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2011年4月17日 (日)

「わたしを離さないで」

Neverletmego2010年・英=米/配給:20世紀フォックス
原題:Never Let Me Go
監督:マーク・ロマネク
原作:カズオ・イシグロ
脚本:アレックス・ガーランド
製作総指揮:アレックス・ガーランド、カズオ・イシグロ、テッサ・ロス
製作:アンドリュー・マクドナルド、アロン・ライヒ 

「日の名残り」で英文学界最高峰のブッカー賞を受賞した、日本生まれのイギリス人作家カズオ・イシグロの原作を、ロビン・ウィリアムズ主演「ストーカー」(2002)の新鋭マーク・ロマネク監督が映画化。

外界から隔絶された田園地帯に佇む寄宿学校ヘールシャム。キャシー(キャリー・マリガン)、ルース(キーラ・ナイトレイ)、トミー(アンドリュー・ガーフィールド)の3人を含むここの生徒達は、小さい頃からずっと一緒に、ある目的を持つ“特別な子ども”として育てられていた。18歳になってヘールシャムを出た3人は、農場のコテージで共同生活を始める。キャシーはトミーに密かに心を寄せていたが、ルースとトミーが恋人同士になったことで友情が崩壊していく。

イシグロ作品らしい、静かな余韻を持つ佳作である。

舞台は1970年代となっているが、この時代に人間の平均寿命は100歳になったと字幕が出る。つまりは別の世界、パラレルワールドのお話である。

(以下ネタバレがあります)
ヘールシャムの生徒たちは、何故親がいないのか、何故腕にセンサーのような機器を付け、監視され、外に出る事を許されないのか…。

さまざまな謎を孕んでいるが、やがて徐々に真相が明らかになって来る。

実は彼らは[クローン人間で、普通の人間に、臓器を提供するドナーとして作り出された生命体]なのである。

いかにもSF的な設定で、フィリップ・K・ディック原作の「ブレードランナー」のレプリカント(人間が作り出した、短い命しか持たない人造人間)をも思わせる。

だが、さすがブッカー賞作家の文芸作である。SF的な展開とはならず、悲しい運命を背負った少年少女たちが、それでも“人間らしく”人を愛し、生きることの意味を問いかけ、運命に立ち向かう姿を静謐な、淡々とした語り口で描いている。

人間のエゴイズム批判や、文明批判の方向に行く事も、描き方によっては出来るはずだが、そうはならず、彼らは反抗する事も、人間を恨む事もなく、静かに運命を受け入れて行くのである。

ただ一つ、“2人が本当に愛し合っていることが証明できれば「提供」を猶予される”という噂話が広がり、トミーたちは僅かの生きる可能性にすがろうとするのだが、これも最後に残酷な結末が待っている。

魂の存在とは、命とは何なのか、愛は無償の行為なのだろうか、人間は幸福を追い求めるあまり、何か大切な物を失いかけているのではないか…。物語はさまざまなテーマを問いかけている。

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

これだけでも十分見応えあるドラマなのだが、あの東日本大震災を経過した後で振り返って見ると、また別の視点からこの映画を見直す事が出来る。

大震災後、海外のメディアから“日本人は未曾有の大災害の中でも、冷静に立ち振る舞っている”と賞賛された事は記憶に新しい。
絶望的な状況にあっても、冷静に運命を受け入れ、耐え忍んでいる。

これは、基本的に日本人の資質・体質なのだろう。あの戦争でも、“耐え難きを耐え、忍び難きを忍んだ”国民である。
また、北陸地方の人たちは、大雪に見舞われ、三陸沖を何度も津波が襲っても、放射能汚染の危険に晒されても、それでも故郷を離れたりはしない、漁の仕事を捨てたりはしない。
“自分が生まれた土地が故郷であり、何があってもこの土地は捨てない”とばかりに、ひたすら、いつか戻れる日を待ちわびる姿には胸を打たれる。

この、“過酷な運命に抗う事なく、それを静かに受け入れる”という日本人的な考え方は、「わたしを離さないで」という作品に確実に反映されているように私には思える。

イシグロは日本生まれの日本人であり、日本人のDNAを確かに受け継いでいる。また監督のマーク・ロマネクは原作を理解する為、成瀬巳喜男をはじめとする50~60年代の日本映画を数多く観たという。

そう言えば、本作には成瀬の「浮雲」にも通じる、日本的“諦観”の概念が感じ取れるように思う。

 
もう一つ、今回の地震で福島第1原子力発電所が大事故を起こし、原発の危険性が改めてクローズアップされたが、この事故の教訓としては、
“科学文明の発達は、果たして人間にとって幸福なのだろうか”という点が挙げられる。

人間は貪欲な生き物である。本作の隠れたテーマである、“いつまでも長生きしたい”という欲望が、クローン人間という悲劇の存在を生み出したのと同様に、“電気エネルギーの無尽蔵な使用”という欲望が原子力発電を生み出し、それが今回の、福島のみならず、多くの人たちの生活を奪うという悲劇を招いた。
“人間の果てしない欲望を充たす為に生み出された科学の成果が、別の悲劇を生んでいる”という本作のテーマは、まさに今回の原発事故の教訓とも重なっていると言える。

偶然ではあるが、東日本大地震が起きた、丁度同じ頃に本作が公開されたという事に、何か運命的な繋がりを私は感じ取ったのだが、あなたはどう思われるだろうか。    (採点=★★★★☆

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コメント

なるほど。
どこかで味わった感覚…と思ったら、
これはレプリカントでしたか……。
今回の大震災における日本人。
その資質・体質からDNA、
そしてカズオ・イシグロへの流れ。
科学文明の発達と人間の幸福についての洞察も
深くうなずかされました。
ありがとうございます。
ツイッターにて紹介させてください。

投稿: えい | 2011年4月18日 (月) 23:15

書き込み有難う御座いました。(レスは当該記事のコメント欄に付けさせて貰いました。)

観たい作品は一杯在るのに、3月11日以降は映画館に足を運ぼうという気が起こらず、観ないままに日々を送っております。

「科学文明の発達は、果たして人間にとって幸福なのだろうか?」という命題、此れ迄にも多くの人が文学や漫画等の形で取り上げて来ましたが、こういう状況下になってはより深刻に考えざるを得ません。恐らく此れから製作される作品(映画に限らず文学等でも。)には、そういった命題を取り上げた物が増えるでしょうね。

投稿: giants-55 | 2011年4月23日 (土) 02:36

◆えいさん
紹介ありがとうございます。拙い記事ではありますが、読んでくださる方が多ければ光栄至極に存じます。
でも、レプリカントはちょっとハメ外し過ぎかもと反省(笑)。


◆giants-55さん
いつも丁寧なレスありがとうございます。

>恐らく此れから製作される作品(映画に限らず文学等でも。)には、そういった命題を取り上げた物が増えるでしょうね。

私もそう思います。願わくば多くの被災者に勇気と希望を与える内容でありますように…。

投稿: Kei(管理人) | 2011年4月25日 (月) 02:02

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