「白雪姫と鏡の女王」
2012年・米/リラティヴィティ・メディア=配給:ギャガ
原題:Mirror Mirror
監督:ターセム・シン
製作:バーニー・ゴールドマン、ライアン・カバナー、ブレット・ラトナー
原案:メリッサ・ウォーラック
脚本:マーク・クライン、ジェイソン・ケラー
音楽:アラン・メンケン
衣装:石岡瑛子
グリム童話「白雪姫」の、「スノー・ホワイト」に続く実写映画化。監督はインド出身で異色作「ザ・セル」、「インモータルズ 神々の戦い」を手掛けたターセム・シン。出演者は女王役にジュリア・ロバーツ、白雪姫役にフィル・コリンズの娘リリー・コリンズ。衣装デザインは世界的デザイナーで、本年1月に惜しくも他界した石岡瑛子。
幼い頃に父親である国王を失って以来、娘の白雪姫(リリー・コリンズ)は、18歳になる今日まで継母の女王(ジュリア・ロバーツ)に幽閉されて育ってきた。その間、女王は散財を繰り返して王国の財政は破綻寸前。そんな時、この国を通りかかった隣国の王子(アーミー・ハマー)が森の盗賊団に身ぐるみ剥される事態が発生。女王は隣国の財産目当てで王子との結婚を画策するが、王子は白雪姫に一目惚れ。怒った女王は腹心の家来ブライトン(ネイサン・レイン)に姫を殺せと命令するが…。
「ザ・セル」「落下の王国」というシュールなイメージに溢れた異色作を撮ったターセム監督だけに、観る前はちょっと心配だった。アニメ化もされた童話原作ものでは、「アリス・イン・ワンダーランド」、「スノー・ホワイト」と、どれもヘタに弄り過ぎてつまらなかった作品が続いていただけに。
…心配は杞憂だった。、お話は隣国の王子が早々と登場する点以外は、グリム兄弟の原作にほぼ忠実な展開。全体にコミカルなタッチで、笑えるシーンも多い。
「スノー・ホワイト」がダークな雰囲気で、しかも余計な狩人が姫と王子の間にからんで三角関係となるややこしい展開(原題も「白雪姫と狩人」)にガックリしただけに、こちらが原作をあまり弄らず、楽しいコメディ・ファンタジーに仕上がっていたのには一安心。
「白雪姫」と言えば、記念すべきディズニー・アニメの第1作目である。これは映画史に残る傑作で、私も大好きな作品である。イメージが固定されているだけに、リメイクは冒険だったと思うが、よくクリアしている。
アニメ版と大きく違うのは女王のキャラクターで、アニメ版では怖い雰囲気の魔女だったのが、本作では美しさを保持する為に、泥パックやら、虫やら鳥の糞を使った全身美容に苦労する等、コミカルなキャラになっている。
また王子も、剣の腕は強いがどことなくドジで、油断をしては2回も身ぐるみ剥される間抜けぶり。女王に間違って子犬用媚薬を飲まされ、まるでサカリのついたイヌのようにハアハア女王に迫るシーンは大爆笑。まるでギャグ・アニメのようだ。演じるアーミー・ハマーは今年前半には「J・エドガー」で、フーパーの腹心でゲイのパートナー役を熱演したばかり。その変幻自在の役者魂には感心する。
家来ブライトン役のネイサン・レイン、どこかで見た顔だと思ったら、ミュージカル「プロデューサーズ」のマックス役を演じてた人だった。
このブライトンが、表向きは女王に忠実で、税金を厳しく取り立てたりするのだけれど、こっそり白雪姫を逃がしたりする、いいところも見せてなかなかの好演。
姫を殺した証拠として、女王にソーセージを詰めた袋を見せたり、それがバレてゴキブリにされてしまったりと、楽しい名コメディ・リリーフぶりを見せる。キャラとしては、ディズニー・アニメ「ピーター・パン」におけるフック船長の部下スミニーを思わせる。
そう思ってこの映画をじっくり観てみると、随所にディズニー・アニメへのオマージュが仕込まれている事に気付く。
姫が、ディズニーの「白雪姫」とは違って行動的で、小人たちから剣をならったり、女王を退治する戦略を練ったり、危機に陥った小人たちを剣で助けたりと、八面六臂の活躍ぶりを見せるが、思えば、ディズニー・アニメにおけるプリンセスのキャラクターは、当初の頃は受け身で、王子さまが助けに来るのをただ待っているだけだったのが、「リトル・マーメイド」あたりから徐々に積極的なキャラに変貌して行き、最近の「プリンセスと魔法のキス」(2009)や「塔の上のラプンツェル」(2010)でも、お姫様の方が行動的で、逆に王子を含む男の方が受け身になっているパターンが多い。「プリンセスと魔法のキス」では、王子の方は親のスネ齧って遊んでばかりいるダラシない男という設定であった。ディズニー製作の実写作品(一部アニメも)「魔法にかけられて」の王子も、かなり頼りない、ドジなキャラだった。
ディズニー「白雪姫」のラストでは、毒リンゴで眠らされた白雪姫に、王子がキスをして呪いが解けるのだが、本作では逆に、姫が王子にかけられた呪いを解く為に、王子にキスをする、という逆パターン展開が皮肉で笑える。
七人の小人たちが、街の人たちに差別された恨みから盗賊になったという設定もユニーク。神出鬼没で、やがて姫の味方となって女王の配下と闘ったり、税を取り立てたブライトンの馬車を襲い、税金を取り戻したりする辺りは、シャーウッドの森の義賊、ロビン・フッドの物語ともよく似ているのだが、その「ロビン・フッド」もディズニーでアニメ化(1973年)されている。
ラスト近くでは、女王の魔法で、ドラゴンが登場するが、このドラゴンも、「眠れる森の美女」や「魔法にかけられて」など、ディズニー作品にはしばしば登場する。
そして音楽が、「リトル・マーメイド」以来、「美女と野獣」、「アラジン」、そして最新の「塔の上のラプンツェル」に至るまで、ディズニーアニメをずっと手がけて来ているアラン・メンケン。
この布陣を見ても、本作の製作者たちがディズニー・アニメを深くリスペクトしている様子が覗える。
これが遺作となった、石岡瑛子デザインの衣装もカラフルで見事。後半で白雪姫の衣装がブルーを基調としているのも、ディズニー・アニメの白雪姫の衣装を意識しての事だろう。
そんなわけで、これは子供が観ても、大人が観ても十分に楽しい純粋娯楽作品に仕上がっている。エンドロールにも、主要キャラ総出演の、マサラ・ムービー調(監督がインド出身だからか?)のダンス・シーンがあり、これも楽しい。
秀作、とまでは言えないが、たまにはこうした他愛ない映画で笑い、楽しんで心をリフレッシュするのもいいと思う。ディズニー・アニメ・ファンには特にお奨め。 (採点=★★★★)
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