「ピラニア3D」
2010年・米:ディメンション・フィルムズ/配給: ブロードメディア・スタジオ
原題: Piranha 3D
監督: アレクサンドル・アジャ
脚本: ピーター・ゴールドフィンガー、ジョシュ・ストールバーグ
製作: マーク・カントン、マーク・トベロフ、アレクサンドル・アジャ、グレゴリー・ルバスール
製作総指揮: ボブ・ワインスタイン、ハーヴェイ・ワインスタイン、アレックス・テイラー、ルイス・G・フリードマン、J・トッド・ハリス
1978年に大ヒットを記録した「ピラニア」(ジョー・ダンテ監督)を、3D映画としてリメイクしたパニック・スリラー。監督は「ヒルズ・ハブ・アイズ」「ミラーズ」の新進アレクサンドル・アジャ。
バカンス客が夏を楽しむアメリカ南西部、ビクトリア湖畔の小さな町。ある日釣り好きの老人・マット(リチャード・ドレイファス)が行方不明になり、地元の女性保安官・ジュリー(エリザベス・シュー)が捜索に当るが、老人は無残な姿で発見される。ジュリーは科学者ノバク(アダム・スコット)達の調査チームに同行するが、湖底を調査していたダイバーも謎の生き物の群れに襲われ死亡する。その時死体と共に見つけた1匹の獰猛な魚を調べた所、それは200万年前に絶滅したはずの凶暴なピラニアだった。やがてピラニアの群れはイベントで盛り上がる湖畔の海水浴客に襲いかかり、湖畔は阿鼻叫喚の地獄絵と化して行く…。
…というお話を聞けば、映画ファンならピンと来るだろう。1975年に公開されるや大ヒットを記録し、動物パニックものの元祖となった、S・スピルバーグの出世作「ジョーズ JAWS」のほとんど焼き直しである。オリジナルの'78年作品「ピラニア」自体が「ジョーズ」のヒットにあやかった亜流作品であったし。が、リメイクと謳ってはいるものの、ストーリーも登場人物も本作とは全然異なる(前作は米軍がベトナム戦争用!に秘密裏に研究開発していた新種が流出するという話)。タイトルだけ借りた別の作品と考えた方が正しい。
アレクサンドル・アジャ監督は、「ジョーズ」に相当惚れ込み、リスペクトしている気配がある。なにしろ冒頭の第一被害者を演じているのが「ジョーズ」の主演者、リチャード・ドレイファスであり、役名も同作のドレイファスの役名“マット・フーパー”からそのまま拝借している。
その上、公式ページのプロダクション・ノートによれば、ドレイファスが着ていた衣裳、メガネは「ジョーズ」でドレイファスが着用したものと同デザイン、劇中でマット老人が口ずさんでいる歌"Show me the way to go home"も「ジョーズ」でマット・フーパーが歌っていた曲であるという。ご丁寧に、本作のポスター・デザイン(上参照)まで、若い女性がのんびり泳いでいる水面下に、凶暴な怪物が迫っている「ジョーズ」のオリジナル・ポスター(右参照)とそっくりである。
さらに付け加えるなら、前半の展開は「ジョーズ」1作目から、後半、保安官の息子がピラニアの群れに囲まれて窮地に陥り、親が助けに向かうという展開は、続編「ジョーズ2」(1978・ジャノー・シュワーク監督)のお話の後半(ブロディ警察署長が息子を救出に向かう)からまんま頂いている。
ちなみに、「ジョーズ」シリーズ3作目は、なんと3D映画となり、タイトルも「ジョーズ3D」(1983)と、本作そっくりであったのもご愛嬌と言うか偶然というか…。
そんな具合に、「ジョーズ」を知っている人にとっては、懐かしいやら嬉しいやら。おまけに主役の女性保安官を演じているのがスピルバーグ製作の「バック・トゥ・ザ・フューチャーPart2」のヒロイン、エリザベス・シュー、古代生物にやたら詳しい水族館の経営者役で、やはり「「バック・トゥ-」のドクを演じたクリストファー・ロイドが客演しているのも楽しい。
なお、ジュリーの息子・ジェイクを演じているのがスティーブ・マックィーンの孫!スティーヴン・R・マックィーン(右)。なかなかの好青年である。こんなゲテモノB級映画に出演しなくても、と言うなかれ、御祖父さんのスティーブも出世作は、やはりB級低予算SFホラーの「マックィーンの絶対の危機」だった事を思えば、逆に縁起がいいではないか。将来が楽しみである。
肝心の本作の内容であるが、これはもうエロ満載、グロてんこ盛り、徹頭徹尾バカバカしくて下品で(誉め言葉のつもり)、これでもかとばかりのサービス精神満点の、大笑いして楽しめるエンタティンメントに仕上がっている。
3Dで飛び出して来るのが、ボインねえちゃんのオッパイだったり、ゲロだったり、食いちぎられた肉塊だったりチン○コだったり、徹底してくだらないのがいい。血の海と肉塊が画面を埋め尽くす修羅場は、ピーター・ジャクソンの出世作「ブレイン・デッド」を思わせる。…そう言えば、保安官の一人がモーターボートの後部エンジンを外し、スクリューを芝刈機のごとく振り回してピラニアを切り刻むシーンは、「ブレイン・デッド」で主人公が電動芝刈機でゾンビを切り刻む名シーンのオマージュではないだろうか。
また、全裸の美女2人が水中でなまめかしく遊泳するシーンは、これもB級ホラー「大アマゾンの半魚人」のクリーチャーと美女の遊泳シーンを想起させる。
ラストの、爆発寸前の船から間一髪、ロープに引っ張られての脱出劇は、「ピラニア」の続編「殺人魚フライングキラー」(1982・原題"Piranha II Flying Killers"、ジェームズ・キャメロン監督)のラストからいただいているのではないか。
…といった具合に、本作にはいろんなB級ホラー映画へのオマージュも盛り込まれている気配がある。ラストもまさしく、一難去って…のB級ホラーのお約束をきちんと踏襲しているのもいい。
なお、本作の製作総指揮を担当しているのが、ボブ・ワインスタイン、ハーヴェイ・ワインスタインである点にも注目。「キル・ビル」を始めとするQ・タランティーノ作品の多くを製作している名プロデューサーコンビである。本作のテイストも、ワインスタイン・プロデュースによりタランティーノが手掛けたB級ホラーのノリである「グラインドハウス」シリーズのバカバカしさに通じるものがある。
後に何も残らないエログロB級ホラーではあるが、たまには頭をカラッポにして笑って楽しむのもいい。昔の作品を知らなくても、誰でも楽しめる作品ではあるが、昔からB級ホラー、SFを多く観て来た映画ファンには、1粒で2度楽しめる作品になっている。期待しなかった分だけ楽しめた、これは拾い物のエンタティンメントの快作である。 (採点=★★★★)
(さらに、お楽しみはココからである)
ジェームズ・キャメロン監督は、本作を雑誌上のインタビューで、「3D技術をおとしめるだけの駄作で、70~80年代のB級ホラーみたいだ」と猛烈に批判したそうだ(シネマトゥデイより)。
これに、本作のプロデューサーの一人、マーク・カントンが猛烈に反論しているようだが、私もカントンに軍配を上げたい。
キャメロンは、3D技術は、自作のような壮大なスケールのファンタジーにこそ適用するものだと思っているようだが、別に3Dはキャメロンの専売特許ではない。
3D映画の歴史を振り返れば、1950年代初頭の、ナチュラル・ヴィジョンと呼ばれた「ブワナの悪魔」(1952)、「肉の蝋人形」(1953)、それから10年後にまた流行った「骸骨面」(1962)、メガネをかけると女性の衣服が透けてヌードに見えるというエロ・コメディ「パラダイス」(1962)、さらに、アンディ・ウォホールが監修を手掛けたフランケンシュタインもの「悪魔のはらわた」(1973)…と、そのほとんどがB級ホラー、エログロ作品なのである(参考:「3D映画の歴史」)。
つまりは、エロとグロの見世物精神こそが3Dの本流なのである。「アバター」以降、3Dは膨大な予算をかけた大作志向になってしまっているが、本作はそうした流れに逆らい、3Dの原点に回帰した作品であるとも言えるのである。
「70~80年代のB級ホラーみたいだ」というのは、むしろ誉め言葉である。みたいなのではなく、まさしく70~80年代B級ホラーへのオマージュそのものである。本作のチラシに、このキャメロンの言葉をそのまま宣伝文句として引用しているのがなんとも微笑ましい。
B級ホラーからスタートしたくせに、今ではB級ホラーを格下に見下げているキャメロンを痛烈に批判するプロデューサーの意気やよし。頑張って、これからもエログロB級ムービーを作り続けて欲しいとエールを送っておこう。
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コメント
はじめまして。
「ピラニア3D」でブログ検索して辿り着きました。
僕も先日、職場の男仲間と観てきました。
エロもグロも3Dを最大限に活かした最高のB級映画でした。
飛び出すオッパイ&チンコは、初めて観ましたよ。
しばらく話のネタになりそうです。
投稿: ランディ・K | 2011年9月11日 (日) 17:15
◆ランディ・Kさん、ようこそ
>最高のB級映画でした。
何よりの褒め言葉ですね。こういう、バカバカしいけど映画愛に満ちたB級映画を、我が国でも作って欲しいものです。
個人的には「ロボゲイシャ」の井口昇監督にもっと予算与えて、CG満載のバカ映画を作っていただきたいものです。期待しております。
投稿: Kei(管理人) | 2011年9月18日 (日) 15:14
ご無沙汰しています。
すべて書いていたころは、自分を追いつめていたのだなぁと、ようやく気づきました。今は書きたいときに、書きたいものだけにしています。良かったなあと思った映画も、書きたくない時は書いていません。
まさに「ジョーズ」なんですね。keiさんの記事を読ませていただき、そうかそうかと楽しくなりました。ポスターや設定、オープニングのリチャード・ドレイファスの登場を見て、ジョーズみたいって思っていたのですが・・・びっくりしました。
今の3Dブームがどこまで続くのか。スクリーンが10あっても、3Dと字幕版と吹き替え版で3つも使われてしまって・・・飛び出す絵本は、こういう考えなくていい映画だけでと思うのですが。
日本人女性がスタッフにいるということだけ、私は記憶していました。なんだかとても騒いでいましたので。映画を観ない人も。当時としては大ニュースだったのですね。まさに、野茂かもしれません。
ジェームス・キャメロン、変わってしまってつまんなくなりました・・・観客の心を知っていた監督だったハズなのに。
ホクテンザは閉館したのですね。映画館と呼べる映画館で、好きでした。ユウラク座も、連日オールナイトはやっていないのでしょう・・・平日のオールナイトハシゴ、お世話になりました。すべてB級映画・・・つまらないとわかっていても、行くだけでうれしい場所でした。夜中は、ロビーの椅子に寝そべっているオッサンで座れなくて。あんな映画館がなくなっていきますね。
「カーテンコール」「三丁目の夕日」でロケ場所となった『有楽映画劇場』が、北九州市に残っています。ポルノしかかけていませんが、機会があれば、記事にアップしたいと思ってます。八幡製鉄、炭鉱町で人があふれていたころの映画館のようです。
訪問、ありがとうございました。
投稿: 冨田弘嗣 | 2011年11月 9日 (水) 04:31