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2012年8月14日 (火)

「BRAVE HEARTS 海猿」

Bravehearts

2012年・日本/制作プロダクション:ROBOT
配給:東宝
監督:羽住英一郎
原作:佐藤秀峰
原案・取材:小森陽一
脚本:福田 靖
撮影:江﨑朋生
製作:亀山千広、加太孝明、水口昌彦、市川 南、亀井 修、小笠原明男
チーフプロデューサー:臼井裕詞

海上保安庁の若き潜水士たちの活躍を描く人気シリーズの第4作。監督・羽住英一郎、脚本・福田靖のほか、伊藤英明他主要出演者も前3作とほぼ同じ。今回は航空機事故の乗客乗員救出劇を描く。

巨大天然ガスプラント「レガリア」の爆発事故から2年。仙崎(伊藤英明)と吉岡(佐藤隆太)は共に救難のスペシャリスト集団「特殊救難隊」所属となり、過酷な任務をこなしていた。そんなある日、羽田に向かっていたジャンボジェット機にエンジン・トラブル事故が発生し、車輪も故障して着陸出来ず、最終手段として東京湾への着水を強行する事となる。その機には吉岡の恋人、美香(仲 里依紗)もCAとして乗務していた。特救隊にも出動要請が出るが、海面に浮かんでいられる時間はわずか20分間。果たして仙崎たちは乗客乗員346人を救出できるのか…。

シリーズ1作目は、「愛と青春の旅だち」(1982)にもちょっと似た、若い潜水士たちが過酷な訓練を経て、命を助ける任務の重要性を心に刻み、悩み、失敗しながらも人間的に成長して行く姿が感動的に描かれていて、まずまずの水準以上の作品に仕上がっていた。

だが2作目以降は、緊急時に恋人と延々長電話するシーンに代表される、モタモタしたテンポや一本調子のストーリー展開にガッカリ。3作目となる前作もテンポのユルさは相変わらずのうえ、3Dにしたせいもあって、画面も暗く、映画としての爽快感にも欠けて楽しめなかった。

そんなわけで、本作も全く期待しておらず、なかなか観る気になれなかった。やっと観たのは、封切から1ヶ月も経ってから。

だが今回は、意外にも面白かった。感動してウルッと来てしまった。出来としてはおそらくは4本の中で一番いいのではないか。シリーズを観て来た人にも、初めて観る人にとっても、満足出来る作品に仕上がっていた。

面白かった原因は、余計な夾雑物を入れずに、飛行機事故→着水→救難活動のプロセスを、早いテンポでスリリングに描いた点にある。何より限られた時間内に救出しなければいけない、タイムリミット・サスペンスに絞ったのが成功の要因である。これにより、前2作でマイナスポイントだった、間延びしたモタモタ感も払拭され、緊迫感が終始持続される事となった。

もう1点、前2作ではお話の中心が、災害救助を描く事よりも、仙崎とその周囲の人たちの人間関係を描く事に力点が置かれ過ぎていたのを、その反省からか今回は、仙崎はあくまで救助チームの一員として命令を遂行する役割を担う、集団ドラマ的色彩を強めていた点もよかった。

なにしろ冒頭から、副隊長の嶋一彦(伊原剛志)に、前回はやみくもに突っ走ったあげくに、救助される側になってしまった個人プレーを厳しく批判され、「必要なのはスキルと冷静な判断」と説教される始末である。これは、映画制作者たち自身の反省であるのかも知れない。

この嶋が、熱くなりがちな仙崎を常にセーブする役割を担い、救助隊員の二次被害を防ぐためには、あきらめて撤収する事もやむを得ないと持論を展開する。彼の言う事も正論であり、現実にはこちらを優先するケースが多いのである。
この映画は、そうした救難活動に常に付いて回るジレンマについても考えさせられる、奥深いテーマを持った作品にもなっているのである。

現実の世界では、嶋の言う正論が優先されている。世の中は理想通りには行かない。

だがそれでも、「最後まであきらめない、救える命はすべて救いたい」という仙崎の熱い思いが、遂には嶋の心をも揺り動かして行くのである。それが最後の、“奇跡の救出劇”へと繋がって行く。

映画は、夢の世界でもある。現実が厳しいからこそ、人は映画の中に夢を追い求める。だから仙崎の、理想を求め続ける姿に観客は共鳴し、感動し涙する事になるのである。まさにこれぞ、正しい娯楽映画の王道である。

 
もう一つ、この作品には、あの3.11を経た後の人々の思いも込められている。

事故に遭った人たちを救う為に、この映画では特殊救難隊だけでなく、警察、消防、赤十字、さらには民間漁船までもが加わり、みんなが心を一つにして立ち向かう。
その姿に、大震災において、海外も含めて多くの人たちが一丸となって被災者を救う為に協力した、あの感動が重なって見える。この映画を観て涙してしまうのは、そのせいもあるのだろう。

また出だしの方で、仙崎の愛妻、環菜(加藤あい)が、今の殺伐とした世の中を見て、二人目の子供を産む事に自身をなくしかける様子が描かれるが、仙崎をはじめ、多くの人たちが必死の思いで人の命を救おうとする真摯な姿をテレビニュースで見た環菜が、まだまだ人の世も捨てたもんじゃない、と希望を取り戻して行くプロセスも爽やかな余韻を残す。これもまた、今の時代に是非訴えたい、作者からのメッセージなのだろう。

仙崎を演じる伊藤英明が、シリーズを重ねる毎に、どんどん精悍で頼もしい顔つきや体つきになって来ているのも、シリーズをずっと観て来た観客としては感慨深い。まさに仙崎と共に、伊藤自身も成長しているのである。「命の大切さ」「最後まであきらめない勇気」という、今の時代にこそ必要なテーマを今後も描き続け、シリーズをより深化=進化させて行く事を望みたい。     (採点=★★★★

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(で、お楽しみはココからもある)
古い映画ファンなら、このシリーズを観て、1970年代に盛んに作られた、いくつかの災害・救難活動映画=いわゆるディザスター・ムービーを思い出す方もいるだろう。

Poseidonadventure

海難事故と言えば、代表作は「ポセイドン・アドベンチャー」(1972)。事故に遭った人たちが、最後まで助かる望みを捨てない、生きようとする勇気に感動した。
同じプロデューサー(アーウィン・アレン)による「タワーリング・インフェルノ」(1974)では、スティーブ・マックィーンを中心とする消防隊員の決死の救難活動が丁寧に描かれていた。

そして航空機事故と言えばすぐに思い出すのが、「エアポート」シリーズ。1作目の「大空港」(1970・原題:"Airport")、2作目「エアポート'75」(1974)とも、飛んでいる航空機に事故が発生し、救助隊が派遣され、どうやって着陸させるのか、どうやって乗客乗員を救うのか、というディザスター・ムービーの代表シリーズとなった。

Airport77

3作目「エアポート'77 バミューダからの脱出」(1977)では、トラブルを起こした飛行中のジャンボ機が海に突っ込む、という本作そっくりの展開となる。

本シリーズを観ていて、私はそうした過去のハリウッド製ディザスター・ムービーにヒントを得ているのでは、と以前から思っていた。航空機事故ものがシリーズに登場したのも、そういった意味ではやはりというか当然の結果なのかも知れない。

そして、海難ディザスター・ムービーの最新にして超大作があの「タイタニック」
本作では着水した航空機が二つに折れ、なぜか前半分が空高く持ち上がる力学的にありえない画(ああなる為には、前半部の後部半分以上が重みで水面下に沈んでいないといけない)が登場しているが、あれは多分「タイタニック」へのオマージュなのだろう。

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