B・M”の大きな文字があるのも微妙におかしい)に侵入するのだが、この持ち主が、かつては人気を誇っていたが、今では若い人には忘れられたスター[ビル・マーレイ]で、なんとそれを本人自身が演じている。B・Mのイニシャルを見て、「ボブ・マーリーか?」と言われてしまう辺り、何ともおかしいやら身につまされるやら。おまけに何ともしまらない死に方をしてしまう。製作者側もよくまあオファー依頼したもんだが、出演を承諾した本人もエラい!
クライマックスは、遊園地・パシフィック・ランドを舞台に、盛大なゾンビ退治アクションが展開するが、ここの演出も、ハズした笑いを巧みにブレンドして楽しい。ピエロが怖い、というトラウマを持つコロンバスの前に、ゾンビ・ピエロが登場するのだが、ピエロの扮装で口から血をしたたらせている、という絵も、シュールかつおかしい。
最後はハッピー・エンド(?)。コロンバスとウィチタもいい感じだし、頼りになるタラハシーを父親のような存在、と考えれば、この4人の間には、擬似家族のような絆が生まれたと言える。ホラーであるはずなのに、観終わって何やら清々しい気分になれたのは、出来の良さの証明でもあるのだろう。
とにかく、あまり予備知識がなかっただけに、これは拾い物の佳作であった。新人監督、ルーベン・フライシャー、名前を覚えておいた方がいいだろう。次作が楽しみである。
PS.エンドロール後にもおマケがあるので、最後まで席を立たないように。 (採点=★★★★☆)
(で、お楽しみはココからだ)
この監督の、ルーベン・フライシャー(Ruben Fleischer)という名前がちょっと気になった。
フライシャーと聞いて思い浮かぶのは、戦前、ディズニーのライバルとして、「ベティ・ブープ」、「ポパイ」、「スーパーマン」等の傑作アニメーションを連打した、フライシャー兄弟(マックス&デイブ・フライシャー)である(苗字のスペルも同じ)。
ホウレン草を食べると、無茶苦茶怪力を発揮して大暴れする「ポパイ」は、戦後も何度もテレビ放映され、人気を博した。
また、長編アニメとしては「バッタ君町に行く」(41)という傑作があり、最近もリバイバル公開された。
人間が侵入して来た為に、命の危険にさらされた虫たちが、安住の地を求めて旅をする…というお話で、どことなく 本作と似たようなストーリーである。
そう言えば、トゥインキーが大好物で、無茶苦茶な大暴れをするタラハシーは、まるで「ポパイ」である(笑)。
…というのは冗談だが、ルーベン・フライシャー、ひょっとしたら案外フライシャー兄弟と血縁ではないかと思ったりしただけである。本作の冒頭近く、上からピアノが落下してゾンビが下敷になる、というギャグは、アメリカ製アニメ(カートゥーンという)から明らかにいただいてると思えるし…。
誰か調べてくれないかな。
ちなみに、マックス・フライシャーの息子は、「海底20,000哩」、「ミクロの決死圏」、「トラ!トラ!トラ!」で知られる、リチャード・フライシャー監督である。
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