「カーズ2」
2011年・米/ピクサー=配給: ディズニー
原題:Cars 2
監督:ジョン・ラセター
共同監督:ブラッド・ルイス
原案:ジョン・ラセター、ブラッド・ルイス
脚本:ベン・クイーン
製作:デニス・リーム
大ヒットした2006年のピクサー作品「カーズ」の、5年ぶりの続編。監督も前作以来、長編監督としては5年ぶりに復帰したジョン・ラセター。ピクサー創立25周年記念作品でもある。
天才レーサーのマックィーンは、親友でレッカー車のメーターを誘い、仲間とともにワールド・グランプリ・レースに参戦する。だが、都会に出た事のないメーターは失敗ばかり。彼のミスでレースに負けたマックィーンは、とうとうメーターと喧嘩別れしてしまう。しょんぼり帰国しようとしていたメーターは、ひょんな事から凄腕スパイに間違われ、成り行きから本物のスパイに協力し、世界征服をもくろむ巨大な陰謀に立ち向かうはめになる…。
ジョン・ラセターは、相当のカーマニアらしい。前作を上回るいろんなクルマが登場し、舞台も世界各地にまたがり、3Dになって、前作以上に迫力あるレース・シーン、さらには世界征服を企む陰謀組織、それに立ち向かうボンドカーを思わせる英国スパイの活躍、と見どころは満載。その点では、十分楽しい、理屈抜きの娯楽活劇映画に仕上がっている。
なにしろ、冒頭いきなり、巨大な海上プラントに英国スパイ、フィン・マックミサイルが潜入し、敵に見つかって逃げる展開となるのだが、このシークェンスに、本家007シリーズからの引用が満載されていて、007ファンには楽しい事この上ない。
海上に浮かぶ油田のような敵のアジトは、「ドクター・ノオ」を思わせるし、逃げる途中に車の後部からオイルを撒いて敵をスリップさせる所は「ゴールドフィンガー」、海に飛び込んで水陸両用車となるくだりは「私を愛したスパイ」である。最後に時限爆弾のタイマーがあと数秒で止る所も「ゴールドフィンガー」である。
マックミサイルの声を担当しているのが、スパイ映画全盛時代に、やはりイギリスのスパイ映画、ハリー・パーマー・シリーズで主役を演じていたマイケル・ケインであるのも意図しての事だろう。
舞台は、日本からイタリア、最後はイギリスに移り、各地の風景も、入念なロケハンをしたのだろう、細部まで凝っているのも楽しい(日本編のカブキ・カーにスモウ・カーが笑える)。
お遊びとしては、冒頭近く、かつて'80年代に、カーズというグループが歌って大ヒットした"You might think"が流れる。オリジナルではなくカバー版なのがちと残念だが、同曲を知っている人には楽しいおマケである(てか、前作で「カーズ」というタイトルを聞いて、私は真っ先に頭の中に"You might think"のメロディが浮かんだ(笑))。
で、最後は、メーターの大活躍で敵を壊滅し、マックィーンとメーターの友情も復活してめでたし、めでたし。
…とまあ、楽しめた事は楽しめたのだが、「カーズ」1作目に感動した人にとっては、…と言うよりも、毎回、驚異のCG映像にプラス、奥深いテーマと、心に沁みる感動をもたらして来たピクサー作品にしては、今回はそうしたテーマ性は希薄で、その点ではやや期待はずれであった。
前作の素晴らしさは、私が書いた批評を参照していただきたいが、要約するなら、“レースに勝つことだけが目標の傲慢な若者だったマックィーンが、ひなびた街・ラジエーター・スプリングスの素朴な人(車)たちと触れ合う事で、勝つことだけがすべてではない、人生で本当に大切なものは何なのか、を学んで行く、マックィーンの成長の物語”であった、という内容である。只のカー・アクション映画に留まってはいない、優れたテーマ性を持った感動作だったのである。
本作がピクサー以外のアニメ会社の作品であれば、これは十分水準以上の出来ではある。
だが前述のように、ピクサー・アニメには、単なる娯楽映画に留まらない、クオリティの高さと、時代を照射する、優れたテーマ性、そして心を揺さぶる感動があった。ピクサーの前作「トイ・ストーリー3」も、シリーズ3作目にも係らず、相変わらず素晴らしい出来で感動し、泣いた。
そうした要素を、本作にも求めるのは当然である。ましてや25周年という節目の作品であるだけに…。ファンとしては、欲が深いのかも知れない。
だが、毎回クオリティの高さを保つのは大変な事である。ラセターとしては、たまには息抜きで、自分でも楽しめる作品を作ってみたかったのかも知れない。
そんなわけで、これから観られる方は、1作目は忘れて、過度な感動は期待せずに、白紙で観る事をお奨めする。そうすれば十分楽しめるだろう。 (採点=★★★☆)
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