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2011年1月23日 (日)

「キック・アス」

Kickass2010年・米=英/配給:カルチュア・パブリッシャーズ
原題:Kick-Ass
監督:マシュー・ボーン
脚本:マシュー・ボーン、ジェーン・ゴールドマン
原作:マーク・ミラー、ジョン・S・ロミタ・Jr.

マーク・ミラー原作の同名コミックを、「スターダスト」のマシュー・ボーン監督が映画化したアクション・コメディの快作。

アメコミ・ヒローものはこれまで無数に作られて来たが、いずれもスーパー・パワーを持っているか、強力な武器(又はスーツ)を持っており、それらを利用して悪と闘う…。カッコいいし、勧善懲悪、というパターン通りで多くのアメコミ・ファンの支持を得て来た。

だが、それらはコミックの世界における、荒唐無稽とでも言うべきフィクションであって、現実世界では、我々はスーパー・パワーを持たないし、巨額の費用がかかる武器やパワード・スーツを用意する事も出来ない。
現実世界では、ヒーローにあこがれ、ヒーローになりたいと思っても、実現は不可能なのだ。

この物語の主人公であるディヴ(アーロン・ジョンソン)は、ヒーロー・オタクで、ヒーローになりたいと思い続け、とうとう自分でヒーローになろうとする。
だがスーパー・パワーも金もないディヴが用意出来るのは、通販で買った(!)ヒーローのコスチュームだけである。

当然ながら、コスチュームをまとっただけではパワーは得られない。街に出て悪(といってもチンピラ程度だが)に立ち向かうものの、ボコボコにされ、車にはねられ、散々な目に会う。

夢と現実とはまったく違うものである。夢を見続けたディヴは、夢を実現しようとして、手痛いしっぺ返しをくらってしまうのである。

これは、ディブが抱く疑問「誰もがスーパーヒーローを好きなのに、なぜ、誰もスーパーヒーローになりたがらないのか」に対する、残酷な回答である。
普通の人間は、空想と現実とは異なるものだと知っているからである。映画を見たり、コミックを読んでいる間は空想世界に浸り切っているが、終われば人は元の現実世界に戻って行くのである。
“虚”と“実”は表裏一体なれど、境界は越えられない。

コメディに見えて、この映画はかなり哲学的なテーマを持っているのである。

だが、それでもディヴはあきらめない。再びコスチューム姿で街に出たディヴは、曲がりなりにもチンピラと戦い、その姿がユーチューブにアップされて、少しづつヒーローの世界に近付いて行く。

ここで登場するのが、ビッグ・ダディ(ニコラス・ケイジ)とヒット・ガール(クロエ・グレース・モレッツ)である。
元警官で、悪の総元締めであるフランコによって罠に嵌められた過去があるビッグ・ダディは、11歳の娘ミンディを幼い時から徹底して、殺人マシンとして育て上げる。
ご丁寧に、本人はバットマンのコスチュームを身に付け、娘には相棒のロビンによく似たコスチュームを着させている。…尤も、パープルヘアーにスカートと、少女らしさを取入れてはいるが。

この展開が、本作のユニークな所である。実は、この映画自体が“虚”の、空想の世界である事に観客はやっと気付く。
ディヴのキャラクターは、我々と同じ現実世界に近い存在であったはずである。そして当初は現実世界の中だけで活動していたのが、やがていつの間にか不思議の国のアリスよろしく、空想との境界に入り込んでしまうのである。

ヒット・ガールの活躍ぶりは、11歳の少女とは思えない、あり得ないムチャクチャさで、荒唐無稽と言っていい。

この世界で、自身はまだ何の能力もパワーも身に着けてはいないけれど、ディヴはヒーローとは何か、ヒーローになる為には、どれだけの血の滲む努力をしなければいけないかを学んで行き、男として成長して行くのである。

ラストでヒット・ガールは、父の仇を取るべく、「キル・ビル」のブライドよろしく敵のアジトに殴り込んで行く。
この戦いのシークェンスは、ジョン・ウーの香港ノワールから西部劇に至るまで、いろんなアクション映画のエッセンスが詰め込まれている。ここらも見どころである。

そして、ヒット・ガールがピンチになった時、ディヴは颯爽と現れ、ガトリング砲で敵をなぎ倒して行く。

戦い終わり、傷ついたヒット・ガールを抱え、ディヴはまさにヒーローとして(スーパーマンのように空を飛んで)去って行くのである。

これは、ヒーローにあこがれ、ヒーローを夢見た男が、さまざまな試行錯誤や苦闘の末に、現実の壁を乗り越え、本物のヒーローに成長して行く物語なのである。

三池崇史監督の「ゼブラーマン」とも、テーマは共通している。見比べるのも面白いだろう。

ヒット・ガールに扮したクロエ・グレース・モレッツが最高にキュートでカッコいい。女で、子供という、本来は二重に庇護されるべき、か弱い存在が大の男をバッタバッタなぎ倒すから、余計カッコいい。ディブに扮するアーロン・ジョンソンは「ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ」でジョン・レノンを演じた人。見事な変わりようである。アメコミ大好きのニコラス・ケイジも楽しそうにビッグ・ダディを演じている。その他悪役もみんな役に嵌ってお見事。

スカッとするアクション映画の快作であるが、ヒーロー論映画としても考えさせられる問題作である。お奨め。    (採点=★★★★☆

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(さて、お楽しみはココからだ)

ヒット・ガールの敵陣殴り込みシーンで、クリント・イーストウッド主演「夕陽のガンマン」のテーマ曲が流れる。
そこから思い起こせば、この殴り込みシークェンスには、イーストウッド映画、並びにさまざまな西部劇からの引用が見て取れる。

例えば、少女が危地に陥った時、颯爽とヒーローが助けに駆けつける、というパターンでは、イーストウッド監督・主演の「アウトロー」がある。少女を演じたのはソンドラ・ロック。
イーストウッドの極めつけ「ダーティ・ハリー」の3作目では、チビだけど負けん気の強い女性刑事(タイン・デイリー)を助け、そしてラストでは、犯人に向かって、バズーカ砲をぶっ放すのである。

ディヴが後から駆けつける時に乱射するガトリング・ガンも古い兵器で、西部劇でよく使われるものである。特にマカロニ・ウエスタンに多い。

少女を助ける西部劇と言えば、近々コーエン兄弟がリメイクする「トゥルー・グリット」のオリジナル、「勇気ある追跡」では、御大ジョン・ウェインが少女キム・ダービーを助けて活躍する。

ジョン・ウェインつながりでは、ジョン・フォードの西部劇の傑作「捜索者」では、9歳の時に誘拐された娘をウェインが執念で追いかける。そしてこれは山田宏一さんの指摘だが、ラストでウェインは数年ぶりにやっと見つけた少女を抱き上げ「家へ帰ろう」というのだが、このセリフ、ディブが最後にヒット・ガールを抱いて帰る時につぶやくセリフと同じなのである。

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2011年1月17日 (月)

「海炭市叙景」

Kaitanshijokei2010年・日本/配給:スローラーナー
監督:熊切和嘉
原作:佐藤泰志
脚本:宇治田隆史

1990年に、41歳の若さで自ら命を絶った不遇の作家・佐藤泰志の連作小説を、原作者と同じ北海道出身、「ノン子36歳(家事手伝い)」の熊切和嘉監督が映画化。

舞台となるのは、佐藤の故郷である函館をモデルにした架空の地方都市“海炭市”。原作はこの街で暮らす市民たちの生活を淡々と描いた、18編からなる連作短編小説。映画は、その内から5編を選び、巧みに人物を交差させつつ、オムニバス風に綴っている。

描かれる物語は、①造船所のリストラで解雇され、初日の出を見に行く兄妹(竹原ピストルと谷村美月)、②立ち退きを迫られつつも頑固に拒否する一人暮らしの老婆(中里あき)、③プラネタリウムで働いているが、水商売の妻(南果歩)の不貞と、会話のない息子との生活に悩む中年男(小林薫)、④妻の子供への虐待に苛立つ燃料店の若い社長(加瀬亮)、⑤帰郷しても家に立ち寄らない息子と深い溝が出来ている市電の運転士(西堀滋樹)…の5つのエピソード。

原作は、1988年から90年までの2年間に書かれたものだが、作者の死により未完となっている。映画は時代を現代(2009年末)に置き換えているが、前述した5編の物語の梗概を読めば分かる通り、テーマは、不況によるクビ切り、一人暮らしの孤老、家庭崩壊、児童虐待、親子の断絶…と、今の時代が抱える(と言うより、ここ数年顕著になった深刻な問題ばかりである。

1988年と言えばバブル崩壊前、日本はまだまだイケイケで元気な時代だったはずである。そんな時代に、まるで作者の死後20年間の、いわゆる“失われた20年”を経過して、どんどんダメになって行った今の日本の閉塞状況を、佐藤泰志はまるで予感していたかのようである。
今の時代になって、改めて原作が注目されている(絶版になっていたが、最近文庫で復刊)のは、原作がそうした、時代を超えた普遍性を保っているからなのかも知れない。作者が自死したのが惜しまれてならない。

映画もまた、原作再評価の機運の中で、函館市民の有志が企画し、多くの市民の協力によって作られた。また谷村美月、加瀬亮、村上淳、小林薫、南果歩などの実力派俳優が企画に賛同し、結集したというのも素敵な事である。

この映画で描かれる物語は、どれも悲しく、厳しく、出口がないように見える。
だが、それでも人々は懸命に、あるいは逞しく生きている。ラストで、市電に乗り合わせる主人公たちは、希望を求め、来るべき新年に向かって歩もうとしているのだろうか。先は見えずとも、探し続ければ、希望はどこかに見えて来るのかも知れない。
姿が見えず、あきらめかけていた所に戻って来た猫を、優しく抱く老婆の姿をエンドにもって来たのも、あきらめないで、希望を捨てないで、という作者のメッセージなのかも知れない。

熊切和嘉の演出は、庶民の暮らしぶりをドキュメンタルな視線で丁寧に捕らえており、冒頭の進水式のダイナミックな映像に始まり、寒空の下の町の光景を経て、ラストの吹きすさぶ船のデッキに立ち尽くす、市電の運転士の息子の姿に至るまで、対象をじっと凝視する視線に揺るぎはない。前作「ノン子36歳(家事手伝い)」でも見せた、地方都市に暮らす人々の生活と空気感をリアルに捕らえる演出はさらに磨きがかかり、風格さえ漂って来ている。見事。

熊切和嘉監督と言えば、大阪芸大の卒業制作で、残酷グロ描写で物議をかもした「鬼畜大宴会」(97)を撮った人なのだが、時を経てここまで一流監督に成長するとは、誰が予想しただろうか。次回作も期待したい。

ちなみに、大阪芸大出身の映画監督には、「天然コケッコー」等の山下敦弘、「ぐるりのこと。」の橋口亮輔、「川の底からこんにちは」の石井裕也などがおり、本作の脚本を担当した宇治田隆史も同大学出身。多士済々である。 (採点=★★★★☆

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2011年1月 9日 (日)

「最後の忠臣蔵」

Saigonochuusingura2010年・日本/配給:ワーナー・ブラザース
監督:杉田成道
原作:池宮彰一郎
脚本:田中陽造

池宮彰一郎の連作小説集「四十七人目の浪士」に所収の「最後の忠臣蔵」を、TVシリーズ「北の国から」で知られる杉田成道監督により映画化。

吉良邸討入りから16年後。赤穂浪士の一人でありながら、ある使命を帯びて今日まで生き延びていた寺坂吉右衛門(佐藤浩市)は、京都で、討ち入り前夜に逃亡したとされていた瀬尾孫左衛門(役所広司)に巡り会い、瀬尾の逃亡の真相を知る。

前記の池宮氏の小説は4部作からなり、基本的には“四十七人目の浪士”である寺坂吉右衛門の、後半生を辿ったお話である。
浪士の一人として討入りに参加しながら、泉岳寺到着直前に姿をくらまし、その後も生き延びていた吉右衛門の生涯は謎に包まれている。
池宮説では、大石の厳命を受け、事件の生き証人となる事、並びに浪士の遺族たちの面倒を見るという使命を果たす為だったとしている。そして、“侍として生き続ける事の辛さ”を更に際立たせる為、最終章において、やはり大石の密命を帯びて生きていた瀬尾孫左衛門と再会し、その壮絶な生き様、死に様を目撃する事となるのである。

つまりはこの小説は、寺坂吉右衛門が主人公であり、瀬尾孫左衛門はむしろサブキャラクターである。孫左衛門は討入りの2日前に逐電したとされ、一般的には卑怯者の烙印を押されているが、本書では、実は吉右衛門と同様、大石の密命を受けていたとし、むしろ立派なサムライであった、という汚名返上の物語にしている。…ただ、史実では孫左衛門は討入りの数年後に出家し、剃髪して休真と改名したそうだから、この話は池宮氏による、全くのフィクションである。

で、映画は、小説のうちの最終章の部分だけに絞っているのだが、これが成功しており、感動的な秀作となった。

(以下ネタバレあり)

孫左衛門は、討入りの直前、大石内蔵助(片岡仁左衛門)に呼ばれ、愛人である可留を見守り、可留が身篭った子供を立派に育てるようにとの密命を受ける。
侍である以上、仕える主人の命令もまた絶対であり、守らなければならない。「誰にも言ってはならない」と厳命された以上、逐電した卑怯者の汚名も被らねばならない。赤穂浪士の一人として、死に場所を得ていたはずの孫左衛門は、心ならずも生き続けて、使命を果たさねばならない。実に辛い事である。

物語は、やがて美しく成長し、16歳になったその娘、可音(桜庭ななみ)が豪商の家の息子に見初められ、晴れて嫁ぐ事となり、すべての使命を終えた孫左衛門の壮絶な自刃で締めくくられる。

“武士道とは、死ぬ事と見つけたり”…武士は、いかに美しく死ぬか、その事だけを求めて生きていると言える。「十三人の刺客」(ちなみにこれも池宮彰一郎原作)でも、刺客たちは侍としての死に場所を見つけた事を喜んでいた。
それだけに、死ぬ覚悟を決めていた孫左衛門にとっては、恥を忍び生きる事は、死ぬ事よりも辛い。

だが、最後に、手塩に掛けて育てた可音が、内蔵助に命ぜられた通りに、申し分のない娘に成長し、これ以上ない格式のある家に嫁ぎ、さらには卑怯者と罵っていた赤穂の生き残り浪士たちの誤解も解け、孫左衛門は晴れがましい気持で心が充たされて行く。
もうこれ以上、何の望みがあろうか。…孫左衛門は今度こそ、何の悔いもなく、主人の後を追って死ぬ決心をするのである。

赤穂の生き残り浪士たちが、次々と行列に加わって、最初は寂しかった花嫁行列が、次第に荘厳で華やかな行列になって行くシーンはこの映画の白眉である。彼らもまた、侍でありながら、大石たちのような死に場所を見つけられずに生き延びて来た人たちなのである。その彼らが可音を見守るという事は、実は重要な意味を持っている。

池宮彰一郎の代表作を映画化した「四十七人の刺客」(池上金男こと池宮氏も脚本チームに参加)のラストは、内蔵助の愛人、可留(宮沢りえ)の、「旦那さん、お帰りやすの」という科白で締めくくられる。そのお腹には、内蔵助が宿した命(後の可音)が息づいている。
これは、内蔵助たち四十六人の浪士は死に行くけれども、その魂は可留の体の中に引き継がれている事を示している。

言わば、可音は、その亡き浪士たちの魂の象徴なのである。可音を見守るという事は、亡き浪士たちの魂を敬い奉る事にも繋がるのである。内蔵助がそこまで望んでいたわけではないだろうが、可音の花嫁行列に赤穂の浪人たちが参列出来た事は、孫左衛門にとっても、主人の命令を最高の形で達成できた事になるのである。

その意味では、この映画は同じ池宮彰一郎の「四十七人の刺客」と繋げて観る(あるいは読む)べきである。池宮忠臣蔵の物語は、この瀬尾孫左衛門の壮絶な死をもってようやく完結する。文字通り“最後の忠臣蔵”なのである。

 
もう一つ、この映画のポイントは、“思いの大切さ”である。登場人物の誰もが、人を思い、それを大事にしている。

可音は、育ててくれた孫左衛門に思いを寄せている。が、それは叶わぬ思いである。別れの前日、可音の願いに、孫左衛門は可音を強く抱きしめる。このままずっとこうしていたい。その思いに観客は涙する。
また婚礼の後、同じく
孫左衛門に密かに思いを寄せていた、元島原の太夫・ゆう(安田成美)も初めて孫左衛門に思いを告白する。隣の部屋には床まで用意されている。
だが、
孫左衛門の思いは、死んでいった同士たちに向いている。それは16年経った今も途切れる事はない。彼女たちの思いを受け止めながらも、あえて撥ね退け、武士としての大義を貫き通す孫左衛門の思いの強さにも、涙を禁じ得ない。

そして、主君を思い続ける赤穂浪士たちの心。死んでいった四十六人も、生き残った浪士たちも、思いは同じである。何十年経とうとも、思いの深さは変わる事がない。

この映画に我々が感動するのは、人が人を思い続ける、その心の大切さ、報われないと知りつつも、それでも思いを止められない、人の心の悲しさ、せつなさがきちんと描かれているからではないだろうか。

浄瑠璃「曽根崎心中」の場面が何度もインサートされるのも、その物語が、思い焦がれつつも、決して現世では成就出来ない恋人たちの、思いの儚さを描いているからだろう。

 
なお、一部に誤解されている向きもあるが、寺坂吉右衛門と瀬尾孫左衛門は、共に赤穂・浅野家の直接の家臣ではない

寺坂吉右衛門は、浪士の一人、吉田忠左衛門の組下の足軽であり、瀬尾孫左衛門は、大石家の用人である。
分かり易く言うなら、現代で例えるなら、孫左衛門は浅野産業の重役・大石良雄のお抱え運転手のようなものである。給料は浅野産業からでなく、大石家から出ているわけである。だから、会社が潰れたからと言って、その会社に義理立てする必要は全くない。吉右衛門も同様。

この事が、実は重要なポイントである。二人とも、本来は討入りに加わる資格も義理もないのだが、主人(忠左衛門並びに内蔵助)が討入りの中心人物である為、志願して特別に浪士に加えてもらっているだけである。

「四十七人の刺客」を読めば分かるが、内蔵助は浪士たちを、出来るだけ多く生き延びさせようと腐心している。脱命者が出ても咎めない。また浪士の遺族たちが生活に困って盗み、あるいは餓死しないよう細心の配慮をしたとされている。吉右衛門に与えた使命もそこにある。

そうした心配りをする内蔵助の事だから、討入りに加わりたい孫左衛門を、なんとか死なせないようにと配慮するのは当然である。

孫左衛門に、可音を立派に育てるようにと命令したのは、その事も大事だが、孫左衛門に、死なずに生き延びて欲しいという願いがあったのではないだろうか。単に子供を育てるだけなら、乳母を雇うか、誰か親類の女性宅に預ける方が無難である。

だが、用人とはいえ、孫左衛門も肝の据わった武士であり、16年経っても、その武士の心を忘れなかった事は内蔵助の誤算だったかも知れない。

いずれにせよ、これは侍としての使命に生き、侍らしく死んだ瀬尾孫左衛門の美しくも悲しい物語である。日本人であるなら、そのサムライとしての凛とした生き様に涙を禁じ得ないだろう。彼こそ、“ラスト・サムライ”と呼ぶのに相応しい。

 
田中陽造のシナリオがいつもながら見事。前作「ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~」でも素晴らしい仕事ぶりを見せたが、本作でも格調高い名シナリオを書き上げた。ベテランの仕事は、安心して見ていられる。

黒澤明もこう言っている。“素晴らしい脚本からは誰が演出しても傑作が生まれるが、ダメな脚本はどんな名匠が演出してもダメな作品にしかならない”。シナリオこそ映画の命である。若い脚本家の方は肝に命じて欲しい。

杉田成道監督の演出も、堂々たる風格があり、見応え十分であるが、それはこの名シナリオによる所が大きいだろう。
その他、大ベテラン、西岡善信の美術、長沼六男の撮影、黒澤和子の衣裳、他スタッフの、いずれをとってもプロの仕事ぶりに心打たれる。これぞ本物の映画。傑作である。

 
ただ、原作ファンには、本来の主人公である寺坂吉右衛門が脇役になっている点が少々不満かも知れない。寺坂吉右衛門の数奇な生涯(66歳‐一節には83歳-まで生きたといわれている)は、また別の機会にきちんと描いて欲しいものである。     (採点=★★★★☆

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2011年1月 4日 (火)

2011年度・鑑賞作品一覧

2011年度鑑賞の新作映画のタイトルと、採点です。 (随時追加)
タイトルをクリックすれば、リンク先に飛びます。リンクがないものは未掲載です。

  タイトル 採点
1月 シュレック・フォーエバー (3D) ★★★
アンストッパブル ★★★★
海炭市叙景 ★★★★☆
バーレスク ★★★★
ゲゲゲの女房 ★★☆
しあわせの雨傘 ★★★★
ソーシャル・ネットワーク ★★★★☆
僕と妻の1778の物語 ★★★
ウッドストックがやってくる ★★★★
完全なる報復 ★★☆
愛する人 ★★★★
RED ★★★★
2月 GANTZ ★★★☆
Ricky リッキー ★★★★
白夜行 ★★★☆
冷たい熱帯魚 ★★★★★
ザ・タウン ★★★★
あしたのジョー ★★★☆
君を想って海をゆく ★★★★
毎日かあさん ★★★★
ヒア アフター ★★★★☆
太平洋の奇跡 フォックスと呼ばれた男 ★★★
ソウル・キッチン ★★★★
男たちの挽歌 A BETTER TOMORROW ★★★
英国王のスピーチ ★★★★★
3月 MAD探偵 7人の容疑者 ★★
再会の食卓 ★★★★
ツーリスト ★★★☆
アンチクライスト ★★★★
塔の上のラプンツェル (3D) ★★★★☆
ランナウェイズ ★★★☆
トゥルー・グリット ★★★★☆
ブンミおじさんの森 ★★★☆
漫才ギャング ★★★★
ランウェイ☆ビート ×
ザ・ファイター ★★★★
平成ジレンマ ★★★☆
4月 わたしを離さないで ★★★★☆
津軽百年食堂 ★★★★
ファンタスティックMr.Fox ★★★☆
サラエボ 希望の街角 ★★★★
イリュージョニスト ★★★★☆
SOMEWHERE ★★☆
ビー・デビル ★★★
エンジェル・ウォーズ ★★★★
ダンシング・チャップリン ★★★★☆
攻殻機動隊 S.A.C. Solid State Society 3D ★★★★
ガリバー旅行記 ★★★☆
アメイジング・グレイス ★★★★
少年マイロの火星冒険記 (3D) ★★★
阪急電車 片道15分の奇跡 ★★★☆
5月 八日目の蟬 ★★★★★
GANTZ PERFECT ANSWER ★★
まほろ駅前 多田便利軒 ★★★☆
アンノウン ★★★★
岳 -ガク- ★★★★
ブラック・スワン ★★★★☆
スコット・ピルグリムVS邪悪な元カレ軍団 ★★★
大木家のたのしい旅行 新婚地獄篇 ★★★★
アウェイク ★★★☆
ミスター・ノーバディ ★★★★
少女たちの羅針盤 ★★★☆
ザ・ホークス ハワード・ヒューズを売った男 ★★★★
アジャストメント ★★★★
プリンセス・トヨトミ ★★★☆
6月 マイ・バック・ページ ★★★★☆
メアリー&マックス ★★★★
クロエ ★★★★
手塚治虫のブッダ ★★★☆
木洩れ日の家で ★★★★☆
さや侍
奇跡  (2011) ★★★★☆
スカイライン-征服- ★★
東京公園 ★★★★
アリス・クリードの失踪 ★★★★
SUPER8/スーパーエイト ★★★
デンデラ ★★★★
127時間 ★★★★☆
7月 あぜ道のダンディ ★★★★
バビロンの陽光 ★★★★☆
小川の辺 ★★★☆
からっ風野郎  (1960) ★★★★
パイレーツ・オブ・カリビアン 生命の泉 ★★★
憂国  (1966) ★★☆
ハングオーバー!! 史上最悪の二日酔い、国境を越える ★★★☆
コクリコ坂から ★★★☆
大鹿村騒動記 ★★★★☆
ビューティフル ★★★★
蜂蜜 ★★★★☆
ラスト・ターゲット ★★★☆
ムカデ人間 ★★★☆
モンスターズ/地球外生命体 ★★★★
デビル ★★★
ツリー・オブ・ライフ ★★★★☆
8月 カーズ2  (3D) ★★★☆
導火線 FLASH POINT ★★★★
黄色い星の子供たち ★★★
トランスフォーマー ダークサイド・ムーン ★★
この愛のために撃て ★★★★☆
スーパー! ★★★★

こちら葛飾区亀有公園前派出所 THE MOVIE ~勝どき橋を封鎖せよ!~

★★
一枚のハガキ ★★★★☆
カンフー・パンダ2  (3D) ★★★★
エッセンシャル・キリング ★★★★☆
モールス ★★★★
シャンハイ ★★
未来を生きる君たちへ ★★★★☆
ピラニア 3D ★★★★
ハンナ ★★★☆
9月 二人のヌーヴェルヴァーグ ゴダールとトリュフォー ★★★★
神様のカルテ ★★★★
サンザシの樹の下で ★★★★☆
探偵はBARにいる ★★★★☆
日輪の遺産 ★★★
復讐の歌が聞える (1968) ★★★
アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事! ★★★
世界侵略:ロサンゼルス決戦 ★★★★
アジョシ ★★★★★
スパイキッズ4D:ワールドタイム・ミッション ★★☆
スリーデイズ ★★★★
ミケランジェロの暗号 ★★★★
セカンドバージン ×
ザ・ウォード 監禁病棟 ★★★★
ペーパーバード 幸せは翼にのって ★★★★
10月 僕たちは世界を変えることができない。 ★★★★☆
エンディングノート ★★★★
ゴーストライター ★★★★☆
とある飛空士への追憶 ★★★★
猿の惑星:創世記(ジェネシス) ★★★★☆
ツレがうつになりまして ★★★★
監督失格 ★★★★
リミットレス ★★★
一命 (2D) ★★
電人ザボーガー ★★★
キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー ★★★☆
カンパニー・メン ★★★★
カウボーイ&エイリアン ★★★
メサイア ★★☆
スマグラー おまえの未来を運べ ★★★★☆
家族X ★★★☆
ミッション:8ミニッツ ★★★★☆
ステキな金縛り ★★★
11月 ランゴ ★★★★
シャッフル ★★★☆
フェア・ゲーム ★★★★
1911 ★★★★
三銃士 王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船 ★★★☆
女と銃と荒野の麺屋 ★★★
モテキ ★★★
マネーボール ★★★★☆
ハラがコレなんで ★★★
ウィンターズ・ボーン ★★★★
恋の罪 ★★★★☆
コンティジョン ★★★
アントキノイノチ ★★
カリーナの林檎~チェルノブイリの森~ ★★★★☆
ラブ・アゲイン ★★★☆
12月 アーサー☆クリスマスの大冒険 ★★★★
アジアの純真 ★★★
タンタンの冒険 ユニコーン号の秘密 ★★★★
ハードロマンチッカー ★★★☆
RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ ★★★★
スパルタの海 ★★★★
リアル・スティール ★★★★☆
源氏物語 千年の謎 ★☆
ミッション・インポッシブル ゴースト・プロトコル ★★★★
スウィッチ ★★★☆
宇宙人ポール ★★★★☆
ワイルド7 ★★★☆
聯合艦隊司令長官 山本五十六 ★★★☆
CUT ★★★

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2011年1月 3日 (月)

2010年度・日本インターネット映画大賞外国映画部門 投票

外国映画部門にも投票いたします。

[作品賞投票ルール(抄)]

 ・選出作品は5本以上10本まで
 ・持ち点合計は30点
 ・1作品に投票できる最大は10点まで

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『 外国映画用投票フォーマット 』

【作品賞】(5本以上10本まで)
  「息もできない     」  6 点
  「オーケストラ!    」  5 点
  「インビクタス/負けざる者たち」 4 点
  「トイ・ストーリー3   」  4 点
  「ハート・ロッカー   」  2 点
  「冬の小鳥       」  2 点
  「第9地区       」  2 点
  「カティンの森     」  2 点
  「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を」 2 点
  「インセプション    」  1 点
【コメント】韓国映画の勢いが止まりません。とうとうわがベストワン常連、イーストウッドをも抜いてしまいました。また、ここ数年低調だったフランス映画が2本入ってます(「オーケストラ!」「冬の小鳥」)が、どちらも外国からの亡命または移民監督である点が辛いところ。ともあれ、国際色豊かなテンとなりました。

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【監督賞】              作品名
   [ヤン・イクチュン  ] (「息もできない  」)
【コメント】他に思い当たりません。

【主演男優賞】
   [ヤン・イクチュン  ] (「息もできない  」)
【コメント】これも、他に思い当たりません。凄い。

【主演女優賞】
   [メラニー・ロラン  ] (「オーケストラ! 」)
【コメント】「冬の小鳥」のキム・セロンも考えたけど、いくらなんでもねぇ。
【助演男優賞】
   [モーガン・フリーマン ] (「インビクタス 」)
【コメント】この人しか思い当りません。

【助演女優賞】
   [マヤ・オスタシェフスカ ] (「カティンの森 」)
【コメント】男性中心の映画が多かった中、彼女の存在感が光ります。

【ニューフェイスブレイク賞】
   [キム・セロン    ] (冬の小鳥   」)
【コメント】天才子役ですね。将来が楽しみです。

【音楽賞】
  「オーケストラ!  」
【コメント】音楽と言えば、これしか思いつきません。ラスト12分は圧巻。

【ブラックラズベリー賞】
  「運命のボタン   」
【コメント】面白い原作なのに、なんでこんなになっちまうんだか。

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【勝手に○×賞】
   [ヒットガール賞  ] (「キック・アス  」)
  「クロエ・グレース・モレッツ」
【コメント】クロエちゃん、もお~最高!

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 この内容(以下の投票を含む)をWEBに転載することに同意する。
 

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2010年度・日本インターネット映画大賞日本映画部門 投票

今年も、「日本インターネット映画大賞」に投票いたします。

[作品賞投票ルール(抄)]

 ・選出作品は5本以上10本まで
 ・持ち点合計は30点
 ・1作品に投票できる最大は10点まで

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『 日本映画用投票フォーマット 』

【作品賞】(5本以上10本まで)
  「悪人         」  6 点
  「最後の忠臣蔵   」  4 点
  「キャタピラー    」  3 点
  「今度は愛妻家   」  3 点
  「ヘヴンズ・ストーリー」  3 点
  「カラフル       」  3 点
  「十三人の刺客   」  2 点
  「孤高のメス     」  2 点
  「告白         」  2 点
  「春との旅      」  2 点
【コメント】
 人間の内面に潜む“悪意”と“復讐の意義”を追求した問題作(「悪人」「ヘヴンズ」「十三人の刺客」「告白」)が揃った、というのが第一印象。反面、大切な人を思い続ける事のせつなさや友情の大切さ(=“善”の心)を謳ったハートウォーミングな力作(「最後の忠臣蔵」「今度は愛妻家」「カラフル」)もあって、バランスが取れた、という感じです。そういう意味で、日本映画は充実していましたね。
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【監督賞】              作品名
   [李相日        ] (「悪人     」)
【コメント】「フラガール」に続いて、2作連続ベストワン級の傑作を連打、というのが凄い。

【主演男優賞】
   [豊川悦司       ] (「今度は愛妻家」「必死剣鳥刺し)
【コメント】金髪の現代人から丁髷のサムライまで、どちらもサマになってる役柄の広さに敬服。

【主演女優賞】
   [寺島しのぶ      ] (「キャタピラー  」)
【コメント】深津絵里、松たか子、薬師丸ひろ子と候補が目白押し。こんなに迷ったのは何年ぶりか。

【助演男優賞】
   [柄本明        ] (「悪人」「雷桜」「孤高のメス」他)
【コメント】なんだか凄い数の作品に出てますが、数のおかげではなく、「悪人」が良かったから。

【助演女優賞】
   [満島ひかり      ] (「悪人」「カケラ」)
【コメント】「川の底からこんにちは」等の主演作もありますが、「悪人」のブザマな蹴られっぷりに1票。

【ニューフェイスブレイク賞】
   [仲里依紗       ] (「ゼブラーマン2」「時をかける少女」)
【コメント】数年前から映画に出てはいますが、“ブレイク”という点ではゼブラクィーンのフェロモン撒き散らしぶりが圧倒的でした。

【音楽賞】
  「ノルウェイの森    」
【コメント】ビートルズの「ノルウエーの森」が大好きなもので…。あ、無論本編の音楽もグッドですよ。

【ブラックラズベリー賞】
  「座頭市 THE LAST  」
【コメント】とにかくヒドい。「座頭市 THE WORST」と改題して欲しい。

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【勝手に○×賞】
   [実写よりリアルなビジュアル賞] (「カラフル   」)
  「作画・美術スタッフ全員」
【コメント】二子玉川河川敷の夕景の美しさに目を奪われました。

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2011年1月 2日 (日)

2010年度・ベスト20 ワースト10発表

 
あけまして おめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。

 

さて、私の昨年度ベスト20を発表いたします。例年通り、HPに掲載しているのと同じ要領で、邦・洋混成のベスト20です。

Akunin1位 悪人
 文句なしのベストワン。殺人犯の妻夫木だけでなく、さまざまな周辺の人物やマスコミ等の行動を通して、現代に蔓延する悪意を多面的に炙り出した脚本・演出が見事。まさに時代を照射した傑作です。李相日監督の次回作も目が離せません。

2位 息もできない
 韓国映画界から、また新しい才能が輩出しました。粗暴で荒れまくるが、実は内面に人間的な弱さと優しさを秘めた主人公の造型が出色。まさに息もできないほどの感銘を受けました。

3位 オーケストラ!
 ダメチームが、最後に大逆転勝利を収めるという、娯楽映画の王道を行くエンタティンメント作品でありつつ、さまざまな社会的、政治的テーマをも自在に網羅した、なんとも盛りだくさんな内容の傑作。ラストの12分間の感動は今も忘れられません。観終わって、本年一番号泣した作品です。

4位 インビクタス/負けざる者たち
 国をどうまとめて行くのか。いがみ合う人たちをどう融和し、力を合わせて行くべきか…。重いテーマを、爽快なスポーツ・エンタティンメントとして仕上げ、深い感動を呼ぶという離れ業をやってのけたイーストウッドは、いつもながら凄い。迷走を続ける我が国の政治家諸氏(特にトップリーダー)に、是非観ていただきたい作品でもあります。

5位 トイ・ストーリー3
 人間は、大人になればどうしても捨てて行かざるを得ないものがある。その捨てられる側の悲しみをきちんと描いた点でも、これは奥深いテーマを持った秀作です。3部作を通して、1本も駄作がない稀有なシリーズと言えましょう。

6位 最後の忠臣蔵
 年末ギリギリに飛び込んだ、本年屈指の力作。武士の使命と、生きざま、その狭間で揺れ動く人間模様を描いて出色の感動ドラマとなりました。期待していなかった分、意外な拾い物…と言っては失礼でしょうか。ベテラン脚本家・田中陽造は今年もいい仕事をしてくれました。杉田成道監督、今まであまり評価していなかったのですが、楷書のような丁寧な演出ぶりに唸りました。お見事です。

7位 ハート・ロッカー
 爆発物処理に取り付かれた主人公の造型が出色。サスペンスフルな展開の中に、戦争の狂気、矛盾を描き切ったキャスリン・ビグローの絶妙な演出が光ります。

8位 キャタピラー
 単なる反戦映画ではなく、国家や権威を笑い飛ばすブラック・ユーモア作品として楽しめました。若松監督の一貫してブレない製作姿勢にも敬意を表します。

9位 今度は愛妻家
 行定勲監督の、久々の復活に乾杯。夫婦とは何なのか、妻とは、夫とはどういう存在なのか…。側にいなくなって、初めてその存在の有難さが分かる、その事をしみじみ噛みしめたくなる、素敵な映画でした。

10位 ヘヴンズ・ストーリー
 4時間半もある長い映画ですが、身じろぎもせず画面を眺めていました。家族を殺され、残された人たちの地獄の苦しみはどうすれば癒されるのか。復讐はその苦しみを解決する答になりうるのか。魂の彷徨の末に、人はどこに到達しようとしているのか…。重い問いかけを、映画は我々観客に投げかけて来ます。本年一番、考えさせられた映画でした。

11位 冬の小鳥
 悲しい運命を背負った小さな少女の、それでも必死に新しい人生を生きて行く姿に泣かされます。9歳のジニを演じたキム・セロンちゃんの名演技にも1票。

12位 第9地区
 難民エイリアンという着想が秀逸。随所に仕込まれた現代文明批判も鋭い。大型新人、ニール・ブロムカンプの次回作が楽しみです。

13位 カラフル
 「クレしん」を卒業しても、原恵一監督、相変わらずクオリティの高い作品を次々生み出してくれます。毎回、作る度に違うタイプの作品にチャレンジする姿勢にも頭が下がります。まさに“カラフル”な原恵一ワールドにどっぷり浸らせていただきました。

14位 十三人の刺客
 オリジナルは時代劇史上に残る傑作ですが、果敢にチャレンジし、オリジナルとはまた違った味わいの秀作に仕上げた点は大いに評価に値します。時代劇史上かつてない強烈な悪・松平斉韶を造形した脚本・演出のアイデアにも唸りましたが、その期待に応えた稲垣吾郎もお見事です。

15位 孤高のメス
 医療制度への批判や、命の尊さを描きつつも、全体としてウエルメイドなエンタティンメントに仕上げた脚本・演出のプロの仕事ぶりに堪能しました。

16位 告白
 これまでの極彩色に塗りたくられた作風から一転、自然光を使ったドキュメンタルな映像の中に、現代の底知れぬ悪意、人間のエゴを鮮烈に切り取った中島哲也監督の演出に唸りました。やや難があるのは、森口悠子がどうやって犯人を割り出したのかがあいまいな点。そこがちょっとだけ減点です。

17位 春との旅
 脚本が周到に練られています。仲代達矢が、「約150本の出演作品の中で、5本の指に入る脚本」と言ったのも納得です。いろんな謎が随所に配置され、見終わった時に、その謎の正体が浮かび上がって来て、改めて感銘を受けます(詳細は私の作品評参照)。意外とあなどれない力作だと思います。

18位 川の底からこんにちは
 満島ひかりは相変わらずうまい。“中の下”から開き直って、ポジティブに変身して行くプロセスが爽快。元気になれる映画であると言えましょう。あの“社歌”には爆笑しました。

19位 武士の家計簿
 学術書から着想を得て、心温まる家族の物語に再構成した脚本(柏田道夫)が見事。ほとんど脚本の勝利と言えます。森田芳光は、余計なギミックを入れずにそのまま演出したのが良かった(笑)のでしょうね。

20位 カティンの森
 アンジェイ・ワイダ監督の50年にもわたる執念に心打たれます。心して見るべき秀作でしょう。

 
…さて、以上がベスト20ですが、例によってまだまだ入れたい作品が目白押しですので、もう10本、ベスト30まで紹介しておきます(タイトルのみ)。

21位 おとうと
22位 冷たい雨に撃て、約束の銃弾を
23位 
インセプション
24位 
パーマネント野ばら
25位
 ヒックとドラゴン
26位 リトル・ランボーズ
27位 
オカンの嫁入り
28位 
必死剣 鳥刺し
29位 
借りぐらしのアリエッティ
30位 
モンガに散る
 

・・・・・・・・・・・・・・

さて、今年も恒例、楽しいおバカB級映画を集めた、「愛すべきB級映画大賞」を発表いたします。1位は本当はベスト20に入れたかったくらいの傑作なのですが。

1位 ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い
2位 キック・アス
3位 ゾンビランド
4位 ゼブラーマン ゼブラシティの逆襲 
5位 マチェーテ

・・・・・・・・・・・・・

最後に、こちらは腹が立つ駄作群「ワーストテン」の発表です。

1位 座頭市 THE LAST   地下の勝新太郎が泣いていると思う。
2位 
シュアリー・サムデイ   小栗旬さん、もう一度助監督業からやり直すべきです。
3位 
誰かが私にキスをした  見た時は腹が立ったが、時間が立てばほとんど中味の記憶がない(笑)。
4位 
食堂かたつむり      家族同様のペットを食べてしまう発想について行けない。
5位 
踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!  「相棒」を見習えと言いたい。
6位 
死刑台のエレベーター  いろんな意味で時代遅れ。
7位 
マザーウォーター     退屈、の一言。いつ物語が動くのか、と思ってるうちに終わった。
8位 
運命のボタン       「フォーガットン」の悪夢再来(笑)。
9位 
華麗なるアリバイ     アリバイってどこに?
10位
コップアウト 刑事(デカ)した奴ら  映画もだが、題名にも脱力。

今年も、上位に日本映画が集中しました。まあ昨年ほど、飛び抜けてヒドい作品はありませんでしたが。

 
てことで、今年もよろしくお願いいたします。

(劇場総鑑賞本数 161本、うち邦画67本、洋画94本) 

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