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2012年6月19日 (火)

「青いソラ白い雲」

Aoisorashiroikumo

2011年・日本/スパイクスエンタティンメント=配給:ヘキサゴン
監督:金子修介
脚本:金子二郎、萩原恵礼、金子修介
音楽:山崎一稔
制作総指揮:樋口湧二、大森一隆
企画:田中 彰
プロデューサー:酒井洋一、新津岳人

東日本大震災の発生直後の日本を背景に、一匹の犬と世間知らずのセレブ少女との交流を描くハートフル青春映画。監督は「DEATH NOTE デスノート」、「ばかもの」の金子修介。主演はこれが映画デビューとなる新人、森星(もり ひかり)。

高校を卒業したばかりのリエ(森星)はプチセレブとして苦労知らずの日々を送るお嬢さま。ところが両親が離婚し、母はロサンゼルスへ。リエも秋からロサンゼルスの大学に入学するため渡米。ところがその翌日、東日本大震災が発生。父親や友人が心配で日本に帰って来たリエは、帰宅するなり、震災ボランティアをする恋人から被災犬を預かるハメになるわ、父親は旅行会社が経営破綻し詐欺罪で逮捕され、住む家はなくなるわ、カードも使えず一文無しになるわの不幸のドツボに。途方に暮れるリエは、路上ライブをやっていた高校時代の親友・梓(村田唯)と再会し、彼女の自宅に転がり込むが…。

帰国するなりセレブから急転落の不幸の連鎖。リエはバカでかいガイガー・カウンターを持ってたり、公園で野宿してるとお巡りさんが、「こんなところで寝てると危ないよ」と諭してくると、「危ない?ここは何ミリシーベルトですか?」と聞き返したりの大ボケ・コメディエンヌぶりを発揮。

そう、これはあの大震災以降、初めて登場した、大震災と放射能をネタにした、コメディ映画なのである。

一歩間違えれば不謹慎、という声も出そうだが、金子監督の意図は、インタビューで語っている通り、東日本大震災を笑いで吹き飛ばそうという所にある。タイトルの意味も、最後にリエが歌う、植木等の「だまって俺について来い」の一節 “見ろよ青い空、白い雲、そのうち何とかなるだろうにある通り、世の中なるようにしかならない、元気を出そうよ、という事なのである。

金子修介監督と言えば、デビュー作が「エースをねらえ」のパロディ「宇能鴻一郎の濡れて打つ」(1984・日活ロマン・ポルノ)だったし、その後も「みんなあげちゃう」(1985)、「どっちにするの」(1989)等、当時新進の美少女が主演するコメディ、そして不登校少女が家族を盛り立てる傑作ホームドラマ・コメディ「毎日が夏休み」(1994)を作った人である。なお同作の主演はこれがデビュー作となる佐伯日菜子。

…つまりは元々、新人の美少女が主演する、元気が出るコメディを得意としていた監督なのである。本作もまさにそうした作品。そういう意味では久々の得意ジャンルでの本領発揮と言えるだろう(ちなみに金子作品「プライド」(2008)主演の満島ひかりも金子がTV監督作品「ウルトラマンマックス」で見出した美少女)。

笑いだけでなく、やがては周囲のみんながウソをついている事を悟るリエが「皆、ウソばっかり。政府と同じじゃない」、と叫ぶ事から分かる通り、国民にウソをついてばかりの政府・東電・マスコミに対する痛烈な批判が裏テーマにもなっている(その前に伏線として、ラジオから政府と東京電力が遅まきながら炉心溶融を認めるというニュースが流れている)。

ただ監督インタビューによれば、シナリオでは「政府や東京電力と同じじゃない」だったのが、自主規制(と言っているがおそらく圧力)で東京電力を外したのだそうだ。
ラジオ番組でも金子監督が「地震と放射能で大変で…」と語ったところ、オンエアーでは「放射能」が削られていたとも。

そうした自主規制(圧力?)のせいか、この映画は公開規模が極端に少なく、これまでに東京以外では大阪など2箇所でしか公開されず、しかも大阪ではNPO法人シアターセブンという、劇場というより視聴覚教室に近い小部屋で、昼間の1回きり上映という冷遇ぶり。余程のファンでもない限り、関西でこの映画を観れた一般観客はほとんどいないだろう。

 
最初に金子監督の元に持ち込まれた企画では、「犬と少女というテーマで映画を作って欲しい」という事だったようだ。
だが、さすが金子監督、そんな陳腐なネタでは満足せず、大震災と放射能という問題意識を盛り込み、痛烈なブラック・ユーモアで今の日本を皮肉った作品に仕上げた。

突っ込みどころや、ユルい場面もある。犬があまりドラマに絡まない所や、自主規制で中途半端な展開になっている点も弱い。

だが、テレビ放映の話題作やコミック原作ものが幅を利かす、今のふやけた日本映画界にあって、震災と原発を正面から取り上げ、笑いと皮肉を込めて「ウソに惑わされるな、元気を出そう」と訴える、骨太の映画を完成させた点は大いに評価したい。

また同時に、世間知らずの少女が、世の中の矛盾を知り、成長して行くドラマにもなっている。
その少女を演じた森星が、金子監督の指導のおかげか、新人離れした熱演を見せているのも見事。今後が楽しみである。

欲を言えば、エンドロールでは植木等のオリジナル版「だまって俺について来い」を流して欲しかった。あの歌を聴けば本当に元気が出ると思う(笑)。

しかしちょいと気になるのは、(多分製作会社の意図に反して)こんな権力批判ドラマを作った金子監督が、今後映画を作り難くなったりはしないだろうか。そこが心配である。

ともあれ、金子監督の反骨精神ぶりを評価して点数は大甘で。    (採点=★★★★

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(付記)
監督のブログによると、新作「百年の時計」がクランクインしたようだ。まずは一安心。完成を心待ちにしたい。

 

「だまって俺について来い」が主題歌の植木等主演DVD「ホラ吹き太閤記」 元気になれます

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コメント

震災前の数日前の「予兆」から語ってる冷静さと、ネタバレにつき伏せますが金子修介監督だからこそのネタを挟む余裕、あと犬が何だか汚いというかで本当に被災犬に見えるリアルさ。

こういったところを高く評価します。

ところで話は逸れるのですが(掲示板に書いても確認が面倒だと思うので)、僕のブログにも書いたんですが、沢田研二さんの「3月8日の雲」というCD御存じですか?すごく良いです。ゴジさんも聴いてるそうです(ツイッターでつぶやいてました)。

http://d.hatena.ne.jp/tanipro/20120610

投稿: タニプロ | 2012年6月22日 (金) 23:15

監督御本人がこのブログ読んだみたいです。勝手ながらオレがTwitterでこの記事を紹介したら監督御本人がリツイート(引用)してました。

投稿: タニプロ | 2012年6月26日 (火) 21:34

◆タニプロさん
いつも情報ありがとうございます。

「3月8日の雲」もうユーチューブにアップされてましたね。 ↓
http://www.youtube.com/watch?v=gwAhde27xm0

素晴らしい曲ですね。1970年代には反戦・反核の歌が多く発表された事もありましたが、最近はそうした歌は皆無に近い。そういう意味でやはりジュリーは凄い。敬服します。
ブログでも実に詳細に分析してる人がいます。 ↓
http://gyujin-information.cocolog-nifty.com/11/2012/03/38-40c6.html

テレビでも、もっと取り上げて欲しいですね。でもヘッピリ腰のテレビ局には期待出来ないか。

それと、当ブログの紹介ありがとうございます。監督が読んでくれたとは嬉しいですね。
でも、上映館少な過ぎ。もっと全国的に上映して欲しいですね。

投稿: Kei(管理人) | 2012年6月28日 (木) 01:09

御無沙汰しています。


6月17日
牧村 利光

この間、金子修介監督「青いソラ白い雲」を大阪十三のシアターセブンに見に行って来た。小さなスクリーンのミニシアターだが、昔の名画座の様な空間でシネコンに馴染めない者には落ち着ける。そしてこの奇妙なハートウォーミング満ちた映画に相応しい映画館だと思った。
只、 観客が僕を含めて5人というのはさすが寂し過ぎ。。。

東日本大震災、津波、原発事故後を彷徨する悲しくも可笑しい映画だ。父親が詐欺罪で逮捕されお嬢さまから一転してホームレスになる森星が街でストリートミュージシャンの高校時代の友達村田唯に出会い、彼女の住む家に転がり込む。そこには村田の兄だという大沢樹生がいて。。。そこへかつてアイドルであった大沢の追っかけのおばさんも入り込み、奇妙な共同生活が始まる。しかしそこにあるのは嘘に嘘を重ねる悲喜劇。原発事故で嘘をつきつかれて来た中で生き抜くための足掻きなのだ。星が東日本大震災のボランティアから帰ってきた元恋人から託された震災犬ソラが、星のガイガーカウンターにおしっこをかけるシーンに金子監督の批評精神が躍如する。
ラスト、星が震災犬ソラを引き連れて植木等の「黙って俺について来い」をやけくそぎみに歌いながら土手を行く。「青いソラ白い雲」という題名がこの歌からの引用であったことに意表を突かれ、そのうち何とかならないことが分かっているゆえに歌わずにはいられない。これは金子監督の東宝喜劇映画へのオマージュでもあるのだろうか?

森星の天然ぶり、村田唯のコケティッシュな魅力がこの映画を鮮やかに彩っている。

投稿: 牧村利光 | 2012年7月 5日 (木) 22:12

◆おおー! 牧村さん、お久しぶり

よくぞ訪問してくださいました。お元気でしたか。

これ、わざわざ遠方から十三まで来られてご覧になったのですか。
関西では、上映館、スケジュールが極端に少ないですね。困ったもんですね。

>只、 観客が僕を含めて5人というのはさすが寂し過ぎ…

私の時はもっと少なかったですよ(笑)。

森星は将来が楽しみですね。金子監督が抜擢した美少女は、多くが後にブレイクしてますので、大いに期待しましょう。

またときどき、コメントよろしくお願いいたします。ありがとうございました。

投稿: Kei(管理人) | 2012年7月 7日 (土) 23:37

土田さんのブログ楽しみに拝見しています。僕はシネコン時代になってからついつい劇場から足が遠退き、DVDレンタルでお茶を濁してきましたが、土田さんはずっと映画館で見られていて感心します。
「青いソラ白い雲」はfacebookで知り合い?になった助演の村田唯さんに教えてもらって観に行きました。彼女は明日の月9にレギュラーエキストラとして出演するそうで楽しみにしています。
森星さんも期待大です。

投稿: 牧村利光 | 2012年7月 8日 (日) 06:22

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