アニメ界の巨星2つ堕つ…今敏氏、川本喜八郎氏追悼
信じられない思いです。
日本アニメ界のみならず、世界的にも評価の高い、2人の天才アニメーション作家が、ほぼ同じ時期にお亡くなりになりました。
亡くなられたのは、8月24日、すい臓がんの為、46歳での早過ぎる死去でした。
46歳と言えば、コンさんつながりで、市川崑監督の享年の半分ではないですか。
宮崎駿に追いつき、追い越せるのは、今さんくらいだろうと思って、とても期待していたのに…。
まだ、宮崎さんの子供くらいの年齢なのに…。ちなみに宮崎駿が46歳の時は、「天空の城ラピュタ」を完成させた翌年くらいのはず。
いかに早過ぎるかが分かります。
監督デビュー作「PERFECT BLUE」(97)からして、完全に大人の観客を意識した、完成度の高いサイコ・サスペンス・スリラーの秀作でした。
続く「千年女優」(02)も、原節子を思わせる伝説の女優の数奇な人生と、スペース・シャトルが登場するSFファンタジーとがコラボする異色作。
そして3作目「東京ゴッドファーザーズ」(03)は今監督の最高作。笑い、涙、サスペンス、アクションが絶妙に交錯する感動のエンタティンメントの傑作でした。私はその年のマイ・ベスト3に入れましたが、キネ旬ベストテンではなんと圏外!以来キネ旬ベストテンは信用してません(笑)(ちなみに読者ベストテンでは3位。映画ファンの方がよく分かってる)。なお、翌年には米アカデミー賞長編アニメ賞の候補作に挙げられて話題になりました。
4作目筒井康隆原作の「パプリカ」(06)も異色作。夢の世界に侵入する女探偵が主人公で(「インセプション」だ(笑))、そのイマジネーションの豊かさに驚嘆しました。
作る作品がいずれも独創的で、すべて違うジャンル。それでいて1本も駄作がない。これから、どんな凄い傑作を作るか、期待していたのに…アニメ界ならず、日本映画界に取っても、計り知れない大損失です。
今さんの公式サイトがあるのですが、8月25日が最終更新となっていて、そこに今さんの、お別れの言葉が掲載されています。
それを読めば、また涙が溢れて止まりませんでした。いかに無念だったか。心中察するに余りあります。
新作映画「夢みる機械」が準備中だったとか。本人も心残りだ、と書いておられます。遺志を継いでどなたかが完成させて欲しいものです。
今さんの逝去に呆然となっていたところに、今度は我が国人形アニメーションの第一人者であった、川本喜八郎さんの訃報が飛び込んで来ました。 川本さんも、私の大好きな作家であっただけに、よりショックでした。あまりの事に、映画評を更新する気も失せてしまいました。
8月23日、肺炎の為逝去。享年85歳。
なんと、今敏さんの逝去の1日前です。
我が国は、2日続けて、世界に誇るアニメ界の2大巨匠を一度に失ったわけです。
1925年生まれ。学校卒業後、1946年に、最初は東宝撮影所美術部に入り、実写の美術助手をやっていましたが、歴史に残る東宝大争議のあおりで失職。子供の頃から好きだった人形絵本作りに参加しましたが、チェコの人形アニメの巨匠、イジー・トルンカの「皇帝の鶯」を観て感動、以後チェコに渡り、トルンカの下で人形アニメーションの技術を学びました。
話題となったのは、'72年発表の「鬼」。これで内外の映画賞を多数獲得。以後「道成寺」(76)、「火宅」(79)、「蓮如とその母」(81)と立て続けに秀作を発表しました。
その他、NHKテレビの連続人形劇「三国志」、「平家物語」の人形造形でも有名です。
'88年には、上海国立動画映画制作所に出向し、「不射之射」を監督、上海アニメの発展にも貢献しました。
晩年になっても創作意欲は衰えず、2003年には川本さんが企画して、世界の著名アニメーター35人に、松尾芭蕉が考案した、連句(複数の歌人が前の人の下の句を受け、自分の句を鎖のようにつなげて俳句を作る)の手法をそのままアニメで行うという、連句アニメーション「冬の日」を完成。ロシアの巨匠、ユーリ・ノルシュテインをはじめ、アレキサンドル・ペトロフ、「頭山」がアカデミー短編賞にノミネートされた山村浩二、その他久里洋二、古川タク、林静一、小田部羊一、高畑勲…といった、夢のようなコラボを実現させました。
川本さんの人脈なくしては実現不可能とも思える快挙です。これは凄い傑作ですので、アニメ・ファンは是非ご覧になってください(詳細は私の過去記事参照)。
そして2005年には、ライフワークと位置付けていた、折口信夫の小説を原作とした「死者の書」を発表。これが遺作となりました。
今さんとは違って、80歳まで旺盛な創作を続け、やりたい事もやり尽くして、悔いのない人生だったでしょう。その点が救いです。
ともあれ、惜しい人材を無くした事に変わりはありません。
謹んで、お二人の冥福をお祈り申し上げます。
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連句アニメ「冬の日」
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