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2011年7月24日 (日)

「大鹿村騒動記」

Oosikamura2011年・日本/配給:東映
監督・企画:阪本順治
脚本:荒井晴彦、阪本順治
原案:延江浩

7月19日に亡くなった、原田芳雄の文字通り遺作。阪本順治監督のデビュー作「どついたるねん」(1989)以来、多くの阪本作品に出演して来た原田が、コンビ7作目にして初めて、そして最後の主演を果たした、阪本作品としても珍しい群像コメディの秀作。

追悼記事はこちら

長野県・大鹿村でシカ料理専門店を営む風祭善(原田芳雄)。彼は毎年、300年の伝統を誇る村歌舞伎の舞台に立つのを生き甲斐にしており、今年も稽古に余念がない。そこへ18年前に駆け落ちして村を出奔した善の妻の貴子(大楠道代)と幼馴染の治(岸部一徳)が戻ってくる。貴子は認知症を患い記憶を失っており、治は善に貴子を返すと申し出、台風も近づく中、村にはさまざまな騒動が巻き起こる…。

亡くなった翌日、劇場に観に行った。出来るだけ冷静に観ようとしたが、ダメだ。原田の顔がアップになる度、涙がポロポロ流れた。嗚咽を堪えるのに必死だった。既に撮影当時もガンが進行していたらしいが、画面にはそんな気配が微塵も感じられなかった。死ぬ直前まで、役者としての仕事をまっとうした原田芳雄。つくづく、凄い俳優だったと思う。

舞台となる大鹿村は、長野県に実在する村で、クライマックスで演じられる村歌舞伎“大鹿歌舞伎”も実際に上記の通り300年以上上演されて来た本物である。善が主役を張る演目「六千両後日文章 重忠館の段」もこの村でしか上演されないものだという(大鹿歌舞伎の公式サイトこちらを参照)。

原田芳雄は、以前ドラマで村歌舞伎の役者を演じた事があり、それ以来大鹿歌舞伎に魅せられて、次の作品は是非これを映画にしたいと熱望していたという。
最後の最後で、自らのこの企画が実現し、主役も演じられて、ある意味では本望だったのかも知れない。

この大鹿歌舞伎は、映画で描かれたように、村の人たちが手作りで、観客席は屋根なし、境内にゴザを敷き、役者も観客も心から舞台を楽しんでいる。公式ページにも記載されているが、まさに“芸能の原点である「心と心が触れ合う場」を生み出”しているのである。原田が惹かれたのも、分かる気がする。

映画は、大鹿歌舞伎の練習に余念がない原田演じる善と、認知症を患い記憶をなくした善の妻貴子、親友を裏切り貴子と駆け落ちした治、の3人の男女のトボけた掛け合いを中心に、善の店で働く事になった雷音(冨浦智嗣)、貴子の父の義一(三國連太郎)、その他の村の人々が絡んでドタバタ騒動を繰り広げ、最後の歌舞伎公演のクライマックスになだれ込んで行く。

のどかな村を舞台にした、面白うて、やがて悲しき人間喜劇…。ベテラン荒井晴彦(阪本順治と共作)の丁寧に練られた脚本、阪本順治の腰の座った演出、演技派の名優による絶妙の掛け合い、等が相まって、コメディとは言え、骨太の人間ドラマとしても見応えがある。

名優たちのアンサンブル・コメディと言えば、やはり早逝した川島雄三監督の、一連の群像コメディ(「幕末太陽傳」(1957)、「貸間あり」(1959)、「喜劇とんかつ一代」(1963)等)を思い出す(あの頃は、森繁にフランキー堺、三木のり平、山茶花究等、本当に芸達者な名優がいたなあ)。
楽しくて、大笑いして、やがて生きる事の悲しさ、せつなさ、そして人間という生き物の愛おしさ…までも感じさせる、今の時代ではほとんど作られなくなった、チャーミングな大人のコメディに仕上がっている。それだけでも素晴らしい事だと思う。最近ちょっとパワーダウン気味だった阪本監督にとっても久々の力作と言えよう。

そして、隠れたテーマとなっているのが、“忘れない事の大切さ”である。

貴子は昔の事を忘れてはいるが、それでも、かつて善と夫婦で演じた歌舞伎のセリフだけは覚えている。そしてやがて嵐の日、昔の記憶を取り戻すのだが、それは善を裏切った、忌まわしい過去も思い出す事を示しており、貴子はいたたまれず姿を消す。
それでも善は優しく貴子を許し、一緒に舞台に立つ事を勧める。過ぎた過去は忘れて、前に向き合う事の大切さが示される。

一方、貴子の父・義一は、シベリア抑留の痛ましい記憶を今も心の奥にしまっている。その死んで行った、多くの同志を忘れない為に、木彫りの仏像を彫って墓に添えている。

歌舞伎という伝統芸能を守り続ける事も、いいものをいつまでも忘れずに残して行くという意味で大切な事だと思う。

そして我々観客も、原田芳雄という名優がいた事を、忘れないようにしたいと思う。

エンドロールで、映画の中のいくつかのシーンがスチール写真で紹介されるのだが、原田芳雄の姿がアップになった時はまた涙が溢れた。阪本監督も、原田自身も、この作品が原田芳雄の遺作、になる事を予期していたのかも知れない。

遺作が、悲しかったり、重い作品でなく、楽しくて、ほのぼのと笑える作品であった事が救いである。原田芳雄さん、数多くの、素敵な作品をありがとう。安らかに…。     (採点=★★★★☆

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コメント

この映画は「記憶」についての映画でもありますが、僕は原田芳雄さんを、この映画を忘れません。

奥寺佐渡子氏、向井康介氏、荒井晴彦氏・・・今年は肩書きが「映画脚本家」の方々の活躍が光りますね。

投稿: タニプロ | 2011年8月 7日 (日) 17:47

◆タニプロさん、お久しぶり

>奥寺佐渡子氏、向井康介氏、荒井晴彦氏・・・今年は肩書きが「映画脚本家」の方々の活躍が光りますね。

おっしゃる通り…なんですが、よく考えりゃ“プロの映画脚本家”-と呼べる人がいかに居ないか、という事です(笑)。
若い脚本家は、奥寺さんや荒井さんの脚本を100回も読み直して勉強していただきたいものです。

投稿: Kei(管理人) | 2011年8月14日 (日) 23:08

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