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2010年9月12日 (日)

谷啓さん追悼

Tanikei クレージー・キャッツのメンバーだった、谷啓さん(本名・渡部泰雄(わたべやすお))が、9月11日、亡くなられました。享年78歳。

私は、ずっと昔から個人的に谷啓さんの大ファンです。クレージー・キャッツの中でも一番好きでした。

というのは、理由がありまして、まずイニシャルがK.T.で、私と同じ。さらに私の名前にも“”の字があって(ブログのニックネーム、“Kei”もそこから)、そんなわけで親近感が強く、まだクレージーが東宝・無責任シリーズでブレイクする前(テレビの「シャボン玉ホリデー」に出てた頃)から、注目しておりました。

そんなわけで、亡くなられたと聞いて凄くショックでした。まだまだお元気だと思っていたのに…。いずれ小林信彦さんが詳しい追悼記事を書いてくださるでしょうが、以下、私なりの思い出を列記したいと思います。

 
谷さんは、高校時代からトロンボーンを始め、中央大学在学中の1953年、原信夫とシャープスアンドフラッツに入団。その後、フランキー堺とシティ・スリッカーズを経て、昭和31年、ハナ肇や植木等がいた、ギャグ入り演奏が売り物のクレージー・キャッツに加入しました。

なお、芸名は、米国の人気喜劇役者、ダニー・ケイをもじったものです。

クレージーの中での谷さんのキャラクターは、親分肌で豪放磊落なハナ肇、調子よい無責任男の植木等、といった陽性キャラに対して、どことなくシャイでハニカミ屋、カラ元気を装っているが、突っ込まれるとタジタジとなる…といった、ちょっと不思議な持ち味がありました(実際に、子供の頃から大変な恥ずかしがり屋だったそうです)。
それをうまく生かしたのが、あの有名なギャグ、“ガチョーン”でした。窮地に追い込まれたり、困った時に、“ガチョーン”で解決してしまうというのは、ある意味、弱者の開き直り的、かつシュールなギャグであるとも言えるでしょう。

私生活でも相当な恥ずかしがり屋だそうで(結婚に際しても、長年交際しながら、恥ずかしがり屋の谷さんが一向にプロポーズしないため、夫人の側からプロポーズしたというエピソードもあります)、そういった、シャイな人柄も、私にとっては親しみを感じさせる存在でした。

映画の方では、クレージーの人気上昇に比例して、1963年頃から出演が多くなって来ます。ちょっと面白いのは、内田吐夢監督、中村錦之助主演の時代劇大作「宮本武蔵」5部作の3、4作目に、赤壁八十馬役で出演している点で、原作ではこの男、とんでもない悪党なのですが、映画では何故か人のいい、憎めない役柄になっております。巨匠・内田監督が、クレージーの一員で、役者としての経験はまだ浅い谷さんを、なぜこんな(しかも原作とは異なる)役柄に抜擢したのか、ちょっと気になります。

1964年には、クレージー人気急騰もあって、なんと主演作も含めて、12本!もの映画に出演しております。しかも同じ年にテレビでは「天下の若者」という連続ドラマ(2年半も続きました)に主演してるのです。無論その間、「シャボン玉ホリデー」等のバラエティにもレギュラー出演してるわけですから、よくまあ身体を壊さなかったものです。

あまり知る人は少ないのですが、先般亡くなられた藤田まことさんとの共演作も意外に多く、1964~65年にかけて2本作られた「西の王将東の大将」では、互いにライバル意識を燃やすサラリーマンとして丁々発止の共演。東宝で作られた「てなもんや三度笠」シリーズ3本でも共演しております。
で、この二人が並ぶと、ノッポにズングリという対照的な体型が、アメリカ・サイレント・コメディのデブ・ノッポコンビ“ローレル&ハーディ”を思わせてニンマリさせられました。
谷さんは芸名でも分かるようにアメリカ製コメディにも造詣が深いので、これは意識してのことでしょう。

Abbottcostello2 そう言えば、あの髪型やキャラクターの印象は、これもアメリカ・コメディの凸凹コンビ“アボット&コステロ”の片割れ、ルウ・コステロに非常にによく似ております(ポスターの右がコステロ)。

調べたら、アボット&コステロの「凸凹宝島騒動」という映画の日本語吹替版で、そのコステロの声を担当したのが谷さんなのですね(ちなみにアボットの声は植木等さん)。

こういう、アメリカン・コメディへのリスペクト精神が、クレージーの中でも一味違った、どことなくシュールでカラッとした笑いに繋がっているのではと想像いたします。
今の若いコメディアンに、そうした基礎や素養を教えて、笑いのレベルを引き上げて欲しかったと思います。

 
Kisoutengai 主演映画で私が好きなのは、「クレージーだよ奇想天外」(1966)。地球に調査の為派遣された宇宙人役を演じておりますが、あれよあれよと人気歌手、そして国会議員にまでなって行く過程がもうハチャメチャで無類に面白い。劇場では、アゴが外れるほど笑いました。なお、この作品でも、藤田まことさんと絶妙のコンビで共演しております。
ちなみに、2本立の併映作がこれまた当時人気絶頂の加山雄三主演「アルプスの若大将」という豪華な組み合わせでした。

珍しいシリアスな役柄として印象深いのが、市川崑監督、水谷豊主演の刑事もの「幸福」(1981)における、人のいい野呂刑事役で、ラストで水谷に、ニコッと微笑む姿が今も眼に焼きついています。

後年は「釣りバカ日誌」シリーズの佐々木課長役が有名ですが、是枝裕和監督「ワンダフルライフ」(1999)における、天国への入口の所長役、犬童一心監督「死に花」(2004)における老人強盗チームの一員等の、味わい深い好演も見逃せません。

晩年は、NHK教育の教養番組「美の壺」(2006~2008年)のホスト役でも活躍されました。私も時々観ておりましたが、和服を着て、盆栽や美術品をたしなむ姿は、すっかりご隠居老人が板に付いて、ファンとしては複雑な気持でした。

来る9月20日には、第3回したまちコメディ映画祭in台東で、コメディ栄誉賞を受賞される事になっておりました。是非主席して、元気なお姿を見せていただきたかったのに、叶わぬ事となりました。

Tanikei2 ハナ肇さん、植木等さん、そして青島幸男さんと、1960~70年代を駆け抜けたクレージーとその立役者たちも既にこの世になく、とうとう谷啓さんもいなくなってしまいました。寂しい限りです。

天国で、ハナさん、植木さんと今頃は再会しているでしょうか。

―謹んで、ご冥福を祈りたいと思います。

 

 

 

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