« 「メン・イン・ブラック3」 | トップページ | 「青いソラ白い雲」 »

2012年6月10日 (日)

「ミッドナイト・イン・パリ」

Midnightinparis2011年・スペイン・アメリカ/配給:ロングライド
原題:Midnight in Paris
監督:ウッディ・アレン
脚本:ウッディ・アレン
撮影:ダリウス・コンジ
製作:レッティ・アロンソン、スティーブン・テネンバウム、ハウメ・ロウレス
製作総指揮:ハビエル・メンデス

「それでも恋するバルセロナ」「人生万歳!」のウッディ・アレン監督・脚本によるファンタジー・ラブコメディ。第84回アカデミー賞でアレン自身3度目となる脚本賞を受賞した。

ハリウッドで売れっ子の脚本家ギル(オーウェン・ウィルソン)は、小説家になる夢を追い、婚約者イネズ(レイチェル・マクアダムス)と彼女の両親とともにパリに遊びに来ていた。ギルはパリに魅了されるが、イネズは無関心。酔ったギルはパリの裏町に足を踏み入れると、どこからともなくクラッシックな車が現れ、誘われるままに向かった社交場でコール・ポーターやヘミングウェイと出会う。いつしか彼は1920年代の世界に迷い込んでいたのだ…。

―といった具合に、主人公が過去の時代にタイムスリップする、というお話なのだが、別にSFではない。朝起きたらいつの間にか現代に戻っているように、これは現実世界に飽きて、憧れの世界に浸りたいと願う主人公が、その夢を一時実現してしまうファンタジーなのである。

私はウディ・アレン作品では「カイロの紫のバラ」(1985)が一番好きなのだが、この作品も、1930年代を舞台に、映画に夢中になり、スクリーンの中の夢の世界に浸りたいと願い続けるヒロイン(ミア・ファロー)が、スクリーンから抜け出てきた銀幕のヒーローと恋に堕ちるお話である。

言ってみれば、どちらも現代のおとぎ話なのである。現実には、そんな事とてもあり得ない。だが、アレン・マジックにかかってしまうと、「あってもいいかな。夢の世界だし…」という気になってしまう。そう思った人なら、この映画を十分に楽しめるだろう。

 
登場する当時の文化人の顔ぶれが楽しい。最初に誘ってくれるのがF・スコット&ゼルダのフィッツジェラルド夫妻(注1)、パーティでピアノを弾いているのがコール・ポーター。それにアーネスト・ヘミングウェイ(コリー・ストール)、パブロ・ピカソとその愛人アドリアナ(マリオン・コティヤール)、サルバドール・ダリ(エイドリアン・ブロディ)にルイス・ブニュエル(注2)、T・S・エリオット、さらには当時のパリで多くの芸術家と交流し、相談相手にもなっていたガートルード・スタイン(キャシー・ベイツ)まで。

欧米文学や絵画に興味のある人ならニンマリしたくなるメンツである。
アレンの趣味の良さが伝わって来る人選である。ちなみにこの人たちが1920年代のパリに住んでいたのもすべて史実通り。顔も人物の容姿も、写真で見る実物によく似ている。相当リサーチしたのだろう。

  
ギルはピカソの愛人、アドリアナと共に、彼女があこがれる、さらに過去の19世紀末に飛び、ここでもロートレックやゴーギャン、ドガらと出会う。
パリに集った芸術家たちが次々と登場するのがなんとも気分的にゴージャス。アレン的遊びの精神が楽しい。

しかしさすがはウディ・アレン、この作品を単なる、“昔は良かった”式のノスタルジー作品には仕上げていない。

いつの時代に行っても、その時代の人たちはやはり昔の黄金時代にあこがれている。ギルは次第に、昔の時代に行きたいと望んでいた自分の姿を反省し、自身を見つめ直して行くのである。

ラストでギルは、パリに関心のないイネズとも、19世紀にあこがれるアドリアナとも別れ、現代の美術店員ガブリエル(レア・セドゥー)と寄り添って、雨のパリの街を歩き去る。

先人が残した素晴らしい文化遺産を慈しむのはいいけれど、そこに逃避していてはいけない、私たちが生きているのは今の時代であり、この時代と向き合って生きて行かなければならないのである。

ゴージャスな、古き良きパリを堪能させてくれた上に、そんな事まで考えさせてくれたウディ・アレンはやはりさすがである。近年のアレン作品では、一番好きな、愛すべき佳作である。    (採点=★★★★☆

 ランキングに投票ください → ブログランキング     にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ

 
(注1)
F・スコット・フィッツジェラルドと言えば、ロバート・レッドフォード主演で映画化された「華麗なるギャツビー」の原作者としても有名。
Greatgatsby ちなみに、ギルを演じたオーウェン・ウィルソンは、容貌、雰囲気がギャツビーを演じた頃のロバート・レッドフォードとそっくりである。あるいは意識してのキャスティングか?レッドフォードと共演しているのが、「カイロの紫のバラ」を始めとして、永年アレンの公私に亙るパートナーだったミア・ファローであるのも奇しき因縁である。
なお2008年に映画化された「ベンジャミン・バトン -数奇な人生-」もフィッツジェラルドの短編の映画化。

(注2)サルバドール・ダリとルイス・ブニュエルが話しているシーンがあるが、ダリはブニュエル監督作品「アンダルシアの犬」(1928)に脚本協力で参加している事を知っていれば余計楽しい。
ちなみに、ギルが、後にブニュエルが作る事になる難解な「皆殺しの天使」のヒントを教えると、ブニュエルが「なぜだ、訳が分からん」と文句を言うシーンがあるが、「アンダルシアの犬」がまた、超ワケの分からないアヴァンギャルド作品なのである(笑)。アレンらしい皮肉である。
→ Youtube「アンダルシアの犬」ノーカット全編 興味がある方はどうぞ(ショッキングなシーンがあるので要注意)

 

(さて、お楽しみはココからだ)
ウディ・アレンが監督をしていない、脚本のみの作品にまで範囲を広げると、アレン作品で私が一番好きなのが、アレン主演の「ボギー!俺も男だ」(1972・ハーバート・ロス監督)である。

Playitagainsam_2これは、冴えなくて気が弱い、しかし映画「カサブランカ」が大好きだという男(アレン)が、「カサブランカ」の主人公リック(ハンフリー・ボガート)の幽霊?に励まされ、男らしく変身して行く物語である。

幽霊という事になっているが、どちらかと言うと主人公の妄想のように見える。しかしこれも、映画「カサブランカ」を何十回となく観て、自分もボガートのような男になりたいと願っていた男の前に、「カサブランカ」のスクリーンから抜け出たかのようにボガートが現れるという点で、後の「カイロの紫のバラ」とも共通する要素を持った作品と言える。

ラストシーンでは、「カサブランカ」の有名なラストシーンがそっくりそのまま再現され、ボギーそっくりのトレンチコートを着たアレンが、ボギーと同じ名セリフをヒロインの前で吐き、まさにボギーそのものにになりきってしまうのである。

ここも、1940年代の名作映画にあこがれた男が、その世界に入ってしまい、ボギー本人とも出会う、と見做せば、「ミッドナイト・イン・パリ」とも共通して来る。

つまりはこの作品、「カイロの紫のバラ」、「ミッドナイト・イン・パリ」の、それぞれの原型とも言え、その点ではウディ・アレン・ファンにお奨め、そして「カサブランカ」が好きな方なら絶対見逃していてはいけない、映画ファンへの、アレンからの素敵な贈り物なのである。

奇しくも、製作順に、1940年代(「カサブランカ」)、1930年代(「カイロの紫のバラ」)、1920年代(本作)と、関連する年代が10年づつ遡行しているのも面白い。

ちなみに、「ボギー!-」の主人公の職業は、allcinemaでは「脚本家」となっており、それだと「ミッドナイト・イン・パリ」の主人公と同じで面白い事になるが、正しくは「映画評論家」のはずである。

 
DVD「カイロの紫のバラ」

VHS「ボギー!俺も男だ」 DVD発売希望

|

« 「メン・イン・ブラック3」 | トップページ | 「青いソラ白い雲」 »

コメント

やはりKeiさんは
『ボギー!俺も男だ』がお好きなんですね。
あれは、映画好きにはたまらない作品。
まだ、レーザーディスクが7800円の頃に購入した数少ない一枚です。
ハーバート・ロスの演出も
ウディ・アレンのようなシニカルさがなく洒落ていました。
ところでKeiさん。
『帰ってきた若大将』はご覧になっていますか?
この『ボギー!俺も男だ』のまたパロディを
田中邦衛が演じていますよ。
必見!

投稿: えい | 2012年6月10日 (日) 23:11

はじめまして。
「ミッドナイトインパリ」のレビューを探していてたどり着きました。「カイロの紫のバラ」私も大好きです。
「ボギー!俺も男だ」見てみたいと思います。

ところで、主人公の名前は「ジル」じゃなくて「ギル」だと思います。「ジル」は彼女が間違えて覚えていた名前・・・ですよね?
わざとだったらすみません。

投稿: けこ | 2012年6月18日 (月) 11:35

◆えいさん
や、えいさんも「ボギー!俺も男だ」ファンでしたか。
本当に、映画ファンには応えられない作品でしたね。
ハーバート・ロスに演出を任せたのも正解です。(当時の)アレン自身が監督したら、ギャグやパロディが増えてしまって、あれほどの名作にはならなかったかも。

「帰ってきた若大将」観てますよ。思い出しました。田中邦衛がトレンチ・コート姿で加山を空港で見送ると、ボギーとバーグマンのそっくりさんがすれ違うんでしたっけ(笑)。日本映画であそこまでやってくれるとは思いませんでしたね。もう一度観たくなってきた(笑)。


◆けこさん、ようこそ
あ、本当だ、間違えてますね。
早速直しておきました。ご指摘ありがとうございました。
「ボギー!」はお奨めです。是非探してご覧になってください。
ただ、「カサブランカ」ご覧になってますか?あれを観ておかないと面白さは半減以下ですので。一応ご注意まで。

これからも当ブログご贔屓に。よろしくお願いいたします。 m(_ _)m

投稿: Kei(管理人) | 2012年6月19日 (火) 04:16

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/174742/54923224

この記事へのトラックバック一覧です: 「ミッドナイト・イン・パリ」:

» ミッドナイト・イン・パリ [だらだら無気力ブログ!]
当時の文学や芸術の知識があれば、より楽しめる内容だったと思う。 [続きを読む]

受信: 2012年6月10日 (日) 14:59

» 「ミッドナイト・イン・パリ」 [みんなシネマいいのに!]
  いや、マジでネタじゃないんだけど、「ラストタンゴ・イン・パリ」だと思いこんで [続きを読む]

受信: 2012年6月10日 (日) 18:07

» ミッドナイト・イン・パリ/MIDNIGHT IN PARIS [いい加減社長の映画日記]
「ガール」も気になってはいるんだけど・・・ 「オフィシャルサイト」 【ストーリー】 映画脚本家のギルは、婚約者イネズの父親の出張に便乗して憧れのパリにやってきた。 脚本家として成功していたギルだが虚しさを感じ、現在は本格的な作家を目指して作品を執筆中だ。...... [続きを読む]

受信: 2012年6月10日 (日) 19:37

» 『ミッドナイト・イン・パリ』 [ラムの大通り]
(英題:Midnight in Paris) 「こういう何の驚きもない映画というのも、 ある意味いいよね。 安心して観ていられる」 ----えっ? これって 主人公が自分の憧れる1920年代のパリに行って、 歴史に名を残す著名な人たち、 ピカソやヘミングウェイなどと会うってお話でし...... [続きを読む]

受信: 2012年6月10日 (日) 23:07

» ミッドナイト・イン・パリ/Midnight in Paris [LOVE Cinemas 調布]
語り部ウディ・アレンが第84回アカデミー賞脚本賞受賞したファンタジー・コメディ。1920年代のパリを黄金期と信じて疑わない主人公がタイムスリップし、過去の著名な芸術家たちと不思議な交流す姿を描いている。主演はオーウェン・ウィルソン。共演にレイチェル・マクアダムス、マリオン・コティヤール、キャシー・ベイツ、エイドリアン・ブロディら超豪華な面々が顔を並べる。... [続きを読む]

受信: 2012年6月11日 (月) 00:06

» 映画「ミッドナイト・イン・パリ」戻れるならいつの時代が良いだろうか [soramove]
「ミッドナイト・イン・パリ」★★★★ オーウェン・ウィルソン、レイチェル・マクアダムス、 キャシー・ベイツ、エイドリアン・ブロディ、カーラ・ブルーニ 、 マリオン・コティヤール、マイケル・シーン出演 ウディ・アレン監督、 94分、2012年5月26日公開 2011,スペイン、アメリカ,ロングライド (原題/原作:Midnight In Paris ) 人気ブログランキングへ">>→ ... [続きを読む]

受信: 2012年6月11日 (月) 21:20

» 「ミッドナイト・イン・パリ」隣の芝生 [ノルウェー暮らし・イン・原宿]
ウッディ・アレン監督作品は初体験。 「隣の芝は青い」という単純明快なテーマを、パリならではのノスタルジックでアーティスティックな世界と、ウィットに富んだ大人のジョークで包んだお洒落な作品。... [続きを読む]

受信: 2012年6月12日 (火) 00:17

» ミッドナイト・イン・パリ / Midnight In Paris [我想一個人映画美的女人blog]
ランキングクリックしてね larr;please click 去年のカンヌ映画祭でオープニングを飾り、 今年のアカデミー賞作品賞、9作ノミネートのうち日本で公開となる最後の1本 アカデミー賞で脚本賞、ゴールデングローブ賞作品賞受賞! 2004年、NYから舞台をヨー...... [続きを読む]

受信: 2012年6月16日 (土) 09:00

» ミッドナイト・イン・パリ [ケントのたそがれ劇場]
★★★☆ 小説家志望で、社交性のない主人公ギルをオーウェン・ウィルソンが熱演し、その婚約者イネズをレイチェル・マクアダムスが演じているのだが、なぜかネットでのキャスト紹介では、キャシー・ベイツ、エイドリアン・ブロディ、カーラ・ブルーニなどの名が先行している... [続きを読む]

受信: 2012年6月21日 (木) 18:42

» 『ミッドナイト・イン・パリ』 前を向いて歩こう [映画のブログ]
 一番好きな詩人を問われれば、やはりジャン・コクトーかもしれない。もっとも私はフランス語が判らないので、原語ではなく堀口大學の訳で親しむのみだが。  もしもジャン・コクトー主催のパーティーに参加...... [続きを読む]

受信: 2012年7月 7日 (土) 23:55

» ミッドナイト・イン・パリ [Some Like It Hot]
■「ミッドナイト・イン・パリ/Midnight In Paris」(2011年・アメリカ) ●2011年アカデミー賞 脚本賞 ●2011年ゴールデングローブ賞 脚本賞 監督=ウディ・アレン 主演=オーウェン・ウィルソン レイチェル・マクアダムス マリオン・コティヤール キ...... [続きを読む]

受信: 2012年7月10日 (火) 02:13

» ミッドナイト・イン・パリ [映画的・絵画的・音楽的]
 『ミッドナイト・イン・パリ』を渋谷ル・シネマで見てきました。 (1)昨年の『人生万歳!』をはじめとして、これまで何本も見ているウディ・アレン監督作品というので、だいぶ遅れてしまいましたが映画館に足を運びました。  本作は実に他愛ない内容で、1920年代のパ...... [続きを読む]

受信: 2012年7月11日 (水) 06:45

» ミッドナイト・イン・パリ (Midnight in Paris) [Subterranean サブタレイニアン]
監督 ウディ・アレン 主演 オーウェン・ウィルソン 2011年 スペイン/アメリカ映画 94分 コメディ 採点★★★★ 「まぁ!?なんて後ろ向きな人!」と言われようが何であろうが、自分の過ごしてきたある一時期に対する思い入れが強い私。自分の楽しんでいる娯楽の原点…... [続きを読む]

受信: 2012年12月 3日 (月) 12:57

« 「メン・イン・ブラック3」 | トップページ | 「青いソラ白い雲」 »