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2011年11月24日 (木)

「恋の罪」

Guiltyofromance2011年・日本/配給:日活
監督:園 子温
脚本:園 子温
製作:鳥羽乾二郎、大月俊倫
企画:國實瑞惠
プロデューサー:千葉善紀、飯塚信弘

「愛のむきだし」「冷たい熱帯魚」の鬼才・園子温監督が、十数年前に東京のラブホテル街で実際に起きた殺人事件をベースに描く問題作。水野美紀、冨樫真、神楽坂恵の3人の女優がそれぞれに体当たりの熱演で魅せる。

どしゃぶりの雨の日、渋谷区円山町にある廃アパートで女性の凄惨な変死体が発見される。事件を担当する事となった刑事の和子(水野美紀)は、被害者の身元を調べるうちに、大学のエリート助教授・美津子(冨樫真)と、人気小説家・菊池由紀夫(津田寛治)の妻いずみ(神楽坂恵)という2人の女性の存在にたどり着く…。

いつもながら、園子温監督の作品は目まいがするほど過激で強烈だ。前作「冷たい熱帯魚」では殺人、人体解体というグロテスクな描写に圧倒されたが、本作ではエロティシズムが全面展開、3女優がヘア丸出しで過激なセックスシーンに挑んでいる。しかしそこで描かれるのは、女という存在の心の闇と謎、人間という生き物の不可思議さである。

映画のモデルとなっているのは、「東電OL殺人事件」として知られる、1997年に起きた殺人事件であるが、舞台が渋谷区円山町のラブホテル街である事と、被害者が昼間はエリート、夜は売春婦という二重の生活を送っていた、という点以外に共通性はなく、後は園監督が自由に物語を膨らませている。

(以下ネタバレあり)
中心となるのは、すべてである。売れっ子小説家の貞淑な妻いずみは、一見幸せそうだが、心は何か満たされていない。外に出てアルバイトを始め、次にAV撮影の仕事に誘われ、身も心も大胆になり自己を解きほぐして行く。

昼間は大学で文学の講義をする美津子は、夜はデリヘルで売春行為という二重生活を送っており、彼女がこの物語で一番不可解な人間である。
いずみは、ふとしたきっかけで美津子と出会い、その強烈な生き様に惹かれ、美津子と共に売春稼業にも手を染めて行く。

殺人事件を捜査する刑事・和子も女性であり、女性の視点からこの猟奇事件を追って行く。

そして後半に登場する美津子の母・志津(大方斐紗子)がまた強烈な存在感を示す。
穏やかな物腰ながら、ネチネチと美津子を責め、美津子も「クソババァ、早く死ねよ!!」とやり返す。それを平然と受け流し、傲然と構える志津は、まさに妖怪婆あである。

互いに、憎しみ合いながらも、それでも簡単には離れられない。男の場合と異なり、女は“”として、自らの体(母体)から分身の如く生命を産み出した強みがある。血の絆は断ち切ろうとて断ち切れないのである。

登場人物たちは、それぞれに表の顔と、それとは別の裏の顔を持っている。象徴的かつ一番エクセントリックなのは、エリート大学助教授と売春婦という、まるで両極にあるかのような顔を持つ美津子であるが、いずみもまた貞淑な妻という表の顔の下に、やがて淫乱な堕天使という裏の顔を獲得して行く。
刑事の和子も、裏では不倫に溺れているし、表の顔は売れっ子小説家であるいずみの夫ですらも、やがては売春婦を買う裏の顔が暴露されて行く。

人間とは、かくも複雑で、表向きは平常に見えても、仮面の下に得体の知れない魔性を抱えた、悲しい存在なのである。

 
ところでもう一つ、本作は園監督の前作「冷たい熱帯魚」とは、表裏一体の関係があるように見える。

前作の村田(でんでん)も、表の顔は温厚で人望のある経営者であるが、裏の顔はおぞましい狂気の殺人者である。本作の美津子の二面性とも似通っている。

その村田に、いつの間にか魅入られたように近づいて行き、その片棒を担がされる社本(吹越満)は、本作でのいずみの立場と共通するものがある。
村田は社本に、「お前はまるで昔の俺だ」と言い、怖気づく社本に「そんな弱気でどうする!」と叱咤するのだが、これも美津子の「おまえはわたしのとこまで堕ちてこい!」といずみに投げかけるセリフとの共通性を感じる。

さらに、これは私が前作の評で書いた事だが、村田が狂気の殺人鬼となった要因には、彼の父親の影響があるのではないかと感じたのだが、本作ではまさに、美津子の狂気の原因が、彼女の母にあった事が明示されている。

前作では、子による父殺しがメタファーとして隠されていると感じたが、本作では[母による子殺し]という、まるで前作の逆パターンが展開される。

ラストが、共に“ナイフによる自殺”で物語が閉じられるのも、偶然ではないだろう。両作品をじっくり見比べてみるのも面白いかも知れない。

ただ、エンドロールにおける和子の行動は、やや蛇足に感じる。本作のテーマとは乖離しているように思う。ない方が前記ラストシーンの余韻も残り、すっきりまとまったのではないか。そこがやや残念。

ともあれ、これはいかにも園子温らしい、強烈な毒が充満したまさに園子温ワールド。受け付けない人もいるかも知れないが、園ワールドに魅入られた人にはこの毒気がたまらない。毒を食らわば皿まで。とことん付き合わせていただこう。

それにしても、1月公開の「冷たい熱帯魚」で幕を開け、「恋の罪」が11月から年末にかけて公開されている2011年。まさに今年は園子温で明け暮れた1年、と言えるのではないか。来年は東北大震災も絡む「ヒミズ」が待機している。ますます園子温から目が離せない。    (採点=★★★★☆

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コメント

聞いた話では、海外版DVDは最初の水野美紀のシーンがカットされてて、ラストも神楽坂恵のラストで終わってるそうです。

投稿: タニプロ | 2011年12月26日 (月) 00:44

◆タニプロさん
いつも情報ありがとうございます。

なるほど、最初の水野美紀のファック・シーンと、エンディングの水野美紀がゴミ収集車を追いかけるシーン、
どちらも、私はいらないのではないか、と感じたシーンですが、ひょっとしたら監督も時間が経ってから、不要だと思い直したのかも知れませんね。

DVDを出す際には、海外版も別バージョンとして特典で付けて欲しいですね。
2種類のどちらが面白いか、見比べるのも一興かと思います。監督、是非採用を。

投稿: Kei(管理人) | 2011年12月31日 (土) 21:29

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