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2011年7月 2日 (土)

「あぜ道のダンディ」

Azemichi2011年・日本/配給:ビターズ・エンド
監督:石井裕也
脚本:石井裕也
製作:狩野義則、熊澤芳紀、為森隆、定井勇二、百武弘二、久保田修
プロデューサー:宇田川寧、柴原祐一 

「川の底からこんにちは」で、2010年度ブルーリボン賞監督賞を史上最年少の27歳で受賞した石井裕也監督の最新作。

北関東の地方都市で配送業の仕事をする50歳の宮田淳一(光石研)は妻を早くに亡くし、大学浪人中の息子・俊也(森岡龍)と高校3年の娘・桃子(吉永淳)を男手一つで育てて来た。しかし、不器用で人付き合いも苦手な淳一は子供たちとも疎遠なまま、唯一の親友・真田(田口トモロヲ)と飲んでグチをこぼす毎日。そんなある日、淳一は胃の痛みを感じ、妻と同じ胃ガンではないかと思い悩む。一方では、俊也と桃子がそろって東京の私大に合格し、親元を離れる日がやって来る…。

妻を早くに亡くし、男手一つで子供を育てて来た中年男が、ある日自分はガンで余命いくばくもないと思い、残された人生について悩む…
というストーリーを聞くと、これは黒澤明の名作「生きる」(1953)ではないかと映画ファンならすぐに思い浮かぶ。

せっかく育てた子供も、親の事など我関せず、のように見える辺りも似ているし、何より主人公の淳一が腹を押さえ、痛そうに歩く姿が「生きる」における志村喬の名演技を髣髴とさせる。

Ikiru そう言えば、淳一が友人の真田から借り受けたソフト帽は、「生きる」でも主人公がいつも被っていたし、ラストでも効果的に使われる(通夜の席で警察官が拾ったと言って届けてくれる)重要なファクターになっていたはず。

が、似ているのはそこまで。後半はぐっと違う展開となり、「生きる」とはまた別の感動が押し寄せる。

(以下、ややネタバレあり)
石井裕也監督は、弱冠28歳でありながら(しかもオリジナル・シナリオ)、年頃の子供を持った50歳男の心情を実に的確に描いている。

「川の底からこんにちは」でも顕著だった、必死に生きる姿が微妙なズレを呼んで笑いに転化する、絶妙な演出は本作でも健在だ。

主人公は不器用で、娘や息子ともうまくコミュニケーションを取れない。息子はゲームにハマっているし、娘は友人に援助交際に誘われている。父親はヤケになって酒を飲んでは周囲にカラむ…。

最悪の状況である。いつ悲劇に突き進んでもおかしくない。

が、丁度父親の世代と、子供たちの世代との中間(どちらかと言うと子供たちに近い)に位置する石井監督は、父親の心情を丁寧に描く一方で、子供たちも実は父親の気持を、心の片隅では分かっているのだ、というポジティブな描き方に軸足を乗せて行く。
そして、必死になって子供たちとコミュニケーションを取ろうと努力する父親の思いが、やがては両者の溝を埋めて行くのである。

前作と同様、“どん底にあっても、努力すれば人は立ち直れる”というテーマを、石井監督はここでも追求している。舞台も前作同様、あぜ道が広がる地方都市である。

石井監督はインタビューで、「この時代、誰しもが『男なんて、みんな駄目だ』と気づいてしまったし、正直僕もそう思います。でも駄目だろうが情けなかろうが、敗北してボロボロになろうが、男は男を気取って堂々と生きていくしかないのです。その覚悟こそが男の純情、美意識なのではないかと思います」と語っている(公式サイトより)。

まことに、男とはつらいものである。中高年になれば尚更だ。でも、“敗北してボロボロになろうとも、男を気取って生きて行くべきだ”という監督の主張はとてもよく理解出来る。

そういう点では、“カッコ悪く、負けてばかりだけれど、それでも「渡世人のつれえ所よ」と男を気取って生きている”「男はつらいよ」の主人公、寅さんの生き様を想起する事も出来る。主人公が思い込み、早とちりする所も似ているし。

そう言えば、寅さんもソフト帽がトレードマークだった。

ソフト帽は、カッコ悪く生きる男の、ダンディズムの象徴なのかも知れない。

 
前作ほどのインパクトはないけれど、男の生き方、家族の絆、という深遠なテーマにオリジナル・シナリオで取り組み、しみじみとした味わいと余韻を残した本作も、私はとても気に入っている。石井監督は、着実に進化している。次作がますます楽しみだ。
年頃の子供を持つお父さんなら、是非観ておくべき、そして人生に疲れかけた方なら、ちょっぴり元気になれる、素敵な佳作である。お奨め。     (採点=★★★★

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(で、お楽しみはまだある)

“ダンディ”という言葉で思い出すのは、谷村新司の名曲「ダンディズム」である。
http://j-lyric.net/artist/a000498/l00652e.html

この中に次のような歌詞がある。

♪息子よ、いつの日かこの酒を
古びた止まり木の片隅で

息子よ、いつの日かこの時が
君の想い出に変わる頃
俺は遠くの酒場で グラスをあげ 笑ってる…

歌おう 私の愛する妻の歌
人生は束の間の祭り
せめて人を愛せよ ダンディズム♪

…男が、息子を、そして妻を思い、人生の何たるかをしみじみと語りかける、本作のテーマとも繋がっていると思える、素敵な詩である。まさに男のダンディズムである。まあ、ちょっとカッコ良過ぎるが(笑)。

谷村新司「ダンディズム」

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