「リアル・スティール」
2011年・米/ドリームワークス=配給:ディズニー
原題:Real Steel
監督:ショーン・レビ
原作:リチャード・マシスン "Steel"
ストーリー:ダン・ギルロイ、ジェレミー・レビン
脚本:ジョン・ゲイティンズ
製作:ドン・マーフィ、スーザン・モントフォード、ショーン・レビ
製作総指揮:ジャック・ラプケ、ロバート・ゼメキス、スティーブン・スピルバーグ、スティーブ・スターキー、ジョシュ・マクラグレン、メアリー・マクラグレン
スピルバーグの出世作「激突!」の脚本や「アイ・アム・レジェンド」等の原作者として知られるリチャード・マシスンが1956年に発表した短編小説『四角い墓場』の映画化。製作総指揮にはS・スピルバーグに加え、ロバート・ゼメキスも参加する豪華布陣。監督は「ナイトミュージアム」のショーン・レビ。
西暦2020年、リモコンで遠隔操作されたロボット同士が戦う“ロボット格闘技”が大流行。かつては将来を嘱望されたボクサー、チャーリー・ケントン(ヒュー・ジャックマン)も、今はロボット格闘技のオペレーターとして食いつなぐしがない日々。そんなある日、離婚のため離れて暮らしていた11歳の息子マックス(ダコタ・ゴヨ)を預かることになり、慣れない父子の共同生活が始まる。そんな折、ロボット部品調達で忍び込んだ廃棄場で、マックスが見つけた旧式ロボット“ATOM”を持ち帰った事から、2人の運命が大きく変わって行く。
いかにもスピルバーグらしい、SF的設定の中に、かつては一流ボクサーだった男の、夢への再挑戦、親子の絆といった古典的なストーリーを絡ませ、最後に感動のクライマックスを用意する、エンタティンメントの王道的作品である。
ボクシングものは、昔から感動する名作が多い。古くは1931年のキング・ヴィダー監督「チャンプ」があり、“かつてはチャンピオンだったが今は落ちぶれしがない生活を送る中年男が、息子に励まされ、再びリングに上がることを決意する”という内容からして本作にインスピレーションを与えている事は明白。後に'79年にはフランコ・ゼフレッリ監督、ジョン・ボイト主演でリメイクされている。
その他でも、ロバート・ワイズ監督、ポール・ニューマン主演の「傷だらけの栄光」(56)は、実在のボクサー、ロッキー・グラジアノの伝記であり、後のシルヴェスター・スタローン脚本・主演「ロッキー」の主人公の名前にも引用された名作である。いずれも、どん底からはい上がり、最後は栄光を目指しての迫力あるタイトル・マッチがクライマックスとなる。
我が日本にも、「あしたのジョー」がある。本作のクライマックスで、倒れたATOMにマックスがかける言葉「立て!立つんだ!」で、「あしたのジョー」を思い出した人も多いだろう(笑)。
こういった具合に、ハングリー・スポーツであるボクシング映画は、元々感動する要素が多い。そこに子供を持ってくれば感動は倍加するわけで、SFでなくても十分映画として成り立つ。
本作が面白いのは、チャーリーが、自分が失ったボクシングの夢の再生をロボットに託すわけで、これはチャーリーの復活の物語であると同時に、一度は棄てられたロボット・ATOMの復活・再生の物語でもあるわけなのである。
クライマックスの試合では、シャドー機能を活用して、まるでチャーリー自身が試合をしているような気分にさせてくれる。うまい設定である。
最初は疎遠でギクシャクしていた父と息子が、やがて共同でATOMを復活させ、勝利を重ねるプロセスで、親子の絆を回復して行く展開もまさに親子ものの王道。
実の父と子ではないけれど、共同生活を送るうちに、本物の親子のような絆を深めて行くという話も、チャップリンの「キッド」をはじめ、わが日本でも、丸根賛太郎監督、バンツマ主演の「狐の呉れた赤ん坊」(1945)などがあり、いずれも泣ける名作揃いである。
本作は、そうした作品からもいろいろとインスパイアされているようだ。
そんな、泣かせと感動の要素が巧みにブレンドされているのだから、面白いのは当然である。ショーン・レビ監督の演出もツボを心得、ウエルメイドなエンタティンメントの快作に仕上げている。
今年はスピルバーグ製作のSF大作が数本公開されたが(「トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン」、「スーパーエイト」、「カウボーイ&エイリアン」等)、本作が一番成功しており、興奮し、感動させてくれる。お奨めである。
日本人は大人しいけれど、アメリカ人ならきっと、クライマックスでは足踏み鳴らし、自分がチャーリーになった気分でシャドー・ボクシングの真似をしつつ「そこだ、やれ!」と叫び大喜びするだろう。
…だがね、よく考えると、西部劇、ボクシングものというのは、それ自体が一つのジャンルだったはずである。それが「カウボーイ&エイリアン」といい、SFと合体しないと、もはやジャンルとして成立しない時代になってしまったのだろうか。
さらに、王道コメディの第一人者、矢口史靖までもが、ロボットものコメディ「ロボジー」を監督している。
王道ジャンルがこうもロボットものに侵食されて来ているのは、なんだか複雑な心境である。ロボットが世界を侵略するのは、「ターミネーター」の映画の中だけの話であって欲しいと望むのは考え過ぎだろうか。 (採点=★★★★☆)
(という所で、お楽しみはココからだ)
本作は、ご承知のように、ロボットの名前が“アトム”である所からして、「鉄腕アトム」へのオマージュになっているのは明白である。
だが私の観るところ、実はもう一つのロボットものの名作、「鉄人28号」へのオマージュも隠されているのではないかと思う。
チャーリーが買った、胴体に「超悪男子」と漢字で書かれた日本製ロボット、ノイジー・ボーイは、丸みを帯びたフォルムに、ダークブルーの胴体カラーといい、鉄人28号とそっくりなデザインである(右参照)。
さらに、ロボットを動かすのはリモコン操縦機なのだが、これもまた「鉄人28号」そのままである。鉄腕アトムは人工知能で、自分で考えて行動するが、鉄人は人間が操縦する通りにしか動けない。本作のロボットたちは、その点では鉄人28号に近い。
そう考えれば、最後に戦う相手、ゼウスのデザインも、鉄人のライバル、ブラック・オックスとどことなく似ている気がしたのは私だけだろうか。
ところで、「鉄腕アトム」と「鉄人28号」とは不思議な縁があって、どちらも昭和30年代初め、「少年」という同じ雑誌に並んで連載されていた。
さらに昭和34年、「鉄腕アトム」の実写ドラマがテレビで放映開始されると、その翌年には「鉄人28号」も実写ドラマ化。ちなみにどちらも同じ製作会社(松崎プロダクション)が製作した。
が、どちらもあまりにチープな作りにファンは失笑し、次には怒った(笑)。鉄人28号に至ってはドラム管に手足を生やしたような、コントかと思えるふざけたデザインであった(笑)。ちなみに身長も人間サイズ。
次に昭和38年、「鉄腕アトム」が虫プロ製作でアニメ化され、テレビ放映されると、これまた同年、「鉄人28号」も追っかけてテレビアニメ化。スポンサーはどちらも製菓会社(明治製菓と江崎グリコ)であった。
こんな具合に、「鉄腕アトム」と「鉄人28号」は不思議とライバルというか、同時期に同じようなスタイルでしのぎを削っていたのである。
日本が、ロボットもので世界の先陣を切って来たのは、この2本の傑作が、互いにいろんなメディアにおいてパイオニアとなって来たからに他ならない。アメリカ映画が両者に等しくオマージュを捧げているのも、故に当然なのである。
| 固定リンク
コメント
父子ものかあ、、というのであまり見る気がなかったのですが、評判いいので見てみました。
とても面白かったです。
原作はマシスンなんですね。
ヒュー・ジャックマンはやはりいいです。
最初のダメな所もうまいし、だんだん立ち直っていく所もいいです。
子役ダコタくんもうまくて可愛いです。
ロボットのATOMも最初はともかくキュートに見えてきます。
ロボットの名前がATOMと分かった時にちょっとほろりとしました。
途中もいいですが、特に最後の対決は燃えますね。
恥ずかしながらラストは泣いてしまいました。
ヒロインのエヴァンジェリン・リリーもいいです。
ちょっと木村佳乃に似てます。
投稿: きさ | 2011年12月24日 (土) 08:22
突然で申しわけありません。現在2011年の映画ベストテンを選ぶ企画「日本インターネット映画大賞」を開催中です。投票は1/19(木)締切です。ふるってご参加いただくようよろしくお願いいたします。
日本インターネット映画大賞のURLはhttp://www.movieawards.jp/です。
なお、twitterも開設しましたので、フォローいただければ最新情報等配信する予定です(http://twitter.com/movieawards_jp)。
投稿: 日本インターネット映画大賞 | 2011年12月28日 (水) 17:14