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2010年12月31日 (金)

2010年を振り返る/映画界総括

21世紀も、10年が過ぎてしまった。早いものである。今年の最後に、2010年の映画界を総括して見ようと思う。

2010年は、「アバター」の大ヒットもあって、“3D元年”と呼ばれ、多くの3D映画が公開された。
私が本年に入って劇場で観た3D映画は以下の通り。
「コララインとボタンの魔女」(アニメ)、「アリス・イン・ワンダーランド」「タイタンの戦い」「トイ・ストーリー3」(アニメ)、「ヒックとドラゴン」(アニメ)、「THE LAST MESSAGE 海猿」「怪盗グルーの月泥棒」(アニメ)、「トロン・レガシー」

3Dの特性を生かした作品もあれば、別に3Dでなくても、と思えるような作品もある。
「ヒックとドラゴン」や、「トロン・レガシー」などは、さすがに立体性を生かした躍動感があって楽しめたが、「コララインとボタンの魔女」「THE LAST MESSAGE 海猿」などは、どこが3Dだったのかほとんど印象にない。2Dで十分だろう。

また「バトルロワイヤル・3D」のように、2Dで作られた過去の旧作をCG処理で3Dに加工する作品まで現れた。また、これまでは、3D版とあわせて2D版も並行して公開していたが、作品によっては、3D版だけしか公開しないというものも出てきた。
さらに、2011年には、時代劇「切腹」を、3Dでリメイクする、というニュースまで飛び込んで来ている。
ここまで来ると、さすがにどうかと思う。「切腹」は橋本忍脚本、小林正樹監督による格調高い名作で、これを、見世物の延長(と私は思っている)とも言うべき3Dで映画化する意味が分からない。上記作品群を見ても、ほとんどがファンタジー、SF、アニメであり、3Dは、せめてそうしたジャンルに留めるべきではないか。2011年は、3Dの意義について、もう一度考え直す年にすべきだと思う。

 
2010年の特徴としては、日本映画において、時代劇が数多く作られた点でも記憶に残る。

かつては、製作費がかかり過ぎる、という点で、時代劇製作が激減した時期があった。ここに来て時代劇が増えて来ているのは、時代劇ファンとしては喜ばしい事である。
さらに、昨年作られた時代劇は「GOEMON」「TAJOMARU」「カムイ外伝」と、ことごとくトホホなものばかりでガッカリしたものだが、本年は後半に「必死剣鳥刺し」「十三人の刺客」「武士の家計簿」「最後の忠臣蔵」と傑作、力作が目白押しで、時代劇復調を印象付けた。おそらくこれらは、各種ベストテンでも上位を賑わすものと思われる(「十三人の刺客」はヨコハマ映画祭ではベストワンに輝いた)。その他「花のあと」「桜田門外ノ変」も悪くなかった。

来年も時代劇はいくつか作られそうだが、企画を厳選して、質の高い作品を作っていただきたいと切に願う。前述の「切腹」がどんな出来になるか、「十三人-」の三池崇史監督だけに期待したいが、3Dは正直言って観る気は起きない。もっとも主演があの海老蔵だけに、違う話題を巻き起こしそうだが(笑)。

 
リメイク作品も邦洋問わず、相変わらず目立った。ざっと挙げただけでも、日本映画:「時をかける少女」「座頭市 THE LAST」「鉄男 THE BULLET MAN」「カラフル」「十三人の刺客」「死刑台のエレベーター」「ゴースト もういちど抱きしめたい」「SPACE BATTLESHIP ヤマト」
外国映画:「タイタンの戦い」「エルム街の悪夢」「イエロー・ハンカチーフ」「ベスト・キッド」「ロビン・フッド」
変わった所で、にっかつロマン・ポルノ「団地妻 昼下がりの情事」のリメイク、というのもあった。

「時をかける少女」、「座頭市」、「鉄男」はリメイクというより、コンセプトのみいただいてお話はオリジナル。そういうものなら洋画にも「シャーロック・ホームズ」があった。

結局は、オリジナル・アイデアが枯渇しつつあるという事なのだろう。また特徴としては、「死刑台のエレベーター」、「ゴースト」、「イエロー・ハンカチーフ」(オリジナルは「幸福の黄色いハンカチ」)と、邦洋のクロスバーターが目立った年でもあった。しかしどれも成功しているとは言いがたい。「死刑台のエレベーター」などは批評にも書いたが、携帯もハイテクもなかった時代でこそ成り立った話を無理に現代に持って来た為に破綻が生じてしまっている。
やはり映画は、その時代の空気を敏感に反映してこそ傑作が生れるのではないかと、強く思う。小説の世界では、オリジナルの傑作がどんどん作られているのだから、小説やアニメを原作に作品が作れる映画は、よりオリジナルを目指して欲しいと思う。

 
時代の空気と言えば、「告白」「悪人」の2本の映画が話題を振りまいた。この2本は、最近のヒット作品のパターンである、テレビ局の息が全くかかっていないにもかかわらず、大ヒットとなった。質的にも、多くの映画賞のトップを争っている。そして何よりこの2本をプロデュースしたのが、東宝の31歳の若手プロデューサー、川村元気氏であるという点が最大のポイントである。

題材としてはやや暗いうえに、アイドルスターが出演しているわけでもなく、企画としてはかなり冒険である。下手をすれば、ミニシアター系で細々と公開されても不思議はない。さらにテレビ局の支援や大量宣伝もない。
この状況で、若手監督を積極起用して、クオリティの高い作品に仕上げ、その質の高さを前面に出して、興行的にも大成功を収めた。これは、素晴らしい快挙である。

昔から、ベストテン上位作品は興行的に低調、興行上位作品は質的に低レベル、という状況が当り前であった。――なにしろ映画全盛時代ですら、大手映画会社の社長が「評論家が誉める映画は当ったためしがない」と嘯いていたくらいなのだから。

この2本は、そういった状況に風穴を開けた、と言えるのではないか。個人的には映画界十大ニュースのトップに挙げたいくらいである。川村プロデューサーの頑張り、それをバックアップした東宝上層部にも、故大沢親分ではないが、アッパレを差し上げたい。

 
一時は作品的にも興行的にも低迷し、興行収入において洋画に大きく水を開けられていた日本映画も、テレビ局バブルを通過して、ようやく本格的に復活した、と言えるのではないか。喜ばしい事である。

来年も、この調子を持続し、質の高い作品を作り、それを積極的にPRして興行的成功に結びつけ、“いい作品を作れば報われる”という風潮を定着させて欲しいと思う。

 
というところで、来年もよろしくお願いいたします。よいお年を。

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2010年12月30日 (木)

2010年を振り返る/追悼編

今年もあとわずか。早いものです。

今年は、年末にかけて、仕事がすごく忙しくなって、睡眠不足も重なり、映画はかろうじて観ているのですが、映画評を書こうと思っても、机に向かうと、睡魔が押し寄せて来て、全然筆が進まない状況です。映画を観ている時でも、途中で寝てしまう事も度々でした。

そんなわけで、12月はアップ出来た作品評がたったの2本。こんな時期に限って、見どころの多い秀作が重なっております。
正月明けには、何本か仕上げるつもりでおりますが、どうなることやら。

 
さて、今年1年を振り返ってみますと、私の好きな映画関係者で、亡くなられた方が多数おられます。一部はブログにも書きましたが、1年の締めくくりとして、ここでまとめて紹介したいと思います。

まず、映画俳優の方々。

Jeansimmons 1月22日 女優のジーン・シモンズさん 享年80歳
戦後すぐから活躍を始め、有名な所では、シネマスコープ第1号「聖衣」(53)、スタンリー・キューブリック監督の大作「スパルタカス」(60)、ウイリアム・ワイラー監督「大いなる西部」(58)等、錚々たる作品が並びます。

9月11日 ケヴィン・マッカーシー氏 享年96歳
多分、余程のB級映画ファンでもない限り、知る人は少ないかも知れませんが、ドン・シーゲル監督のSF映画の古典「ボディ・スナッチャー/恐怖の街」(56)の主演と言えばピンと来る人もいるはず。元々は舞台俳優で、映画化された「セールスマンの死」(51)ではアカデミー助演男優賞候補にもなったほど。近年はジョー・ダンテ監督作品の常連でした。

9月26日 グロリア・スチュアートさん 享年100歳
戦前から活躍している大ベテランですが、近年では忘れられた存在でした。が、ジェームズ・キャメロン監督の「タイタニック」(97)で、現在のローズを演じ、一躍名が知られました。

Tonycurtis 9月29日 トニー・カーティス氏 享年85歳  ビリー・ワイルダー監督「お熱いのがお好き」(59)が有名。他では「手錠のままの脱獄」(58)、「パリで一緒に」(63)等多数。私が好きなのはブレイク・エドワーズ監督「グレート・レース」(65)。歯がキラリ、と光る超二枚目役で笑わせてくれました。

以下、日本
4月27日 大ベテラン、北林谷栄さん 享年98歳
説明はいらないでしょう。代表作も多数ありますが、印象的なのは、市川崑監督「ビルマの竪琴」の56年版、リメイクの85年版の両方に同じ物売り婆さん役で出演して、ほとんど年齢差を感じさせなかった事、それと今井正監督作品に多く出演している点です。「キクとイサム」「喜劇・にっぽんのお婆ちゃん」「橋のない川」がとりわけ印象的でした。

今井正監督と言えば、「青い山脈」(49)。その作品に高校生役で出演し、一世を風靡したのが、10月8日に92歳で亡くなった池部良さん。
万年青年と呼ばれ、気品があり、「雪国」(57)等の文芸作品にも多く出演していますが、一方で高倉健主演「昭和残侠伝」シリーズ等の東映ヤクザ映画、石井輝男監督の抱腹絶倒コメディ・アクション「直撃!地獄拳」シリーズ、「宇宙大戦争」(59)、「妖星ゴラス」(62)、「惑星大戦争」(77)等の東宝特撮SF作品など、B級作品にも進んで出演するフットワークの軽さにも注目すべきでしょう。まさに万年映画青年でありました。

2月17日 藤田まことさん 享年76歳
9月16日 小林桂樹さん 享年86歳

共に著名な役者さんで、マスコミにも多く取り上げられました。このお二人の出演作で、私が大好きな作品があるのですが、どこも取り上げていなかったと思いますので、ここで紹介したいと思います。

それが奇しくも、2本立ての番組として東宝系で公開された、「首」「日本の青春」(共に68年)です。

Kubi 「首」は八海事件の弁護で知られる正木ひろし弁護士原作で、後に「八甲田山」「日本沈没」等の大作を手掛ける森谷司郎監督の初期の代表作(脚本・橋本忍)。この作品で主演の正木弁護士役を演じたのが小林桂樹さん。
これがなんとも強烈で、戦中でありながら、警察の取調べ中の暴行致死、今で言う“特別公務員暴行陵虐罪”を暴く為に正木弁護士が、墓を掘り起こし、埋葬された死体の首を切断し持ち帰るというショッキングな話。正義と真実の追究とは言え、今では考えられない行動です。無論実話。
警察の取調べ可視化や、正義の意味、が問われる現代、是非見直し、再評価すべき秀作と思うのですが、何故かビデオ、DVDも出ておりません。
「日本の青春」
は、遠藤周作原作で、名匠小林正樹監督の力作。当時コメディばかり出ていた藤田まことさんの、おそらく初めてのシリアス作品。戦中派男の、戦後の不器用な生き様を描いた作品で、地味な作りの故か、これもDVD化はされておりません。ちなみに、憎たらしい藤田の上官役を演じていたのが、5月2日に81歳で亡くなられた佐藤慶さんでした。
それにしても、よくまあこんな地味な2本立てを、東宝の全国チェーンで公開したものです。

監督に目を移しますと、
1月11日 エリック・ロメール氏 享年89歳
9月12日 クロード・シャブロル氏 享年80歳

共に、フランス・ヌーベルバーグの旗手。これでヌーベル・バーグ派の監督は、ジャン・リュック・ゴダールを除いては、ほとんど亡くなってしまいました。一つの時代が終ってしまったと言えるでしょう。

一つの時代と言えば、アメリカン・ニューシネマの代表作を作った、2人の名監督が相次いで亡くなりました。

5月29日 デニス・ホッパー氏 享年74歳
9月28日 アーサー・ペン氏 享年88歳

アーサー・ペンは、ヘレン・ケラーの少女時代を描いた「奇跡の人」(62)でも知られていますが、やはり映画ファンにとっては、ニューシネマの嚆矢、「俺たちに明日はない」(67)が忘れ難い。デニス・ホッパーは、これはもう「イージー・ライダー」(69)が最高作。以後も監督作は多数ありますが、「イージー・ライダー」に遠く及ばない。時代が生み出した奇跡の作品と言えるかも知れません。俳優としては、「地獄の黙示録」(79)、「スピード」(94)を挙げておきましょう。

あと外国映画監督としては
6月16日 ロナルド・ニーム氏 享年99歳。代表作「ポセイドン・アドベンチャー」(72)。

Brakeedwards 12月15日 ブレイク・エドワーズ氏 享年88歳。大抵の紹介では、A・ヘップバーン主演「ティファニーで朝食を」(61)を代表作としていますが、個人的には「ピンクの豹」(63)に始まる「ピンク・パンサー」シリーズが好きですね。とりわけ2作目「暗闇でドッキリ」(64)は楽しい快作。ただ4作目以降はヨレヨレになってしまいましたが(笑)。あと、前述の「グレート・レース」(65)、それと狂気と笑いの「地上最大の脱出作戦」(66)は知られざる秀作としてお奨めです。

日本映画でも、一時代を築いた人たちが相次いで亡くなりました。

2月11日 井上梅次さん 享年86歳
4月6日 西河克己さん 享年91歳
7月12日 松尾昭典さん 享年81歳

いずれも、日活映画の黄金時代を駆け抜けた人たちです。井上梅次さんは、石原裕次郎主演の諸作、とりわけ「嵐を呼ぶ男」(57)は社会現象を巻き起こしました。井上さんの功績は日本に留まらず、1963年からは香港に出向き、ショー・ブラザーズで「香港ノクターン」他多数の作品を手掛け、香港映画の発展にも寄与しました。

西河克己さんは、日活時代は傍流とも言える、和田浩治主演作を多く手掛けましたが、中でも楽しいのが西部劇のパロディ「俺の故郷は大西部」(60)。最後の”大川牧場の決闘”が笑えます。
日活退社後は、「伊豆の踊子」(74)に始まる、一連の山口百恵主演作で気を吐きました。

松尾昭典さんは、やはり裕次郎主演作「夕陽の丘」(64)、「二人の世界」(66)等で知られています。個人的には、裕次郎が難病の少年(子役時代の小倉一郎)を見守る「破れざるもの」(64)が隠れた代表作と言えましょう。

日活と言えば、「関東無宿」「刺青一代」「東京流れ者」等の鈴木清順監督の傑作を手掛けた美術監督の木村威夫さんも3月21日、91歳でこの世を去りました。晩年は映画監督としてもデビューし、「夢のまにまに」(2008)等を発表しました。

その他では、
4月2日 山内鉄也さん 享年75歳。代表作は東映集団時代劇の傑作「忍者狩り」(64)。

8月23日 川本喜八郎さん 享年85歳
8月24日 今 敏さん 享年46歳
9月11日 谷 啓さん 享年78歳
についてはブログに書きました。

俳優、監督以外の方については、簡単に紹介します。
2月1日 デヴィッド・ブラウン氏 享年93歳。映画プロデューサー。
リチャード・ザナックとのコンビでS・スピルバーグ監督の劇場デビュー作「続・激突/カージャック」(74)と、大ヒット作「ジョーズ」(75)を手掛けた事で知られています。スピルバーグを世に送り出した功績は大でしょう。

7月31日 ミッチ・ミラー氏 享年99歳。ミッチ・ミラー合唱団リーダー。名前を知る人も少なくなりましたが、「戦場にかける橋」の主題歌「クワイ河マーチ」、「大脱走」のテーマ、「史上最大の作戦」のテーマ等、映画音楽のヒット作が多数あります。テレビ番組「ミッチと歌おう」も忘れ難い。

2月8日 立松和平さん 享年62歳。小説家。映画化された作品「遠雷」(80)、「光の雨」(2001)。
4月9日 井上ひさしさん 享年75歳。小説家、戯曲家。映画ファンとしては、テレビ人形劇「ひょっこりひょうたん島」、アニメ「長靴をはいた猫」(69)の脚本家としての方が愛着があります。
7月10日 つかこうへいさん 享年62歳。劇作家。やはり「蒲田行進曲」(82)でしょうが、若松孝二監督「寝盗られ宗介」(92)も手掛けています。もっと映画脚本を書いて欲しかった。

 
本当にどなたも、思い起こすと映画の名シーンが目に浮かびます。

慎んで哀悼の意を表します。  合掌。

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(12/31追記)
大晦日に、訃報が舞い込みました。

12月28日、高峰秀子さんが、肺がんの為、亡くなられました。享年86歳でした。

凛とした生き方を貫き、最近もその生き方をまとめた、斉藤明美さん著「高峰秀子の流儀」がベストセラーとなりました。

代表作は沢山あります。「馬」、「銀座カンカン娘」、「二十四の瞳」、「カルメン故郷に帰る」、「浮雲」、「名もなく貧しく美しく」、「流れる」、「女が階段を上る時」、「恍惚の人」…どれも忘れられない名作揃いです。晩年は「わたしの渡世日記」等、文筆家としても活躍しました。

つい最近、「名もなく貧しく美しく」を見直した所です。これは小林桂樹さん追悼のつもりで見たのですが、思えばこの作品に主演したお二人が、同じ年に亡くなられたわけですね。

テレビ局は、是非正月から、追悼番組として上記の名作を放映すべきです。何度見ても素晴らしい名作ばかりです。

慎んで、ご冥福を祈ります。

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2010年12月19日 (日)

「SPACE BATTLESHIP ヤマト」

Sbyamato2010年・日本/セディック・ROBOT=東宝
監督・VFX:山崎貴
原作:西崎義展
脚本:佐藤嗣麻子

1974年にテレビ放映され、当初は低視聴率だったものの根強いファンの後押しでジワジワと人気が上昇し、社会現象にまでなったSFアニメ「宇宙戦艦ヤマト」の実写映画化。監督は「ALWAYS 三丁目の夕日」で名を上げた山崎貴。

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2010年12月12日 (日)

「武士の家計簿」

Bushinokakeibo 2010年・日本/配給:アスミック・エース、松竹
監督:森田芳光
原作:磯田道史
脚本:柏田道夫

古文書「金沢藩士猪山家文書」の中に残されていた家計簿を分析し、幕末の武士の暮らしを読み解いた磯田道史による教養書「武士の家計簿 『加賀藩御算用者』の幕末維新」を元に、武士の生活ぶりを丁寧に描いた心温まる秀作。監督は時代劇が「椿三十郎」以来2作目となる森田芳光。

この所、時代劇が立て続けに作られているが、本作はそんな中で、“チャンバラ”アクションが全く登場しない風変わりな異色作。原作が小説ではなく、学術書である点も異色だが、下級武士の、(おおよそ剣の道とは無縁の)家計・財政・教育に主眼を置いた日常生活描写だけで全編が構成されている点もまた異色である。着眼点がいい。

主人公・猪山直之(堺雅人)は、代々御算用者(ごさんようもの・会計処理の専門家)として加賀藩に仕えて来た猪山家の八代目。だが、一家の借金が膨らみ、家計が破綻寸前であることを知るや否や、強力なリーダーシップを発揮、家財道具を売り払い、質素な倹約生活を実行することになる。

いかにも森田流の、ユーモラスでトボけた味の展開が楽しい。直之の母(松坂慶子)が愛着のある着物を手放したくないと駄々をこねたり、息子の着袴の祝いに親戚一同を招いた時、祝い膳にのせる塩焼き用の鯛が買えず“絵鯛”で代用したり…。全員が鯛の絵を持って廊下を歩くシーンが笑える。新妻の駒(仲間由紀恵)が、ポジティブな性格で明るく振舞えば、おばばさま(草笛光子)はどんな時も泰然と構えて、それぞれが、ともすれば暗くなりがちな一家、だけでなく物語全体の光明になっている。
また直之は、息子の成之に、そろばんや論語などを厳しく教え込む。それが、今だけでなく、将来にわたって猪山家を守って行く道と確信しているからだろう。

この、凛とした直之の生き方には心打たれる。

さまざまなエピソードが、ことごとく、閉塞感漂う現代の日本社会に対する教訓や示唆に富んでいて、考えさせてくれる。

役人の不正に、それを正す事の困難さ、子供の教育、本筋である財政再建…、そして何より、反撥や抵抗があろうとも、信念を持って突き進むトップの強力なリーダーシップの必要性、これに尽きるだろう。ぶれない信念とリーダーシップがあれば、“痛みを伴う改革”でも家族(国民)は甘受してくれるのである。

 
直之を演じた堺雅人がいつもながら見事な存在感を示す。軽いようでいて、実は揺るがぬ信念で家族を守る直之を演じられるのは、今の時代、彼しか思いつかない。その妻を演じた仲間由紀恵も、当初の猪山家の実情に対するとまどいと、やがて夫にどこまでもついて行こうと心に決める芯の強さとを絶妙のバランスで表現。「…と言ったら、どうなさいます?」というセリフの反復が楽しい。
その他、母の松坂慶子、父の中村雅俊、おばばさまの草笛光子も、それぞれに的確でユーモラスな助演ぶりが光る。

脚本(柏田道夫)も見事。あの学術書から、こんな心温まる素敵な物語を紡ぎ出した力技に脱帽。あまり名前を聞いた事のない人だが、小説家と舞台劇作家としてはベテランの部類だという。今後の活躍も期待したい。

そして何より、森田芳光の演出である。ここ数年は「海猫」「サウスバウンド」「椿三十郎」等、今ひとつな出来の作品が続いて我々ファンを落胆させていたが、本作では全く久しぶりに、見事な演出ぶりを見せている。森田の最高作と言えば「家族ゲーム」(1983)だが、本作はそれに次ぐ力作である。奇しくも、どちらも“家族”に関するドラマであるのが興味深い。そして「家族ゲーム」と言えば映画史に残る、“横一列の食事風景”が忘れられないが、なんと、本作のチラシにも、横一列の家族の食事シーンが登場している(下)。これは偶然か、意図しての事か。

Bushinokakeibo2

いずれにせよ、森田監督の久々の本領発揮に、胸が熱くなった。これからも、この調子を落さず、日本映画に活を入れて欲しいとエールをおくっておこう。    (採点=★★★★☆

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(さて、お楽しみはココからだ)

“武士の日常生活”という本作のテーマを聞いて思い出すのが、黒澤明監督の傑作「七人の侍」が誕生するまでのエピソードにまつわる話である。

脚本家・橋本忍氏の著書「複眼の映像-私と黒澤明」には、その経緯が詳しく書かれている。

黒澤明は、「生きる」(1952)の次回作として、「侍の一日」を描こうとした。―朝、侍が起き、支度をして登城し、城の勤めをし、些細な失敗で夕刻、切腹するまでの話である。テーマは、侍の日常生活を、徹底したリアリズムで描こうとするもので、橋本忍が膨大な文献を読み漁って武士の日常生活を調べた。

だが、侍がどんな日常を送っていたかの資料はほとんどなく、中でも、当時の侍は、弁当を家から持参していたのか否かという点が問題になった。シナリオでは、弁当を持参するという設定で書かれたのだが、東宝文芸部員を総動員して調べた結果、徳川時代前期には、まだ1日2食で、弁当を持参する習慣はなかったらしい事が判明する。橋本忍は苦渋の末に、このシナリオを没にする事を決断する。“リアリズムを主眼にした以上、ウソは書けない”という信念に基づくものである。さすがは我が国最高峰の名脚本家・橋本忍ならではである。

橋本忍は黒澤に語る。「日本の歴史は事件の歴史です。…しかし、人間が飯を食うとか、風呂に入るとか、そんな生活に関することには、正確な歴史は一行も触れていない」 「我が国には事件の歴史はある。しかし、生活の歴史はないんです!」

こうして、「侍の一日」の企画は闇に葬られる。…しかしその侍に関する文献収集の苦労が、後の「七人の侍」創作に生かされる事となる。

本作では、朝、妻たちが夫に弁当を渡すシーンが何度か登場し、昼に弁当をパクつくシーンもある。江戸時代末期という事もあり、また「金沢藩士猪山家文書」のような古文書も発見されたりで、「侍の一日」が企画された57年前よりは、“生活の歴史”に関する資料はかなり揃うようになって来ているのではないか。

そういう意味でも、“武士の日常生活”を描いた本作の登場は意義深い。橋本忍氏が本作を観たなら、どう思うだろうか。

奇しくも、本作のエグゼクティブ・プロデューサー、原正人氏は、黒澤監督の「乱」、黒澤明の遺稿「雨あがる」(小泉堯史監督)をプロデュースした人でもある。森田も「椿三十郎」のリメイクを手掛けており、本作と黒澤明作品とは、いろんな点で繋がっているようである。

 

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