「日輪の遺産」
2011年・日本/配給: 角川映画
監督: 佐々部清
原作: 浅田次郎
脚本: 青島武
製作: 池田宏之、阿佐美弘恭、長尾忠彦、臼井正明
プロデューサー: 根津勝、臼井正明、青島武
ベストセラー作家・浅田次郎の同名小説を、「夕凪の街、桜の国」、「出口のない海」等戦争関連の作品も多い佐々部清監督が映画化。
敗色濃い昭和20年8月10日、近衛第一師団・真柴司郎少佐(堺雅人)は、陸軍が奪取した900億円ものマッカーサーの財宝を、祖国復興を託した軍資金として隠匿(いんとく)せよと密命を受ける。真柴は小泉主計中尉(福士誠治)や望月曹長(中村獅童)らと共に、勤労動員として集められた20人の少女たちを指揮して任務を遂行するが…。
くだんの財宝は、マレーの虎・山下奉文大将がフィリピンで奪取したものだという。山下財宝の話は昔からよく、戦中秘話としていろいろ取りざたされており、映画の方では、1963年に三船敏郎が三船プロ第1回作品として、自らメガホンを取って「五十万人の遺産」の題名で映画化している。
(以下ネタバレあり)
浅田次郎の原作は、ミステリー・タッチの出だしでグイグイ引っ張って読ませる作りであるが、映画は20人の女子生徒のうちの、ただ一人の生き残りである金原久枝(八千草薫)が、子供や孫に語って聞かせる、女子生徒たちの悲しい決意と運命の物語としてまとめられている。従って、フィリピンを舞台にし、財宝の奪い合いを中心としたミステリー・アクションであった「五十万人の遺産」とはまるで肌合いの違う作品になっている。
最後に泣かせる辺り、あるいは彼女たちの霊が現れる辺りはまさに浅田次郎ファンタジーそのものである。
真面目で丁寧な作りでは定評のある佐々部清監督らしい作品ではあるが、岡本喜八監督の「日本のいちばん長い日」でも描かれた、陸軍将校たちの反乱決起、阿南陸軍大臣(柴俊夫)の壮絶な自害、等のエピソードも盛り込まれたり、マントを羽織った謎の伝令が影のように出没したりするサスペンス・タッチの部分と、くったくがなくて明るい少女たちのエピソード部分とが、うまくかみ合っていない気がする。
先生に引率され、最初は遠足に来ているような気分の少女たち(「出て来いニミッツ、マッカーサー」(注)と歌うシーンが印象的)が、やがて壮絶な死を選ぶに至るプロセスが、どうも説明不足なのである。
原作では、最後に少女のモノローグで、死を決意するに至るまでの心情をきちんと描いているので、ここでドッと泣けるのに対し、映画ではそこが省かれているので唐突な印象を受けてしまう。
無論、沖縄“ひめゆり部隊”等、少女たちが自決を選んだ話もないではないが、それはまだ戦時中であり、かつ戦闘の最前線で、米軍の上陸を前にして、追い詰められての玉砕であり、これはある意味仕方ない。
それに対しこちらは、玉音放送を聴いて、戦争が終わり、平和な世が訪れた事を知った後である。新しい世の中を築く為には、老人や軍人たちは死んでも、これからの時代を担う若者たちは、生き続けるべきである。その事をこそ描くべきではないだろうか。
“死”を美化するような話は、私は好きになれない。
せめて、もう少し少女たちの描写にウェイトを置いて、各人がそれぞれ、死を選ぶに至った、心の変遷をこそ丁寧に描くべきではなかったか。
これが本当に守らなければならない、日本の宝であるならまだしも、アメリカから横取りした、不純?な財産である。そんな金が、日本の復興に役立つとは思えない(使おうとしたって、出どころ不明の何兆円もの金が出てきたらアメリカが不審に思うだろう)。
日本が復興し、立ち直ったのは、金の力ではなく、一人一人が勤勉に働き、努力した結果である。それこそが、財産なのである。
そんなわけで、私には今ひとつしっくり来ない作品ではあったが、原作の味わいはまずまず出ていたので、原作を読んで感動した人には楽しめる作品には仕上がっているのではないか。 (採点=★★★☆)
(注)
少女たちが歌う「出て来いニミッツ、マッカーサー」とは、「比島決戦の歌」(作詞:西条八十、作曲:古関裕而)という軍歌の中の一節である。
→ http://www.youtube.com/watch?v=oERBTPp0yj8
細かい事だが、正しくは「いざ来いニミッツ、マッカーサー」である。「やって来い」と歌ってる訳だから、「出て来い」とはおかしいのだが、昔の人に聞くと「出て来い」と間違って歌ってた人もいるらしい。
が、少女たちがこの歌を学校で習ったなら、やはり正しく「いざ来い」と歌わせるべきではないかと思う(と、細かいことが気になる私(笑))。
(で、お楽しみをちょこっとだけ)
マッカーサーの通訳を務めた、日系人イガラシ中尉の若い時代を演じた役者にちょっと注目。この人の名前は、三船力也という。
で、ピンと来る方もいると思うが、この人は三船敏郎の長男、三船史郎の息子である(1988年生まれ)。…つまり、三船敏郎の孫に当る。
お父さん(三船史郎)と眉毛、目鼻立ちがそっくりである。
三船力也は、10歳の時、1998年製作の香港=日本合作「ホーク/B計画」という派手なアクション映画で、三船史郎と親子共演を果たしており、これが実質映画デビューである。確か役柄も史郎の息子だったと思う。
一応、三船プロ(史郎が社長)に所属している。が、映画出演はこれまで「青空のゆくえ」(2005)他数本しかない(しかもマイナーな作品ばかり)。
本作を契機に、メジャーな作品からお呼びがかかり、役者として大きく成長する事を期待したい。
で、よく考えれば、上記に挙げた本作との関連作、「五十万人の遺産」、「日本のいちばん長い日」、どちらも祖父の三船敏郎主演作である。「日本のいちばん長い日」では三船敏郎は阿南惟幾陸軍大臣を演じている。これも壮絶な切腹シーンが話題になった。
そうした作品に、三船敏郎の孫・三船力也が出演しているというのも、不思議な縁である。それともプロデューサーがキャスティング時に意識した…なんて事はないでしょうね(笑)。
| 固定リンク
コメント
書き込み有り難う御座いました。(トラックバックさせて貰いますね。)
「徳川埋蔵金伝説」等、壮大な眉唾話が結構好きだったりします。ですので「山下財宝」を扱った此の作品は興味深くも在ったのですが、「無理が在る設定」ならば「一寸レベル」では無く、仰る様に「大胆な設定だなあ。」と笑ってしまう程の感じでも良かったかも。
で、三船力也氏は矢張り“世界の三船”の御孫さんでしたか。自記事でも触れましたが、そういう事情は全く知らない儘、「やけに目力の在る、今時珍しい古風な顔をした役者だなあ。」と彼の事を観ていたのですが、三船氏の御孫さんという事で在れば其れも納得。
投稿: giants-55 | 2011年9月20日 (火) 00:02