« テレビ「田原総一朗の遺言」 | トップページ | 「ナイト&デイ」 »

2010年10月28日 (木)

「冬の小鳥」

Fuyunokotori 2009年・韓国=フランス/配給:クレスト・インターナショナル
原題:여행자(旅人)/英題:A BRAND NEW LIFE
監督・脚本:ウニー・ルコント

韓国出身で、フランスで女優、映画の衣装デザイナーとして活躍するウニー・ルコントが、自らの少女時代のエピソードを元に脚本・監督した自伝的デビュー作。「シークレット・サンシャイン」のイ・チャンドン監督がプロデューサーとして参加している。

1975年。9歳のジニ(キム・セロン)は、大好きだった父(ソル・ギョング)に捨てられ、ソウル郊外のカトリックの児童養護施設に入れられる。はじめのうちは状況を受け入れられず反発していたが、やがて面倒見のいいスッキ(パク・ドヨン)とも仲良くなり、そして徐々に、自らの運命に向かい合って行く…。

韓国映画界は、次々に素晴らしい新人監督が誕生している。昨年は「チェイサー」のナ・ホンジン、今年も「息もできない」のヤン・イクチュンの鮮烈なデビューに目を瞠ったばかり。しかも今度は女性監督だ。
新人とは思えない、落ち着いた静謐な語り口で、過酷な運命に苛まれ、抗い、やがて静かに運命を受け入れて行く少女の人生を淡々と描き、深い感動を呼ぶ。見事な傑作である。

ルコント監督は、韓国で生まれ、9歳の時にカトリック系の児童養護施設に入れられ、やがて養子としてフランスへ渡った経験を持つ。―つまりこの映画は彼女自身の体験に基づいている。それ故、真実の重みが、物語に圧倒的なリアリティをもたらしている。

主人公の9歳の少女・ジニを演じたキム・セロンが素晴らしい。自分を棄てた父親を、それでもいつかきっと迎えに来てくれると信じ、待ち続ける悲しい運命の少女を見事に演じきっている。ある時は悲しみに沈み、ある時は激しく怒りをぶつけ、そしてやがては、諦めの境地に達する。その心の変化が、無理なくこちらに伝わって来る。

凄いのは、じっと座って遠くを見ているうち、やがて両の目からポロポロと涙が溢れて来るシーンである。監督の演技指導もあるのだろうが、まさに本当に親に棄てられたのではと思ってしまうほどの迫真の演技である。

ジニは、最初のうちは怒りと悲しみで、食器を払い捨てたり、プレゼントの人形をバラバラにしたりの荒んだ行動をとる。
だが、それでも優しくしてくれる、スッキという友達が出来たり、厳しい中にも、温かく導いてくれる寮母等に接するうちに、次第にジニの心に変化が現れ始める。

悲惨な境遇を悲しむのではなく、運命を受け入れ、それを糧として、“新しい人生”(英語原題)を生きて行こうと決心するのである。

絶望から希望へ―
それを象徴するのが、死んだ小鳥のお墓を掘り返し、自分の身体を埋め、全身を土で被った後、土をはね退け、起き上がるシーンである。

過去を振り捨て、新たな自分に生まれ変わった、その事を示す、感動的なシーンである。

最後に、養子としてフランスに飛び立つジニの表情は、最初の頃と違って、笑顔に溢れ、とても晴れやかである。観ている観客もホッとする。
死んだ小鳥は、もう飛ぶ事は出来なかったが、小鳥の墓から生まれ変わった小さなジニは、軽やかに飛び立ったのである。

 
子供を棄てた父親は、本来なら糾弾されるべきだろうが、ルコント監督は、父親への恨みつらみをこの映画では描いていない。
むしろ、自転車に父と二人乗りしている時、ジニはとても嬉しそうで笑顔を見せている。
想い出の中の父は、ジニにとって、とても愛すべき存在なのである。

養護施設に行く時に、父親はよそ行きのいい服を着せ、おいしいものを食べさせ、でかいケーキをお土産に持たせてくれている。
つまり、決してこの父親は、“悪い人間”であるとは描いていないのである。

恐らく、父にも、ジニを棄てざるを得ない事情があったのだろう。1970年代、韓国の庶民の生活は豊かではなかっただろうし。
それに、養護施設に入れば、裕福な外国の里親にもらわれ、両親と暮らすより、ずっといい生活が出来る
子供の幸福の為には、その方がいい、と思ったのかも知れない。
無論、片方には、貧しくとも、両親と暮らすのが一番幸福だ、という考えもある。あの時代においては、どちらが正しかったのか、それは誰にも判断は出来ない。

ソル・ギョング扮する父親は、映画のなかではほとんど素顔を見せていない。…それは、父親が悪い人間なのか、そうではないのか、その判断は、観客に委ねたい、という監督の思いがあったのではないだろうか。

 
インタビューによると、ルコント監督が影響を受けた映画監督の一人として、小津安二郎の名前を挙げている。

そう言えば、日常生活を淡々と描きつつ、家族のあり方や人生を考えさせる描き方は、小津作品に通じるものがある。

また、小津作品には、「生れてはみたけれど」とか、「お早よう」のように、子供の目線で、大人たちを鋭く凝視した傑作がある点も見逃せない。

 
長編デビュー作にて、早くも卓抜な演出力を示し、素晴らしい傑作を作り上げたウニー・ルコント監督に惜しみない拍手を送りたい。次回作を楽しみに待ちたい。     (採点=★★★★☆

 ランキングに投票ください → ブログランキング     にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ

|

« テレビ「田原総一朗の遺言」 | トップページ | 「ナイト&デイ」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/174742/49873807

この記事へのトラックバック一覧です: 「冬の小鳥」:

» 冬の小鳥 [LOVE Cinemas 調布]
『シークレット・サンシャイン』のイ・チャンドン監督が脚本に惚れ込みプロデュース、監督はこれがデビュー作となるウニー・ルコントという韓仏合作映画。実際にフランスに養女として引取られたルコント監督自身の体験をベースに、父親に捨てられた少女が悲しい毎日を送りながらも徐々にその事実を受け入れ、未来に向かって再生していく様子を描いた感動作だ。主人公の女の子ジニをキム・セロンが演じる。... [続きを読む]

受信: 2010年10月29日 (金) 03:10

» 『冬の小鳥』 [ラムの大通り]
----この映画、舞台が韓国だって? ちょっと意外だったニャあ。 「そういう先入観もどうかとは思うけど…。 でも確かに、このタイトルからは ヨーロッパ映画を連想しやすいよね。 実はこ...... [続きを読む]

受信: 2010年10月29日 (金) 18:39

» 冬の小鳥 [象のロケット]
1975年、韓国ソウル郊外。 よそ行きの服を着せられた9歳の少女ジニは大好きな父と出かけるが、連れて来られたのは高い鉄格子のあるカトリック系の児童養護施設で、シスターに建物を案内されている間に、父は立ち去ってしまう。 自分は孤児ではないと主張するジニは、食事にも手をつけず反抗的な態度を取り、周囲に馴染もうとしないのだが…。 ヒューマンドラマ。... [続きを読む]

受信: 2010年10月29日 (金) 21:40

» *『冬の小鳥』* ※ネタバレ有 [〜青いそよ風が吹く街角〜]
2009年:韓国映画、ウニー・ルコント監督、イ・チャンドン製作、キム・セロン、ソル・ギョング、パク・ドヨン、コ・アソン、パク・ミンション、オ・マンソク、ムン・ソングン出演。 [続きを読む]

受信: 2010年10月29日 (金) 22:33

» 『冬の小鳥』 [シネマな時間に考察を。]
届かなかった少女の祈り。 思い出を胸に、もうひとつの人生へと。 異国の空が故郷の空へと変わる、その日まで。 『冬の小鳥』 A BRAND NEW LIFE 2009年/韓国、フランス/92min 監督:ウニー・ルコント 出演:キム・セロン、オアク・ドヨン 親鳥を失い傷ついた... [続きを読む]

受信: 2010年11月12日 (金) 17:57

» 冬の小鳥(2009)◇◆A BRAND NEW LIFE [銅版画制作の日々]
 Une Vie Toute Neuve ジニ役を演じたキム・セロン。2000年生まれの10歳。本作での演技が高く評価され、あのウォンビンとのダブル主演を... [続きを読む]

受信: 2010年12月20日 (月) 00:38

» [映画][2010年]冬の小鳥(ウニー・ルコント) [タニプロダクション]
シネマート六本木 座席位置二列目中央 出演:キム・セロン他 評点=☆☆☆☆(80点)ダンゼン優秀! この文章は、映画の詳細にかなり触れてます。 父親に捨てられ、孤児となった幼い女の子の物語。70年代の韓国が舞台。 公開当時岩波ホールでしかやってなくてパスしてた作... [続きを読む]

受信: 2011年1月18日 (火) 16:36

» 【映画】冬の小鳥 [【@らんだむレビューなう!】 Multi Culture Review Blog]
『冬の小鳥』(2009年・監督:ウニー・ルコント) 「これは本当に恥ずかしいことなのだけど…」と、在日韓国人の知人が話してくれたことがある。 かつて韓国では、自分の子どもを海 [続きを読む]

受信: 2011年1月29日 (土) 22:13

» 「冬の小鳥」は「少女版・大人は判ってくれ... [映画と出会う・世界が変わる]
「冬の小鳥」というタイトルから想像される内容を予想してはいけない。これは「少女版・大人は判ってくれない」と言ってもいい作品である。アントワーヌ・ドワネル少年と少女ジニに... [続きを読む]

受信: 2011年2月13日 (日) 00:39

» 冬の小鳥 [新・映画鑑賞★日記・・・]
【A BRAND NEW LIFE】 2010/10/09公開 韓国/フランス PG12 92分監督:ウニー・ルコント出演:キム・セロン、パク・ドヨン、コ・アソン、パク・ミョンシン、ソル・ギョング、ムン・ソングン 1975年、韓国。9歳のジニは、大好きな父に連れられ、ソウル郊外へとやって来...... [続きを読む]

受信: 2012年3月13日 (火) 14:51

« テレビ「田原総一朗の遺言」 | トップページ | 「ナイト&デイ」 »