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2012年5月 6日 (日)

「HOME 愛しの座敷わらし」

Itosinozasikiwarashi2012年・日本/配給:東映
監督:和泉聖治
原作:荻原 浩
脚本:金子成人
音楽:池 頼広

直木賞候補にもなった荻原浩の人気小説「愛しの座敷わらし」を、水谷豊の28年ぶり単独主演で映画化。監督は水谷主演で大ヒットした「相棒」シリーズの和泉聖治。

左遷に近い形で東京から岩手へと転勤になった高橋晃一(水谷豊)は、家族5人を引き連れ、盛岡郊外の築100年以上だという古い藁葺きの民家に引っ越してきた。快適な都会に比べてあまりに辺鄙で不便な生活に妻・史子(安田成美)、長女・梓美(橋本愛)は不満タラタラ。そんなある日、どうやらこの家には小さな子供の格好をした“座敷わらし”がいるらしいと家族が気づき出して…。

なんとまあ、“都会から辺鄙な田舎に引っ越して来て、古い造りの家屋に住み始めた一家が、ヘンな妖怪と出会う”というストーリー展開は、偶然であるが、先日観た「ももへの手紙」とそっくりである(厳密には“座敷わらし”は妖怪というわけではないが、ここでは便宜的にそう呼ぶ)。

どちらも、その姿は一部の子供にしか見えない所も同じだし、どちらにも主人公たちの子供が、祠のような場所で妖怪と並んで座っているシーンもある。

そして、妖怪との交流を通して、一家は家族の絆を強めて行く、という展開も共通する。観客は観終わって、懐かしく、またほっこりとした気分に浸れる、という点でも両作は似ている。製作開始時期は大分違うので、公開時期が同時になったのは全くの偶然だろう。

 
高橋家の家族は、それぞれに悩みを抱え、バラバラに近い状態である。晃一は仕事一筋で家庭にあまり関心がなかったようだし、梓美は学校で苛めに遭い、弟の智也(濱田龍臣)は小児ゼンソクで友達もいない様子。同居の晃一の母(草笛光子)はボケが始まりかけてるようだし、そんな義母の面倒を見る羽目になった妻はストレスがたまりかけている…。現代人なら誰もが経験する悩みである。

晃一が市内からうんと離れた、古い民家を借りようと思ったのは、そうした家族の状況を一度見直そうと考えたのかも知れない。座敷わらしの存在は予想外であったが…。

そうした切実なテーマを中心に、座敷わらしの登場によって高橋家の人々が少しづつ変化して行く様を、田舎の純朴な人たちとの交流を通し、時にはホラー・タッチ、時にはトボけた笑いも交えて緩急自在に描く和泉演出は、いつもながら手堅い。

水谷豊も、不器用だが家族の為に精一杯頑張る父親を好演。その他の役者たちも皆役柄にうまく合って安心して観ていられる。そして何より、座敷わらしに扮した子役とても可愛らしい。こんな妖怪となら私でも一緒に暮らせそうだ(笑)。

座敷わらしは、間引きで命を絶たれた子供の化身だという。母はその子に六ちゃんと名前をつける。六ちゃんとは、戦争で死んだ母の弟の名前である。現代の繁栄の陰に、地方の貧困と戦争、という哀しい歴史があった事をさりげなく盛り込んだ辺りも秀逸。親子で鑑賞したなら、お家に帰った後、この問題について語り合うのもいいだろう。

ラスト近く、いよいよ認知症が進んだ母の姿に涙をこぼす晃一を観て、こちらも泣いてしまった。
実際にロケで使った、築200年以上だという本物の藁葺き民家の中の様子は、私が子供の頃に暮らした事のある祖父の実家を思い出させ、胸がキュンとなった。近所の人たちの素朴な暮らしぶりも、昔はあの通りだった。それだけに、余計に心に沁みた。

家族というものについて、あるいは日本人の心について考えさせられる、親子で観るのにふさわしい爽やかな好編である。

 
…と一応褒めたところで、実は不満な点もいくつかある。

(以下ネタバレとなります)
晃一の左遷の理由は、売れない食品ばかり開発していた、と説明されるが、映画を観ている限りでは、晃一の開発した豆腐プリンは食した人たちからは好評のようだし、実際社長が食べて、「これはうまい」という事で晃一はめでたく本社に呼び戻される事となるのだが、
食べた人が皆不味い、というならともかく、そんなにいいものを作ったのに売れなかったのは、晃一よりも営業の側に責任があるのではないか。左遷の理由としては薄弱である。
盛岡に行かされた、もっと納得出来る理由が必要ではないか(後半にも出てくるが、上司と喧嘩したとか)。

その晃一がせっかく東京に呼び戻されそうになったのに、新しい食品の材料である柿を、懇意にしていた仕入先でなく別の所にすると上司から言われ、晃一が猛反発するシーン。そこに至るまでの経緯-特にその柿の仕入れ農家について、全くそれまで描かれていないのは端折り過ぎ。
その農家と、晃一との交流ぶりを丁寧に描いておれば、晃一の性格、開発食品に対する思いも伝わり、仕入れ農家を身を挺してまで守ろうとする理由も観客にすんなり理解出来ただろう。これでは唐突過ぎて、状況が不利になるのに何でそこまで上司に抵抗するのか、も一つ分かり辛い。

突っ込みどころとしては、くだんの民家には以前外国人が住んでいたとの事で、キッチンも最新のものが据付けられているのに、トイレが昔のままのポッタン式というのはおかしい(ギャグとしては面白いが)。外国人なら、何を置いても洋式便器を設置するのではないか。水洗が不完備でも簡易式のものなら設置出来るはず。風呂にしても、近所ですら皆ガス式を導入してるのに、その家だけ薪をくべる旧式なのも不思議。どんな外人だ?(笑)。

そして一番納得出来ないのがラスト。

晃一が本社に戻れる事になった時、せっかく家族皆が田舎の暮らしに馴染んだというのに、あっさりと全員で東京に帰る決断をするのは拍子抜け。

物語の流れでなら、子供たちは都会よりも田舎の生活の方が水に合っているようだし、認知症の母は、近所付き合いが疎遠でギスギスした東京よりも、近所の人たちが常に顔を覗かせ、人間関係が素朴な田舎の方が暮らし易いだろうし、史子にとっても楽で、いざという時も頼りになるはずだ。東京に帰れば、梓美はまた苛められるかも知れないし、智也はまたゼンソクがぶり返すかも知れない。それほどのリスクを犯してまで帰る必然性が見当たらない。

しかも、驚いた事に[座敷わらしまでが東京について来る]のは、掟破りではないか。座敷わらしはその家に棲みついている存在ではないのか。[騒然として空気も悪い東京は、座敷わらしが落ち着いて暮らせる場所とは、とても思えないのだが]。
ついでに言えば最後のオチも、よく考えればなんでレストランのウェイトレスに[座敷わらしの姿が見えたのだろう]。

 
そもそも、晃一はなんで家族に猛反対されるかも知れない(それを見越して「和風ログハウス」と誤魔化してまで)、辺鄙で古臭い民家を移住先に選んだのか。

私はてっきり、彼が母の老後をゆっくり看る為に、都会の暮らしに疲れた事も併せて、ここを終の棲家にしたいと望んだのだと解釈したのだが。東京に帰るのであれば、基本的なテーマまでもがボヤけてしまう気がするのだが。
…もっともこの終盤は原作通りなので、原作に問題ありと私は思う。

僭越だが、ラストは次のようにしてみてはどうだろうか。あくまで私の勝手な案だが。

子供たちは帰りたくないと望むが、晃一は全員で東京に帰ると決断する。
いよいよ帰る日、引越し業者が荷物の積込作業をする中、晃一は寂しそうに縁側に座っている。
そこへ母がやって来て「六ちゃんがお別れの挨拶をするそうだよ」と言う。
晃一が怪訝な顔で母を見つめる。―すると、母が手を握っている座敷わらしの姿がぼんやりと見えてくる。
晃一は、「六ちゃんが見える!」と叫び、六ちゃんを抱きしめる。その六ちゃんの寂しそうな顔を見た晃一は、思い直す。
「僕たちには六ちゃんが必要だ。六ちゃんは僕たちの家族の一員だ」
そして引越し業者に、引越しは取り止めだと告げて帰ってもらう。子供たちはバンザイし、喜び合う。
―それから数ヵ月後、晃一は会社を辞め、近くの農協と協力して、自宅の庭に地方の果物を使ったお菓子作りの工場を作り、村起こしの為に努力している。史子も手伝っている。
ラストは、縁側に家族全員が座って、美味しそうに晃一が作った柿プリンを食べている。
そして晃一の膝の上には六ちゃんが座っている。やがてカメラは六ちゃんにゆっくり近づいて行き、可愛い六ちゃんの笑顔をアップで捉え、アイリスアウトして(終)

いかがだろうか。こういう終り方なら、私は90点を与えてもいいと思うのだが。

素敵な、愛着のある作品だけに、ラストはいかにももったいない。…しかし、観ておいて損はない好編である。     (採点=★★★★

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コメント

はじめまして、おじゃまします。
私も先日観て来たばかりです。
私も、家族皆があっさり東京に戻っちゃうのはちょっとガッカリしました。
来る時はあのお父さん、わざわざ何のこだわりか、家族の了解も得ずに強制的に(通勤不便な)あんなすごい古民家来ておいて。もっと

投稿: | 2012年5月22日 (火) 11:19

途中なのに、間違って送信されてしまったようで。
すみません(汗)コメントとか、初めてで。
先程の続きですが。
お父さんは、もっと腰を据えて岩手に住むつもりで来たのかと思っていたのに。
主さんのラストも、面白いと思いました。本編よりも。
やっぱりワラシちゃんは、東京では幸せになれないと思うので。ただ、私は、今まで通りシャイに物陰にこっそりいる感じのが、好みだけど。

投稿: ハル宮 はるこ | 2012年5月22日 (火) 11:43

◆ハル宮さん、ようこそ

拙論にご同意いただき、ありがとうございます。
やっぱり、流れから言ったら、東京に帰るのはおかしいですよね。
囲炉裏を囲んだ家族会議でも「将来お前たちが帰って来れる場所として、ここを選んだんだ」とか言ってましたし。
 
将来、テレビドラマなんかでリメイクする時には、私のラスト案を採用していただきたいですね(笑)。


投稿: Kei(管理人) | 2012年5月23日 (水) 01:06

たった今、テレビでこの映画の、始めと終わり、20分ぐらいずつを見て、
「なんで座敷わらしの名前がロクなんだろう」
と知りたくなって検索してたどり着き、読ませていただきました。
 
いつもなら、そのまま帰るのですが…ブログ主さんの考えたラストを読んだら、なんだか涙が込み上げてきて、目がウルウルしちゃったもので…
 
m(_ _)m 良いラストシーンをありがとうございました。

投稿: 名前はもう無い | 2014年9月21日 (日) 23:25

今晩は。初めまして。
今日、TVで放映され
見たのですが、私もラストに
納得が出来なくて少し
残念な思い出した。そして
こちらの記事を読み、大変共感を覚えました。
ご提案のラスト、大賛成です。
私は晃一が結局は
本社栄転を断りあの地に
とどまる・・・くらいの
ラストなら良かったのに
などと平凡なことを考えましたが
貴殿のお考えのラストの方がより一層、納得の行く
幸せな結末だと思います!
そういう終わり方だったと
いうことにしたいと
思います。
良心的で真面目ないいお話だっただけに
あの最後は残念でした。
お祭りの日にお母さんが
本当に認知症を発症してしまい、息子である晃一が
涙する場面では私も
泣いてしまいました。
私の母は最期までボケませんでしたが、草笛さんが
母に似ているもので、
感情移入してしまいました。私事ですみません。

投稿: 翡翠 | 2014年9月21日 (日) 23:33

◆名前はもう無いさん
惜しいですね。真ん中はご覧になってないのですか。
通してじっくり見ると、そのまったりとした作品のムードに浸り、心地よい気分になりますよ。ラストは不満ですが全体としては好きな作品です。
草笛光子扮する母が座敷わらしに六ちゃんと名づけたのは、認知症が進んだ母が座敷わらしを、子供の頃に戦争で亡くなった自分の弟が戻って来たのだ、と思ったからでしょう。戦争の忌まわしさと、昔の記憶以外は消えて行く認知症の悲しさを共に強調するせつないエピソードですね。思い出しても泣けます。


◆翡翠さん
名前はもう無いさん共々、私の拙いラストシーンのアイデアに共感いただき、ありがとうございます。光栄の至りです。

やはり、本編のあのラストには不満を抱く方が多い事を実感いたしました。
私の創作したラストシーンが、そうした方々の不満を和らげ、爽やかな気分になられたなら、こんなささやかなブログもすてたものではありませんね。身が引き締まる思いです。
これからも、当ブログをご愛顧賜りますよう、お願いいたします。 m(_ _)m

投稿: Kei(管理人) | 2014年9月23日 (火) 00:25

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