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2012年1月20日 (金)

「ロボジー」

Roboji2011年・日本/アルタミラ・ピクチャーズ = 配給:東宝
監督:矢口史靖
脚本:矢口史靖
脚本協力:矢口純子
製作:亀山千広、新坂純一、寺田篤
エグゼクティブプロデューサー:桝井省志
企画:石原隆、市川南、阿比留一彦、小形雄二
撮影:柳島克己

「ウォーターボーイズ」「スウィングガールズ」の矢口史靖監督がロボットを題材に描くコメディ・ドラマ。ミッキー・カーチスが五十嵐信次郎の名義で主演している。

弱小家電メーカー・木村電器で働く小林(濱田岳)、太田(川合正悟)、長井(川島潤哉)の3人は、社長命令で二足歩行のロボット“ニュー潮風”を開発していたが、発表直前にロボットが勝手に動き出し、転落大破してしまう。切羽詰った3人はロボットの中に人間が入ってもらう事にし、公募で選ばれたのが一人暮らしの頑固老人・鈴木(五十嵐信次郎)。しかし発表会では鈴木老人が勝手に行動したあげく、女子大生の佐々木葉子(吉高由里子)を助けてしまったことから、事態は思わぬ方向に…。

いやあ、これは面白い! コメディを撮らせては、今や我が国第一人者の矢口史靖監督だが、本作ではさらに語り口が洗練され、お正月の初笑いにふさわしい、楽しいコメディの快作に仕上がっている。

 
矢口コメディと言えば、“まったく方向性の違う2つの要素を掛け合わせて、そこから生じる化学反応が笑いを生む”作品が多い。

「ウォーターボーイズ」では、あでやかなシンクロナイズド・スイミングと、ムサ苦しい男子高校生という掛け合わせ、「スウィングガールズ」では、キャピキャピの女子高生と、レトロなジャズ、といった具合に、およそ片方からではとても連想不可能な題材を組み合わせ、それで楽しくて感動させる秀作を完成させている。

本作も、ハイテク工学の粋、ロボットと、偏屈な老人という、これまた普通の感覚では思いつかない組み合わせが見事に成功している。ロボットの中に人が入る、という所までは思いついたとしても、70歳を越えた老人を入れる、という発想を思いつく所が矢口監督の非凡な才であろう。
前作「ハッピーフライト」がいま一つ面白くなかったのは、そうした掛け合わせの妙がなかったからだろう。

しかも本作が見事なのは、着想の秀逸さもさりながら、最後の結末も絶妙である。悪く言えば嘘をついて騙しているわけだから、この話、いったいどうやってオチをつけるのか、と思っていたら、予想もつかない最良のエンディングに唸った。しかも二段構えだ。さすがである。

何度も出して恐縮だが、松本人志の監督作品「大日本人」「しんぼる」が決定的にダメなのは、最初の着想はまあまあ面白いのだけれど、どうやって終らせるかというオチまでは思いつかず、風呂敷を広げたままで終ってしまっている点である。

物語は、出だしの発想よりも、いい結末を考える方がずっと難しい。最後が見事に決まった作品は大抵面白いのである。オリジナル脚本を書いた矢口監督、相当知恵を絞ったのではないか(インタビューによると、悩みに悩んで何度も書き直したのだそうだ)。
もっとも、聞く所によると、“脚本協力”とクレジットされている奥様(矢口純子)も、いろいろアイデアを出したそうである。

(以下ネタバレあり。一部隠します)

作劇的に素晴らしいのは、周到な伏線の張り方である。さりげないように見えたネタが、きちんと後の伏線になっていて、ほとんどムダがない。

うっかり顔のマスクを上げてしまい、バレる、とハラハラしたら、[コスプレの一団が通りかかり、その中に本物そっくりのニュー潮風が混じっていて、鈴木老人もコスプレと思われて窮地を脱するくだりがある]のだが、これがギャグに終らず、ラストの伏線にもなっているのが見事。

冒頭のロボット転落破壊シーンも、[終盤のオチにうまく活用されているし、さらにエンディングでもう一度ギャグに使われる]のも秀逸。いわゆる反復ネタである。
この冒頭で、転落したロボットの上に、ダメ出しでPCが落ち、がゴロンと転がるシーンは、「これで俺たち、クビだな」という彼らの内心の暗喩にもなっているのがまたうまい。

笑いのネタもいっぱい詰まっているけれど、単なるドタバタコメディには終っていない。
偏屈な老人は、他人と触れ合う事によって、心が解きほぐされ、家族との心の絆を取り戻して行くし、またダラしないロボット開発3人組も、葉子たち大学生が真摯にロボットの研究をしている姿に心打たれ、自分たちも本気でロボット作りを研究する姿勢を見せて行く。その研究成果を見た葉子もまた彼らに触発され、ロボットオタクを脱皮し、本格的にロボット研究に勤しみ、木村電器に入社する道を選ぶのである。

これは、それぞれに欠陥を抱えていた人たちの、人間的成長の物語にもなっているのである。
だから観客も、最初はいいかげんな3人組をいぶかしく思いながらも、最後には応援する気持ちに変わって行くのである。

また一方で、さりげなく社会問題に切り込んでいる点も見逃せない。高齢化社会で、独居老人が増えている現状や、モラル欠如が目立つ企業のあり方への批判も込められているようだ。

一時話題になった、産地偽装やら、最近では財テクに失敗した大手光学メーカーがそれを隠す為策を弄したり、さらにはしょっちゅう原発事故を起しながらもそれらを隠蔽し、安全神話をばらまいて来た電力会社が大震災でボロを出したように、企業が実態を隠し、騙して来たケースは無数にある。テレビ局だって、ヤラセや嘘は日常茶飯事である。

そういう風潮があるから、彼らがやった偽装も、ひょっとしたら実際にやっているメーカーがあるかも知れないなと、つい思わせてしまうものがある。
もっとも、そうした企業犯罪に比べれば、彼ら3人組がやった事は犯罪でもなく、誰かに迷惑をかけたわけでもない。むしろ子供やロボット・ファンに夢を与えた点では微笑ましいものであるとすら言えるだろう。

自動車のオートメ工場で、ニュー潮風がクレーンロボットに振り回されるシーンは、チャップリンの「モダン・タイムス」のオマージュかも知れない。チャップリンがオートメーションのベルトコンベアと悪戦苦闘したり、自動食事マシンが暴走し、振り回されるシーンなどがたちどころに思い浮かぶ。

また太田が手に書いたカンペが、うっかり汗を拭いた為に消えてしまうシーンも、「モダン・タイムス」の終盤、カフスに書いたカンペをチャップリンが飛ばしてしまい、立ち往生してしまうシーンへのオマージュだろう。

「モダン・タイムス」でチャップリンが痛烈に風刺したテーマ…ハイテク・メカに振り回されてて、人間って楽しいのだろうか。もっとのんびり、ローテクで行こうよ…という訴えは、70年以上の時を超えて誕生した本作でも、そのまま通用している。改めてチャップリンの偉大さを思い知る。

ロボット開発3人組の風体が面白い。見事にチビ、デブ、ノッポである。名前からして、林(チビ)、田(デブ)、井(ノッポ)と、名は体を表しているのが笑える。
私の世代であれば、ノッポ、チビ、デブのトリオ、と聞いたら、1960年代にテレビで大ヒットした「てなもんや三度笠」におけるレギュラー出演者、あんかけの時次郎(藤田まこと)、珍念(白木みのる)、駒下駄茂兵衛(香山武彦)のトリオを思い出す。この3人も見事に順にノッポ、チビ、デブであった。
那須正幹原作の、息の長い児童文学シリーズ「ズッコケ三人組」の3人組もチビ、デブ、ノッポである。本作の3人も、まさに見事なズッコケ3人組ぶりであった。
矢口監督は、チャップリンも含め、いろんなコメディを相当研究したのかも知れない。

 

Mickeykurtys

鈴木老人を演じた五十嵐信次郎=ミッキー・カーチスにも言及しておこう。若い人の中にはもう知らない方がいるかも知れないが、我々世代にとっては忘れられないスーパースターである。昭和30年代、平尾昌晃、山下敬二郎(昨年死去)と並んで、ロカビリー・ブームの頂点にいた人で、今も現役のロッカーである。
また俳優としても、加藤泰監督の「真田風雲録」(1963)で、真田十勇士の一人だが、何故かギターをかき鳴らして登場する由利鎌之助役を怪演。岡本喜八作品では「暗黒街」シリーズや「独立愚連隊」シリーズ等、岡本作品には欠かせぬバイ・プレーヤーだった。
昨年も映画「日輪の遺産」で、GHQ通訳だった男の現在の姿で出演していたが、役名がイガラシ中尉!本作での芸名・五十嵐信次郎はここから来ているのかも知れない。

ラストのオチが秀逸。[今度は葉子が増えて、お願いにやって来た彼らに、鈴木老人が、ニコッと微笑む所で終る]。この後どうなるかは、観客の想像にまかせる、まるでヨーロッパ製コメディ映画のような、シャレたエンディングである。お見事。

矢口監督のコメディ・センスはますます磨きがかかって来た。次作も楽しみである。     (採点=★★★★☆

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コメント

私も見ました。これは面白かったです。
実は予告編はかなり寒い印象で、ハズレかと思ったのですが、さすがは矢口監督で本編は良く出来ていました。
ミッキー・カーチスはいいのですが、映画的には前半はちょとたるい感じかな。 まあそれも監督の計算なのかもしれませんが。
ラストあたりの展開はさすがですね。伏線の張り方、風呂敷のたたみ方、その後のオチとラストがきれいに決まるので、全体の印象がぐっとアップしました。
濱田岳、いいですね。
吉高由里子もなかなか魅力的でした。

投稿: きさ | 2012年1月20日 (金) 23:11

◆きささん

前半は、3人組のヘタレぶり、爺さんの偏屈ぶりを強調する狙いがあるから、あれでいいと思いますよ。
で、中盤から爺さんが調子にノッてどんどん暴走始める展開が、その分スピーディに感じられるわけです。うまいと思いましたね。
コメディ脚本としては、三谷幸喜さんよりずっとよく出来てると思いました(笑)。

投稿: Kei(管理人) | 2012年1月24日 (火) 02:06

この若かりし頃のミッキーカーチスさんの写真 平尾昌晃さんの若かりし頃ではございませんか?
違ってたらスミマセン…

投稿: かな | 2013年10月 4日 (金) 08:30

◆かなさん
ご免なさい。この写真ネットで検索して見つけたものですが、私も何か違うかなと思ってました。確かに、言われてみれば平尾昌晃さんのようですね。
写真は近日中に差し替えます。ご指摘ありがとうございました。

投稿: Kei(管理人) | 2013年10月 4日 (金) 17:28

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