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2011年8月31日 (水)

「ピラニア3D」

Pirania3d2010年・米:ディメンション・フィルムズ/配給: ブロードメディア・スタジオ
原題: Piranha 3D
監督: アレクサンドル・アジャ
脚本: ピーター・ゴールドフィンガー、ジョシュ・ストールバーグ
製作: マーク・カントン、マーク・トベロフ、アレクサンドル・アジャ、グレゴリー・ルバスール
製作総指揮: ボブ・ワインスタイン、ハーヴェイ・ワインスタイン、アレックス・テイラー、ルイス・G・フリードマン、J・トッド・ハリス

1978年に大ヒットを記録した「ピラニア」(ジョー・ダンテ監督)を、3D映画としてリメイクしたパニック・スリラー。監督は「ヒルズ・ハブ・アイズ」「ミラーズ」の新進アレクサンドル・アジャ。 

バカンス客が夏を楽しむアメリカ南西部、ビクトリア湖畔の小さな町。ある日釣り好きの老人・マット(リチャード・ドレイファス)が行方不明になり、地元の女性保安官・ジュリー(エリザベス・シュー)が捜索に当るが、老人は無残な姿で発見される。ジュリーは科学者ノバク(アダム・スコット)達の調査チームに同行するが、湖底を調査していたダイバーも謎の生き物の群れに襲われ死亡する。その時死体と共に見つけた1匹の獰猛な魚を調べた所、それは200万年前に絶滅したはずの凶暴なピラニアだった。やがてピラニアの群れはイベントで盛り上がる湖畔の海水浴客に襲いかかり、湖畔は阿鼻叫喚の地獄絵と化して行く…。

…というお話を聞けば、映画ファンならピンと来るだろう。1975年に公開されるや大ヒットを記録し、動物パニックものの元祖となった、S・スピルバーグの出世作「ジョーズ JAWS」のほとんど焼き直しである。オリジナルの'78年作品「ピラニア」自体が「ジョーズ」のヒットにあやかった亜流作品であったし。が、リメイクと謳ってはいるものの、ストーリーも登場人物も本作とは全然異なる(前作は米軍がベトナム戦争用!に秘密裏に研究開発していた新種が流出するという話)。タイトルだけ借りた別の作品と考えた方が正しい。

アレクサンドル・アジャ監督は、「ジョーズ」に相当惚れ込み、リスペクトしている気配がある。なにしろ冒頭の第一被害者を演じているのが「ジョーズ」の主演者、リチャード・ドレイファスであり、役名も同作のドレイファスの役名“マット・フーパー”からそのまま拝借している。
Jaws_2  その上、公式ページのプロダクション・ノートによれば、ドレイファスが着ていた衣裳、メガネは「ジョーズ」でドレイファスが着用したものと同デザイン、劇中でマット老人が口ずさんでいる歌"Show me the way to go home"も「ジョーズ」でマット・フーパーが歌っていた曲であるという。ご丁寧に、本作のポスター・デザイン(上参照)まで、若い女性がのんびり泳いでいる水面下に、凶暴な怪物が迫っている「ジョーズ」のオリジナル・ポスター(右参照)とそっくりである。

さらに付け加えるなら、前半の展開は「ジョーズ」1作目から、後半、保安官の息子がピラニアの群れに囲まれて窮地に陥り、親が助けに向かうという展開は、続編「ジョーズ2」(1978・ジャノー・シュワーク監督)のお話の後半(ブロディ警察署長が息子を救出に向かう)からまんま頂いている。

Jaws3d ちなみに、「ジョーズ」シリーズ3作目は、なんと3D映画となり、タイトルも「ジョーズ3D」(1983)と、本作そっくりであったのもご愛嬌と言うか偶然というか…。

 
そんな具合に、「ジョーズ」を知っている人にとっては、懐かしいやら嬉しいやら。おまけに主役の女性保安官を演じているのがスピルバーグ製作「バック・トゥ・ザ・フューチャーPart2」のヒロイン、エリザベス・シュー、古代生物にやたら詳しい水族館の経営者役で、やはり「「バック・トゥ-」のドクを演じたクリストファー・ロイドが客演しているのも楽しい。

Pirania3d2 なお、ジュリーの息子・ジェイクを演じているのがスティーブ・マックィーンの孫!スティーヴン・R・マックィーン(右)。なかなかの好青年である。こんなゲテモノB級映画に出演しなくても、と言うなかれ、御祖父さんのスティーブも出世作は、やはりB級低予算SFホラー「マックィーンの絶対の危機」だった事を思えば、逆に縁起がいいではないか。将来が楽しみである。

 
肝心の本作の内容であるが、これはもうエロ満載、グロてんこ盛り、徹頭徹尾バカバカしくて下品で(誉め言葉のつもり)、これでもかとばかりのサービス精神満点の、大笑いして楽しめるエンタティンメントに仕上がっている。

3Dで飛び出して来るのが、ボインねえちゃんのオッパイだったり、ゲロだったり、食いちぎられた肉塊だったりチン○コだったり、徹底してくだらないのがいい。血の海と肉塊が画面を埋め尽くす修羅場は、ピーター・ジャクソンの出世作「ブレイン・デッド」を思わせる。…そう言えば、保安官の一人がモーターボートの後部エンジンを外し、スクリューを芝刈機のごとく振り回してピラニアを切り刻むシーンは、「ブレイン・デッド」で主人公が電動芝刈機でゾンビを切り刻む名シーンのオマージュではないだろうか。

また、全裸の美女2人が水中でなまめかしく遊泳するシーンは、これもB級ホラー「大アマゾンの半魚人」のクリーチャーと美女の遊泳シーンを想起させる。

ラストの、爆発寸前の船から間一髪、ロープに引っ張られての脱出劇は、「ピラニア」の続編「殺人魚フライングキラー」(1982・原題"Piranha II Flying Killers"、ジェームズ・キャメロン監督)のラストからいただいているのではないか。

…といった具合に、本作にはいろんなB級ホラー映画へのオマージュも盛り込まれている気配がある。ラストもまさしく、一難去って…のB級ホラーのお約束をきちんと踏襲しているのもいい。

なお、本作の製作総指揮を担当しているのが、ボブ・ワインスタイン、ハーヴェイ・ワインスタインである点にも注目。「キル・ビル」を始めとするQ・タランティーノ作品の多くを製作している名プロデューサーコンビである。本作のテイストも、ワインスタイン・プロデュースによりタランティーノが手掛けたB級ホラーのノリである「グラインドハウス」シリーズのバカバカしさに通じるものがある。

後に何も残らないエログロB級ホラーではあるが、たまには頭をカラッポにして笑って楽しむのもいい。昔の作品を知らなくても、誰でも楽しめる作品ではあるが、昔からB級ホラー、SFを多く観て来た映画ファンには、1粒で2度楽しめる作品になっている。期待しなかった分だけ楽しめた、これは拾い物のエンタティンメントの快作である。    (採点=★★★★

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(さらに、お楽しみはココからである)
ジェームズ・キャメロン監督は、本作を雑誌上のインタビューで、「3D技術をおとしめるだけの駄作で、70~80年代のB級ホラーみたいだ」と猛烈に批判したそうだ(シネマトゥデイより)。

これに、本作のプロデューサーの一人、マーク・カントンが猛烈に反論しているようだが、私もカントンに軍配を上げたい。

キャメロンは、3D技術は、自作のような壮大なスケールのファンタジーにこそ適用するものだと思っているようだが、別に3Dはキャメロンの専売特許ではない。

3D映画の歴史を振り返れば、1950年代初頭の、ナチュラル・ヴィジョンと呼ばれた「ブワナの悪魔」(1952)、「肉の蝋人形」(1953)、それから10年後にまた流行った「骸骨面」(1962)、メガネをかけると女性の衣服が透けてヌードに見えるというエロ・コメディ「パラダイス」(1962)、さらに、アンディ・ウォホールが監修を手掛けたフランケンシュタインもの「悪魔のはらわた」(1973)…と、そのほとんどがB級ホラー、エログロ作品なのである(参考:「3D映画の歴史」)。

つまりは、エロとグロの見世物精神こそが3Dの本流なのである。「アバター」以降、3Dは膨大な予算をかけた大作志向になってしまっているが、本作はそうした流れに逆らい、3Dの原点に回帰した作品であるとも言えるのである。

「70~80年代のB級ホラーみたいだ」というのは、むしろ誉め言葉である。みたいなのではなく、まさしく70~80年代B級ホラーへのオマージュそのものである。本作のチラシに、このキャメロンの言葉をそのまま宣伝文句として引用しているのがなんとも微笑ましい。

B級ホラーからスタートしたくせに、今ではB級ホラーを格下に見下げているキャメロンを痛烈に批判するプロデューサーの意気やよし。頑張って、これからもエログロB級ムービーを作り続けて欲しいとエールを送っておこう。

 
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2011年8月23日 (火)

「スーパー!」

Super2010年・米/ 配給: ファインフィルムズ
原題: Super
監督: ジェームズ・ガン
脚本: ジェームズ・ガン
製作: ミランダ・ベイリー、テッド・ホープ

B級ホラー・コメディ製作会社“トロマ”社の出身で「スクービー・ドゥー」「ドーン・オブ・ザ・デッド」の脚本を手がけ、「スリザー」で監督デビューしたジェームズ・ガン監督によるアクション・コメディ。低予算のマイナー作品にもかかわらず、共演者がエレン・ペイジ、リブ・タイラー、ケヴィン・ベーコンと豪華なのも注目。

冴えない中年男、フランク(レイン・ウィルソン)は、美しい妻サラ(リヴ・タイラー)と暮らしていたが、サラがドラッグディーラー、ジョック(ケヴィン・ベーコン)に誘惑され、家を出てしまう。フランクはサラを取り戻すため、自ら手作りのコスチュームを身にまとった正義のヒーロー「クリムゾン・ボルト」に変身。勝手に売り込んで来た相棒ボルティー(エレン・ペイジ)と共に、ジョック一味に闘いを挑むのだが…。

 
超能力パワーも金もない冴えない男が、ヘタレなコスチュームを身に付け、町のチンピラをボコボコにやっつけ、正義のヒーローとして名乗りを上げる。そこにこれも自前コスチュームで身を固めた少女が助っ人に参加する…という展開。あれあれ、昨年暮公開され大人気となった「キック・アス」の二番煎じじゃないか、と思ってしまう…のだが、主人公がくたびれてお腹も出た中年男であり、何の取り柄もないが、妻を誰よりも愛している、というのが大きな相違点(なお、脚本が書かれたのは2002年頃で、「キック・アス」に触発された訳ではないようだ)。

お話の方も、次第に「キック・アス」とはちょっと違う方向に進んで行く。グロいシーンも多いし、ペイジ扮するボルティーはハイテンションではしゃぎまくり、フランクに無理矢理セックスを迫る過激っぷり。フランクが「クリムゾン・ボルト」に変身するきっかけも、脳内妄想で神の啓示を受けたから、というのもどっかヘンである。このシークェンスで頭蓋骨が開き、脳が露出するシーンも、グロいけどおかしい。さすがは「悪魔の毒々モンスター」等のぶっ飛びグロ・コメディを量産したトロマ社出身、ジェームズ・ガン監督ならではである。

ちなみに、フランクがミシンでコスチュームを縫っているシーンでは、我が三池崇史監督の、やはり中年男がスーパー・ヒーローになる「ゼブラーマン」(2004)を思い出した。海外でも人気が高い三池作品、案外本作にリスペクトされているのかも知れない。

 
だが、話のメインとなるのは、悪党に妻を奪われた男が、愛する妻を奪還する為に必死で闘う、という点で、主人公ディヴ(アーロン・ジョンソン)が、スーパー・ヒーローになりたい、という願望を実行してしまうオタクな「キック・アス」とはそこが違う。むしろ相棒のボルティーの方がディヴに近いオタクぶりだ。

そしてクライマックス、フランクとボルティーは様々な装備を携え、ジョックのアジトに殴り込みをかける。ここでも相当エグい殺戮シーンが続き、そしてボルティーは悲惨な事に。

このシークェンス、どうやらマーティン・スコセッシ監督「タクシー・ドライバー」へのオマージュが仕込まれている、と私は睨んだ。あの作品のクライマックスで主人公トラヴィス(ロバート・デ・ニーロ)は少女(ジョディ・フォスター)を救い出す為、やはりいろんな武器を携えて殴り込みをかける。このくだりで袖口に小型の銃を仕込み、手首を曲げると弾丸が発射されるシーンがあるのだが、本作でも袖口から金属片が飛び出す細工をして、ジョックに命中させるシーンがある。敵をぶち殺すクライマックスの凄惨ぶりも共通している。

ラストもシニカルでせつない。せっかく妻を助けたのに、ハッピー・エンドにはならず、フランクは一人ウサギを抱いて涙ぐむ。

クリムゾン・ボルトに扮したフランクは、街なかの不正に対し、レンチで相手をボコボコにしてしまうのだが、本人は正義を遂行しているつもりでも、傍目から見れば無茶苦茶な暴力でしかない。ボルティーはさらに輪をかけて残虐な暴力を繰り返す。

暴力は所詮暴力なのである。“正義”という大義を振りかざせど、やっている事は怒りにまかせた自分勝手な暴挙でしかない、という点をこれほど鋭く皮肉った作品は珍しい。“妻を救出する”という目的があったフランクはまだしも、目的もなく暴れる事しか考えてなかったボルティーが悲惨な最期を遂げるのも、当然の結果なのだろう。
あるいはこの物語は、アメリカがイラクやアフガニスタンで繰り広げた、正義という名の戦いへの痛烈なアイロニーなのかも知れない。

そう言えば、「タクシー・ドライバー」のトラヴィスはベトナム帰りだった。アメリカの、“正義の戦争”に疑問符が呈示された頃という、時代的にも両作品には共通項がある。「タクシー・ドライバー」を引用しているのは、そこら辺も意識しての事だとしたら、本作は意外と奥が深い。

笑いつつも、いろいろと考えさせられる、これはなかなかどうして、したたかな問題作なのである。      (採点=★★★★

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2011年8月15日 (月)

「カーズ2」

Cars2_22011年・米/ピクサー=配給: ディズニー
原題:Cars 2
監督:ジョン・ラセター
共同監督:ブラッド・ルイス
原案:ジョン・ラセター、ブラッド・ルイス
脚本:ベン・クイーン
製作:デニス・リーム

大ヒットした2006年のピクサー作品「カーズ」の、5年ぶりの続編。監督も前作以来、長編監督としては5年ぶりに復帰したジョン・ラセター。ピクサー創立25周年記念作品でもある。

天才レーサーのマックィーンは、親友でレッカー車のメーターを誘い、仲間とともにワールド・グランプリ・レースに参戦する。だが、都会に出た事のないメーターは失敗ばかり。彼のミスでレースに負けたマックィーンは、とうとうメーターと喧嘩別れしてしまう。しょんぼり帰国しようとしていたメーターは、ひょんな事から凄腕スパイに間違われ、成り行きから本物のスパイに協力し、世界征服をもくろむ巨大な陰謀に立ち向かうはめになる…。

ジョン・ラセターは、相当のカーマニアらしい。前作を上回るいろんなクルマが登場し、舞台も世界各地にまたがり、3Dになって、前作以上に迫力あるレース・シーン、さらには世界征服を企む陰謀組織、それに立ち向かうボンドカーを思わせる英国スパイの活躍、と見どころは満載。その点では、十分楽しい、理屈抜きの娯楽活劇映画に仕上がっている。

なにしろ、冒頭いきなり、巨大な海上プラントに英国スパイ、フィン・マックミサイルが潜入し、敵に見つかって逃げる展開となるのだが、このシークェンスに、本家007シリーズからの引用が満載されていて、007ファンには楽しい事この上ない。
海上に浮かぶ油田のような敵のアジトは、「ドクター・ノオ」を思わせるし、逃げる途中に車の後部からオイルを撒いて敵をスリップさせる所は「ゴールドフィンガー」、海に飛び込んで水陸両用車となるくだりは「私を愛したスパイ」である。最後に時限爆弾のタイマーがあと数秒で止る所も「ゴールドフィンガー」である。

マックミサイルの声を担当しているのが、スパイ映画全盛時代に、やはりイギリスのスパイ映画ハリー・パーマー・シリーズで主役を演じていたマイケル・ケインであるのも意図しての事だろう。

舞台は、日本からイタリア、最後はイギリスに移り、各地の風景も、入念なロケハンをしたのだろう、細部まで凝っているのも楽しい(日本編のカブキ・カーにスモウ・カーが笑える)。

お遊びとしては、冒頭近く、かつて'80年代に、カーズというグループが歌って大ヒットした"You might think"が流れる。オリジナルではなくカバー版なのがちと残念だが、同曲を知っている人には楽しいおマケである(てか、前作で「カーズ」というタイトルを聞いて、私は真っ先に頭の中に"You might think"のメロディが浮かんだ(笑))。

で、最後は、メーターの大活躍で敵を壊滅し、マックィーンとメーターの友情も復活してめでたし、めでたし。

…とまあ、楽しめた事は楽しめたのだが、「カーズ」1作目に感動した人にとっては、…と言うよりも、毎回、驚異のCG映像にプラス、奥深いテーマと、心に沁みる感動をもたらして来たピクサー作品にしては、今回はそうしたテーマ性は希薄で、その点ではやや期待はずれであった。

前作の素晴らしさは、私が書いた批評を参照していただきたいが、要約するなら、“レースに勝つことだけが目標の傲慢な若者だったマックィーンが、ひなびた街・ラジエーター・スプリングスの素朴な人(車)たちと触れ合う事で、勝つことだけがすべてではない、人生で本当に大切なものは何なのか、を学んで行く、マックィーンの成長の物語”であった、という内容である。只のカー・アクション映画に留まってはいない、優れたテーマ性を持った感動作だったのである。

本作がピクサー以外のアニメ会社の作品であれば、これは十分水準以上の出来ではある。

だが前述のように、ピクサー・アニメには、単なる娯楽映画に留まらない、クオリティの高さと、時代を照射する、優れたテーマ性、そして心を揺さぶる感動があった。ピクサーの前作「トイ・ストーリー3」も、シリーズ3作目にも係らず、相変わらず素晴らしい出来で感動し、泣いた。
そうした要素を、本作にも求めるのは当然である。ましてや25周年という節目の作品であるだけに…。ファンとしては、欲が深いのかも知れない。

だが、毎回クオリティの高さを保つのは大変な事である。ラセターとしては、たまには息抜きで、自分でも楽しめる作品を作ってみたかったのかも知れない。

そんなわけで、これから観られる方は、1作目は忘れて、過度な感動は期待せずに、白紙で観る事をお奨めする。そうすれば十分楽しめるだろう。      (採点=★★★☆

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2011年8月11日 (木)

「この愛のために撃て」

Konoainotameni2010年・フランス=ゴーモン/配給: ブロードメディア・スタジオ
原題: A bout portant
監督: フレッド・カヴァイエ
脚本: フレッド・カヴァイエ、ギョーム・ルマン
製作: シリル・コルボー=ジュスタン、ジャン=バティスト・デュポン
製作総指揮: ダヴィ・ジョルダーノ

デビュー作「すべて彼女のために」(2008)がフランスで大ヒットし、後にポール・ハギス監督により「スリーデイズ」(10)としてハリウッド・リメイク(日本公開は本年後半)もされた新進・フレッド・カヴァイエ監督の第2作で、パリを舞台に描くサスペンスアクション。

看護師助手のサミュエル(ジル・ルルーシュ)は、出産間近の妻ナディア(エレナ・アナヤ)と仲むつまじく暮らしていた。が、ナディアが何者かに誘拐され、交通事故で病院に担ぎ込まれた指名手配犯サルテ(ロシュディ・ゼム)を3時間以内に病院から連れ出せと犯人から要求される。妻を救う為、サミュエルは必死の覚悟で要求に従うが、その為警察からも、そしてやはりサルテを探す謎の一味からも追われる身となってしまう…。

ミニシアターでひっそりと公開されているが、意外と掘り出し物のフランス・フィルム・ノワールの秀作である。

フィルム・ノワールは、20世紀中盤に次々と秀作が産み出されたが、その後はジリ貧となり、今世紀に入ってようやく「あるいは裏切りという名の犬」(2006年・オリヴィエ・マルシャル監督)が発表され、復活の兆しが見えたのだが、後が続かず、再び低迷期に入ったかに見えた(フィルム・ノワールについては同作品評を参照)。

そんな折、2008年に登場した「すべて愛のために」は、平凡な一般市民である国語教師が、投獄された愛する妻を救う為に奔走する、という新しいタイプの犯罪映画であり、この作品で注目されたカヴァイエ監督が、満を持して発表したのが本作である。

主人公は今回も平凡な一市民で、やはり愛する妻を救う為に奔走する…という点も共通するが、意外な敵の正体、パリの街中、地下鉄駅構内を走り回るスピーディな演出、そして警察署内での善悪入り乱れたアクション、と、前作を上回るスリリングな展開に圧倒された。

何度も襲う絶体絶命のピンチを、サミュエルはどう切り抜けるのか、愛する妻を救えるのか、そして敵の正体は暴けるのか、と、何重にも構築された、手に汗握るサスペンスにハラハラし、最後には感動も用意されている。「96時間」と設定はよく似ているが、こっちの主人公は平凡な市民で、特殊能力も腕力もないだけに余計ハラハラする。上映時間も85分とコンパクトだが、短さを感じさせないハイテンションの演出が見事である。

とにかく、あまり情報を仕入れずに、白紙で観る事をお奨めする。ド派手なCG満載のハリウッド・アクションに食傷した方には特におススメ。CGも、カーチェイスもなくたって、工夫次第で映画は面白くなれるのである。

ちなみに、本作でプロの殺し屋サルテを演じたロシュディ・ゼムは、前掲の「あるいは裏切りという名の犬」にも出演しており、その映画の監督、オリヴィエ・マルシャルは、カヴァイエ監督の前作「すべて彼女のために」に、脱獄のプロ役でゲスト出演している、という連係ぶりにも注目しておきたい。

ちょっとイチャモンをつけると、邦題が内容にふさわしくない。主人公はほとんど銃を撃たないからである(バス停で威嚇の為ガラスをぶち破るくらい)。まあ適当な題名も思いつかないけれど。

も一つ残念なのは、名前の知れた俳優が出ておらず、ために地味な印象を受けてしまう。
フィルム・ノワール全盛期には、アラン・ドロン、ジャン・ポール・ベルモンド、大御所ジャン・ギャバンに渋いリノ・バンチュラ、と錚々たる役者が揃っていた。もうあんなスターたちは出て来ないのだろうか。寂しい事ではある。

 
(で、お楽しみはココからだ)
普通の市民が、行きがかりで犯罪に巻き込まれる、という展開は、ヒッチコックが得意とする、いわゆる“巻き込まれ型サスペンス”の典型パターンである。その代表作は「北北西に進路を取れ」であるが、誤解から指名手配されて警察にも追われ、犯罪組織の一味からも追われ、両方から逃げまくる、という展開は両作とも共通する。

また、愛する家族が犯罪者に誘拐され、仕方なく協力せざるを得なくなる、という展開は、やはりヒッチコックの代表作「知りすぎていた男」と同パターンである。

つまりは本作は、ヒッチコックの代表的パターンを巧みに消化した作品、とも言えるのである。

ちなみに本作は、フランスの老舗映画会社、ゴーモン社の作品であるが、ゴーモン社は戦前にイギリスに進出してゴーモン・ブリティッシュを設立している。

このゴーモン・ブリティッシュ社を一時期根城にしていたのが、他ならぬヒッチコックで、ヒッチコックは同社において、「暗殺者の家」(1934)、「三十九夜」(35)、「間謀最後の日」(35)、「サボタージュ」(36)、「第3逃亡者」(37)、「バルカン超特急」(38)…と、まさにイギリス時代の代表的傑作を次々と発表している。

ちなみに、同社製作の「暗殺者の家」をリメイクしたのが前掲の「知りすぎていた男」である。「第3逃亡者」も、“巻き込まれ型サスペンス”の代表的作品である。

こういった具合に、ゴーモン社と因縁浅からぬヒッチコック作品を、本作が巧妙に取り入れたフシがある、というのも、偶然ではあろうが不思議な縁を感じてしまう。…てな事を知って本作を観ると、また別の味わいがあろうという物である。     (採点=★★★★☆

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(付記)
上でも取り上げた、カヴァイエ監督のデビュー作「すべて彼女のために」は、DVD発売されているが、題名が「ラスト3デイズ」(小さく「すべて彼女のために」と表示)と改題されているので、セル又はレンタルで観たいと思っている方は要注意。 ↓

 
DVD[あるいは裏切りという名の犬」

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