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2012年10月28日 (日)

テレビ「相棒・シーズン11」が面白い

Aibou11

遂に12年目、シーズン11にまで突入した「相棒」シリーズ。

ほとんどテレビドラマを見ない私が唯一ハマっているドラマがこの「相棒」で、これまでにも数度、レビューさせていただいた。
 

このシリーズが何故面白いかについては、前回の記事にて詳説しているので、そちらを参照していただきたいが、簡単におさらいすると、

①主人公、杉下右京(水谷豊)が、ささいな手掛かりから見事難事件を解決する、推理ミステリー・ドラマとしての面白さ
②官僚的警察組織の内部で、煙たがられながらも組織に楯突き、正義を追い求める社会派ドラマの側面

この2つがシリーズの柱となって、さらにそれぞれにクセのある多彩なレギュラー出演者とのやりとり、丁寧かつ重層的に組み立てられたストーリー展開と、ラストの鮮やかな事件解決…と、単なる刑事ドラマを越えた奥の深さに毎回堪能させられた。

そして私が最も気に入っていたのが、当初からシーズン7の途中まで続いた、③相棒・亀山(寺脇康文)との絶妙のコンビネーションである。

ベテランで沈着冷静(クール)な杉下と、やや未熟で軽率だが、熱血漢(ホット)の亀山、という対照的な二人が、それぞれの特性を生かして事件を解決する、という相乗効果的な面白さもさりながら、コンビを続けるうちに、亀山が次第に杉下に心酔し、一人前の刑事に育って行く、人間成長ドラマとしての面白さも兼ね備えているのがまた魅力的であった(この点は以前に書いた)。

シーズン7で亀山が卒業したのは、マンネリ防止という面もあるが、基本的には亀山がある程度成長した為、もう亀山が“成長過程の未熟な若者”を演じるには無理が生じてしまった事もあったからなのだろう。

そこでシーズン8から登場した新相棒、神戸尊だが、以前にも指摘したが、クールでダンディ、知性的と、杉下とある部分キャラがかぶっている上に、杉下曰く「端々に官僚臭さが漂う」のでは、人間的な魅力やコンビの対照性という点でも亀山に及ばない。さらにやがて明らかになった、過去の贖罪まで背負っている屈折したキャラでは、全体に重苦しい雰囲気さえも漂ってしまったように思う。
神戸との相棒期間が僅か3シーズンで終わってしまったのも、そこに原因があったのではないか。

 

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今シーズンから登場した、3代目相棒、甲斐亨(通称カイト、成宮寛貴)は、警察庁次長の息子、いわゆるお坊ちゃんで、第1話では、香港総領事の事件隠蔽工作に反撥する正義感を持ち合わせてはいるが、つい行き過ぎて暴走し、熱血漢ではあるが人間的な未熟さを露呈してしまうのだが、この辺り、亀山薫とかなりキャラが共通しているようである。

これは面白い設定である。多分製作陣は、亀山という、杉下との好対照キャラクターが、このシリーズにとって重要な位置を占めていた事を、彼が抜けて改めて思い至ったのではないだろうか。新キャラクター=甲斐亨は、その反省から生まれたのではないかと思う。
今シーズン第1話の脚本が輿水泰弘、監督が和泉聖治と、「相棒」生みの親の2人である事も、“初心に帰ろう”という製作陣の思いの表れであるように思える。

杉下は第1話で、神戸の抜けた相棒の後釜として、わざわざ自分で甲斐亨を指名する。この事は重要である。

多分杉下は、この未熟だが、正義感だけは人一倍強い若者を育て、行く行くは自分の後継者にして行こうと考えているのではないか。

第3話「ゴールデンボーイ」で亨は、事件を探る為、志願してボクシングジムに入会する等、若さにまかせた無鉄砲ぶりがある意味楽しい。
そしてラストで亨は、鍵を握る若いボクサーに接近しながら、彼の悲惨な結末を防げなかった事に深く後悔する事となる。

やはり彼はまだ未熟である。…そうした挫折を乗り越え、亨は人間的に成長して行くのだろう。

新シリーズは、この若者の成長を見守る展開になりそうである。そういう点でも亀山時代の面白さが期待出来そうで、今後が楽しみである。成宮寛貴の、役柄をよく理解した熱演ぶりも好感が持てる。

「相棒」シリーズ、ますます目が離せない。

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*関連記事
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 「相棒」シーズン8 最終回

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コメント

書き込み有難う御座いました。(レスは、当該記事のコメント欄に付けさせて貰いました。)

6年前の記事「ボーダーライン上の役者」(http://blog.goo.ne.jp/giants-55/e/798c1ce3550cd5e23e2e71e305d43819)でも記しましたが、嘗ては「水谷豊」という役者が苦手でした。“演じている感”が露骨に感じられる彼の演技が、どうしても受け入れ難かったんです。

しかし「相棒」のファンの知人から「面白いドラマだよ。」と散々言われ(http://blog.goo.ne.jp/giants-55/e/a6e6b242bdb79dc1c04938405f567306)、「本当かいな。」と思って見たら、すっかり嵌ってしまった(笑)。

成宮君の抜擢、「雰囲気が合わないんじゃないかなあ。」と“ミッチー”が抜擢された時以上に不安を感じましたが、冷静な右京に対し、やんちゃな亨という組み合わせが、絶妙に“化学反応”を起こして、「良いじゃないか。」という思いに。石坂浩二氏の存在も、良い味付けになってます。

ところで、Kei様にとって「相棒シリーズで一番心に残った回」って何でしょうか?心に残る回は色々在りましょうが、2年前に放送された「ボーダーライン」(http://genkinagochan.blog.ocn.ne.jp/doranyanko/2010/12/season98_e211.html)という回は、見ていて泣けて泣けてどうしようもなかった。

寄る辺を次々に失い、社会的にどんどん追い込まれて行く。当人は何とも思わない“嫌味”でも、人を追い込んで行ってしまう事が在る。先進国で在る一方、自殺者が3万人を超える此の国の“裏側”を、改めて見せ付けられた様な名作だったと思っています。話自体は地味ですが・・・。

投稿: giants-55 | 2012年11月 4日 (日) 01:58

◆giants-55さん
コメントありがとうございました。
水谷豊は、私にとっては長谷川和彦監督の傑作「青春の殺人者」の親を殺してしまう青年役が強烈に印象に残っております。以来、大好きな役者さんです。市川崑監督の「幸福」の刑事役も好きですね。

さて、ご依頼の「相棒シリーズで一番心に残った回」
これは難しいですよ。好きなエピソードが十指でも足りないくらいです(笑)。

緊迫したサスペンス、という視点から見れば、シーズン4・19話「ついてない女」(古沢良太脚本)が、犯人の女の逃亡が成功するかどうかという緊迫感が手に汗握り、ホッとするオチもあって個人的には好きですね。
同じ古沢脚本、シーズン5・11話「バベルの塔」(2時間SP)もスケール感があって心に残ってます。いずれもミステリー・サスペンスとして上質です。
また、本格謎解きミステリーとしては、シーズン2・3話「殺人晩餐会」が出色です。凶器がどこにも見つからないという、ホームズかエルキュール・ポワロものを思わせる展開。最後に明かされるその答には口アングリ。上質ミステリーの味わいです。
社会派作品としては、「ボーダーライン」も悪くありませんが、心に残っているのは、同じ櫻井武晴脚本のシーズン3・11話「ありふれた殺人」です。事件後20年経って時効成立後に自首して来た男が殺される事件ですが、娘を殺された夫婦(上田耕一、吉村実子)が、犯人の名前を教えてくださいと何度も特命係を訪ねるその切なさに胸打たれます。時効の壁の不条理さ、警察上層部の狡猾さ、等、奥深いテーマが凝縮された名作ですね。殺人の時効はその後、2010年に廃止される事になりましたが、ひょっとしたらこのエピソードが影響を与えた可能性もあります。

そんなわけで、1本を挙げるとするならこの「ありふれた殺人」になります。が、上に挙げた他の3本も、異なったジャンルでのそれぞれ心に残る作品です。
社会派シリアスからミステリー・エンタティンメントまで…。この幅の広さが「相棒」の尽きせぬ魅力、と言えるでしょうね。

投稿: Kei(管理人) | 2012年11月 4日 (日) 23:36

挙げられた何のエピソードも、「嗚呼、彼の話か!」と直ぐに思い出せます。外れが比較的少ないというのも、相棒シリーズの特徴でしょうね。

投稿: giants-55 | 2012年11月 5日 (月) 01:13

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