「塔の上のラプンツェル」
2010年・米/ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ
原題:Tangled
監督:ネイサン・グレノ、バイロン・ハワード
原作:グリム兄弟
製作総指揮:ジョン・ラセター
製作総指揮/アニメーション・スーパーバイザー:グレン・キーン
脚本:ダン・フォーゲルマン
グリム童話の「ラプンツェル(髪長姫)」を映画化した、ウォルト・ディズニー・スタジオの長編アニメ第50作。
原作は、記念すべきディズニー長編アニメ第1作「白雪姫」のグリム兄弟。50作目に至って、原点に回帰したと言えるだろう。総指揮を務めたジョン・ラセターの絶妙なチョイスに、まず拍手。
ちなみに、「シンデレラ」、「眠れる森の美女」もグリム兄弟原作と勘違いしそうだが(よく似た話はグリム童話にもあるが)、両作とも正式にはシャルル・ペロー原作である。
逃亡中の盗賊フリン・ライダーは、山奥の谷にそびえ立つ高い塔を見つける。好奇心から塔に入ったフリンは、髪が驚くほど長い不思議な少女ラプンツェルと出会う。彼女は18年間、塔の中だけで生活してきたが、フリンとともに外の世界へ冒険の旅に出ることになる。
映画では、ラプンツェルは赤ん坊の時、魔女ゴーテルによってお城からさらわれたプリンセスという設定だが、原作では普通の庶民の娘。逆に男の方は原作では王子さまなのだが、映画では泥棒に変更されている。お話も、“塔の上に、髪の長い女の子が幽閉されていた”という基本設定以外は、大幅にストーリーが改変されている(ちなみに、原作の初版ではかなりきわどいセックス描写もあるそうな。本当に怖いグリム童話だ(笑))。
この改変は、「白雪姫」を始めとして、基本的に“プリンセスもの”が多いディズニー・アニメの王道路線を継承した故だろう。サブキャラに、カメレオンとか馬とかの動物を配したのも、いかにもディズニーらしい。ミュージカル風に歌い出すシーンもあり、過去のディズニー・アニメのエッセンスが巧みにまぶされている。
ちょっと気になったのが、本作が3DCGアニメである点。せっかく前作(49作目)で「プリンセスと魔法のキス」という、久しぶりの2D手書きセル・アニメを復活させたのに、またCGアニメに戻るのかと少々不安になった。
だが、さすがラセター、CGとは言え、キャラクター・デザインはセル・アニメ時代のそれにかなり近くなっているし、動きやギャグもセル・アニメのタッチをかなり取り入れている。観ているうちに、気にならなくなっていた。ディズニーが3DCGアニメを製作するのは個人的には反対であったが、このくらいの仕上がりなら十分満足である。
むしろ本作は、手書きセル・アニメのシンプル感、手書きならではの温かみ、高揚感を継承しつつ、それを3DCGの技術で、よりクオリティ、奥行きの深さを高めたという点で、ディズニー・アニメの一つの到達点、であると言えるかも知れない。
(以下ネタバレあり)
ヒロインは、元気いっぱい、幽閉されていても、外界への好奇心は旺盛だし、毎年自分の誕生日になると夜空いっぱいに現れる不思議な灯りの正体をいつか確かめることを夢に見ている。フリンが塔に侵入して来るとフライパンでノックアウトしてしまう。
そのフリンを道案内に、謎の灯りの正体を求めて、ラプンツェルは初めて塔を抜け出し、冒険の旅に出る。思えば、“男と女の冒険の旅”は、前作のモチーフでもあった事を思い出す。
そして定番ではあるが、さまざまな試練、困難、危機を共に乗り越え、二人の絆が深まって行く展開はやはり楽しく、ワクワク、ハラハラさせられる。
ようやく、お城の近くの湖にたどり着き、夜空に無数の不思議な灯り=ランタンが舞うシーンは、3D効果も相まってとても幻想的でこの上なく美しい。このシーンを観るだけでも料金だけの値打ちはある。ここは是非劇場で、メガネ付3Dで観賞する事を推奨したい。
音楽担当も、前作はピクサー作品が多いランディ・ニューマンであったが、本作では「リトル・マーメイド」以降のディズニー・アニメではお馴染みのアラン・メンケンが戻って来たのも、ファンとしては嬉しい限りである。
これぞまさしく、ディズニー・アニメの本領発揮。前作に引き続き、楽しくて、夢があって、ロマンスがあって、感動のラストを迎える、見事な完成度を持ったエンタティンメントの一級品である。 (採点=★★★★☆)
(お楽しみはココからだ)
本作には、過去のディズニー・アニメからの引用もいくつか見る事が出来る。
二人が途中で出会う海賊たちは、一人は片腕がカギ爪義手になっている事からも分かるように、ディズニー・アニメの古典「ピーター・パン」に出て来る、カギ爪のフック船長をリーダーとする海賊たちへのオマージュだろう。
魔女が姫の前に立ちふさがり、ヒーローがその姫を守る、というパターンも、「眠れる森の美女」、「リトル・マーメイド」等、ディズニー作品では定番とも言える。
そう言えば、「リトル-」のアリエル姫も、好奇心旺盛で、やがて外界へ冒険の旅に出るというお話であった。
ラストでは、[死んだはずのフリンの頬に、ラプンツェルの涙が落ちると生き返る]辺りも、「白雪姫」のラスト(死んだと思われた姫に王子がキスすると生き返る)の(男女を逆転させた)オマージュになっている。
つまりは、本作は子供たちを楽しませるだけでなく、永くディズニー・アニメを観て来た大人であるほど、余計楽しい作品に仕上がっている。
まさに、ディズニー長編アニメ第50作目にふさわしい、記念作品と言えるだろう。
なお、ジョン・ラセターは大の宮崎駿ファンであることが知られているが(ラセターが原案・製作総指揮を担当した「トイ・ストーリー3」にトトロがゲスト出演していたのは周知の通り)、フリンのキャラ設定を原作の王子さまから泥棒に変えたのは、宮崎作品「ルパン三世/カリオストロの城」へのオマージュなのかも知れない。王女クラリスも、高い塔の上に幽閉されていたし。ラストではフリンは見事にプリンセスのハートを奪って行った(笑)。
配給会社が邦題を「塔の上のラプンツェル」としたのも、宮崎アニメの近作「崖の上のポニョ」に引っかけた可能性がある。
とまあ、いろいろと連想を膨らませてみるのも、映画をより楽しむ方法である。試してみてはいかが。
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コメント
私のこの言葉を、もし被災者の方が読んだとして、どう思われるかわかりません。
けど私は、この映画の「灯りが舞う」シーンを観て、素直にこう思いました。
いま、震災で避難生活等を送っている子供たちにも、見せてあげたい。
そう思って、こらえ切れず涙を流しました。
映画にはそれだけの力があると、信じています。
投稿: タニプロ | 2011年4月11日 (月) 22:51
フリンと馬のマキシマスは完全にルパンと銭形の置き換えだと思いますよ。
元々「カリオストロの城」のアイディア自体が、本作の原作が元ネタですから。
塔に幽閉されたお姫様を泥棒が救い出すという時点でクラリスですよね。
投稿: ノラネコ | 2011年4月15日 (金) 22:20
◆タニプロさん、お久しぶりです、お元気で何よりです。
「灯りが舞う」シーン、本当に感動的でしたね。うっすらと涙さえこぼしてしまいました。
本当に、東北の被災した子供たちに見せてあげたいですね。
◆ノラネコさん
あはは、確かにあれはルパンと銭形を思い起こさせますね。
>元々「カリオストロの城」のアイディア自体が、本作の原作が元ネタですから。
ん?グリムの原作では普通の女の子と王子さまだったはずですよ。
プリンセスと泥棒に改変したのは、宮崎ファンのラセターの仕業と思います。
投稿: Kei(管理人) | 2011年4月18日 (月) 01:05