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2012年9月13日 (木)

「遊星からの物体X ファーストコンタクト」

Thething

2011年・アメリカ/ユニバーサル・ピクチャーズ
配給:ポニーキャニオン
原題:The Thing
監督:マティス・バン・ヘイニンゲン・Jr.
原作:ジョン・W・キャンベル・Jr.
脚本:エリック・ハイセラー
製作総指揮:J・マイルズ・デイル、デビッド・フォスター、ローレンス・ターマン、ガブリエル・ネイマンド

ハワード・ホークス製作の「遊星よりの物体X」(1951)、ジョン・カーペンター監督の「遊星からの物体X」(1982)と2度にわたり映画化されたジョン・W・キャンベル・Jr.の短編小説「影が行く」の3度目の映画化。監督はCMディレクター出身の新鋭マティス・バン・ヘイニンゲン・Jr.。

 
ジョン・カーペンターの「遊星からの物体X」は、もはやホラーSFの古典の領域に入っている名作である。私も大好きな作品だ。
ロブ・ボッティンの、当時としては画期的な特殊メイク効果も素晴らしいが、サスペンスを巧みに醸成するカーペンターの緻密な演出も見事。

ただ、同作では発端部分で、既に南極・ノルウェー基地で凄惨な事件が起きた形跡が発見されるが、そこで何が起きたのかはあえて映像としては描かれないままになっていた。
例えば、
・冒頭、何故ノルウェー隊ヘリが狂ったようにハスキー犬を追っかけていたのか
・ノルウェー基地近くで発見されたUFOがつい最近破壊された形跡があるのは何故か
・その近くで、長方形に氷が切り取られた跡があるが、そこに何があったのか
・基地内の倉庫に、その氷塊らしきもの据置かれ、中がくり抜かれたようになっていたのは何故か
・いくつかの凄惨な死体が転がっていたが、ことごとく焼き払われていたのは何故か
・かつその中にあった、2人の人間の顔が融合したようなおぞましい物体は何なのか

やがて、ハスキー犬の体内から、そいつ(The Thing)が姿を現し、隊員たちを襲い、また人間の体内に入り込んで人間になりすましたらしい事も判って、物語は"The Thing"と隊員たちとの知力を尽くしたサバイバル攻防戦となって行く。

上記の謎も、そのいくつかはカート・ラッセル扮する主人公の口から語られるのだが、あくまで推察でしかない。まあ、そいつの暴れっぷりから十分何が起きたかは頭に浮かぶのだが。

 
・・・で本作は、その描かれなかった、ノルウェー基地で起こった怪事件を、改めてじっくり描いた、プリクエル(前日譚)作品、という事になるのである。

あのカーペンター作品をリメイクしても、いくら最新のCG・SFXを駆使しても、前作は超えられない事は自明である。それならと、前作を観たファンでもなるほどと納得出来、また前作未見の方にはそれなりに怖がってもらえる、こうした前日譚に仕上げたのは賢明である。

変形シーンは、もはや無数のエピゴーネンやリスペクト作品が登場し尽くした現代では、いくらCGを交えていても、驚くほどのものではない。
しかし前作を観ているファンにとっては、謎が解明される毎に、ジグソー・パズルのピースがピタリピタリと嵌まって行くような、何とも言えない快感を感じる事だろう。

そしてラスト、基地を逃げ出したハスキー犬をヘリが追かけて行くエンディングが、そのままカーペンター版の冒頭に繫がり、最後のピースがピタリと収まる。
プリクエルとしては、まずまずの出来であり、カーペンター版ファンは観ておいて損はない。

 
ちなみに、1951年に作られた最初の映画化作品「遊星よりの物体X」(以下、1951年版と呼ぶ)のストーリー展開は、
氷の下に埋もれたUFOを発見→氷漬けの生命体を発見し、基地に持ち帰る→氷の中からエイリアンが生き返り、次々と隊員たちを襲う→火焔攻撃でやっと怪物を撃退する

…といった具合に、カーペンター版より、前日譚である本作の方にストーリーは近く、むしろカーペンター版が、1951年版のその後のエピソードのような作りになっているのである。

何故カーペンター版を、そんな話にしたのか、これもちょっと謎だったのだが、本作を観てその謎が解けた(多分)。

本作のストーリーをじっくり追ってみると、
辺境の地で、UFOを発見→探索の結果、エイリアンを見つける→探検隊の拠点の中でエイリアンが次々と人間を襲い、隊員は1人、また一人と殺されて行く→最後に残ったヒロインがエイリアンに立ち向かい、かろうじて勝利する

↑これ、あのリドリー・スコット監督によるSFホラーの傑作「エイリアン」(1979)とほぼ同じ展開なのが分かるだろう。
1951年版では、メンバーの中に、エイリアンを殺すより、研究材料として持ち帰りたいと考える者がいるなど、「エイリアン」と似たエピソードもある。

カーペンター版公開は「エイリアン」公開から3年後の1982年。つまり、「エイリアン」登場の余波冷めやらぬ時で、1951年版をそのままリメイクしたら、どうしても「エイリアン」の二番煎じ(ヘタすればパクリ疑惑)になりかねない。そうならない為には、少しだけストーリーを変えざるを得なかったのだろう。

…ただ個人的には、「エイリアン」は上記要素からも推測出来るように、1951年版「遊星よりの物体X」に、かなり影響を受けていると思うのだが。

本作では、取り残されたヒロイン、メアリー・エリザベス・ウィンステッドが、ラストに至って毅然とエイリアンと対峙したり、UFOの中で、グチョグチョ姿のエイリアンに至近距離にまで追い詰められたりと、「エイリアン」にオマージュを捧げた形跡も伺える。

まあそれくらい、「エイリアン」は、ゴシック・ホラーSF映画の金字塔であると言える。無論、カーペンター版「遊星からの物体X」もまた、負けず劣らず傑作であるのは疑いがない。

本作は、それら2大ホラー・SF映画それぞれに敬意を込めて作られた作品、と言えるのかも知れない。

ちなみに、リドリー・スコット監督の新作SF「プロメテウス」だが、観た人は分かる通り、これはくだんの「エイリアン」のプリクエルであった。本年公開された、この2つのSF映画がいずれも、2大傑作ホラー・SF映画のプリクエルだった、というのも、なんとも不思議な偶然である。     (採点=★★★★

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(で、お楽しみはココからである)

Totalrecall

今年は、もう1本、やはり傑作SF映画のリメイク「トータル・リコール」が公開されたが、これら本年に公開された3本のリメイク(及びプリクエル)作品の間には、深い関連性がある。

リドリー・スコット監督の「エイリアン」の原案を書いたのは、ダン・オバノンロナルド・シャセットという2人のクリエイター(オバノンは脚本も担当し、シャセットは制作総指揮も兼ねている)だが、この2人、実はポール・バーホーベン監督「トータル・リコール」の脚本にも参加しているのである(新作の方の「トータル・リコール」には“原案”としてクレジットされている)。

Darkstar1

そのダン・オバノンは、ジョン・カーペンターとはUSC在学中からの付き合いで、その学生時代にオバノン脚本・カーペンター監督で作ったアマチュア作品をリメイクしたのが、カーペンターの劇映画デビュー作「ダーク・スター」(1974)である。

この作品、宇宙空間を航行する宇宙船が舞台で、乗員の生活風景や船内の描写は、後にオバノンが書いた「エイリアン」を思わせる部分があるし、後半にはヘンテコなエイリアンまで船内に紛れ込む展開となる。

この作品で監督のカーペンター、脚本のオバノンはそれぞれハリウッドからお呼びがかかり、オバノンは続く「エイリアン」で決定的な評価を得るに至る。

オバノンは古典SFの大ファンであるらしく、その後も、古典SFの傑作「惑星アドベンチャー/スペース・モンスター襲来!」(1953。ウィリアム・キャメロン・メンジース監督)のリメイク「スペースインベーダー」(1986。トビー・フーパー監督)の脚本も手掛けている。

それらから推察するに、「エイリアン」に1951年版「遊星よりの物体X」からヒントを得たらしきシークェンスを盛り込んだのも、多分オバノンのアイデアだろう。友人のカーペンターに「遊星よりの物体X」をリメイクするよう進言した可能性も大いに考えられる。

また、カーペンター版で特殊効果を担当したロブ・ボッティンは、バーホーベン版「トータル・リコール」にも参加している。目玉が飛び出すシュワちゃんとか、火星の反乱分子の首領であるミュータントのクワトーの造形など、いかにもボッティンらしい仕事である。

そのリメイクである2012年版「トータル・リコール」では、コロニーの描写が、いつも雨が降っていたり、漢字看板が並ぶ香港風であったりと、明らかにリドリー・スコットのもう一つのカルトSFの傑作「ブレード・ランナー」へのオマージュが仕込まれている。

本作に、「エイリアン」オマージュが感じられる点も合わせ、これだけリスペクトされるリドリー・スコットは、やはり凄い。尤も、「プロメテウス」で、自作を自分でリスペクトしちまったのはご愛嬌ではあるのだが。

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