「モンスターズ/地球外生命体」
2010年・イギリス/配給:クロックワークス
原題:Monsters
監督・脚本・撮影:ギャレス・エドワーズ
製作:アラン・ニブロ、ジェームズ・リチャードソン
製作総指揮:ナイジェル・ウィリアムズ、ニック・ラブ、ルパート・プレストン
英TV界でVFXの仕事に携わってきた新鋭ギャレス・エドワーズ監督が、製作費わずか1万5,000ドル(約120万円)で作り上げ、長編監督デビューを果たした事で話題となったSF怪獣映画。
地球外生命体のサンプルを採取したNASAの探査機が、大気圏突入時にメキシコ上空で大破。その直後から謎のモンスターが増殖し、メキシコの半分が危険地帯として隔離される。それから6年後、メキシコでスクープを狙うカメラマンのコールダー(スクート・マクネイリー)は、上司から現地でケガをした社長令嬢のサマンサ(ホイットニー・エイブル)を、アメリカ国境まで送り届けろとの命を受ける。2日後にはアメリカ軍が国境を閉鎖してしまうという中、コールダーとサマンサは、モンスターたちを避けながら国境を目指すのだが…。
超低予算で作られ、後に世界配給され話題となった映画では、1992年に、わずか7,000ドルで作られたというロバート・ロドリゲス監督「エル・マリアッチ」がある。あちらは本当にチープで素人っぽい出来だったが、生きのいい演出が認められ、ロドリゲス監督は後にハリウッドに進出、メジャー監督となった。
ちなみに、「エル・マリアッチ」もメキシコが舞台。エドワーズ監督も本作の成功でハリウッドに呼ばれ、新ハリウッド版「ゴジラ」の監督に大抜擢されたそうだ。“メキシコを舞台に超低予算映画を作った監督は出世する”というジンクスが生れそうだ。
あまり期待はしていなかったのだが、映画は観てみないと分からない。思ったよりもきちんとした出来で、サスペンスとラブロマンスが絶妙にブレンドされ、最後に意表をつく感動も用意されており、結構楽しめる、意外な拾い物の力作であった。
低予算をカバーする為、モンスターの姿をチラチラとしか見せず、また現地で採用した素人を登場させている事もあって、全体にセミ・ドキュメンタリーを観ているような臨場感があり、それがスリリングな効果をもたらしている。
荒れた画質に、手ぶれするカメラ。そして一瞬フレームに入ってくる怪獣の姿…と、やはりドキュメンタルな映像で話題となった「クローバーフィールド/HAKAISHA」や「第9地区」などとも雰囲気は共通する。
だが本作がユニークなのは、怪獣はむしろ背景で、メインとなるのは、アメリカを目指す旅を続ける中で、最初は反目しあっていた男女が、絶望的な状況の中で力を合わせ、さまざまなトラブルを乗り越え、やがては次第に惹かれ合って行くという、ハリウッド映画の1ジャンルでもあるロードムービー・ラブストーリー(これについては後述)としても見ごたえのある作品になっている点である。
(以下ややネタバレあり)
コールダーは下っ端のフリー・カメラマン、一方のサマンサは新聞社の社長令嬢。身分の違いは歴然としている。その上彼女にはフィアンセがいる。サマンサは最初は露骨にコールダーに対して上から目線で、相手にもしたくないのだが、女でケガもしている以上、一人旅は無理なので仕方なく付き添いを認めているだけである。
だが、時にはコールダーに助けられたり、世話を受けたり、また道中で道端に倒れている死体にそっと服を被せる等、優しい一面を見せるコールダーに対し、サマンサが少しづつ心を開いて行くプロセスが丁寧に描かれているのがいい。
一度は、一人分だけの切符が手に入り、ここで二人は別れるのか、と思いきや、切符が盗難に会って、結局また二人旅になる、という展開も面白い。このくだり、困っていると見るや運賃を吹っかける(なんと一人1万ドルだ)アコギな親父が笑わせたり、男女の心理の綾や、伏線が巧みに絡んでいて秀逸。
ここで、二人の運賃の為、サマンサは婚約者からもらったダイヤの指輪を思い切りよく手放すのだが、ここでサマンサは婚約なんて半分どうでもいい、という気持ちになっているようにも見え、それが二人の結末をも暗示させる伏線になっている。うまい。
さまざまな困難を乗り越え、とうとうアメリカ国境にやって来た時、二人はもう互いに心を許す気持ちになっている。それを後押しするのが、二人が目撃する、2匹のモンスターの愛の交流、であるというのが面白い。光を放ちながら接触し合うモンスターの交愛は神秘的な神々しさに満ちており、その光景に触発されてか、二人はキスを交わすのである。
二人の間に身分の違い、という障害はあるけれども、下等生物であるモンスターだって愛し合えるのだから、同じ人間同士、愛し合っていけない、という理由はない。さて、二人はどうやってこの障害を乗り越えるのか、それは観客の想像に任せよう、という粋な終り方も楽しい。
莫大な製作費をかけたハリウッドの物量SF侵略物が次々と作られているけれど、ほとんど予算をかけない本作の方がむしろ心に沁みた。
宣伝文句では、“クエンティン・タランティーノ、ピーター・ジャクソン、リドリー・スコットらがこぞって絶賛”とあるけれど、それも納得の出来である。
ギャレス・エドワーズ監督、次は本作の数千倍(?)の製作費をかけた「ゴジラ」の監督を任されるようだけれど、初心を忘れずに丁寧な作品作りに邁進して欲しい。今後が最も期待できる監督の一人として、一押ししておこう。
なお、本作の製作国もイギリスである。昨年の「月に囚われた男」(ダンカン・ジョーンズ監督)といい、今年の「アリス・クリードの失踪」といい、イギリス作品は、低予算で登場人物もごく少数ながら、捻った、面白い作品が次々登場しているのはちょっと面白い傾向である。 (採点=★★★★)
(さて、お楽しみはココからである)
本作を観ていて、クラシック映画ファンならすぐに思いつく作品がある。
フランク・キャプラ監督の1934年作品「或る夜の出来事」である。
同年のアカデミー賞、主要5部門(作品・監督・主演男優・主演女優・脚色賞)を受賞した名作である。
この映画のヒロイン(クローデット・コルベール)は、大富豪の令嬢であり、勝手に婚約されられた事に怒って船から脱走、一人旅をするのだが、ひょんな事から彼女との二人旅をする事になるのが失業中の新聞記者クラーク・ゲーブル。
ゲーブルはお高くとまったコルベールに手を焼き、時には喧嘩したり、ヒッチハイクをしたりしながら旅を続け、やがて次第に惹かれ合って行く。
…と、こう書くだけでも、二人のキャラクターといい、話の展開といい、よく似ている。
それだけではない。1人分の切符が手に入った後、一晩モーテルに泊まるシーンで、コールダーはサマンサに「良かったら一つの部屋に泊まらない?何もしないし。心配なら間をカーテンで仕切るから」と提案するのである。結局没にはなるけれど。
このセリフで、「或る夜の出来事」を観ている人なら、有名な“ジェリコの壁”(二つのベッドの間にロープを張り、毛布で壁を作る事)のシーンを即座に思い出すだろう。このセリフからも、エドワーズ監督、明らかに「或る夜の出来事」にオマージュを捧げている事が分かる。
結末は、…二転三転しながらも二人は身分の壁を乗り越えて結ばれる。
この結末を知っていれば、恐らくは本作におけるコールダーとサマンサの恋も、障害を乗り越えて成就するのではないか、とハッピー・エンドを予測する事も可能である。エドワーズ監督、そこまで考えてたとしたらなかなかしたたかではある。
も一つちなみに、モンスターのデザイン、東宝のSF怪獣映画「宇宙大怪獣ドゴラ」(1964)に登場する宇宙からのモンスターとなんとなく似ている。本作のモンスターは触手で自動車等を持ち上げるのだが、“ドゴラ”も触手で船やら橋やらを持ち上げる。体から光を発している所も共通する。
エドワーズ監督は本作の成功で、ハリウッド版「ゴジラ」に抜擢されるのだが、案外このモンスターの造形で、東宝怪獣映画に詳しい、と思われたのではないだろうか…とふと想像したくなるが、さて、当っているかどうか。
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